スライムの塔、攻略2
人がいると言うから誰が居るのと確認しようとすると、透明なスライムの向こうにチラと人影が見え、あっ、と思ったら透明なスライムに炎の魔法で穴をあけ、その隙間を素早くこちらに駆けおりてきた。
「うわーっ」
アレンは横を通り過ぎていく炎に驚いて飛び上がりながらも、スライムの向こうから駆けおりてきた人が階段から転げそうになったのを見て「あぶねっ」と慌てて受け止める。
相手は質素な布の服に、少し値段の張りそうな長いローブを着た女の子。
顔は深くかぶったフードで顔全体はよく見えないけど、私たちと同じくらいの年齢かしら。それにあごの輪郭や唇、鼻筋を見る限り顔は整っていそうな感じ…。
「冒険者よね?大丈夫?」
とにかく無事かどうかの確認をしようとすると、サードがサッと私の前に割りこんできて女の子の手を取った。
「どうしましたお嬢さん?こんなところで。お一人ですか?」
「はぁ…まぁ…」
女の子はもごもごと口を動かしながらサードに取られた手を引き抜いて自分の後ろに隠した。
「他に仲間はいないの?」
やめなさいよとサードを押しのけ聞くと、相手は、むー、と口を尖らせて黙り込む。
「怖い目に遭ったのですか?」
サードは私の死角から前に出て、心配そうに下から女の子の様子を伺うように腰を屈める…いや、ローブ下の顔を覗き込もうとしているわねこいつ。
それもさも心配しているかのような口ぶりと声色で女の子の肩を抱え、そっと抱き寄せて…。ああ、これはまた女の子が表向きのサードの顔に騙されるパターンだわ。
苦い顔をして見ていると、女の子は心から嫌そうに顔を背けながらサードを肘で押しのけた。
「やめて。私あんたに肩抱かれるほど親しくないんだけど。初対面だよね?馴れ馴れしく触んないでよ、気持ち悪い」
「…!」
私は驚くと共に、心の中で大喜びでジャンプをし続け勝ち誇った高笑いを浮かべる。
よく言ってやったわ!それ見なさい、皆あなたになびくわけじゃないのよ、やーいやーいざまーみろー!ヒャッホーイ!
なるべく表に出さないようにするけど、でも思わずニマニマと笑ってしまいそうになる。ううん、もしかしたら笑みが漏れてるかも。
こんなに完全拒否されてサードはどんな顔をしているのかしらと見てみると、つまらないことにその鉄壁の表の仮面は外れていなかった。
「そのようなつもりでは無かったのですが…不快にさせたのなら謝ります、申し訳ありません」
サードは卒のない対応で身を引き、何事も無かったかのように質問した。
「しかしどうしてここにお一人で?まさか我々より先に進んでいる方が居るとは思いませんでしたが…エリーの言う通り、仲間はいらっしゃらないんですか?」
女の子は口を尖らせ、少し黙り込んだ後にポツリポツリと話し始めた。
「二人パーティなんだけど…この透明なスライムを何とか通り過ぎてたら仲間が消えちゃって」
「どういうことだ?」
アレンが聞くと、女の子は階段の上を向いた。
「このらせん階段の残り十段ぐらいには透明なスライムがいないの。だから普通に上がってったら急に目の前から消えちゃって。もしかしたら壁のどこかに転移するトラップが仕掛けられてるんじゃないかな。その子、らせん階段は壁に手をつけて進んだほうが楽だって言いながら進んでたら急に消えたから。で、私は戻ってきた」
「なるほど」
「そんな時に私たちが来たってわけね」
サードも私も頷きながら言うと、女の子がジッと私を見てくる。
「ん?」
どうかした?とばかりに女の子を見返していると、女の子は私、サード、アレンの顔を見渡し、少し首をかしげる。
「…もしかして勇者御一行?」
その質問に思わず身構える。またあの圧のあるファンコールのようなものがあるのかしら。
「…ええ、まぁ…」
それでも確かに私たちは勇者一行だから頷くと、女の子はしばらくたちの顔を見まわした後に「へぇー」と声を漏らす。
「何で勇者たちがこんなスライムしかいない塔に来たの?暇だったの?」
良かった、この子はテンションの低い子だわ。
ホッとしているとアレンは前と後ろを見て、ヒィ、と嫌そうな声を漏らす。
「なぁ一旦先に進むか戻るかしねぇ?なんかスライムの形が元に戻ってきてる気がする…」
アレンの言う通りスライムはモニョモニョ動きながら元の形に戻りつつあって、アレンは「うへー、気持ち悪い」と言いたげな顔になっている。
「どうですか?ここで一人戻るよりなら共に進みませんか?」
サードが女の子に声をかける。
勇者の立場上、仲間とはぐれた人を見捨てられないというのと、可愛い(と思われる)女の子だということが決め手だと思う。きっとこの女の子が男の人だったら「今すぐ戻るのがよろしいでしょう」の一言だけで放置していくはずだから。
女の子はサードを見て少し迷っているような素振りをしたけど、それでも、
「そうだね…お願いしようかな」
と申し出を受け取った。
サードは女の子を安心させるように微笑んでいる。
でも頭の中では男に対して警戒心の強いこの女の子をどう口説き落とそうかあれこれと考えてるんだろうなと思えた。
だってその目付きが女の子の顔から体をなめ回すように見ているんだもの。見てるだけで不快感が湧くわ、気持ち悪い。
もちろんサードはそんなあからさまには見てないし今も人を安心させるような表情を浮かべている。でも散々サードの裏の顔を見ている私は微妙な表情の変化には悟くなってしまった。
「では行きましょう」
とサードは歩きだし、
「ちなみにどの辺りでお仲間は消えたのですか?」
と女の子に質問しながら先頭を進む。
女の子が炎で焼き、そこから元に戻りつつあるスライムをサードが切り裂きながら進んでいくと確かに残り十段ほどには透明なスライムは居なかった。
むしろ最初からサードが今みたいに聖剣でスライムを切りながら進んでも良かったんしゃないの?
…まぁ多分面倒だったんでしょうね。サードはそんな男よ。
「ここから先は壁触んないほうがいいよ」
女の子が階段を上がっていくサードに注意を促す。
「分かっていま…」
返事をしながら一段踏み出したサードは、次の瞬間その場からかき消えた。
「ええっ」
驚きの声を上げて、私はサードの居なくなった所を見る。
「…もしかして壁じゃなくて、階段の段に転移のトラップが仕掛けてあったんじゃねぇ?」
アレンがそう言うと、女の子はゆっくりとアレンを見る。
「そうかもしれない」
そりゃあ…普通はそうよね。壁よりなら段にトラップが仕掛けてあるものよね、なぜ今までサードすらも気づかなかったの。…もしかしたらサードは今狙ってる女の子に声をかけられて気がそれたのかしら…。
「勇者、消えちゃったね」
女の子の言葉にアレンは、気にするなとばかりに女の子の肩を叩く。
「大丈夫大丈夫、サードは一人でどこかに行っても無事に戻ってくるから」
サードは地獄に落ちても這い上がって来るだろうとアレンと私の間で話題になるほどのしぶとさがあるもの。アレンの言う通り放っておいてもそのうち戻ってくるわ。
「とりあえずこのトラップのある段は抜かして先に進めばいいわね」
とは言ってみたけど、一段一段の幅は狭い箇所でもかなり広いから…私とこの女の子にとって一段抜かしは少し厳しいかも。
うーんと悩みながら、行けるかしらどうかしらと足を空中で動かしてみる。
「待って、俺が先にいって手引くよ」
アレンは軽々と一段を抜かす。アレンは高身長だからその分足がすごく長い。
さすがアレンだわと見ていると、一段抜かして足を着地させた瞬間にアレンの姿が消えた。
「えええっ」
サードが消えた時より驚いた声を出して叫ぶ。まさかのトラップ二段構えだったなんて…!
「…」
無言で女の子をチラッと見た。女の子も黙ってこちらを見ている。
「…さすがに私たちじゃ二段抜かしは…」
話している途中で女の子はスッと壁に向かって手を動かす。すると木の扉が急に現れて、女の子はその扉を開けた。
「来て」
口を挟む隙も無く女の子に手を引っ張られ、そのまま私は扉の向こうへ足を踏み入れた。
そこは今まで何度も通ってきたようなフロア。
でも違うわ。
ドアがあるはずの奥は一段高くヒラヒラと透ける素材の布が張られていて、こっちと向こうを分ける境界線みたいになっているもの。それも一段高い場所には立派な椅子が鎮座していて、その椅子に至るまで赤いカーペットが敷かれている。
「…ここ…どこ?」
キョロキョロしながら女の子に問いかけると、女の子は何も答えずにトコトコと立派な椅子へと歩いていく。そして椅子の前に立つと空中から杖が現れ、女の子は杖をキャッチする。
「ババーン」
感情がろくにこもっていない口調で女の子は振り向き、自慢気に杖を高く上げながら言う。
「私はここのラスボス、ラグナス・ウィードでーす。イエー」
女の子は低いテンションでテンション高めなことを言うと、ピースをした。
そのころサードとアレン
アレン
「あ、サードだ。…あ~ここ村の入口かぁ。そっかここまで飛ばされるトラップだったんだぁ」
サード
「てめえ一度人が引っかかった罠にのうのうと引っかかってんじゃねえよクソが!」(ぶん殴る)
アレン
「リフジンッ」