ルミエールの財宝と一番のお宝
この先が財宝のある場所…。
大きい扉を上へ、上へと見上げる。高い天井と一体化するぐらい大きい鉄の扉、その向こうが財宝のある部屋のようね。
でも見た限り天井まである鉄の扉なんて、私たちの人数程度じゃ開かないんじゃないかしら。
「どうすれば…」
悩みながら声を漏らすと、リビウスの顔がヒュッとマイレージに変わって、
「ここは俺の出番のようだな」
と言うなり、ズンッと鉄の扉に拳を全力で打ち込んだ。ズガァアン!と耳が痛くなるほどのものすごい衝撃音と共に鉄の扉に大きく穴が開く。
「楽勝~」
マイレージはガッツポーズをしながらグッと拳を握る。
おお…と驚きつつ財宝のある部屋を見るけど、今の扉が破壊された衝撃で砂煙がモウモウと立ち込めていて向こうが全然見えない。
まあとにかく部屋の中を明るくしようと、ずっと頭上で照らしていたカーテンの明かりを自分たちにぶつからないように部屋の中にスー…と動かした。カーテンが動くと空中を舞っている砂埃はパチパチと静電気みたいな音を立てて消えていく。
「…人だけじゃなくてああいうホコリも燃えるのね」
ともかく皆待ちきれないのか砂埃舞う部屋に入っていく。
少しすると砂煙も少しずつ薄くなってきて、カーテンの明かりが部屋全体を照らして…。
「…わぁ…」
見えてきた目の前の光景に全員が思わず驚きの声を上げた。
子供のころ読んだ絵本によくある、お宝を発見したワンシーンの挿絵。
まるであの挿絵そのままだわ。
沢山の金貨が明かりに照らされキラキラ黄金に輝いていて、金貨の中には色とりどりに光る宝石がたくさん散らばっている。その中に紛れて綺麗な装飾の服もあれば、宝石がちりばめられた剣、豪奢な装備品、綺麗な刺繍の絨毯、立派な装飾の馬具、それから…それから…。
「すご…」
アレンが呟いて中をキョロキョロ見ている。
でもこれはサードほどお金に執着心のない私だってものすごく興奮してしまうくらいの光景。こんなにすごい量のお金に宝石、この先の人生で見られるかどうかも分からない。
そこでハッとして私はルミエールを振り返った。
「…何だ?」
「いや…実は私たちで財宝は分け合おうって話してて…。でもこれ、元はルミエールのものだったんでしょ?」
思えば財宝の持ち主が居る前でかすめるとかとんでもないことだわと思い聞いてみると、ルミエールは真顔で、でもおかしそうにフンと鼻を鳴らす。
「くれてやる。正直惜しい気持ちが大きいが…どうせこの体では使えんからな。…。はぁあ…こんなことならいつ殺されるのかとビクビクしてしていないで豪遊するんだった」
冗談を言っているような本心を言っているようなことを言いながら、ルミエールは山のような財宝を眺めている。
「さてと、取り分は私たちが七割、モディリーさんが三割…。どう分けましょうか」
ルミエールの言葉なんてサードは聞いていなかったのか取り分の話をし始めた。でもモディリーはお宝発見器を手に取り眺めていて、
「…あ、これ前来た時と同じ反応だ、やっぱここに金貨以上にいいもんがあるな。確認してこよーっと」
と言いながらガシャガシャと金貨の山へ踏み入り進んで行く。
するとサードは顔付きを変えた。
「なるほど、私も拝見させていただきましょう」
後ろに続くサードにモディリーは「ええっ」と嫌そうな顔で振り向く。
「おいおいちょっとちょっと、そっちが七割取るってぇのに、まさかこの中で一番のお宝までかすめ取ってくつもりか?やめてくれよ、七割そっちのもんなんだから一番いいのは俺に譲ってくれよ」
「見るだけです」
嫌そうな顔をしながらもモディリーは渋々とお宝発見器が指し示す金貨の山の向こうに消えて、サードもその後ろをついて行って見えなくなっていった。
その間マイレージは金貨の山に寝そべり、
「金貨の山に横になるなんざ、裏武道で五十人連続で対戦相手殺した時以来だなぁ」
と物騒なことを言いながら足を組んでご満悦の表情をうかべ、リビウスに切り替わるとヒャッホーイと金貨の山にもぐりこんで、
「刺さったっ」
と頭に剣を突き刺したまま楽しそうに金貨の中からザシャァッ飛び出し、アレンもヒャッホーイと金貨にダイブして、
「イッテ、縦になってる金貨腕にグリッてきたイッテ」
と金貨の山から転げ落ち呻いていると、泣きそうな顔のモディリーと戦利品を手に入れたかのような満足気なサードが金貨の山の向こうから戻ってきた。
「勇者様、ちょっと待って勇者様、ちょっと話そ?条件変えよ?俺の取り分三割のままでいいからそれ俺にちょうだい、な、頼むからさ」
サードは首を横に振り、
「いいえ、こちらが三割であなたが七割でいいのでこれはいただきます」
「え…!?」
まさか取り分を逆にするほどいい物を手に入れたのとサードの持っている物をみてみようとする。でも随分小さいものみたいでよく見えない。
「それは何ですか?」
ガウリスも興味を持って聞くと目の前までやってきたサードはその手に持っている物を見せてくる。
それは丸められた、…古めかしい羊皮紙?見た感じそこまでボロボロでもないけど、全体的に黄色っぽいやつ
。
すると泣きそうな顔のモディリーが私を見て、
「ちょっとエリーも勇者様説得してくれよ、俺のお宝発見器がこれにすごく反応して文字が変わって、その内容みた勇者様がいきなりこれかすめ取っていったんだよ、何て書いてたのって聞いても何にも説明してくれないし、お互いの取り分逆でいいって言いだすし、そう言うならよっぽどいいものだし…」
そこでモディリーはそこにいるルミエールに視線を移して、
「ちょっと、あれ何なの、何に使うやつなのあれ、あんたの私物なんだろ教えてくれよ」
と突き進んでいく。ルミエールはサードの持つ羊皮紙をしげしげとみて、
「…はて…。配下の者が持ってきていたような気はするが何だったか…各部族が持っていたものが献上品として一度に宮殿へ運ばれたからよく覚えとらん」
「自分の持ち物ちゃんと把握しとけよ偉大な初代皇帝ルミエールウーー!」
モディリーはチクショウとばかりにサードに近寄り、
「ちょっとそれ俺にちょうだい、頼むよ何に使うのかさっぱり分かんねえけどこのお宝発見器があんなに光って震えるならすげーいい物なのは確実なんだからさあ!」
あ…モディリー余計なこと言った。
そんなすごいお宝だなんて言ったら余計サードが手放すわけない。
と、サードは微笑む。
「ではこれとそのお宝発見器を交換できますか?」
「…え」
「交換してもお互い不利益は生じないほどの物ではありますが、どうします?」
モディリーは訝し気にサードを見つめて、お宝発見器を手で握り首を軽く横に振る。
「こ、これはダメだって、俺これのおかげで隠された財宝見つけて来れたし、何だかんだ危険な状況から逃げれたこともあるし…それ何に使うのか分かんねえもん」
「じゃあこれは私たちの物ということで」
モディリーは納得いかないような感じで、それでもお宝発見器を手放すのは惜しいのか渋々黙り込む。
「…ちなみにそれ、どういうものなの?」
私が聞くとサードはアレンにズイッと羊皮紙を突き出した。
「アレンにあげます」
「え?」
「お宝発見器で読み取れた内容からしてアレンが持つのが一番いい物なので」
「いいの?」
アレンは嬉しそうに羊皮紙を手に取るとぺらっと広げる。
ワクワクしながら中を見たアレンは「あれ?」と肩透かしを喰らったような声を漏らし首を傾げる。でも次の瞬間、「はっ」と息を飲んで、目を見開いて背を正した。
「何?何が書かれていたの?」
気になった私がアレンに近寄ると、皆も何だ何だと寄ってくる。するとアレンは嬉しそうに羊皮紙を私たちに見せてきた。
「地図!」
「…」
私たちもさっきのアレンと同じように肩透かしを喰らったように黙り込む。
だってそこにあるのって普通にアレンがいつも見ているような地図なんだもの。
黄色がかった羊皮紙に銅版画で刷られたような印刷面の、どこか古めかしさを感じる地図。それも中心にポツンと赤い点の汚れがついているし。もしかしてカビ?
「そんで見てこれ、見てこれ!」
アレンの言葉と同時に、ごく普通の地図がザザザッと横に動き出した。
「はっ」
さっきのアレンと同じく私たちも息を飲む。
しかもただ横に動くだけじゃなくて、汚れみたいな中心の赤い点に向かってどんどん拡大されて、国名、都市名、町の名前らしき文字が一斉にブワァアッと現れ、あるところでピタッと止まる。
「カゼロ町…」
赤い点の周辺にはカゼロ町、と言う文字が書かかれてある。これは…。
「多分この赤い点が俺たちの現在地ってことだと思うんだ。すげーぜこれ、俺が思った通り自由に動かせんの。しかもこれ最新版の地図だ、こんな所に二百年放っておかれてたのに勝手に最新情報に更新され続けてたんだぁ、すげー」
アレンは目をキラキラ輝かせながら羊皮紙を上に掲げてあれこれと地図を動かし続けている。
それでもモディリーはアレンとは正反対にかすめ取られたのがそういう物だと分かれば興味がなくなったみたい。
「なーんだ、ただの詳細な地図か…。だったらいいや、このお宝発見器があれば安全なルート分かるし」
とぼやきながら確認するようにサードに質問する。
「じゃあ何?結局ここの財宝の取り分は俺が七割ってことでいいわけ?」
「ええ。大体あちらからそこまでがあなたの取り分、残りのこちら側を私たちがいただくということでよろしいですか?」
サードも大量の金貨よりも自由にあれこれ動かせるマップのほうが旅をする上で役に立つと判断したのかあっさり頷き、指を動かし取り分の大まかな線引きを決めている。
そうやってサードがモディリーと取り分を話している中、マイレージは地図を覗き込み、
「へー、すげぇなこれ。よこせ」
とアレンから羊皮紙を奪い取った。
「ああん、返して、返して」
アレンがおもちゃを取られたような感じで手を伸ばすとマイレージは取られないように背を向け、
「うっせー、ちょっと借りるだけだ、飽きたら返してやるよ」
と言いながらあちこち動かしてる。
「へー、すげー。こりゃ俺らが昔通ったルートだ。お前ら見えるか?」
マイレージの顔がヒュッとナディムに変わる。
「ああ、このルートなら覚えてる。ベルーノがナムタル除けで不眠不休で呪文を唱え続けた道筋だ」
するとヒュッとリビウスの顔に変わるとマップがギュルギュル動いて、
「ここ、ここメルドの家」
するとヒュッとまたマイレージの顔に変わってマップもギュルギュル動いて、ある場所でピタリと止まる。
「…ここがインラスの死んだ場所か…。フッ、『インラス去りし聖域』だってよ。ご丁寧に名前がついてらあ」
そこで沈み込むように会話が静かに終わり、そのままマイレージは無言でアレンに羊皮紙を返した。
でも国名とかだけじゃなくて今では観光名所になっているインラスが死んだ場所の名前すら載っているんなら、マップに強いアレンが持っていたら最強の物よね。
ウチサザイ国でもジルの拡大される地図をみて物欲しそうに目をキラキラしていたもの、アレンは。
そこでふと思ってしまう。
ウチサザイ国にいた時私たちがジルと普通に話せていたら、誰とでも仲良くなれるアレンがジルと仲良くなって、ジルが死ぬことのない未来もあったのかしらって…。
ジルのことを思い出したら気分が落ち込んできて、インラスのことでマイレージたちは沈み込んで、そんな私たちをモディリーは交互に見てくる。
「何、どうしたの、何で急に二人とも暗くなってるの」
「ううん…何でもない」
大きく息を吸って、大きく吐いて気持ちを切り替えてサードを見た。
「ところで財宝をモディリーと分けたのはいいとしてどうするの、もしかしてこれだけの金貨の山を私のバッグに全部入れるつもり?」
まさか目の前に広がる小山程度の金銀財宝をチマチマ私の大きいバッグに詰め込む気じゃないでしょうねというつもりで聞くと、サードは金貨の山を眺め、簡単に答える。
「ここに置いていくわけにもいきませんから入れるしかないでしょうね」
本気でこれだけの量を大きいバッグに入れるつもり…?これ全部ってどれだけ時間がかかるの…。
「あ、それなら大丈夫」
アレンはそう言うとプラチナ色にキラリと光るカードを取り出した。
「じゃーん、プラチナカード~!テレテテッテテー!」
軽快な音を口で言いながら謎のカードを取り出したアレンは、サードの言う三割分の所に歩いていってカードをかざした。
するとそのカードからは縦に長い光がビッと出て、アレンは財宝を指さし、
「こっからそっちまで登録」
というとカードからの光がアレンの指さした範囲を横にビーッと動いていく。
するとその光に照らされたところの金銀財宝が次々と消えていって、財宝の数々が部屋の隅まできれいさっぱり消えて無くなっしまった。
「それは?」
ガウリスが聞くとアレンは自慢げにカードをガウリスに向ける。
「これ?前にリアンが言ってたアルゲンタリアだよ、登録した場所と場所から入金と引き出しが自由にできるってあれ。この前作ったんだ、それも見ろこれを!一番ランクの高いプラチナカード作ったぜ!」
「あっ、それ私も使ってますう。私もプラチナカードですう。じゃん!」
ヒズもアレンと同じプラチナカードを取り出し見せると、
「イエー、おそろーい」
「おそろいですう」
とアレンとヒズがハイタッチしてはしゃいでいる。
「そのプラチナカードってそんなにいいの?」
私が聞くとアレンは振り向き、
「プラチナカードめっちゃいいぜ。光をお金に当てたらそれが俺らの金だって登録されて、そのまま何かしらの魔法で別の場所に自動的に保管されんの。ついでに家族とか仲間内でもお金共有できるって言うから、あとで皆の財布でも取り出せるように設定しようぜ」
「そのプラチナカードとやらは仲間内のみで金銭が共有できるのだけが特典ですか?」
サードは、一番ランクが高いわりに全く魅力的じゃねえな、という言葉を丁寧な言葉に直しながら言うとアレンは首を横に振る。
「プラチナカード会員は入会費が高めで一年ごとの年会費もあるし身元確認も厳しいけど、お金の盗難からは完璧に守ってもらえるし何かあれば全額補償してくれるんだ。
あとこれを出すだけであらゆる施設と宿泊場で最上級の客として優遇されて、店によっては値引きしてもらえるし、人の紹介が無いと入れない場所とか、会員制で部外者は入れない飲食店とお店にもこれ一枚で大体入ることができんだぜ。平たく言えばお金持ちのセレブ気分が味わえるカード」
お金持ちのセレブ気分の所でモディリーはフッ、とおかしそうに吹きだし、マイレージは興味深そうにシゲシゲとアレンの持つプラチナカードを眺める。
「そんなカード一枚で金の持ち運びがなくなるのは便利だよな。時代も進んでんだなぁ…」
確かにそうよね、硬貨が百枚あればかなりの重さになるもの。
銅貨で支払いしようとしても「おつり出せないから別の所行って」って言われる時もあるから、銅貨以下の細かいコインもかなり持ち歩きしないといけないし。
今は大きいバッグがあるから財布の重さからは解放されているけど昔は大変だったわ。
そんなことを思ってしみじみしているとアレンがコロッと会話を変えた。
「そういえばサードと冒険始めた子供のころ『ちょっとそこでジャンプしてみろよ』って大人の冒険者に絡まれたよなぁ」
アレンの言葉がおかしくて聞き返す。
「何それ、何の遊び?」
するとアレンはアハハ、と笑った。
「いや遊びじゃなくてカツアゲ!小銭持ってるか確認して奪ってくやつ!」
冒険に出たばかりのサードとアレン
男A&B
「ちょっとそこでジャンプしてみろよ」(ニヤニヤ)
アレン
「(うひー、カツアゲだ、こえー)」
サード
「ジャンプすればいいんですか?分かりました」(ヒュッ)
▼サードの攻撃!男Aの頭を掴み顔面へ膝蹴り、▼クリティカルヒット!
▼サードの連続攻撃!男Bの後頭部へ回し蹴り、▼クリティカルヒット!
▼戦いに勝利した!
▼サードはコイン十枚手に入れた!
サード
「チッ、シケてやがる…」
アレン
「(うひー、サード逆に金を強奪したぞ、こえー)」




