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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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争いの影からこんにちは、メルちゃんです

「え?なんでバーソロミューとオビドがイルルに呼ばれてやってきたの…?どういうこと?何で敵対してる二人があんなに仲良さそうなの、それよりサード普通にバーソロミューとオビドと話してるけど何で?絶対に関わらないようにしようって話だったじゃん、どういうこと?」


イルル経由で訪れたバーソロミューとオビド、そしてその二人と話し合うサードなどを見たアレンがものすごく困惑している。


思えば情報をいち早く手に入れるアレンが珍しく重要な場面にずっといなかったものね。本当に珍しく。

ともかく私はアレンに朝からの出来事を伝え始めようとする。


「話は今日の朝に遡るんだけどね、イルルが朝になっても戻ってこなかったから私心配になってエディンム地下墳墓に向かったの、そうしたら…」


なるべく話を端折ろうと思っても、あまりにもあれやこれやと起きすぎていてどうしても話が長くなってしまう。

そうやってアレンに説明している間中、向こうで私とアレン以外の皆…姿を消していたはずのルミエールも交え、円になってこれからの作戦会議みたいな話し合いをずっとしているのが見えていた。


そういう作戦会議は私たちも聞いたほうがいいんじゃないかと思いつつ、アレンにあらましを伝え終えたところでそっちの作戦会議に参加しようと思った…、でもどうやらそっちの作戦会議も丁度終わっちゃったみたい。


「それで、これからどうするの?」


全く話を聞いていなかったから開口一番で聞いてみろとさも当然のようにサードは返してくる。


「決まっているでしょう。我々は初代皇帝ルミエール、そして魔族サリーという駒を手に入れたのです。ですからとことん有効活用してこの大帝国を滅亡させるんですよ」


「まるで物のような扱いだな」


ルミエールはボソッと呟き、その呟きに応えるようにサリーはほっぺを膨らませでプンプンしている。


「そうよねえ、失礼よねえ。人間のくせに生意気だわ」


でもまぁそう言いつつサリーはそこまで激怒しているわけでもなさそう。にしても、サードももっと言葉に気をつけなさいよ、ここでサリーが怒って魔界からメーギュスト伯とかを連れてきたらどうするつもりなのよ。


私のジト目なんか無視してサードは皆に指示を出し始める。


「当初の私の計画では大帝国滅亡に三日ほど時間がかかる目安でしたが、これほど手数が揃ったので今から滅亡へのカウントダウンを始めます」


「で、結局これからどうするのよ、全く話を聞いてないのよこっちは」


改めて聞くと、バーソロミューが口を開いた。


「基本は余たちがどうにかするからただ成り行きを見ておればよい」


そしてオビドも口を開いて自分とバーソロミューを交互に指さし、


「まず俺らは無能な皇太子を最後まで振る舞う流れだ。そんで残ってる兵士共を町の聖堂前の広場に全員集めて、サリーとルミエールも参加したところでクライマックスの幕が上がるってところだな」


なるほどね、国のトップが派手に動いてそこにサリーとかルミエールとか入り混じってなんやかんやするわけ。それは確かに私もアレンも黙って見ているしかないわ。


「なんつーか…随分なやらせだよねえ…自作自演っていうかさ」


作戦会議側にいたモディリーは何とも言えない顔でぼやくとサードは微笑む。


「このようなことは予想外の展開を起こし驚きの演出を加え盛り上げるからこそ次の作戦へ繋ぎやすくなるものです」


「なんつーか詐欺師っぽいやり(ぐち)ぃ」


「何をおっしゃるやら。今からやることは国の古い(まつりごと)から新しい(まつりごと)に繋がるものですよ。それに政治も詐欺も同じようなものではないですか。どちらもまず先に人の心を掴みあげてしまえば後が楽になる」


「…この人本当に勇者って呼んでいいの?ねえエリーいいの?これが勇者で」


モディリーがヒソヒソと私に近寄りながらサードを指さし訴えてくる、でも今はそういう所が頼もしい場面(シーン)でもあるから…。うーん…。


「ともかく余たちは行く、皆は怪我をせんように来るがよい」


「そうだぜえ?戦いが激しくなってっから気をつけて広場に来いよ」


バーソロミューとオビドは私たちを気づかうようなことを言いながら消えていった。


無能な皇太子を振る舞ってなかったら、二人とも絶対皆から慕われる人柄よね。もし二人が無能な皇太子を振る舞う役目を持っていなかったら、リアンも二人と肩を並べて笑い合っている世界線もあったのかしら…。


「ではサリーさんには先ほど申しました通り、派手なご登場をお願いします」


ボンヤリとバーソロミュー、オビド、リアンが三人で歯を見せるほど笑い合っているのを思い浮かべていたらサードがサリーに何か言っていて、ハッと我に返った。


「分かったわ。正直人間に指示されるのちょっと腹立つけど、国を滅ぼす原因になった素敵なレディの肩書のためなら今は我慢よね。私頑張っちゃう」


やってやるとばかりに両方の手をギュッと握り気合を入れたサリーは、ルンタ♪ルンタ♪と足取りも軽やかに地下墳墓前から去って行く。


「歩いて行くんだ…」


初めに現れた時にはズズズズ…って黒い煙みたいな感じで現れていたのに。


「サリー様は気分屋なんで…今は歩きたい気分なんでございやしょう」


サリーが消えるとイルルはようやく落ち着いた時間が訪れたと言いたげな力の抜けた顔で答え、ヒズは去って行ったサリーを見てから、イルルを見上げる。


「サリーさん、イルルさんのことお気に入りってかんじしますねえ」


「まぁ…嫌われてはいないと思いやす。…逆らっても殺されやせんでしたし…」


最後にボソッと付け加えられた不穏な言葉を聞く前にヒズはキュンキュンした顔で身をくねらせる。


「御令嬢に拾われた弱った男の人…何かそういう所から始まる恋物語ありそうですねえ、キュンキュンしちゃいますう」


その言葉にイルルはものすごいドン引きの顔になる。


「冗談でもおやめくだせえヒズお嬢様、どれかといえば弱った野良猫を気分で拾ってちょっと手をかけたくらいの間柄で、サリー様もあっしもそんなこと一切考えておりやせん」


「えー、そうですかあ?うーんでもやっぱり私はエリーさんとイルルさん推しですう」


「…本当におやめくだせえ、ヒズお嬢様、そういう話を軽々しくされるのは困りやす…」


「…」


イルルがものすごく困ってる。なんか今のヒズとイルルのやり取りにデジャヴを感じるわ。フェニー教会孤児院で誰と付き合ってるの?って夢見る女の子たちにしつこく聞かれたあの時と。

どうしてそんなに自分と誰かをくっつけたがるの、とウンザリする気持ちはものすごく分かるから、私はやんわりとヒズを止めにかかる。


「ヒズ、イルルが困っているわ。可哀想よ」


そこでヒズはイルルが困っているのに気づいたのか、ホワンホワンした雰囲気からハッと戻ってきて、申し訳なさそうに謝る。


「あ、ごめんなさいイルルさん…。でも私恋愛小説好きだから、くっつきそうでくっつかない二人みたいなの見るとついキュンキュンしちゃうんですう、けど今度からあんまり口に出さないように気をつけますねえ。お口チャックー」


そう言いながら口をチャックするような動きをするヒズにイルルはホッとしたように頷いて…私はヒズの恋愛小説が好き、の言葉にものすごく反応した。


「ヒズって恋愛小説好きなの?私も好きだから何冊か本を持っているの、後で読む?」


ヒズはパッと顔を輝かせ、指を組む。


「いいんですかあ?キャー、嬉しいですう」


私以外に恋愛小説に興味ある人はいないと思っていたけど、まさかヒズも好きだったなんて。

同士を見つけた嬉しさであれこれ話そうとすると、サードがビシッと声をかけてくる。


「小説の話はあとにしていただけますか、今は趣味に浸る時ではないでしょう」


「…分かってるわよ」


ムッと言葉を返した。分かってると言いつつ、今の状況を忘れてどんな小説が好きなのか話合おうとしちゃったのは事実だけど。


「イルル、お前は…」


サードはイルルへ指示を出しかけ、でもすぐさま私に視線を移して、


「さっき私が言った言葉を実行するようにと、イルルに指示をだしてもらえますか」


「イルル、サードが言ったことお願いね」


言われるがまま伝えるとイルルはすぐさま「へえ」と頷いた。そこで前々から思っていたことを聞いてみる。


「ねえイルル。あなた私じゃなくてもうほとんどサードの命令で動いているようなものじゃない?そろそろ私を経由しなくてもいいんじゃないの」


するとイルルは顔を横に振った。


「いいえ、あっしはエリーお嬢様の使い魔であって、直接他の方から指示を出されるのはやはり違うと思うんで。では行ってきやす、エリーお嬢様」


そのままイルルはスウ…と消えていった。


まあね、イルルの言いたいことも分かるわ。一度でもサードからの指示に直接従ったら、どこまでも良いようにこき使われそうだと警戒しているのよね。


「私たちも聖堂前の広場に向かいましょう」


サードの指示で私たちはエディンム地下墳墓から離れ広場へと向かっていく。


荒廃した墓地から町並みの整うほうへとどんどんと進むとともに、バーソロミュー軍の兵士、オビド軍の兵士や傭兵の激突が激しさを増していく。

私たちはその戦いに巻き込まれないよう追い返したり倒したりと進んで行くと、広場に近づけば近づくほどに戦いが激しくて中々思ったように進めない。


「もう面倒くせえから目の前の奴全員ぶっ殺そうぜ」


中々進めないわりに頻繁に戦いの渦に巻き込まれるのが面倒になってきたのかイライラしているマイレージに「ダメダメ」と私たちは首を振って必死に押しとどめる。


それでも酷い。剣が鎧に当たる鈍い金属音、怒声、悲鳴、罵声、逃げる人、追いかける人、倒れる人、倒す人、地面で動かない人…そんな悲惨な光景に思わず足止めそうになっては他の皆に腕を引っ張られ背中を押され、どんどん広場へ進んで行く。


そしてようやっと町の中心の聖堂前までたどり着いた。


この広場は自然と人が集まりやすい設計になっているのか…兵士や傭兵たちが次々になだれ込んできては激しい戦闘が繰り広げられている。あまりの混戦でもうどっちの軍がどう戦っているのか、誰がどんな動きをしているのかもさっぱり分からない。


あまりに危ないから少し離れましょうと言おうとすると、喧騒の遠くから大声が聞こえてくる。


「我がリベラリスム大帝国の同胞たちよ!」


その大声に広場にいる大体の人がそっちに視線を向ける。私たちもそっちに視線を向けると、馬に乗ったバーソロミューが堂々とした態度で向こうから剣を振りかざしやってくるところ。


「この広場まで逆賊どもを追い込んだのだ、もうひと踏ん張りだ、もうひと踏ん張りで貴様らは我がリベラリスム大帝国の英雄になれる、今こそ残りの力を振り絞る時ぞ!」


バーソロミュー軍の兵士たちから「おおー!」と士気の上がる声が響く。


「なーに馬鹿言ってんだ!」


広場の大きい女性像のオブジェから声が響き、オビドが空中からブワッと現れニヤニヤと女性像の頭の上にトン、と立った。


「自分らが中心に追い込まれたって気づいてねえのか?なーにが逆賊だ、勝てばこっちが英雄なんだよ!」


そう言いながらオビドは自分たちの軍に言い聞かせるようにグルリと首をめぐらせ大声を出す。


「聞いたろ、勝てば英雄、負ければ賊軍だ!俺の元に居るてめえらは全員英雄、バーソロミュー軍は賊軍として処刑されんだ、こんな面白えことはねえだろうが!」


するとバーソロミューは顔を真っ赤にして怒鳴り返した。


「何を馬鹿なことを、逆賊は当然お前だ!余に付き従うは国の兵士、そちらは犯罪歴が一つや二つある者ばかりではないか、それが全ての答えだ!」


二人はギャーギャーと売り言葉に買い言葉で罵り合いをしている。

うーん…。それでも二人とも仲よしっていうのを知っているから、こうやって傍観しているとものすごく息の合った演劇の掛けあいを観ている気分だわ。


そんなオビドはオブジェの上で腕を組みふんぞり返る。


「まぁいい、ここで決着をつけようぜ。勝てばいいんだからな、どんな手を使ってでも勝てばよお!」


バーソロミューは今のを聞いたかとばかりに全員を見渡し、


「あんな何をしてでも上に立とうとする者に負けてはならん、我が同胞たちよ、オビドを…いいや、あいつは魔族だ、魔族を皇帝にしてはならぬ、あいつを討ちとれええええ!」


お互いのトップの言葉にその場にいる全員が今まで以上にやってやるという熱気に包まれ、空気をビリビリと揺がすほどの野太い声が「オオオオオオ!」と広場中からあがる。


あまりの大人数の大声に思わず耳を押さえると、足元が揺れた感覚がした。

広場にいる人たちは戦いに突入している、するとまた私の体がズン、と上下に軽く揺れた。


耳を押さえつつ何の揺れなのかと辺りを見回してみると、またズン、と揺れる。なんだかさっきより揺れが大きくなってきている。


一定間隔でズン、ズン、と揺れは大きくなってきて、戦っている中でも感覚の鋭い一部の人たちは異変を感じ取ったのか戦う手を止め、辺りを警戒しながら遠くを見渡す。


そして一部どころか大体の人が地面のズン、と上下に揺れる異変に気付き始め、一体何だと辺りを見渡す人々が多くなってきた。


ズン、ズン、という揺れが、ズシン、ズシン、という重みのある振動に変わり、それが…広場にまっすぐ近づいてきている。


広場にいる兵士や傭兵たちは少しずつ戦いの手を止めはじめ、一体何が起きているんだと警戒と不安の顔で辺りを見渡し続けている。


「あ…!」


一人が指を聖堂に向けると、皆…味方も敵も全員それにつられるようにザッと聖堂へ目を向け、どよめきが上がった。


私もそっちを見て「ギャッ」と軽く飛び上がった。


聖堂の影からヌッと現れたその姿。十メートルはありそうな聖堂と同じ背丈の人間…?いや、モンスターだわ!


パッと見じゃ簡素な布を体にまとった筋骨隆々とした男の人に見える。

でもその体は血のように真っ赤、櫛も通りそうにないほどモジャモジャした黄色の髪、飛び出そうなほどギョロギョロしている大きい目、口から飛び出している鋭くとがった牙の数々、頭から突き出た二本の白いツノ…。


なにより一番目がいってしまうのはその手に持っている武器。十メートルの背丈同等の長さの、黒い金棒…!


「…何だあれ、オニか…?」


サードがそんなことを呟いていると、そのオニ?というモンスターの肩にサリーがチョコンと足をそろえて座っているのが見えた。サリーはニコニコしながら肩の上から広場にいる全員に手を振る。


「ごきげんよう、下等な人間たち」


そこでモンスターの肩に誰かいると気づいた兵士もいるみたいで、一体目の前にいる巨大なモンスターは何なのか、肩の上の貴族風の女の人は何者なんだとざわついている。


「私はサリー・メルハナ・モンドール。魔族よ」


魔族との言葉にざわめきがもっと大きくなる。その様子を楽しむようにサリーはオニとかいう巨大なモンスターの肩をポンポン叩き、


「気になる?この子は私の力を目に見えるように具現化したものよ。可愛いでしょ?名前はメルちゃんっていうの、メルちゃんって呼んでね❤」


「…」


ほんの一瞬、広場にいる全員からどよめきもざわめきも消えた。


多分たった今、敵味方関係なく皆の気持ちが一つになったと思う。


―どう考えたってそれ、メルちゃんって見た目じゃない。

エリー

「で、ヒズはどんな恋愛小説好きなの?」


ヒズ

「恋愛ものは大体好きですよお。お屋敷から出る前に読んでたのは王女様と平民の男の人との恋愛小説でえ…」


エリー

「(なるほど、王道の身分差恋愛もの)」


ヒズ

「主人公の王女様は世間を騒がす勧善懲悪の大泥棒さんをモチーフにした小説の影響で『私は世界一の大泥棒になる』ってお城を抜け出して危ない目に遭って、平民の男の人に助けられて一目惚れするんですう。けど実はその男の人こそが世間を騒がす大泥棒さんだったんですよお。

最初は大泥棒さんに厄介者扱いされてた王女様なんですけどお、王女様の王女様ムーブであらゆる場所を潜り抜けて、ついには大泥棒さんが王女様の大胆不敵さにどんどん惹かれて、『俺と一緒に今より世界に名を轟かせないか、お前とならできる気がするんだ』って手を差し伸べて…キャー!」


エリー

「思ってたのと違う」


アレン

「ちょっと見たいかもそれ」

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