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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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私はこれから何が起きるのか分からない傍観者

首のないバーソロミューの胴体が地面に落下するのを見た人々は、ヒィッと引きつった声を出し更に更にサリーとメルちゃんから離れていく。


リアンも憎く思っていたバーソロミューが目の前で呆気なく殺されたのを見ていてポカンとして、目の前で一体何が起きたのか分からないような顔でバーソロミューの胴体を呆然と見ている。


「…ナニコレ?」


頭の中をフル回転させても一体自分はどうしてここに連れられて、何が起きてバーソロミューが殺されたのか全く理解できないような一言がリアンから漏れた。


「おっと、すいやせん。急いでいて説明がありやせんでしたな」


小脇にリアンを抱えていたイルルは自分の…空中に浮かんだまま隣にリアンを立たせ、恭しく腰を折り曲げいつも通り卑屈な感じで手もみをする。


「まず結論から申し上げやしょう。この大帝国のゴタゴタの全てはあの女魔族から始まったものでございやす、リアン様」


「何が…っていうかあんた一体誰なのよ」


広場にいる全員が注目する中でイルルはヘコヘコしながら、


「あっしはルミエール様がお隠れになった後、その傍でずっと見守っていた精霊でございやす」


と告げ、サリーを指さす。


「あの女魔族は数多くの民族同士の争いを収め、平和な大帝国を建国した初代皇帝ルミエールを目障りに思っていやした。そしてルミエール様が最も幸福に包まれたその時にその身を、財を一族から奪い去った。そして二百の月日が経ったまさに今日…」


イルルはスッと私たちを指さした。


「偶然にもこの大帝国へ訪れていたそこの勇者御一行が女魔族と相対し、その結果エディンム地下墳墓へ封じ込まれていたルミエール様を解放なされやした」


そこで広場の隅にいる私たちにその場にいる人たちの視線が一斉に集中して、この戦いの場に勇者一行がいるのと気づいた人々からどよめきが広がる中、イルルはそのどよめきに負けない声で続ける。


「そして勇者御一行に敵わないと見るやその場を立ち去りこちらにやってきたようでございやすが…」


そこでイルルはサリーに真っすぐ言いつける。


「ここにはまだ勇者御一行がいらっしゃる、もはやあなたに勝ち目などありやせんぜ」


「だからなぁに?」


イルルの言葉を軽く流して、サリーは肩を軽くすくめる。


「確かに私は勇者御一行には敵わないかもしれないわ。でもね、皇太子を殺してこの大帝国をおしまいにしちゃえば私はもうどうでもいいの、ルミエールへの嫌がらせが完了すれば」


サリーはそう言いながらリアンへ微笑みかける。


「ってことだから、第三皇太子の…リアンだっけ、バーソロミューだっけ?まぁどっちでもいいわ。あなたにも死んでもらうから」


そう言うや否やメルちゃんの手がリアンにグンッと伸びて、リアンはギョッと目を見開く。


でも私だってギョッと目を見開いた。


だってバーソロミューとオビドはともかく、リアンは人間よ?…人間よね?うん、人間なのよ。

まさか攻撃するわけないわよね?イルルが守るとかそんな展開になっていくのよね…!?


考えが巡る中、リアンの目の前にブワッと煙のようなものがたなびき集中し、何者かが現れた。


赤い衣をまとい、立派な王冠を被ったルミエールが…!


「やめよ!」


思わず私もビクッと肩が震えるほどの一喝に、手を伸ばしていたメルちゃんの手がビタァッと止まった。

そしてサリーがわざとらしく言う。


「ルミエール、あなたここまで来ちゃったの?悪い子!」


周りの人々のどよめきが一斉に大きくなる。


「ル、ルミエール…!?」


「おい見ろあの横顔、肖像画と同じだ!」


「それよりルミエールの言葉で…魔族の動きが止まったぞ?」


「そうだ、あの王冠を被った者は話し合いで敵すら味方にすると…」


どよめく声が大きくなる中、サリーとルミエールはお互いに睨みあうように目を合わせている。

周囲のどよめきが次第に収まり、固唾を飲み見守る雰囲気に切り替わったのを見計らったのか、ルミエールは人さし指をサリーに突きつけた。


「どうだ、この卑しい魔族めが。この神の加護ある王冠で語り掛けられたら自由に動けまい?」


「…」


サリーは何も言わず黙っていると、ルミエールは続けた。


「よくも私を酷い目に遭わせたものだな、だが私はこのリベラリスム大帝国初代皇帝のルミエールである。二度と地上へ来ないのを条件に情けをかけ見逃してやってもよいぞ、この王冠の力があれば魔族のお前は死ぬより他ないのだからな!」


「…」


サリーは無言でルミエールを見続ける。


サリーがどう出るのか分からない私も含め、見守る全員が次に何が起きるのかと成り行きを見守っている。


するとサリーは面白く無さそう~に首を横に傾けた。


「なぁにそれ。人間のくせして魔族の私に温情をかけるなんて生意気だわ」


そう言うと、メルちゃんの大きい指でルミエールの頭から王冠だけをパシッと器用に奪い取ると、そのままバーソロミューの頭を潰したのと同じように指でパキンッと王冠を潰した。


神から賜り大帝国を作るうえで多大な功績を収めた王冠が破壊された。


それを見た人々から驚きと絶望の入り混じった悲鳴があちこちから上がる。


パラパラと落下する王冠をみてルミエールは大きく目を見開き「貴様…!」とサリーを見上げると、サリーは満面の笑顔で手を振った。


「どうせあなたもこの大帝国もその王冠が無いと何もできない無能揃いなんでしょ?だったら王冠さえ破壊しちゃえばもういいわ。それにこれ以上ここにいたら勇者御一行に倒されちゃうかもしれないもの。それじゃあ私帰るわね。皆様ごきげんよう~」


そう言うとメルちゃんはクルリと背を向けズシン、ズシン、と去って行き…、フッと姿を消した。


「おお…。何ということだ、神から賜った王冠がこのような…!」


ルミエールが呻くように地上に降りたち膝をつき、砕けた王冠に触れる。

周りで見ている兵士たちも偉大な人の葬儀に参列しているかのような沈鬱な顔で近寄ってきて、ルミエールとバラバラになった王冠を取り囲むように眺めている。


イルルと共に地上に降りてきたリアンはそんなルミエールの背中をマジマジと眺め、ゆっくりとルミエールの傍に立つと、バラバラになった王冠の一部をそっと拾い取った。


王冠の枠、枠についている千切れた布、取れかけた宝石…。

最初は他の皆と同様に葬儀に参列するかのような真顔でいたリアン。それでも王冠をひっくり返し、横から眺め…そうやって王冠を見れば見るほどにリアンの顔の険しさが増していく。


と、リアンは顔をしかめ喧嘩を売るかのような大声を出した。


「うーわっ、何これ最悪、この王冠の出来の悪さ!」


「!?」


神から賜った王冠を惜しむ言葉より先に悪態をつくリアンに、広場にいる全員が凍り付く。

それでもリアンの悪態は止まらない。


「何この王冠の枠!金じゃなくて木製の枠に黄色に光る顔料塗ってるだけじゃないの、それも色むらありすぎて気持ち悪ぅー!王冠の枠は不揃い、肌へ()れ心地最悪、宝石も偽物だわ、鑑定士じゃなくても一目で分かるレベルの粗悪品!それにこの王冠の内側に張ってた布の安っぽさったらありゃしないわ、一年間洗ってないのくらいのきったないこの赤い色!これどうやって染色したらこんな汚い赤になるの、こんなの粗悪品の寄せ集めじゃない、神から賜った王冠がこんな出来だなんて心底ガッカリよ。アタシがルミエールだったら天使から受け取った瞬間にこうしてやるわ!」


そうまくしたてながらリアンは大きく王冠の破片を振り上げ地面に力任せにガァンッと叩きつけ、ヒールでズダァンッと踏みつけ更に破壊した。


リアンは腕を組み、鼻息も荒くルミエールを睨みおろす。


「ちょっとルミエール!あんたもこんなもん渡された瞬間に突っ返してやりゃよかったのよ、『人間の審美眼を馬鹿にすんじゃないわよクソッタレ』って中指立てて!」


「…」


ルミエールも想像外のことが起きたのか目を見開いて口をポカンと開けて驚いていたけれど、段々と口元がニヤケてきてそれはおかしそうに空を見上げお腹から大爆笑している。


「ダーッハッハッハッ!そうか粗悪品か、よいよい、お前の審美眼は非常に鋭く、なによりも正確だ!ダーッハッハッハッ」


ひとしきり大爆笑して、それでもまだ笑いが収まらなくてヒーヒー言っているルミエールをリアンはしばらく眺め、(いぶか)し気に問いかけた。


「つーかあんた、本当にルミエールなの?そっくりさんとかじゃなくて?」


するとサードは足を踏み出しルミエールとリアンのいる方向へと歩き出した。勇者サードが歩くのを見て、皆が自然と道を譲っていく。


「その通り、彼は正真正銘、エディンム地下墳墓から我々が助け出した初代皇帝ルミエールご本人です」


そう言いながら皆に聞かせるようにハキハキと喋り続け、


「まさか人探しのために入国した国に魔族が関わっているとは思いもよりませんでしたがね。それも…」


サードはそこで一旦言葉を止め、


「当時の聖職者と墓守の杜撰な埋葬によりナムタルが発生し魔族を呼び寄せる結果となり、その尻ぬぐいとして皇帝が二百年もの間エディンム地下墳墓に閉じ込められていたとは」


「…どういうこと?」


リアンが聞き返すとサードは切々と語っていく。


「あのサリーという女魔族が言っていました。ルミエールは存命中、エディンム地下墳墓に亡くなった人々をしっかり葬るように、そして慰霊をするように命じていました。しかし墓守は面倒くさがり遺体を階段の上から投げ捨て、聖職者は慰霊費用を着服するだけで慰霊など一度もしたことが無かった。

その恨みから地下墳墓に悪しき精霊ナムタルが生じ、そのナムタルに目をつけ利用したサリーがルミエールをエディンム地下墳墓へ引き連れ、彼を地下墳墓へ閉じ込めたのです」


ルミエールの失踪の謎に関する話だからか、この場にいる全員が真剣な顔でサードの話に耳を傾けている。

サードはそれを確認すると、続けた。


「そして死してなおルミエールは立派でした。地下墳墓内をさ迷う者たちを救わねばならぬと良い精霊へと身を変え、二百年もの間ナムタル一人一人にあの世へ逝くよう説得していたのです。ナムタルは人に害を出す精霊であれ、元は遺体を雑に扱われろくな弔いもされていない哀れな被害者だとルミエールは知っていたからです」


…。あ、そう、そういう設定にしたの。


とりあえずどんな作戦なのか分からないから他の皆と同様黙って耳を傾けておくことにすると、サードはもっと真剣な声色で語っていく。


「そんな中偶然にも我々は魔族が関わっているのに気づき、エディンム地下墳墓へ向かいあのサリーを追い詰めました。しかし我々に敵わないと見るや地下墳墓を放棄し次期皇帝の殺害へ舵をきった。そこで魔族の力で地下墳墓に縛りつけられていたナムタルは消え、ルミエールも解放された。…これが今現在に至るまで起きたことです」


そこでルミエールは力強い顔で微笑みながら、


「お前たちのおかげで私も、あのナムタルに変化してしまった者たちも魔族の手から逃れられることができたのだ、それについては心から感謝する」


「感謝することではありません、魔族が絡んでいるとすれば勇者一行として無視できないことでしたから」


お互いこういう流れにしよう、と話し合っているんでしょうけど、よくもまぁこんな自然な会話ができるものよね、私だったら無理だわ。


「おい」


皆が静かにやり取りを見守っている中、一人の男の人が不躾な態度でルミエールにズン、と近寄った。


「俺は他の国から来たが、話は聞いてるぜ。あんたは宮殿を埋め尽くすほどの財宝と共に消えたんだってな。その財宝はどこにあんだよ」


するとその男の人と似たような鎧を着た人も隣に並び、


「俺らはオビドに雇われた傭兵なんだ、オビドは死んじまったがここまで命かけて戦ってきたんだぜ?そのルミエールの財宝から報酬の金が欲しいねえ」


いやいやいや、今?こんな流れでそんな話をしに前に出てくる?

…。あ、リアンは声には出さないけど「オビドも死んだの!?」って驚いた顔をしているわ。…でもすぐさまザマァみたいな感じで鼻で笑ってる…。


ルミエールは傭兵に対し、残念そうに笑う。


「ない」


「…あ?」


「財宝は全て魔族がかっさらってどこかへ持って行ってしまった。どこにあるのかは分からん」


するとオビドの元にいた傭兵がブチギレの顔になって、ルミエールに詰め寄る。


「ああ!?財宝がねえだと!?じゃあ誰が金を払うってんだ…」


そこで男はサードを見る。


「そうだよ、勇者御一行様なら金持ってるはずだろ、報酬…」


近寄る傭兵のあごにサードは一発裏拳をかました。見た感じ腕を振り回した程度の緩い動きだったのに、傭兵はすごい勢いで地面にズダァンッと張り倒される。


っていうか、なんでオビドの傭兵に私たちがお金出さないといけないのよ、馬鹿なの!?


「んだ、この野郎!金がねえなら物でもいいぜ、その聖剣でも…」


聖剣に向けて手を伸ばす別の傭兵の手をサードが上から手で叩き落とす。


でもチラッと見えた。サードは手を叩き落とすと見せかけ、いつも袖の中に隠し持っているスンテツを傭兵の手の甲に思いっきりドッスと突き刺してた。


「ぐああああああ!」


血の出る手を押さえ傭兵が膝をつく。


「こいつっ、こいつ腕に隠してる武器で突き刺してきやがった!勇者のくせに暗器持ってんぞ!」


「アンキ…?」


呟くとモディリーがボソッと私の後ろで呟く。


「隠し武器。暗殺用に使われるケースも多いやつ」


「…」


まぁ、間違っちゃいないと思う。


それでもサードは最大限の爽やかかつ優雅な勇者スマイルを振りまく。


「何をおっしゃるやら、今のは私の魔法ですよ。歴代最高の勇者インラスの聖剣、人々の宝。これを守るのはインラスの意思を受け継ぐ者の最大の義務でしょう?」


うわぁ、魔法使えないくせに堂々と魔法使えるって嘘ついてるう…。しかもインラスの名前を都合よく使ってるう。


それでも勇者が魔法を使った(という嘘)に傭兵たちはそれ以上強く出なくなった。


すると動きが止まっているような人々の一群から一人の人が動き出して、リアンの前までたどりつくとリアンに向かって膝をついた。


それは私たちを拠点まで案内した…。


「…シモーン?」

私の好きな暗器はやっぱり手裏剣ですね。夢がある。

そんで手裏剣に馬糞をつけて敵に傷をつけて破傷風にしてやるんだ。

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