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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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死体捨て場

「ぎゃー!」


「うひゃひゃ、たーのしー!」


「皆さん大丈夫ですか!」


皆がめいめい叫びながらエディンム地下墳墓内の石畳の上をゴロゴロ転がったり着地している音が聞こえるけれど、体重の軽さのせいか私は皆よりもどこまでも吹っ飛んでいて、ようやく床の石畳にドッと打ち付けられゴロゴロと転がって…ガクッと体が斜めに傾いていく。


「えっ」


暗闇だから何にも見えない。でも…転がった先に段差があって、その段差から落ちるような感覚が…。


「やべえ、そっち高え段差あるぞ!下まで数十メートルありそうな…!」


先に入って建物の内部が分かっているモディリーはそう叫ぶけど、そのときにはもう私は落下を始めていた。


あ…どうしよ、私魔法使えないのにそんな高さから落下したら…!


「エリー!」


暗闇の中サードの叫ぶ声が聞こえて、ものすごい風圧が迫って来て腕を掴まれた。

状況的にサードがすごいスピードで走って来て腕を掴んだと分かる、でもサードも段差から大いに身を乗り出したせいかそのままガクッと落下を始めて、私たち二人はそのまま落ちていく。


「エリーーー!サードーーーー!」


アレンの悲鳴の絶叫がみるみるうちに遠くなる、そして私は…意識が飛んだ。


* * *


「おい、おい」


ほっぺをペチペチと叩かれる感覚がして私はハッと目が覚めた。真っ暗すぎて周りは何も見えない。


「私たち…」


「無事だ」


暗闇の近くからサードの声がする。


「…着地、したの?二人で落ちて?」


「ああ」


いくらいい装備をしているからって私一人抱えて着地とか…どう考えてもサードは無事じゃ済んでないんじゃ?


「体大丈夫?どこか骨折れてない?」


「大丈夫だ」


簡潔に答えてすぐにサードはどこかおかしそうに鼻で笑い、


「ま、聖剣を壁に突き立てて止まろうとしたんだが、切れ味が良すぎてスピードが全く緩まなくてな。流石に骨盤から下がダメになると肝が冷えたぜ」


「…それで?」


「下まで落下したら床に魔法陣があってそのまま吸い込まれた。で、こんな所にたどり着いた」


「たどり着いたって…ここどこ?さっきの入口の所じゃないの?」


「知らねえ。だがあのクソうるせえアレンとリビウスの声が聞こえねえってことはかなり離れた所にいるんじゃねえの?」


「じゃあ転移のトラップってことね?」


そう言っててふと気づく。


元々はただの墓地だった場所に転移のトラップ?それっておかしくない?


「多分何者かの手が入ってんな、さっきのサリーって魔族…いや、大元のメーギュスト伯とやらか何かやったのか…?」


「じゃあこの地下墳墓、魔族のダンジョンってこと?」


「いいやそれは無え。ここでメーギュストがラスボスとして君臨してんなら姪に様子を見に行けって言うのはおかしい」


そっか…と納得していると、サードが声をかけてきた。


「とりあえず松明出せ、暗すぎてろくに周りが見えねえ」


「あ、うん…」


夜目の利くサードでも見づらいくらい真っ暗なのねと思いながら松明を用意しようと大きいバックに手を伸ばすけど、フッと思い出した。


「そういえばナディムからカーテンっていう名前の新しい黒魔術を教わったの、中級レベルの火をだせるもので…」


「中級レベルの火?どれくらいの威力がある」


中級と聞いてサードも何かしら期待しているような声付きになった。そこで私はナディムが言ったようなことをまず告げる。


「火だけど透明で熱くもないし、暗い時には明かりにちょうどいいらしいわ」


「…あ?それのどこが中級なんだよ」


「でもその火に当たったら見えない炎にずっとまかれて、体が燃え落ちていくのを見続けることしかできないんですって。それが術者の私でも。だから人に当たらないように注意しないといけないって言われた」


「…。っそ」


暗くてよく見えないけど、それだったら中級レベルかと何となく納得したような雰囲気になってる。

多分ナディムから説明を受けていた私も、今のサードみたいに期待値が上がってガッカリして、最終的に「ああそれなら中級か」って納得していたんだわ。


ともかく使ってみよう。それに松明に火をつけて持ち運ぶ必要がなくなるのは嬉しいし助かる。

いつもこういう暗い中を歩く時には私が片手に杖、片手に松明を持って歩いていたんだもの。武器を使う皆に松明を持たせられないし。松明を掲げて歩くの地味にキツいし面倒くさかったのよね。


ナディムに言われた通り心の中で『カーテン』と唱えてサブマジェネシスを使う感覚で…私たちが当たらない程度の高さに現れるよう魔法を発動する。


すると視線を向けている先の上空にホワッと人の頭ぐらいの揺らめくモヤみたいなものが現れ、周囲が明るくなった。


透明な火ってどんなものかしらと思ったけど、暑い時に見える熱気とか陽炎みたいにモヤモヤと揺らめている感じね。ここが暗い場所で炎自体が明るいるから今はよく見えるけど、太陽が照っている所だったらろくに目に見えないかも。


そこで視線を下にずらした瞬間、ギョッとして叫んで飛び跳ねてサードにしがみついた。


「ギャーーーー!」


床一面に広がっているのは、すねまで溜まった砂と、その砂から飛び出し、あちこちで盛り上がっているおびただしい数の人骨…!


あばばばば、と脅えているとサードは辺りを見渡して、


「墓地だから死体があるのは普通だろ。だがこれくらい骨が風化して砂埃で埋まってるってことはかなりの年月を放置されてるのは間違いねえな」


こんなの見てよくそんな冷静に現状を把握できるものよねえ…!?


なるべく下を見ないように上を見ていると、カーテンの明かりに照らされ、壁の高い位置にゴチャゴチャとした壁画みたいな線があるのが見えた。でもそれは壁画じゃなくて巨大な魔法陣だとすぐ気づく。


「…あれって何の魔法陣かしら」


「転移の魔法陣じゃねえの」


驚きサードに聞く。


「サード見ただけで何の効果のある魔法陣か分かるの?」


まさかここまで魔法のことが分かるなんて…と思っているとサードは首を横に振り、


「分かんねえよ。ここに来るまでに何回も見てきた魔法陣と同じ模様してんだ、だとすりゃ同じ効果のあるもんだろ」


「ここに来るまでに何回も…?」


サードは魔法陣を指さし、


「ここにたどり着くまで何度かあんなでけえ魔法陣に吸い込まれて移動して来たんだ。最初お前と落下した時で一度目、そこからたどり着いた先の地面にあった魔法陣を踏んだ時で二度目、同じくその次にたどり着いた先の魔法陣で三度目、そうやって壁から放り出されてたどり着いた先がここだ」


「…でもなんで、地下墳墓にそんな魔法陣が…」


サードは魔法陣を見上げ、足元に広がる人骨を見下ろし、呟く。


「…死体…」


「え?」


「もしかすれば死体を魔法陣に乗せたらあとは行くべきところに連続で移送される仕組みなんじゃねえの?ここに来るまでは避けようがねえ床に巨大な魔法陣があったが、この部屋は壁にだけ魔法陣がある。ということは死体は魔法陣を伝って運ばれ壁から放り出され、最後は…」


サードは壁にある魔法陣から足元に指を動かす。


「こうやって骨の山の一部になる」


「…じゃあ私たち、最終的に遺体がたどり着く場所まで来ちゃったってこと…?」


ゾゾゾゾと背筋が凍るけど、サードはそんな私の顔を見ておかしそうに鼻らを鳴らし笑う。でもすぐさま顔を引き締めて上を見あげた。


「脅えてるお前を見て笑ってる場合じゃねえな、ここが最終的な死体の到着場所だとすりゃあ、あの転移の魔法陣は一方通行で戻ることは不可能だろうし」


頷きつつ…私は今更あることに気づいて顔がサッと青ざめる。


「ねえ、ここってナムタルがいるのに、ナムタルを追い払う呪文知ってるガウリスと離れちゃった…!」


キョロキョロ首を動かして警戒するけれど、サードはどこ吹く風。


「大丈夫だろ」


「どうして大丈夫って言えるのよ…!」


傭兵たちの死に様を見ていないからかサードは凄く余裕そうにしているわね。

でもいつどこからあの手が出てくるか分かったものじゃないからあちこちを見回す。


キョロキョロしているとサードはバッグから白いハンカチみたいなものを取り出して私にズイッと見せつけてきた。


見てみるとそれはトマス神父にもらった、白い布に三つの赤い点がついている神のお守り…。

それもサードのは点が一つ消えている。


「ここのナムタルには魔族が関わってる。つまり俺らは今魔族に関する災いから守られてる。ってことはもしかして俺らの存在は感知できねえんじゃねえの?傭兵どもは入口に入った程度で死んだっつー話なのにこんなに時間がたっても何も起きねえんだったら」


そう言われて私も大きいバックから神のお守りを取り出してみると、三つあった赤い点が一つ消えてる…。


「ほんとだ」


「だがこれもいつまで持つか分かんねえ、早く脱出ルート探すぞ」


サードが歩き始めたから私もついていく。


人骨はできれば踏みたくないけど、それでも足の踏み場もないくらいだからどうやったってぶつかってしまうし踏んでしまう。

ペキパキカラカラと軽い音を立てて崩れていく音に身をすくめ、心の中で「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けるけれど、サードは何の関係もなく人骨を蹴とばし破壊つつ進んでいく。


こいつ…と呆れながらも、ここから抜け出す場所がないか探るサードの後ろ姿をしばらく眺めていたら段々と冷静になってきて…ボソッと呟いた。


「…サードってさ」


「あん?」


こっちを見ない喧嘩腰の口調に少し沈黙してしまったけど、勇気を出して続けた。


「もしもよ、もしも私が一生魔法が使えなくなって、髪の毛も普通の金髪になっちゃったら…用無しだって私をパーティから外す?」


サードからの返事はない。それでも返ってきたのは呆れているような軽いため息。


「そんなもしもの話は興味ねえ」


「きっと切り捨てるんでしょ、さっさとパーティから追い出すんでしょ」


今までもそうなったら私はすぐさま切り捨てられるかもって考えてた。長く一緒に行動した仲間であれ、効率と結果重視で考えるサードはすぐに見切りをつけるに違いないって。


するとサードは面倒くさそうな雰囲気で聞き返してくる。


「逆に聞くが、お前魔法が使えなくなった状態で魔族と戦う旅に同行する気あんのか?」


「質問に質問で返さないでよ、どうなのよ」


「…」


本格的に面倒くさそうにサードが黙り込んでしまった。


…でもこの無言って、そういうことよね。魔法が使えない、純金も生み出せないただの女なんてパーティから外すってことよね…。


「…もしそうなったら」


落ち込んでいるとサードが何か言いだしたから顔を上げた。


「今まで会ってきた魔族と精霊と神の全員に聞いて回ってやるよ。元々てめえは魔法が強い家系の出で魔族と神の血も交じってんだ、魔法が使えなくなるとすれば今回みてえに原因があるはず。その原因さえ見つけて対処しちまえば元通り魔法も使えるようになる」


「…純金になる髪は?なくていいの?」


「あればあるほどいいに決まってんだろ。だが昔ほど懐には困ってねえ、ラーダリア湖に宝石の蓄えも十分にあることだしな」


その言葉に少しずつ心が軽くなってきて、最終確認みたいに聞いてみる。


「それって私が魔法が使えなくなっても純金の髪がなくなっても捨てないってこと?」


そこでようやくサードが振り返った。


「お前さっきからどうした?そんな捨てないで捨てないでって男にすがりつく面倒くせえ性格だったか?」


「だってずっと前から思っていたんだもの。魔法と純金になる髪がなくなったら私は用無しだってサードに切り捨てられるかもって…」


「馬鹿か?」


鼻で(あざけ)るように笑われてそこで会話が止まる。


それでも…ホッとした。


捨てるって即答されなかったこと、原因を見つけてやるって言ってくれたこと、魔法が使えなくなっても純金になる髪がなくても仲間として一緒にいてくれるって言ってくれたこと…。


「…良かった」


「そんな下らねえこと考えてねえで目の前に集中しろよ」


「ふふ」


嬉しい気持ちと、うるさいという気持ちを込めて後ろからサードの背中を軽くボカッと殴る。サードは「…何だよ」と文句を言いながらもそれ以上何も言わず黙り込んだ。

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いい関係性です泣
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