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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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リベラリスム大帝国初代皇帝ルミエール

ベルーノが今までかけた魔法を解除すると、寝ていた皆が一斉に目を覚まして、ヒズは、


「皆さんよかったですう、無事でよかったですう」


と、私の目には見えないマイレージたちに駆け寄っていってる。


起き上がったガウリスはキョロキョロして、立っている私に聞いてきた。


「一体…何が…」


「ベルーノの言葉の魔法で皆が眠りについていたのよ。でもサードのおかげでベルーノも私たちと一緒について来てくれることになったわ」


そうなのですか、と頷く横でモディリーが、


「へえ。俺らが見てない所でどんな戦いが繰り広げられたのさ、教えてよ」


と気になるように聞いてくる。


「それが…サードがセップクっていうのしようとして」


「何それ?」


「お腹に…」


説明しようとすると表向きの顔をしたサードが割り込んできた。


「腹を割って話したのです。やはり心から出た言葉は相手に通じるものですねえ。ベルーノさんも私の心からの言葉に随分染み入った模様で…」


「なーんだ、じゃあ力じゃなくて言葉でどうにかしたのか、ルミエールみたいなことして」


ちょっとモディリーはつまらなそうだけれど、実際サードはベルーノの優しい性格を利用して、自分の命を使って脅したのよね。

ベルーノが止めもせず、やめろと言わなければサードのお腹にクナイが深々と刺さっていたというのに…。今更ながらに怖いことしたものだわ、本当。


「…」


するとまだナムタルの体に入っているベルーノがスッと手の平を上にして伸ばしてくる。ん?と見ていると、ヒズが隣を通り過ぎ…あ、違う、ナディムがベルーノに近寄り、何かを渡す。


それは紙とペン。


ベルーノは紙にサラサラと文字を綴ってこっちに見せてくる。


『このナムタルの処遇はどうする』


サードはそのメモを見て、


「まぁ倒すのが妥当でしょう。害にしかならない存在ですし、魔族の手下となっているのならばなおさらです。モディリーさんの命も脅かされていますからね」


モディリーはうんうん頷いた。


「そうそう。倒してくんなきゃ俺が困る」


「ではベルーノさんが体から抜けたと同時に私が聖剣で倒しましょうか」


さっくり話はまとまったけれど、ヒズが「あのお…」と手を上げて、皆の視線がヒズに集中する。


「でもこのナムタルさんってどう見ても大帝国の皆さんが探しても見つけられなかった初代皇帝のルミエールさんですよねえ?長い間行方不明でこうやって見つけられたのに、倒しちゃうのは可哀想な気がしますう」


それでも皆その言葉には微妙な顔をして、うーん、とばかりに首をかしげるやら腕を組むやら曖昧(あいまい)な笑みを浮かべるやら…。


「だからって…魔族の力も合わさって普通のナムタルより凶悪になっているんだもの、倒さないとこれから先もっと被害が出るわ。ねえ」


皆に同意を求めると、それはそうだ、とこの場にいる全員頷いている。でもふとサードを見ると頷いていなくて、もっと別の表情を浮かべていた。


その顔は何度も見てきている。それは…こいつは何かに使えるかもしれないって考えている顔…。


「…サード、あなた何考えてるの?」


声をかけるとサードはルミエールの中に入ったままのベルーノに声をかける。


「ベルーノ、あなたの魔法でこのルミエールにかかっている魔族からの使役に関する術を全て解除することはできますか?」


ベルーノは文字を綴りサードにメモを見せる。


『可能だが何を考えている』


微妙に警戒しているベルーノの質問にサードは答える。


「この大帝国の今後のことでルミエールに協力してもらいたいのです」


『悪事に使おうとしているのか』


「何を言っているのです、勇者の私がそのようなことをするわけがないでしょう」


ベルーノは眉をひそめサードをしばらく眺めていたけれど、頷かない限り話が進まないと感じたのか頷いた。


「ではまずその体からヒズの体へ移動していただきましょう。恐らくそのナムタルの体から抜け出たらヒズの体に入り込むことができます、そしてすぐに魔族からの術を解除するように言ってください。魔族からかけられた術を解除すればより凶悪になっているこの性質も消えるはずですから」


するとヒズの顔がヒュッとリビウスに変わった。


「ベルーノ!ベルーノこっち、こっち来て!ヒズの体に入ったらこんな感じで動けるからこっち来て!」


おいでおいでとリビウスが手で招くけど、ベルーノはすぐ移動しないで、躊躇しているような雰囲気のままジッとしている。


するとリビウスの顔がヒュッとマイレージに変わった。


「おいおいベルーノさんよお、てめえまさか『ボク恥ずかしくて女の子になんて近寄れないよお』とか考えてんじゃねえだろうなぁ?」


変にクネクネしながら馬鹿にする口調のマイレージに、イラッとしたベルーノが文字を綴る。


『違う』


「じゃあ来てみろよ、ほーれほれほれ」


おちょくりながら腕を広げるマイレージを、ベルーノがものすごーく嫌そうな顔で見ている。

するとマイレージの顔がヒュッとヒズに変わった。


「別に私気にしないですよお」


するとヒズの顔はすぐさまヒュッとマイレージに戻ってベルーノを指さし、


「いや~。こいつ女に対して潔癖症みてえなもん患っててよお。昔っから女が近くにいると変に意識して…」


ベルーノは紙にガリガリと文字を素早く書いてマイレージに向けた。


『いちゝ昔をほじくり返し()はなくともよい』


マイレージはケケケケと笑って指を突きつける。


「いやぁ~、だが歴史書で見たぜぇ?女に対してあんなに潔癖だったベルーノさんがまさか結婚しただなんてな~。口説き文句も筆談でしたのかよ、ええコラァ」


ベルーノがすごく嫌そうな冷ややかな目でマイレージを見ている。


マイレージはパーティの仲間じゃなかったらベルーノとは話もしないタイプだって前に言っていたけど、ナディムの言う通り何だかんだ気に入っている感じね。

気に入っているっていうよりおちょくって遊んでる感が強いけど。


でも放って置いたらいつまでもこんな話が続いて話が進みそうにないから二人の間に入って、ベルーノに話しかける。


「とにかく、いつまでもこんな墓地にいたくもないし、早く終わらせましょう?」


その言葉にベルーノも気を取り直したみたいで、頷く。サードはそれを見て私たちに声をかけた。


「我々は少し離れましょう」


サードの言葉に私たちはルミエールの体から距離を取ると、ベルーノの顔がスッと抜けた。


ベルーノが抜けたナムタルの口からは魂が抜けていくかのようにたなびく緑色のモヤが、ゆらゆらと昇っていっている。


そしてナムタルから抜けたベルーノはあっという間にヒズに吸い込まれたようで、すぐさまヒュッとベルーノ落ち着いた顔になるとナムタルに向かって声をかけた。


「ナムタル…いや、ルミエール。君が受けている魔族からの使役に関する術などの全ては解除される」


その言葉と共にルミエールの体からフォンッと風が抜け、体から立ち昇る緑色のモヤ、体の緑色も一瞬にしてかき消えた。


「…ん?」


呆けた顔や目もしっかりしたものに戻ったルミエールは、キョロキョロと辺りを見渡して周りにいる私たちを見ると「おわっ」と飛びのいた。


「な、なんだお前たちは…ここは…」


「エディンム地下墳墓です」


サードの言葉にルミエールは「エディンム地下墳墓…?」と繰り返し、段々と何かを思い出すような顔つきになって絶望していく。


「…まさか、あれは、夢ではなかったのか…!」


そこでハッとルミエールはベルーノを見た。でもその視線はベルーノ本人じゃなくてもう少し上を見ている。

つられてその視線の先をたどってみると、その先にあるのはリビウスが奪って頭に被ったままの王冠。


目を見開いたルミエールは慌ててベルーノに近寄り頭からガッと王冠を奪い取る。


「これは私のものだ!誰も使ってはならんのだ、他の者には渡さん、渡さんぞぉお!」


するとサードはスッと前に出た。


「初めましてリベラリスム大帝国初代皇帝ルミエール。私は今現在、勇者として活動しているサードと申します」


いきなりの自己紹介にルミエールは一瞬口ごもったけど、サードは返答なんて不必要とばかりに続ける。


「ではその王冠は私たちがいただきます」


「ちょ、いきなりすぎんだろ」


サードの言葉にモディリーが突っ込み、ルミエールの顔は引きつる。


「いいやダメだこれだけはダメだ絶対に誰にも渡さんこれだけは絶対にダメなんだ!」


ルミエールは懇願するような早口で王冠を腕に強く抱えジリジリと後退しサードから距離を取っていく。

その様子は肖像画に描かれている威厳ある皇帝っていうより、大事な物を奥さんに捨てられそうになっている旦那さんが「待って、これは、これだけは…!」って小脇に抱え少しずつ下がっていくおじさんって感じ。


「あなたが魔族に使役されてナムタルとなっている間に二百年の歳月が過ぎました」


ルミエールはサードの言葉に立ち止まる。


「あなたの興したリベラリスム大帝国は今現在さまざまな思惑が絡まり内戦が起きていて滅亡に向かっています。このような戦いがズルズルと続くよりならばいっそ全て終わらせたいのです。内戦も、この大帝国も全て」


「いやいやいや、初代皇帝に大帝国終わらせるとか言うのやめよ?」


アレンが突っ込んでいるけれど、それよりもルミエールは混乱しながら「二百年…?内戦…?滅亡…?」って呟いてグルグルと色んなことを考えているような顔つきになる。

それでも少しの時間をかけ頭の中でサードの言葉をかみ砕いて今現在大帝国がどうなっているのか納得したのか、失望の表情を浮かべ十秒以上の長い長いため息をついた。


「…どうやら、私の思った通り我が子らは無能揃いだったようだな。そしてその無能の血が脈々と子孫に受け継がれ、現在は跡目争いの内戦が起きて滅亡しかけていると…」


「なのでその王冠を使い全て終わらせたいのです」


サードが手を伸ばすとルミエールはさっきと同じようにサッと王冠を隠すよう腕に抱えるとにじり下がる。


それを見たサードはおかしそうに笑った。


「やはり天使から授けられた王冠は他の者に渡したくありませんか」


「…」


ルミエールは一瞬黙り込んだ。


でもその一瞬で情けないおじさんみたいな顔つきだったルミエールは、みるみるうちに肖像画に描かれていたような重々しい雰囲気になってサードに指を突きつける。


「それはそうだ、これは天から直々に私が授けられた王冠であるぞ。であるからしてこれは私のみが扱える物、他の者が使おうとしたところで何の加護もないのだ」


するとサードは腕を組んでおかしそうに言う。


「おかしいですねえ。先ほどあなたが王冠を奪い取った際に『誰も使ってはならんのだ』と仰っていたではありませんか。誰も使ってはならない、それは裏を返せば誰でも使えると言っているも同然ではないですか?それに他の者に使えない代物であればそこまで必死になる必要もないでしょう」


「…」


サードの追いつめるような言葉にルミエールはもっともっと威厳のある顔つきになって眉間にしわを寄せると、言いにくそうに首を横にふる。


「私が生きている頃は誰にも言わなかったが、この王冠は私の命の代償で手に入れたものだ。そして私はこのようなことに…。きっとこの王冠を頭に載せた者は最終的にここに閉じ込められ魔族に使役されることになる、だから私は王冠を誰にも渡したくないのだ、被害者は私だけで十分…」


サードは指をヒズに向ける。


「先ほどからこちらの者が頭に王冠を被ってもどうにもなっていませんが」


「お前は分かっていない!」


ルミエールは大きく頭を横に振った。


「最初はそうなのだ、しかし長時間身につけていると体も精神も魔族に侵食され…」


「構いません、別に長時間手元に置く気もないのでそこは安心してください。さあ」


「…」


早く寄こせとばかりに手を差し出すサードに、ルミエールは眉間にしわを寄せたまま長いあごひげをなで、サードを見据えた。


「長時間手元に置く気もないのにどうしてそこまでして王冠を欲しがる?人を操るためか?」


「そんな効果など要らないんですよ」


「…」


肩透かしを喰らったように黙るルミエールにサードは続ける。


「ただその王冠がありさえすればどうだっていいんです、この大帝国の象徴さえあれば。そこに天の加護だの魔族に侵食されるだの人を操る能力だの要らないんです。ですからその王冠をお譲りください、さあ」


「…」


ルミエールは厳しい表情で黙り続ける。でも次第にその顔がおかしそうに崩れてきて、ニヤニヤしはじめた。


「いやはや、この私を何度も口ごもらせ黙らせるとは大した奴だ」


「偉大な皇帝にお褒め頂くなど恐悦至極ですね」


皮肉とも取れる言葉にサードはソツなく返す。ルミエールは「こいつ…」みたいな顔をしたけれど、それでも確認するようにサードに聞いた。


「お前は本当に、この王冠の能力は必要ないのだな?」


「ええ」


その言葉に嘘はないと思ったのか、ルミエールから少しずつ威厳のある皇帝の顔が消えていって、ただのおじさんみたいに笑う。


「ならこの王冠を譲る代わりに約束してもらう」


「約束?どのような」


「お前は勇者とはいえこの大帝国とは関係のない者だろう。この王冠をどう使うのかは知らんが、その目論見にこれを使った後は直ちに火にでもくべて燃やし、この世から抹消するのだ」


「分かりまし…」


「ちょー!ちょっと待って!」


私は慌てて二人の話に割り込んでいく。


「だってそれ、この国の象徴なのよ?それを燃やしてこの世から消すなんて…」


「まず私の話を聞いてくれ」


ルミエールが押しとどめるように言うから、私はとりあず黙っておく。するとルミエールはサードを指さした。


「よーく聞け。私が今この男にあれこれ言ったのは全て嘘だ」


「…ウソ?」


私が呟くとルミエールは王冠をクルクル両手の指で回しながら頷く。


「嘘だ、ぜーんぶ嘘。そもそもこの王冠にまつわる話からして全部嘘。これは私が二日かけて作り上げたものだ。見てみい、こことここの王冠の枠の幅は見るからに不揃いだろう?であるからして私は天使なんぞに会ってない、声も聞いたこともない、そんなだからこの王冠に人を説得できる能力も何もない。ぜーんぶ嘘だ嘘。私がでっち上げたホラ話」


その言葉には全員が目を丸くして、モディリーが勢いのまま問い詰めていく。


「でもその王冠かぶったら皆ルミエールの言葉に従ったっていうじゃねえか、じゃあどうやってあんたはこの大帝国をまとめたっていうんだよ」


「私がどのような者だったと現在に伝わっているのかは分からんがな、私は子供のころから剣の腕はからっきしだった。だが誰よりも口先を動かし人を惑わし騙すのは大得意だったんだ。私の嘘には大人たちもよく騙され丸め込まれ、お前は将来どんなペテン師になるものやらと親にも呆れられるほど舌先と口先だけで調子よく生きてきた」


ルミエールはそこで少し言葉を止めて、


「もう少し私の昔話をしてもいいか」


と聞いてくるから、私たちはお互い視線を合わせ、頷いた。

エリー

「ん?この地域って人間じゃない存在は全部精霊って言うのに、何でルミエールには天使が王冠を授けたってことになっているの?」


アレン

「帝国って基本色んな国の言語と宗教と文化が入り混じってまとまった国の総称みたいなもんだから、この地域では良い精霊って言っててもルミエールが生まれた辺りでは天使って言ってたんじゃね?初期のリベラリスム大帝国めちゃくちゃ広いから国の端と端でもかなり文化も思想も違ったと思うし」


サード

「単に作者が大幅書き直しして設定が変になっただけだろ…」(ボソッ)


作者

「帝国外にも意味が広く通じるようにあえて天使表記にした設定が一番つじつま合うから、それでよろしく…」(ボソッ)

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