本当にサードって使えるものは何でも使おうとするよねー
「いいなぁ、俺もそのアルゲンタリアとかいうの作りたいなぁ。でも身元厳しく調べられたら俺終わるからなぁ…ま、しょうがねえか。犯罪者は犯罪者らしくコソコソしときますーってことで…」
アレンの持つプラチナカードをモディリーが羨ましそうに見ながら漏らすと、ガウリスがうっすらと私も思っていたことをモディリーに問いかけた。
「モディリーさんはそのような殺し屋などなさらずとも、考古学者の肩書があれば暮らしていけるのではないですか?これだけの財宝があればお金の心配もないことですし」
するとモディリーはピタリと動きを止めて腕を組んで、
「いやまぁねえ、普通そう思っちゃうよねえ、うん…」
と言いながら大きくため息をついて私たちに視線を向ける。
「ところであんたら王冠は受け取ったけど、ご本人のルミエールさんはどうするつもり?地上に連れてくの?」
「そうですね、王冠だけでなくルミエール本人も現れたとなれば色々と物事の運びは早まりそうですから。来ていただけますよね?」
それにはルミエールも軽く鼻で笑って腕を組む。
「…分かった。まぁお前がやろうとしていることなら私がどこでどう動けばいいかも大体想像がつく、ならば最後まで偉大な初代皇帝として振る舞ってやろう」
「では一時的に王冠を被り直していただいて…」
「でもルミエールと王冠は大帝国の皆が知ってると思うから、ルミエールがこの姿のままで頭に王冠被って地上に出たら大騒ぎになると思うんだけど」
アレンが最もなことを言うとルミエールは「何を言うか」と軽く笑った。
「問題ない、この地に住まう悪しき精霊として過ごしていたから姿の消し方くらいはできる。ま、私はここぞという時に姿を現わせばいいのであろう。ならばそれまでは目に映らないよう静かにしておこう」
そう言うとルミエールはス…と見えなくなった。
「じゃ、地上に戻ろうぜ。こっちに隠し通路あって、そこから直通でサードとエリーの落ちたあの場所まで戻れるから。前はこっちから来たんだよね俺」
歩き出すモディリーの後ろを私たちはゾロゾロとついていく。
壁際までたどりつくと、モディリーは壁の隙間に指をさし込み「よっ!よっ!」と力任せに横に動かしだした。
その動きに合わせゴリッゴリッと石の擦れる音と共に人一人通れるぐらいの狭い通路が見え始め、ずっと上まで続く急な階段が見えてくる。
「よーし、行くぞー」
そう言いながらモディリーはさっさと狭い階段をのぼり、その後ろにいたサードもさっさとのぼって行く。
まあ幅は狭くて並んで歩けもしないから、私は皆を先に行かせよう。私が先に行ったらすぐ疲れてスピードが落ちて後ろが詰まっちゃうもの。
皆が次々に階段を登って行くのを眺めていると、ヒズが何か言いたげな顔をして私を見ているのに気づいて「ん?」と視線を向ける。
ヒズはトテテと駆け寄って来て、すごく申し訳なさそうに胸の前で手を組んで見上げてくる。
「エリーさん、ごめんなさい」
「…何が?」
何で謝られたのか分からず聞き返すと、ヒズはシュンと落ち込んで、
「ベルーノさんと戦っている時、私の代わりにマイレージさんとリビウスさんと一緒にエリーさんが戦うことになって…」
「いや…あれはしょうがないわよ、ヒズが謝ることじゃないわ」
でもヒズは申し訳なさそうな顔をしてシュンとしてしまっているわ。
多分皆が次々に倒れていく中、何もできないまま後ろから見ていただけっていう後ろめたさを感じているんだと思うけど…。
色々と考えて、私はほんの少し話題をずらすためヒズに耳打ちする。
「ねえヒズ」
「はい?」
「私リビウスとマイレージに体を乗っ取られて、ヒズの言う戦う時のワクワクが分かったの。ヒズの言った通り、戦う時の高揚感ってすっごく体が燃え上がるぐらい楽しいし心の底からワクワクするものなのね」
ヒズはそれを聞いて目を輝かせ大きく頷く。
「そうなんですよお!私は服を選ぶ時もそんな気持ちになるんですう」
…でもやっぱりあの戦う時の高揚感と服を選ぶ時の高揚感は違う気がする。一体ヒズはどういう心境で服を選んでるっていうの…?
* * *
狭い階段を真っすぐのぼってたどり着いたのは、大きく広く長い階段のど真ん中。
どうやらこの階段の段差の一つに仕掛けが施されていて、その仕掛けを作動させるとお宝が置いてあった部屋に直行できる狭い階段が現れるってしくみのようね。
「あそこから俺らは落ちたのか…思ったより高いな」
サードがそう言っているからそっちを見ると、見えるのは今立っている大きく長く広い階段の脇にある高い壁。
なるほど、エディンム地下墳墓から入って真っすぐに進むとこの大きい階段があって、その両脇は絶壁になっているの。
吹き飛ばされて転がった先があの絶壁じゃなくてこっちの広い階段だったなら、いきなり地下墳墓の最深部まで行ってしまうなんてことなかったのに…。
狭い階段を全員出たのを確認すると、モディリーは穴の開いている近くを触っている。
「で、ここはこうすると閉じると…」
お宝発見器にその方法が図で説明されているのか、チラチラとお宝発見器を見ながら段差にある汚れみたいなカビみたいな色のついている所をトントンと順番に叩いていくうちにゴゴゴゴッと床が動きだして、元々こうでしたけど?とばかりに穴はピタリと閉じた。
見上げると階段の上が明るい。
ああ…入口からの光が差し込んできている。さっさとこの暗い場所から外に出たいわ。
皆も同じ気持ちだったのか階段を黙々とあがり切り、そのまま暗い地下墳墓内から外に出る。
「…ああ…明るい…眩しい…」
リンカのいたゾンビの洞窟から出た時と同じようなホッとした感覚に包まれる。
アンデッドが出る薄暗い場所から外に出ると、こんなにも心が晴れやか…。
「あら、無事に戻って来ちゃった」
「!」
声のしたほうを慌てて見ると、さっきのままサリーとイルルが並んで立ってる。
「エリーお嬢様…」
どこかホッとして一歩前に踏み出そうとするイルルのその腕にサリーは腕を回し、
「逃がさないわよ、イルルぅ」
と楽しそうに笑って隣に引きずり戻していく。
まっ先にサードは戦闘態勢になって聖剣を引き抜くと、サリーは「あら怖い」とイルルを前に押し出してその後ろに隠れた。
…でもあのサリーって魔族、イルルより強いはずなのに何でイルルを前に…?あ、そうか今着ている服がお気に入りだから汚したくないのね。
サリーはイルルの後ろからヒョコッと顔を出して、
「イルルから聞いたんだけど、あなたたち勇者御一行なんですって?」
と声をかけてくる。
「そうですが、それが何か?」
警戒しながらサードが問いかけるとサリーはプンッと怒っている感じで口をとがらせイルルの後ろから出てきて、
「どうして先に勇者御一行だって教えてくれなかったのよお、知ってたらエディンム地下墳墓に放り込むなんてことしなかったのにっ!おかげでここの仕掛けが壊れちゃったじゃない、こんなこと叔父様にどう伝えればいいのよバカバカぁ!」
サリーは手をブンブン上下に振って、
「もうこうなったら黙って見過ごすこともできなくなっちゃったわ、せめて少しだけでも痛い目に遭わせてあげないと。…ねえ?イルル」
いつもニヤケているイルルは…今まで見たことがないような引いているような笑みで口をヒクつかせ、手もみをしてヘコヘコとサリーに頭を下げる。
「先ほどから何度も申し上げておりやす通り、あっしは今あちら側の者なんで…サリー様のお味方になることはちょっと…」
するとサリーはわざとらしく驚いたように口を片手で覆い、なじるように言いつける。
「まーー!私からの恩を忘れて人間側についちゃうなんて、この恩知らず!恥知らず!」
イルルはそれに何も言い返さず「はは…」と愛想笑いをして目を逸らした。
イルルの普段の笑い方は「ヒッヒッ」っていう引きつったような笑い方なのに、本当対応に困っているような愛想笑い…。
「…あ」
思い出した。イルルが話してくれた、魔界でのとんでもなく嫌な雇用主…主に下級貴族たちの話。
もしかしてあのサリーって魔族、そのとんでもなく嫌な雇用主の下級貴族だったんじゃない?
サリーは近所にいる優しいお姉さんみたいな雰囲気だけど、有無を言わさず意見を押しつけ従わせようとする姿勢、理不尽になじる態度、服が汚れるって理由で弱い立場のイルルを前に押し出すそのやり方…パワハラだわ、完全なるパワハラだわ!
私は杖をサリーにバッと向ける。
「私たちを見過ごすことができないってさっきあなた言ったわよね?だったらいいわ、私がここであなたを倒すから!」
魔界では力こそ全て、強ければ地位が高くなり、弱ければ低くなる。だったら魔界の下級貴族程度、私の魔法さえあれば…!
「お前、今魔法使えねえだろ」
私にだけ聞こえるような小声でサードがボソッと囁いてきて、私は「あ」と動きを止めた。
それでもサリーは私の行動に気づいておらず、泣いてもいないのにハンカチの角を目の端に当てる。
「やっぱり戦うしかないの?可愛がってたイルルは私の言うこと聞いてくれないっていうし。私悲しい、クスン」
それでもサリーはイヤイヤをするように上半身を揺らし、イルルの腕にすがりつく。
「でもやっぱりお気に入りの服で戦うの嫌だわ。ねえお願いよ、私の代わりにちょっとあの子たち痛めつけてちょうだい、完全に敵対しろだなんて言わないわ。ちょっと戦ってくれるだけでいいの、お礼に私のお友達の御令嬢を紹介してあげる、うまくいけば魔界に戻れるしあなたは玉の輿よ」
「…いや…はは…」
完全にイルルは引いてる。目を明後日の方向に逸らしたまま首をフルフルと横に振ってる。
「そんなに私たちと戦うのが嫌ですか?」
サードが声をかけるとサリーは軽く頬をプクッと膨らませて、
「だってこれ、誕生日に妹たちからプレゼントされた外出用のドレスなんだもの。汚したくないわ」
「…」
皆が一瞬黙り込む。
それは「どうしてそんなに大事な服を地下墳墓っていう服が汚れそうな名前のついているところにわざわざ着てきたの」というツッコミ待ちなのかしら。
「あのう…」
モディリーが後ろからそっと声をかけてくる。
「何かこう…イルルって魔族だったの?」
「…」
モディリーには一応言わないで隠しておいたけど…サリーがあれこれ言うから普通にバレちゃってる。
「ええまぁ、私たちにもイルルにも様々な事情がありましてね、その事情でエリーの使い魔として留めて置いているのです。魔族とはいえイルルは人間に対し悪事を働いたことはありませんよ」
サードは簡単に説明してからサリーに視線を戻し話を先に進める。
「我々としても今立て込んでいる最中なので、魔界の貴族階級の者とわざわざ対戦したくありません。なのでどうです、私と取引しませんか」
「取引?魔族の私と?魂取るわよ?」
「そちらがそのつもりならこちらも全力で戦い、その大事な服とやらを傷つけたうえであなたを倒しますが?言っておきますが我々は地上にダンジョンを持つほど力のある魔族らと対戦し勝利を収めてきました、そんな私たちにあなたが勝てるとでもお思いですか?」
「…」
むう、とサリーは頬を膨らませながら、
「勝てるわけないって分かってて言ってるでしょ、意地悪。とりあえずその取引の内容を聞いてから考えてあげる、言ってみてよ」
「我々はこの大帝国を滅亡させようとしています」
サリーは「あら」と肩の力を抜いて、
「楽しそうなことしているじゃないの、勇者なのに」
と返す。サリーが話に興味を持ったのを見たサードは、しめた、とばかりに続けた。
「どうです、あなたも大帝国滅亡に一枚かみませんか」
「ええ、いいの?やだ嬉しい」
サリーはとことん乗り気で、サードも最後の追い込みとばかりに話し続ける。
「メーギュスト伯という者がどんな目論見でこの地下墳墓の仕掛けを作ったかはともかく、あなたとしても様子を見に来たタイミングで我々勇者一行に仕組みを壊され、一矢報いず何もしないで帰るのでは面目が立たないのでしょう?ならば『大帝国の滅亡を一気に押し進めた先導者』の実績と土産話があればあなたの顔も立つのでは?」
サリーは頬に人差し指を当て上を見あげ「うーん」と悩んでいたけれど、
「そうねえ、どうせ仕組みが壊されちゃったのはどうにもならないもの。だったら人間界の国一つを壊したって話があれば叔父様もフンッて鼻を一つ鳴らすくらいで特に何も言わないかも」
するとサリーは頬を両手で押さえ、ハワワワ…と夢見心地な表情になる。
「それより人間界の国を滅ぼすのに加担するなんて地位の高い魔族たちしかやったことないのに…私ができるなんて感激だわ。どうしよう、そうなったらたくさんのイケイケな貴公子たちに『国を滅ぼすなんて、あなたは素敵なレディだ』って言い寄られてしまうかも」
「ともかく、サリーさんは協力くださるのですか?」
サリーはホクホク顔で頷くから、私はすぐさま告げた。
「じゃあとりあえずイルルをこっちに返してもらうわ。あなた魔界でもイルルにあれこれ無理難題いって酷いことをし続けたんでしょ、そんな人の近くになんていさせられない」
こいこい、と手で招くと、イルルはようやくサリーから解放されたみたいな顔でこっちに戻ってくる。
同時にサリーは人さし指を顔に当てながら頭を傾げた。
「私イルルに酷いことなんてしてないわよ?」
私はムッとして嫌味臭く言い返す。
「そうね、自覚がないんじゃ分かりもないわよね。私は聞いているのよ、どれだけあなたが嫌な雇用主だったか…!」
するとイルルが血相を変えて私の肩をガッと掴み、必死に首をブンブンと横に動かす。
「エリーお嬢様、違いやす、サリー様はエリーお嬢様に話した嫌な下級貴族の雇用主ではありやせん」
「え?」
するとサリーはプンッとしながら、
「何?私がイルルのこといじめてたって言いたいの?イルルが性格悪い下級貴族にいたぶられてるの偶然みつけて、目障りだったからそいつ殺してイルルを助けたの私よ?呪いもかけられてたから呪いが解けるまでうちでこの子飼っていい?ってお父様たちに頼んで、回復した所で元の場所にリリースしたんだから」
チラとイルルを見ると、イルルはどこか疲れたような顔で、
「本当でございやす。そんなんで力でも敵いやせんし恩もあるサリー様は無下にできない相手と言いやすか…」
「…でもパワハラっぽいこといっぱいされてた…」
私が言うとアレンはキリ、とした真面目な顔で、
「いや、俺は年上のお姉さんにああやって構ってもらえるの、けっこう嬉しいぞ」
と訳の分からない言葉を返した。
魔界時代の思ひ出
嫌な下級貴族
「ウホホ、ほーれ、この金が欲しいか、ほーれほーれ、ウホホ、だがお前には報酬を受け取ったら息ができなくなる呪いをかけていて逃げても息ができなくなる呪いをかけている、ウホホ、どうだ、この金を受け取ることができないだろう、ウホホ、ほーれほーれ、一生こうやってこき使ってやるウホホホウホウホ」
サリー
「何かムカつくわっ。えい☆」(腹にエグいワンパン)
嫌な下級貴族
「」(死亡)
サリー
「あらー、この黒髪の子、色んな呪いかけられてフラフラだわ可哀想~。しょうがないわねぇ、治るまでおうちで飼ってあげる。よいしょっと」(片腕で肩にヒョイと担いでトコトコ歩いていく)
イルル
「…(物理的に強い…)」




