アレンとサードが出会った日(アレン目線)
俺とガウリスはエリーとサードと別れて人身売買がやってるかもしれない場所を探してる。
とりあえずガウリスから治安の悪そうな場所を聞いて、この辺でやってんじゃね?って場所を何ヶ所かピックアップしたからそこに向かってる。
「けど普通に人身売買オッケーなのな、サンシラ国って」
俺が聞くとガウリスは、
「そうですね。他所からこの国に売られる人がいるのは聞いていました」
と言いながら、
「しかしサンシラの人間は売るにも買うにも扱いにくいと遠ざけられていると聞いていましたが…」
「だなぁ。あんな小さいヒトヌスでもサンシラ国の男だって言うくらいだもんな。誘拐されても売られても買われても反抗しそうだよな」
軽い口調で言うとガウリスは眉間にしわを寄せ、心配そうな顔つきになった。
「反抗しすぎて殺されなければ良いのですが…」
あ、やっべ、軽い気持ちで心配させること言っちゃった。
慌てて俺は重くならないよう、軽い口調で自分の言ったことにフォローをつけ加える。
「いやいや、そこまで皆アホじゃないだろ?大丈夫だって」
「はあ…」
ガウリスは微妙な表情と口調で返してくる。
俺の言うことってたまに微妙な顔されるけど、そんなに変なこと言ってるかなぁ。
まぁいいやと歩いてくと、ガウリスがふと思ったように声をかけてきた。
「そう言えばアレンさんはエリーさんより先にサードさんと会ったんですよね?」
「そうそう」
エリーからその聞いたんだな。サードは自分のことろくに話さないし、エリーは穏やかなガウリスと気が合うみたいで和やかに話し合っているのよく見るし。
サードが絡まなければエリーも穏やかだもんな、基本。
「サードとは冒険者になるための試験場に行く途中でぶつかってさ。俺急いでて」
ガウリスの目に好奇心のようなものが浮かんだのが見えた。
「聞きたい?」
「ええ、ぜひ」
人身売買所がありそうなところまでのルートはもう頭の中に入っているし、あとは歩くだけだしな。
俺はあの日のことを思い出しながら口を開いた。
※ ※ ※
あれは俺が十二歳の時だな。俺冒険者になるための試験場に走ってて。
でも場所が分かんなくてさぁ、壁が黄色い大きい建物でよく目立つって聞いてたから、歩いてりゃ見つかるだろって思ってたのに全然見つかんねぇの。
そんで受付は十時までで時間厳守なのに、十時まで残り五分になってさ。
もうさ〜、乗合馬車が進むの遅かったんだよなぁ、それに試験は首都に一つしかないし、数ヶ月に一度しかやらないからその日逃がしたらまた数ヶ月後だろ?そうなりゃ乗り合い馬車に乗った運賃もパァだし。
どこだどこだ、試験場はどこだってこんな頭を動かして走ってたら、何かに思いっきりぶつかってつんのめって顔面から転んだんだ。
いやー、あれめっちゃ痛かったぜ!
鼻折れたかなって思ったもん、折れてなかったけど。めっちゃ擦りむいて痛かったけど目の端に小さい子が映ったから、ああ、この子にぶつかっちゃったんだ〜って慌てて起きて、
「悪ぃ!」
って謝ったの。まぁその小さい子がサードだったんだけどさ。
ぱっと見じゃ本当にちっちゃいし声も高めだから九歳ぐらいの子かな〜って感じだったぜ?まぁ俺十二歳でもでかかったから余計ちっちゃく見えたんだけど。
でもあんまり上等じゃない服着てんのに、
「申し訳ありません。少々時計を見てボンヤリしていて避けられませんで」
とか言って俺に手をスッと差し出してきてさ。
平民の服なのに貴族みてぇな言葉使いと動きするから、意味分かんなくて少し時間止まったね。
それでも試験場に行かなきゃって我に返って手掴んで立ち上がって聞いたんだよ。
「なあ君、ここの子?冒険者の試験場分かる?大きくて黄色い壁の」
って聞いたらマジでこの子貴族かレベルで丁寧で聞き取りやすい口調でゆったり言うわけよ。
「ええ。試験場ならこの近くにありますが。冒険者になりたいのですか?」
いやいやいや、こっちはそんなお貴族みたいな和やかな会話してる場合じゃないんだよって思って、
「そう!あと五分で受付に間に合わないとその後の試験とか受けられないんだよ、方角だけでも教えてくんねぇ?」
って言ったらサード、子供なのに大人みたいにこんな風に腕組んで「ふむ」ってあごに手を当ててさ、
「実は私も冒険者になろうと考えてたのですが、どうでしょう、仲間になりませんか?」
だからゆったり会話してる場合じゃないんだよって、
「え、仲間!?なるなる!なるから場所どこか教えて!」
って勢いよく返したら、
「確か受付番号を手に入れたら受験資格を得られるのでしょう?なら私が先にいって受付番号を手に入れておきますので、後からついて来てください」
って急に走り出すわけ。
速かったぜ〜?「うぉっ」って言ってる間にこっからそっちまでの距離移動してて、あっという間に建物の角曲がって姿が見えなくなんだもん。
一生懸命追いかけたけどどんどん引き離されて姿見失っちゃってさぁ。
もしかしてサードのこんな身屈めて足音立てないで走るあのやり方やれば速くなるのかなって試しにやってみたけど、そんなことないし逆に遅くなったんだよ。アッハッハッハッ!そーそー、俺やっても遅くなったんだよー!
ああでも黄色い建物見えたからヒィヒィたどり着いたらサードすました顔で待ち構えてて「七百一番ですよ」って番号渡してきてさ。
俺疲れすぎて足震えるし心臓ドカドカ言ってるし脇腹痛いしなのにサード汗一つかいてないから何者だこいつってなったよ。
そんで冒険者になるのに自分の名前とか住所とか、なりたい冒険者の職業を書き込む用紙があるわけ。
そうそう、冒険者になるためには自分の足で試験場行って、自分でその用紙に記入することが必須なんだよ。
その後は面接官の簡単な口頭質問があって、希望する職業に適正があるかの簡単な実技試験してさ。
つっても本当に簡単な質問と実技試験だから、歩けて文字が書けて喋られるなら冒険者には三歳からでもなれるんだぜ!
あーそうそう、ガウリスの言うとおり簡単に冒険者になっても長く続けられる人はそんないねぇらしいけど。
十年冒険を続けたなら一人前の冒険者っていうけど、十年以内でやめる人多いみたいだしなぁ。
病気と怪我でもうムリ、強い敵と戦って怖くなったからもうムリ、ホームシックになったからもうムリってのが冒険者やめるトップを占める理由なんだって。
でもモンスター倒す職業の冒険者が少なくなると今度はモンスターが増えて困んじゃん?だから冒険者になるのは簡単なんだぜ。
あ、そんでその用紙になりたい職業書くときにサードが冒険者の職業は何があるんですかーって聞いてきてさ。
ビックリしちゃったよ、まさかそれすら知らないで冒険者になろうとしてたのかよって。
だから商人、戦士、魔導士、武道家、盗賊、吟遊詩人、遊び人〜って色々冒険者の職業並べたら、
「遊び人とは?」
って、遊び人に食いつくんだよ。何でいきなりそれ聞く?って思ったんだけど、そんな職業あるくらいで俺も遊び人がどんなことするのか俺もわかんなくてさ。
んー、未だに盗賊と吟遊詩人と遊び人って何する職業なのかよく分からないんだよなぁ。戦ってるパーティの後ろで仲間の金すって歌って踊り狂っている姿しか想像できないんだけど。つーか冒険者の盗賊と普通の盗賊ってどこで線引きされてんだろ。
まぁ、そんときゃ商人になるからそれ以外よく分かんねぇって返したら、サードがまた聞くわけ。
「商人?冒険者の商人ですか?普通の商人と何が違うんですか?」
んで俺は、戦闘じゃ役に立たないけどパーティ内のお金管理とか色々するよって教えて…まぁでも普通の商人より国境越えるの楽ってのが冒険者の商人選んだ一番の理由だけどさ。それだったら戦わないで色んな所行けるし。
ん?あーそうそう。武道家なっちゃったんだよなぁ、商人じゃなくてさぁ。
でも用紙の職業希望欄に商人って書いて、チラッと隣のサードの用紙見えたんだけど…。今もそうだけどサードって色々すぐできるし表向きの時はどこかの貴族とか王族っぽいけど…字汚いよな。
ん、ガウリス、まだサードの字見たことない?けっこー酷いぜ?読めるけど「わぁ勇者様だ〜」って思いながらあの字見たら「あれ?」ってなると思う。
まぁその時も言葉遣いのわりに字汚いんだなぁ、って思いながら視線をずらしてサードって名前だって分かったから、そこで改めてお互い自己紹介して握手してさ。
そういやガウリス、サードと握手したことある?見た目より握力強いぜ。
うわぁ、こんな物腰柔らかい子供なのに手ゴツめで力つぇ〜ってなったもん。本当に何者だこの子って思ったよ。
そんでサードは職業希望欄に戦士って書いて、年齢欄に十三って書いたんだよ。
ビックリしたよ、だって俺より一つ年上なんだぜ!?ガウリス知ってた?あ、知らなかった?
ふーん十三歳なんだぁって一回スルーしかけて二度見して、
「ウソだろ!?サード俺より一つ年上なの!?」
って驚いたらサードも、
「は…!?私より年下…なのですか?」
って驚いた顔して俺の顔をしげしげと見てた。俺そん時十二歳だったんだけど、十七歳くらいかと思ったんだって。
うんまぁ、背でかくて骨も太いから大人だって間違われることよくあったけどさ、まさか俺より年上なわけないだろって突っ込んだんだよ。
そしたらサード、
「私も自分の正確な年齢は分からないのですが、恐らくこれくらいで合っているはずです」
って言うわけ。
そうなりゃ色々考えちゃうじゃん?
自分の年齢が分からないってことは、自分の年齢を把握して教えてくれる親とかが傍にいなかったのかなって。
もしかしたら上流階級階の子だったけど親がいなくなって、つてを頼って他の上流階級の家に行ったけど使用人みたいな待遇で受け入れられてこき使われてるとかじゃないかなーとか…。
それだったら丁寧な言葉遣いのわりに粗末な服を着てたのも分かるし。
え?実際どうなのって?
さぁ、分かんない。サード自分の昔の話ろくにしないし、あんま深く突っ込んじゃいけない気するし。
だからその時の俺も、
「ベビーフェイスだな」
って返しておいた。え?サード?何か意味わかんなそうな顔して、用紙書き終わったなら持っていきますよって俺の分も持っていったぜ。
それ見てやっぱ使用人みたいな待遇でいるからすごく気が回るヤツだなぁって思ったんだよな。いや本当に使用人みたいな待遇だったのか知らないけど。
そんで戻ってきたサードに俺の受けるエリアはあっち、自分はこっち、お互い終わったらここで集合しようって話つけて、
「次会う時はお互いに冒険者の商人と戦士だな!頑張ろうぜ!」
って言ったらサードにっこり微笑んでから歩いて行ったんだ。やっぱ微笑み方も歩き方も上流階級の人っぽいし同情したよ。
可哀想に、良い身分の人なのに使用人になってこき使われてって。まぁ実際どうなのか知らないけど。
そんでこっからだよ、俺の人生変わって武道家になっちゃったの!
思えばあの時も何か変だなぁって思ってたんだ。
だって商人エリアなのにすげぇゴツい男の人だらけで筋肉質な女の人も多くてさぁ。
でもまぁ商人って計算だけじゃなくて、重い荷物を担いだり積み上げたり運んだりすることもあるから、そんなの毎日やってたら自然と筋肉もつくか〜って流しちゃったんだよ。俺も子供の頃から家の手伝いしてて筋肉それなりについてたし。
そんで口頭質問の部屋に入ったらゴツい体格の人相悪いおじさんたちが一斉にこう、ジロッと睨みつけてきてさ。
これ本当は見た目でビビらないかのテストだったんだって。武道家志望の未成年相手への、半分おふざけが入ったテスト。
子供でもモンスターと一番接近する武道家がいきなり人間の怖い顔にビビってたらダメだろってことらしいぜ?
でも俺は『色んな人と話す職業の商人が第一印象でその人を判断しないようにするためのテストだったのかなぁ』って流しちゃってさぁ。
商談の時に怖い顔の人と話す時もあるだろうし、顔ごときでビビッてるようじゃ商人失格ってことだなって。
え?俺はビビらなかったのかって?
いやぁ…怖い顔なんて地元で見慣れてるし。
俺の地元って海の貿易で栄えてて船乗りが多くてさ、そんで大体の船乗りって体格ガッチリしてて、日差しと海の反射が眩しくて人を睨むような目つきでいる人が多いんだよ。それで船の上で怒鳴り合うように会話してるから怖い顔にも性格荒っぽい人にも慣れてたっていうか。
だから普通に「どうも。俺アレン・ダーツ、よろしく」って挨拶して椅子に座ったら、
「子供なのに俺らの顔に全然ビビらない。口頭質問合格!」
って言われたよ。すげぇ呆気なく合格したから「ええー」って言ったら面接官のおじさんたちにすげー笑われた。それに顔に似合わず優しい口調のおじさんたちでさ、
「お父さんとお母さんは冒険者になるのに反対してない?」
「冒険者になったら家に中々帰れないよ?大丈夫?」
「冒険者になるとお金稼げなくてご飯食べられないかもしれないよ?それでも冒険者になりたいの?」
「ひどい怪我をしても、病気になってもベッドでゆっくり眠れない冒険者も多いんだよ?」
って色々言われた。
そんでまぁ次は実技試験だからあちらにどうぞ、って言われて、そっち行ったら道場みたいな広い室内にたどり着いたんだよ。
そんでゴツいおじさん数人が試験者相手に技をかけて投げ飛ばしてて。
…さすがにそこまで来たら何かおかしいって気づいたんじゃないかって?
『これ商人に必要な実技?』って俺もすごい違和感感じたぜ?
でも商人でもモンスターと会うことになるんだから、最低限どれだけ戦えるのか測るのかもって思ってとりあえず受けた。
別に負けても不合格って言われる人はいないから大丈夫だとは思ったけど…俺隣んちのミヨちゃんとの喧嘩でいっつも泣かされてたから勝てる自信なくてさ。あ、ミヨちゃんて隣んちの幼馴染の女の子な。
しかも順番的に俺の相手をする人一番ムッキムキのおじさんだったんだ。
うへぇってなったよ、地元の船乗りにもいねぇぐらいムッキムキで、「かかってこい!」って他の人に言ってるだけで腰ぬけそうなくらい怖くて。顔面は別に怖くないけどあの掛け声はチビりそうなレベルで怖かった。あのおじさんとは戦いたくね~って思ってたら当たっちゃったんだよぉ。
でも逃げたらさすがに不合格になりそうだから、うぉおおって向かっていったんだ。
とにかく肩でタックルして、けどビクともしなくて、しかも一発攻撃してみろって感じで指をチョイチョイ動かしてきてさ。
それならやらないといけない!っておじさんのお腹に攻撃しようとしたんだけど…。
ちょっと考えちゃうじゃん?どんなに体鍛えてる人だって殴られたら痛いよなぁとか、だったら殴りたくないなって…。
ガウリスもそう思うだろ?あんまり人殴りたくないよな?
…。相手の対応と状況によっては拳をふるう?うん…、まぁそっか…。
でも俺はやっぱ殴りたくなくて止まってたらおじさんに「お前年齢はいくつだ?」って聞かれて、十二歳だって答えたら、
「十二でその力ならこれからもっと強くなれるぞ。ただ冒険の中で自分を殺そうとする敵に情けをかけるようなことは一切しないように!頑張れ坊主、実技試験、合格!」
ってことで合格になった。
こんなんでもいいんだってホッとしてサードと待ち合わせしている所に戻ったけどまだサード終わってないみたいで居なくて。
戦士志望の人ってたくさんいるだろうし~ってとりあえず椅子に座って…。あ、ちなみに冒険者の中で一番多いのが戦士で、次が武道家で次が魔導士なんだぜ。
そんでサード待ってる間に俺の冒険者カードができて呼ばれたんだよ。
受付のお姉さん、ニコニコしながら、
「おめでとうございます。晴れて冒険者になれましたよ。これが冒険者カードです」
ってカードを渡してきたから「うおおー!これが冒険者カード…!」って感動してたら、カードの中の職業欄に『武道家』って書いてんの。何これって思って、
「ここの職業欄『武道家』ってなってるけど」
って言ったら、それはもちろんその通りみたいな顔で「そうよ?」とか言ってきてさ。
いやいや、俺、武道家じゃなくて商人の試験受けたんだって言ったらお姉さんもちょっと慌てながら、
「え?でもあなたアレン・ダーツさんよね?用紙の職業欄にも『武道家』って書いてたから間違っていないはずよ?」
って最初に書いた用紙を見せてきて、見てみたら俺の書いた商人の文字が二本の横線で消されてその斜め上に武道家っていう文字が書いてあんの。
パニックだよ、何これ!?って。けどその武道家の文字がさ…どうみてもサードの汚い文字でさ…。
そうなんだよ!サード俺から用紙奪った後に受付で書き直して提出してたんだよ!酷くねぇ!?
とにかくそのタイミングでサードが戻ってきたから、お前もしかしてこれ書いた?って聞いたら、
「商人より武道家の方が向いていると思いましたので、書き直しましたよ」
とか、いけしゃあしゃあと言ってくるわけ!
向いてるわけないだろぉ!?と叫びたくなったけど、とにかく俺も色々パニックだから必死に訴えるわけよ。冒険者の商人になるためにここにきて試験受けたのにって。
そしたらそんな俺に構わずサードがさ、
「もしガラの悪い人に襲われた時、自分は商人と名乗るのと武道家と名乗るのでは向こうの対応も変わります。戦わないに越したことは無いでしょう」
そんなんじゃなくて、って言い返そうとしたらサードは「ふうやれやれ」みたいに腰に手を当てて、
「私も本当は遊び人に心惹かれたのですが、後々のことを考えて戦士にしたんですよ」
とか言ってきてさ。いや知らねーしって感じじゃん?
サードは自分で決めたことだけど俺は商人になる気でいたのに勝手に武道家にされたんだもん。ほんと、武道家なんて俺が一番なりたくない職業だよ、俺本当に弱くて隣ん家のミヨちゃんにも喧嘩で負けんだから。
もーさぁ、勝手に武道家にされたことでイライラしてんのにサード全然反省の色がなくてさぁ。
腕組んで俺の顔色を窺うように見上げてくるんだけど、俺を怒らせてしまったって気にしてる顔じゃなくて、俺の怒りケージが上がってくの観察してる感じで。
ほんっとその顔も腹立ってさ。あんなに腹立ったの、母さん手作りの俺の誕生日ケーキが兄貴たちに全部食われた時以来だぜ。
ガチギレしてムスッてして、こいつと一緒に冒険なんてぜってー無理と思って、
「俺武道家になっても戦うつもりなんて全然ねぇけど。それでも仲間になるつもりあんの?」
って言ったんだよ。戦う気がない奴と一緒に冒険しようとするわけないだろって。
でもサードはニッコリと微笑んで言ったんだ。
「構いませんよ」
あんまりあっさり言うもんだから怒ってたのどっか飛んでったよ。
「言っとくけど俺本当に戦わねぇよ?痛いの嫌だし、モンスターに触りたくないし、武道家になるために冒険者になったわけじゃねぇもん」
そしたらサード、
「戦いは全て私が引き受けます。その代わりアレンさんにはその他諸々の事を頼みます。私はまだ慣れないことが多々ありますので、世の中のあれこれを少しずつ教えてもらえるとありがたいのですが」
そう言われたらグッときちゃうじゃん?やっぱり上流階級の出だから下々の暮らしとか冒険のこととかよく分らないんだろうなって。いや、サードが上流階級の人なのか分かんないけど。
そうなりゃサードを見捨てるのも後味悪くなっちゃって。でも最後の念押しで、
「俺戦わないってことでいいんだったら別に…」
って手を差し伸べたらサード、
「ある程度は守りますが、まずご自身が怪我をしないよう、逃げることを最優先にしてください」
と手を握り返してきて、その後仲間申請をしに行ったんだ。
* * *
大体話終わったから俺はアハハハと笑いながらガウリスを見上げる。
「それが俺とサードの出会いなわけ」
あの時はものすごくガチギレしたけど今はもう笑い話になってる。
「その時は…その、丁寧な口調だったのですね」
「そうそう。だけど次の日からいつも通りのあんな感じになったぜ。朝に寝てたら蹴りとばされて、起きたらあんな据わった目のサードがいるからさ。誰?って思って本当に『誰、あんた』って言っちまったもんな」
その言葉にガウリスがプッと吹き出して笑い声を立てた。
「サードさんは何と?」
俺はスッとサードの顔つきを真似て腰に手を当ててあごを上にあげた。
「『ああ?サードに決まってんだろ』」
声付も真似ながら腰をかがめて人の顔を覗き込むようにしつつ馬鹿にする表情を浮かべる。
「『かったるいからもうこっちの俺でいくぞ、別にいいだろ?』…って」
俺もガウリスも大声で笑いあう。
「昔から変わらないのですね」
「うん。最初はどうしようって思ったけど、段々と楽しくなってきてさ。エリーとは小競り合いも多いけど」
「私も最初はサードさんが急に怒り出すのでとまどいましたが、ただ自分に正直なだけなのだと段々分かってきましたよ。エリーさんは私よりサードさんの言葉を真面目に受け取って熱くなってしまうのですね」
「そうそう。真面目なんだよなエリーって。俺エリーのそんな所好きだけど」
そこでお互いに笑いが漏れる。
そんな話をしてると目的地辺りに近づいてきたみたいで、寂れた印象を受ける町が見えてきた。
さて、少し治安の悪い所に行くんだから気を張らないとな。肩書は武道家で強くなろうとしてるけど、やっぱり俺の心は商人だ。
商人の一番の武器は言葉と相手の懐に上手く入り込む人当たりの良さ。
いつも通り情報の手土産をサードとエリーに持って帰ろう。
仲間になりたてのサードとアレン
アレン
「(サードの品のいい顔とガラの悪い顔の変化すごいよなぁ。どんな感じで顔変えてるんだろ)」(ジロジロシゲシゲ)
サード
「…何か?」
アレン
「えー?見てるだけ」
サード
「やめろ気持ち悪い殺すぞ」
アレン
「すごい!こんな近くで見てんのにどうやって顔変わったんだか全然分かんねえ!」




