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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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これからの話…よりも財宝

ルミエールの人生の全てを聞き終えて、私たちは放心したような気持ちで聞き終わった。


だって偉大な初代皇帝だと思われていたルミエールの実際の姿は口先で人を丸め込んで成り行きで皇帝になったような人だったんだもの。


ルミエールは後悔しているような懺悔しているような…そんな顔で長々とため息をつく。


でもそんな姿をみていると何とも言えない感情が湧いてきた。だってそうじゃない?ルミエールは自分のことを口先だけ、ペテン師、無能って言っているけれど、本当は血を見る争いごとが心底嫌いなだけって気がするもの。


私だって痛い思いをしたくないし、そんな争いごとで死にたくもない。

それでも強制的に人を殺すはめになって、そして悲しみ殺される家族を見てその罪悪感から悪夢を見始めたのだとしたら…本当はきっと優しい人に違いないから。


「…私はあなたが動いたからこの大帝国ができて、部族同士の争いはなくなったんだって思う」


私が口を開くとルミエールがチラとこちらを向く。


「あなたの後ろに部族が続いてきた時、途中で一人逃げる隙なんていくらでもあったと思うわ。それでも逃げないで皆の先頭に立って動いていたから、…あなたを信頼したから、皆が後ろに続いてきたんじゃないの?」


サードもペテン師紛いのことを何度もしているけど、それでもその軽く嘘をつく口先の後ろには最後まで物事をやり遂げる力がある。


もしサードが「俺がうまくやるから任せろ」と言うばっかりで何もしない性格だったら私だってとっくに見限ってる。サードのことを心底嫌っていた時でもサードならきっとどうにかするはずって心のどこかでは思っていたし、そんな所は信用してた。


だとしたらルミエールの後ろに続いた皆も私と同じ気持ちだったんじゃないの?


ルミエールは必死に隠していたのかもしれない、でも有能だという配下の人たちは薄っすらでも勘付いていたんじゃないかしら。


ルミエールは口先で人を丸め込んでいくのが得意なだけの人だって。


それでも私がサードに感じていたようにこの人だったらきっとどうにかしてくれるはずと思って、ルミエールに足りない所を自分たちがカバーし支えていこうとその後ろについて行ったんだとしたら…?


実際はどうなのか分からない。それでも…。


「あなたは配下の皆を有能だと思っていたんでしょ?そんな有能な人全員がペテン師の後ろを無心についていったとでも思っているの?」


「それでも最終的に私は神から助けられず魔族に騙される結果で終わった」


ルミエールは私の言葉を切り捨て、自分が抱える王冠をジッと見て、そして私たちをチラと見てきた。


「…で、お前たちは一体何を考えている。この王冠を渡し次期皇帝に据えたい者でもいるのか?」


サードは微笑みながら答えた。


「ひとまず王冠は誰かを皇帝にするためではなく、リベラリスム大帝国を滅亡させるために使用しようと考えています」


ルミエールは目を見開いて口をつぐんだ。


「滅ぼすのにどうして王冠が必要なんだ」


「この大帝国はもはや復興も存続も難しい。そこで必要になるのがその王冠なのです」


「…」


ルミエールは長いひげごとあごをしばらくさすり続け、その間に少しずつ点と点が繋がっていくような顔つきになって口を開いた。


「となればもうお前は決めているのか。大帝国滅亡後、新たに興す国の皇帝に誰を立たせるのかを」


その言葉にサードは目を丸くする。


「どうして私の考えが分かったのです」


「何となくな。私ならその王冠を高々と掲げ、ルミエールの怒りだの天使の裁きだの、さも最もらしい適当な理由をつけて人々を震え上がらせ国を破綻させる。すると周囲の国々は土地を求め我先に自分の物にしようとするであろうから、すぐさまその王冠を譲る皇帝候補を派手に登場させる。

私が存命で天使から賜った王冠が現存していた頃は周囲の国々も我が大帝国に手を出しづらい雰囲気であったから、その王冠を手にした者が現れたとなれば周囲の国々も大帝国民も一斉に注目する」


ルミエールはそこで一旦区切り、言葉を続ける。


「その注目の中で『私は新たな国を作る』と皇帝候補に宣言させるのだ。しかしリベラリスム大帝国は破綻したのだから、滅んだ国の亡者同等の者の宣言など周囲の国にとって何も意味はないものだろう。だが大帝国民にとっては意味のある宣言だ」


ルミエールはそこでサードを真っすぐ見る。


「少なからず慣れ親しんだ土地が土地の奪い合いにより戦場となり、他国の統治下へ変わることに不安を覚える者も一定数いるはず。そこに初代皇帝の王冠を手に入れた者が現れたとなれば我々と土地を守ってくれる者が現れたと最大限の希望を持って一時迎え入れる。そこで皇帝候補が民衆の先頭に立ち…。

ま、その先は周囲の国と争うか、私のように口先で丸め込むか、はたまた無能で失敗するかは分からない。だがお前は皇帝候補を押し出し新たな国を治めさせようとしているのだろう?その手始めとして広大過ぎて隅々まで管理しにくい土地を一時滅亡という形で解放しようとしている。

離れる者は離れればよい、ついてくる者はついてくるがよい、そのように新たな建国に意欲ある人民を、その程度の意欲があれば治められるぐらいの国土を確保するために。…まあ、その考えがそうそう上手くいくとは思えんが、上手く行かなかった時はまたその時だ」


「…」


サードは感心したような顔つきでルミエールを見ていて、そして微笑んだ。


「これは驚きました、私との短い会話だけで私の考えを正確に読み解くとは」


サードは驚いたって言うけど私も驚いた。

だってあのサードが嫌味もなくこんな手放しで褒めるなんてこと滅多にない。


…ん?


だとすればルミエールってサードと同じくらい頭が回るってことじゃ?

だったらルミエールについて行った人たちは、部族同士の争いが続くこの地域をそのトリッキーな考えでどうにかしてくれるかもって期待していたのかしら。私たちがサードに感じるような、とんでもないことをするけどその部分が頼もしい、みたいな…。


するとガウリスがハッとした顔で、


「と言うことはサードさんが押し出そうとしている皇帝候補は、もしやリアンさんですか?」


サードは頷きながら振り向いて、


「あの方はデザイナーとして服職業に携わっていますが、いくら人気とはいえこんな戦いが起きている所での服飾の仕事などたかが知れているでしょう。戦いが起きる中でまず求めるのは生活に必要な食事や日用品などで、普段着ならまだしも身を着飾るファッションなどは二の次でしょうから」


するとアレンもサードに合わせるように続ける。


「そういえば俺がここから離れたほうが儲かるぜって言ってもあんまりいい顔しなかったよな。それってもしかしてこの国の人見捨てて自分だけ逃げる感じで後ろめたかったのかな」


「さあて、それはどうだか分かりません。ですがデザイナーとして過ごしにくいこの大帝国に留まり続けているのは事実。それにリアンが皇太子であることも事実。そして皇帝の座を狙い争うバーソロミューとオビドの二人はそもそも人間でもなく偽物なのですから、当然次期皇帝はリアンしかいないでしょう」


「待て、皇太子の二人が人間でもなく偽物とはどういうことだ」


サードの言葉にルミエールが口を挟むと、ガウリスはこんな事情があって…ってルミエールに説明をしていると、モディリーがあれこれ考えているような顔で腕を組む。


「じゃあこっから引き返してそのリアンってのを連れてきて…そんでどっかで派手にリアンがルミエールの王冠を持ってまーすって大っぴらに宣伝するってこと?」


「まぁ大雑把に言えばそのようなものですね。しかしその前に…」


ガウリスから説明を聞き続けているルミエールをチラと見ながらサードは続ける。


「ここに隠されている財宝を確認してからにしましょうか」


…こいつどこまでも財宝にこだわるわね…強欲な奴。


「つってもなぁ、ここからどうやって財宝のある場所にいけばいいのやら…」


カンカン帽ごしに頭をガシガシかくモディリーに私は振り返った。


「え?モディリーは財宝のある場所まで行ったんでしょ?」


「行ったけど…こんな場所来てないもん」


ハタと気が付く。思えばこの部屋、出口がないんだわ。


「ルミエール、この部屋の出入口ってどこにあるの?この部屋の出入り口見つけられなくて…」


ルミエールは口を引き結び、首を横に振る。


「地下墳墓の構造は分からん」


「…」


私はバッとサードとモディリーを交互に見る。


「モディリーのそのお宝発見器にどこかに行けとか、そういうの書いてない?」


サードはモディリーのお宝発見器をジッと見て、


「読み取れる単語から見てこの部屋の脱出のことは一切書いていませんね」


「じゃあここからどうやって…。あ、そうよ、マイレージとかが壁を殴れば脱出できるわよね」


マイレージをみると、マイレージの顔がヒュッとリビウスに変わった。


「大丈夫、俺分かる」


「え?」


ドヤ顔のリビウスは自慢するように自分に親指を向け、鼻息も荒くふんぞり返る。


「俺分かる!」


「…」


返答に困っていると、自慢げなリビウスの顔がヒュッとマイレージに変わった。


「任せといていいと思うぜ?リビウスはガキの頃から大量にダンジョン歩き続けてきたせいか、ダンジョンの最深部までのルートだの隠しルートだの脱出ルートだのほとんど直感で当てんだよ。野生の勘ってやつだな」


そのマイレージの顔がヒュッとナディムに変わって、


「それに建物の地下で壁を破壊し続けたら崩壊する危険があるからマイレージの出番は最後の最後にとどめたほうが良いと思うよ、行けるところまではリビウスに任せよう」


「俺すごい!」


ナディムを押しのけるようにヒュッと表に出たリビウスはわきゃわきゃと騒ぎながらジャンプし続けた。


なるほど。それじゃあ、と私はリビウスに声をかける。


「ここからの脱出ルートがどこか分かるのね?」


「多分あっち、あっちな気がする」


リビウスを先頭にあっちという方向に皆でゾロゾロと移動していく。ベルーノ戦でのナディムの電流の魔法で砂と人骨は大量に消え失せて、残りはマイレージの拳圧で部屋の隅にほとんど吹き飛ばされたから床が見えて歩きやすい。


ゾロゾロ歩いてたどり着いた先は例の魔法陣の真下。


「ここだと思う」


リビウスは指さすけど、どう見てもそこにあるのは壁だけで出口らしきものは見えない。


「どこに…」


「えいえいえいえいえい!」


リビウスはドカドカと少しずつ色の違うブロック状の壁を殴ると、その部分が順番にベコベコとくぼんでガチンッと音がする。そのままゴゴゴゴ…と石と石がこすり合う音が響いて目の前の壁が左右に少しずつ開いていく。


「こういう場所ってこういうの多い、俺分かる」


「…なぁ、リビウス。今のってもしかして、順番通りに押さないとトラップ発動するやつだったとかじゃないよな?」


アレンの言葉にリビウスは首を傾げた。


「えー、知らなーい。いっつも適当に殴ったら開くもん」


するとヒュッとリビウスの顔がマイレージに変わって、


「リビウスの野生の勘すげーよな」


と頷いているけど…それって野生の勘で片付くの?

リビウスが本気出したら他人のスマホとかパソコンのロックパスワードやIDを一発で当てて解除するハッカーになれるでしょうね。


海外映画でよくある重要施設のロック番号も瞬殺で突破ですよ。でも騒がしいから侵入する前にすぐ見つかって銃で撃たれて、でも傷すぐ治るから強行突破する。

そんで重要犯罪人として厳重に牢屋に入れられても脱出経路を野生の勘でかぎ取ってすぐ脱獄して、銃で撃たれて、でも傷すぐ治るからそのまま100m走5秒のスピードで逃走する。最強かこいつ。

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