無能な皇太子の行方
サリーと…名前と見た目が全然一致していないメルちゃんの出現で一時戦いがストップしている中、私はバーソロミューやオビドをチラチラと見てみる。
結局これからどう動くのか私は全然聞いていない。だからここからどうするのかしらと二人の様子を伺う。
その二人はサリーがこうやって現れるのは知っていたはずなのに、予想以上の登場だったからか、かなり動揺しているように見えるわ。
それでも皇太子バーソロミュー、オビドとしてこれからどう動くのが最善かと頭の中をフル回転させてその答えが出たらしく、バーソロミューがまず動き出す。
その眉間に深いしわを寄せるとオビドへ指をバッと突きつけ、
「あの女は魔族だと!?やはり貴様が今まで使っていたものは魔族を崇拝することで使える黒魔術であったのだな!この魔族崇拝の異端者め、そのような手を使い余たちを追い詰めていたとはな!」
責め立てるように言うバーソロミューをオビドはギロッと睨みつける。でもすぐさま「ははっ」とおかしそうに笑いだした。
「だとしたらなんだ、どうあっても皇帝になっちまえばこっちのもんだろうが」
その言葉に広場にいる人たち…オビドの配下のはずの兵士や傭兵たちからも「えっ」と驚いた声があがり、オビドは広場にいる全員を見渡し大笑いする。
「魔族崇拝者だからってなんだ?どうであれこの大帝国の天辺に立っちまえばこっちのもんだ、サリー様を崇拝することで手に入れたこの力さえあればどの国相手でもろくに負けやしねえ、ここ数年の戦いでてめえらも分かってんだろ?黒魔術さえあればどんな時でも負けなしだ!いきなり目の前に現れててめえらが驚いてる隙に殺し、そのまますぐ逃げられるんだからよ!」
イヒャヒャヒャヒャと笑いながらオビドは続け、
「バーソロミュー軍の配下のてめえらも俺に跪くなら今のうちだぜ!バーソロミューについてっても俺の黒魔術に追い詰められて殺されるのがオチだ、俺とあのサリー様の力さえあればこの広場でてめえらを皆殺しに…」
女性像のオブジェの上で高々に喋っているオビドの体へ、フォンッと黒い残像と風が通り過ぎる。
その瞬間オビドのいた女性像の頭部が破壊されるガガァンッという音が響いて、バッと赤いものが広がり像の破片と一緒に真横へ一直線に吹き飛んで行く。
声を上げることもできないほどの一瞬のことに誰もがポカンとして、オビドが立っていたはずの頭の無い女性像の上を眺め、そろそろとサリーとメルちゃんのいる方向へ視線を動かす。
そこにはメルちゃんが金棒を横に振り抜いた姿勢で止まっていて、そのまま軽く持ち直し、地面にズンッと打ち付け、地面は揺れた。
これ…今のって…金棒の一振りで、オブジェの上にいたオビドが消し飛んだ…?
誰もがろくな反応もできず戸惑う中、サリーは自身の両手の手の平を合わせ、そのまま頬に寄せてニッコリ微笑む。
「ごめんなさい、驚かせちゃったかしら。ペチャクチャうるさいからつい殺してしまったの」
そのまま広場にいる全員に視線を向ける。
「別に私あの子を特別にひいきしたわけじゃないのよ?でもほら、この国って衰退の一途をたどっているっていうじゃない?だから力を分けるついでに大帝国を滅亡させる駒にしていたの」
オビドが死んだこと、そしてオビドに力を与えた魔族がリベラリスム大帝国を滅亡させようとしていたという話にどよめきが大きくなる。
というかオビドはどうなったの?まるでメルちゃんの金棒で跡形もなく消し飛ばされたように見えたけれど…。
大丈夫よね?正体は煙に近い精霊なんだから「▼オビドは死にました」って感じでこの場からハケて行っただけよね?本当に死んでないわよね、大丈夫よね?
ハラハラしているとそんなの関係なしにメルちゃんは木の棒かしらと錯覚するほど軽々と金棒をヒョイと持ち上げブンブン素振りをして、思いっきり真上に持ち上げた。
その金棒の影は広場の端までズズズズ…長々と伸びていき、サリーはいたずらっぽく笑って、メルちゃんの上で足をパタパタ動かす。
「さ・て・と。逃げてもいいわよ、私今から暴れるから」
それを皮切りにその場にいた全員が絶叫を上げ逃げ出し、同時に金棒が広場にドドーーンッと轟音を立ててぶち当たる。
たった一撃で石畳は全て吹き飛んで、広場の端々に設置された全てのオブジェに石畳の破片が当たってガラガラ崩れ、地面が揺れた衝撃でオブジェの土台が揺れて前に横にドドーンッと倒れて砕けていく。
「あはは、そお~れっ」
サリーの言葉と共に真横に薙ぎ払われた金棒は、すぐ手前の聖堂、広場周辺の家や建物を積み木を壊すように簡単に破壊していく。
でもその壊れていく音は積み木の比じゃないほどの轟音。破壊され飛び散った瓦礫なんて次々と他の建物へ当たって壁に穴があいて轟音の音量が増していく。
もうこうなれば人間同士で戦うどころじゃない。
バーソロミュー、オビドの兵士や傭兵たちはあちこちへ逃げ回り、瓦礫の餌食になり、死に物狂いで逃げ回っている。それでも今の衝撃で建物は次々に倒れ始め、広場から逃げだせた人の上へも建物が雪崩のように崩れ落ちて崩壊していく。
もちろん広場にいた私たちにも容赦なく瓦礫が降り注いできているけど、私はアーウェルサで瓦礫に当たらないようにして、サードとガウリスは軽くヒョイヒョイ避けて、アレンとモディリーは「うひぃー」と余裕そうな声とは裏腹の必死な形相で避け続けて、リビウスには瓦礫がめちゃくちゃ頭にガンガン当たっているけど「イヒヒヒヒ」って楽しそうに笑っている。
するとサリーはキョロキョロと首を動かし、ある一点に目を向けた。
私もそっちのほうを見てみると、馬に振り落とされたのか…地面にうずくまり頭を抱えてナーバスな状態に陥っているバーソロミューがいる…。
「リアン…リアン…助けに来てくれリアン…余はもうダメだ、この大帝国はもう終わりだ…」
サリーはバーソロミューを見つけると嬉しそうに口の前で両手を合わせた。
「あとは第一皇太子のあなたを殺せば跡継ぎがいなくなって大帝国の滅亡が完成するわ。ね、そうでしょ?第一皇太子のバーソロミュー」
するとバーソロミューはハッと青ざめた顔を上げ、引きつり笑いをしながら手をブンブン動かす。
「ち、違うぞ、余は第一皇太子などではない、余は本物の第一皇太子の影武者としてここにいるだけの赤の他人だ、本物は別にいるのだから余を殺しても何にも意味はないぞ!」
バーソロミューはまさに無能なリーダーそのもののセリフを吐いて、サリーはすぐさま返す。
「そうなの?じゃあ本物はどこにいるの」
「それは…それは…」
言い淀むバーソロミューはフッと顔つきを変えて、良いことを思いついたみたいな顔ではしゃぐように喋り出した。
「実は第一皇太子の名前はバーソロミューではない、リアンと言う!そうだリアンだリアン!第一皇太子はリアンだ、あやつは余に危険な役目を全て余に押しつけ、自分は悠々と大帝国内を遊び歩いているとんでもなく無能な男だ!
であるからして余ではなくこの大帝国内のどこかにいる第一皇太子リアンを殺しに行くがよい!余はこの戦いに何も関係のない一般人であるからな!攻撃するでないぞ、余だけは攻撃するでないぞ!」
「…」
いや…まあ…本当はそんなこと言う人じゃないっていうの何となく分かってるからフラットな感覚で聞いていられるけど…。ただの無能な皇太子って思ったままだったら今の言葉で「何リアンを身代わりにしようとしてんのよ、この野郎ーー!」って私キレてるわ、今の。
ほんのり呆れながらフッと辺りを見ると、ある程度近くにいたバーソロミュー軍の紋章のついている兵士たちも呆れとドン引きの顔で…。
いや、違う。
明らかに侮蔑とブチ切れの顔で目を吊り上げバーソロミューを見ているわ。
すると一人が怒鳴りつけた。
「ふざっけんな!」
その声にバーソロミューはビクッと震える。そして周りにいる兵士たちの顔を見て「な…な…」とオドオドと脅え始めた。
バーソロミューが人望がないのは今まで見てきた通り、でも兵士たちだって自分の国を守りたいってことで、無能な男と小馬鹿にしながらも国の兵士をまとめ上げる立場のバーソロミューの元で戦ってきた。
でも…今の皆の顔は見ただけでハッキリわかる。
たった今。
バーソロミューの兵士たちは、バーソロミューを見限った。
怒りのまま兵士たちは怒鳴り散らす。
「こちとらオビドが皇帝になるの阻止するために命の危険を冒して戦ってたんだぜ!?」
「俺も他の奴らもこんなに傷ついたってえのに、俺らを束ねるてめえは自分だけ助かればいいってか!?」
そのまま一人の兵士はこの場で一番の敵であろうサリーを見上げ、バーソロミューを指さし叫ぶ。
「こいつが言ってるのは嘘だ、こいつが第一皇太子バーソロミューだ!」
バーソロミューはギョッと目を見開き顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「ば、ばばばば馬鹿をゆうなあ!余はリアンに追い出された第三皇太子のリアンだ、余は第一皇太子リアンに追い出された第三皇太子のバーソロミューだぞぉおお!」
もうバーソロミューの言っていることが滅茶苦茶だわ。もし今の言葉が混乱した無能な人を演じる上でとっさに考えて出したセリフだとしたら、逆に頭いいと思う。
そしてバーソロミューを見限った兵士たちの責めたては終わらない。
「第三皇太子のリアンはとっくに城から出て行って生きてるかも死んでるかも分からねえじゃねえか!」
「大体にしててめえがもっとオビドからリアンを守っていればこんなことになってなかったんじゃねえかよ!」
「てめえみてえな無能な野郎にここまでついてきた俺らの身にもなってみろよ、てめえの訳分かんねえ作戦でどれだけ無駄な血が流れたと思ってんだ!」
「オビドよりマシだって思ってた俺が全くもって恥ずかしいぜ、てめえだってオビドと同じ最低な野郎じゃねえか!」
「てめえ子供のリアンにずっと守ってもらってたくせに今度はリアンを殺せって?とんだクソったれだてめえは!」
今まで我慢していた分ものが吹き出したのか全員がバーソロミューを取り囲んで罵り続け、バーソロミューは、あわ…あわわ…と周囲を見渡している。
そしてサリーは目をつぶり、耳に心地いい曲を聴いているかのように首を楽し気に左右に揺らし、
「いいわねえ、人間が人間にむける悪意ある言葉と感情…、痺れるわあ」
とウットリしている。でもそこでサリーはフッと目を見開くと、メルちゃんの金棒がグオッと水平に持ち上げられた。
また金棒での攻撃が来ると考えたのか、バーソロミューを取り囲んでいた兵士たちはこんな奴に構っている場合じゃないと逃げ出した。でもその金棒は振り下ろされることなく、水平を保ったままある一点に向けられ止まっている。
全く動きもしない金棒、その先に皆の視線が動いて行き、そうなるとその金棒が向けられている空中へと皆の視線が動いていく。
そのずっと先の空中には点のようなものが空中で静止していて、サリーはその点のようなものに向かい声をかけた。
「だぁれ?あなたたち」
その点のようなものに目を凝らしてみても、粉塵でモヤモヤしていてよく見えない。人の形をしているのは何となくわかるけど、人にしては形態がおかしいっていうか…?
「あれあんたん所のイルルと…リアンじゃね?エタンセルカンパニーの社長さんがイルルに抱えられてるぜ」
モディリーはこんなに離れていて粉塵が舞う中でも普通に見えたのかサラッと言うから私は思わず、
「イルルとリアン!?なんでリアンがここに?」
と驚きで声を上げる。
すると私の声が聞こえたのかバーソロミューがガバッと立ち上がって、粉塵が薄くなった空中に見えるリアンをみつけた。そして嬉し涙を流しながらその場でジャンプし続ける。
「リアーン!そなたリアンであろう、リアン、余はここであるぞ、兄のバーソロミューだ、ハハ、久しいなリアン、早速だがリアン余を助けよ、そしてこの場を上手く鎮め余を皇帝の玉座へと押し上げるのだリアン!」
バーソロミューの連続のリアンへの呼び声に全員が上を見あげ、どよめきが広がる。
「リアン!?」
「生きてたのか?」
「本物…?」
「何で女装してんだ?」
「偽物だろ?」
「だがバーソロミューと顔が瓜二つだ」
「じゃあやっぱりリアンか?」
サァ…と風が吹き、粉塵が綺麗に後ろへたなびいていく。露わになったイルルと、イルルの小脇に抱えられているリアン…。
…でもリアンのあの顔…何が何だか分かっていない表情をしていない?どうみたって高い所から地上にいる兵士たち、それとほとんど目の前に立ちはだかっている巨大なメルちゃんへ次々に視線を動かして混乱しているわよね?あれ。
もしかして何の説明も無しにここに連れて来られたとか?手には大きめの布が握られているから、布の選別とか裁断とかそういうのをやっている時に?
するとイルルは真っすぐサリーを見据え、指を突きつけた。
「あなたの暴挙はここまでにしていただきやしょう」
するとサリーはプン、と頬を膨らます。
「暴挙ぉ?金棒を二回振り回しただけで暴挙って言われちゃたまったものじゃないわ。本当の暴挙がどんなものか見せてあげようかしら」
イルルは手を横にブンブン動かしている。何となく「それはやめて」って無言で訴えているような気がする。
サリーは不満げにプンプンしながらもとりあえず金棒をズン…ッと地面に突き立て、
「それで、なあに?さっきそこのバーソロミューが第一皇太子のリアンだとか、第三皇太子のリアンだとか言っていたけど、結局第一皇太子はどっちなの?あなたの抱えてるそっち?それとも地面にいるこっち?顔が同じで見分けがつかないわ」
その言葉にリアンはバーソロミューがいるのにようやく気付いたのか、その姿を確認すると一気に怒りの色に染まる。
「あ”あ”!?クズのバーソロミューと同じ顔だって言われたくないわよ!ふざけんじゃないわ、アタシがリアンでそっちがクズのバーソロミュー!誰だか分かんないけどよーく覚えておきなさい!」
即座にキレたリアンの言葉に、サリーはニコッと笑った。
「あらそう。じゃあ地面にいるこっちが第一皇太子のバーソロミューなの」
メルちゃんが動き出し、身をかがめ金棒を握っていない手をグォオ…と伸ばす。
近づく巨大な手に周りの人々は逃げ惑い頭を抱え身を低くして避けようと必死に動いた。
それでもその手は真っすぐバーソロミューの元へ伸びていき、器用に巨大な親指と人さし指でバーソロミューの頭をつまみ空中に持ち上げる。
「ギャアアアア!な、何をする、痛い痛い、離せ、離せええええ!」
「えいっ☆」
メルちゃんの指でジタバタ足を動かしていたバーソロミューの頭がブチッと潰された。
そのまま、首のない胴体が地面にベシャアッと落下した。
文章打ち込んでて「この言葉、日本語を学ぶ外国人いじめみたいな文になってる」と思いました↓
『雪崩のように崩れ落ちて崩壊していく』(「崩…だれ、くず、ほう」の三活用)
ついでに日本語を学ぶ外国人いじめ(いじめではない)の文でこれ考えた人凄すぎない?↓
『二日経って今日一月一日は日曜日。日本は祝日、晴れの日です』




