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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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全員集合!…からの珍客

「けどさぁ、こいつらのやってきたのは良いことじゃないけど、それでも数十年二人で頑張ってきたんだぜ?そのフィナーレかっさらうのどうかなぁって俺は思うんだけど」


国を滅亡させるの言葉にモディリーが口を挟んでくるけれど、そんなことより国を滅亡させようとしていることに突っ込みなさいよ、勇者が国を滅亡させる発言してんだから。


それでもサードはフム、と少し考える素振りをして、


「それならばバーソロミューとオビドのお二方には皇太子の役割を全うしていただいたうえで退いてもらう、というのはいかがでしょう?」


「いや俺らとしては別にどうだっていいけどよ…」


「やり方が変わっても最終的に滅亡させられるのであれば余たちは構わん。で、その方法はどうするのだ?」


「まず私たちは先に財宝の確保へ向かいます、お互いこの町でやるべきことをそれなりに済ませてから退却なさってください。詳細は追ってお伝えしたいのですが…何かしらの連絡手段などはありますか?」


「そんな人間みてえに連絡手段なんてとれねえよ」


「だがまあ、同じ町にいるのであれば立ちあうことは可能であろう。余もこやつも元の姿であればあちこち自由に動けるからな」


「ではそれで」


サードは頷き私たちに振り向き、


「呪文も分かりましたし早急にエディンム地下墳墓へ向かいましょう。出来ることならアンデッドモンスターの動きが活発になる夜になる前に全て終わらせたい」


「でも…ヒズたちとアレンが居ないわ」


ヒズたちは人を助けたり外に逃がすために動いているのは分かる、でも朝に拠点で別れて以降アレンとは一切会っていないもの。外ではオビドの傭兵たちが略奪していっているから襲われていないか心配だわ。


まぁアレンの逃げ足は速いから危険があれば即座に逃げるとは思うけど。


「そうですね…アレンはともかくヒズたちは戦力的に欲しい所ですね」


「ちょっと待ってよ、アレンも欲しいでしょ」


すぐさま突っ込むとサードは少し面倒くさそうな顔をして、


「アレンはアンデッドを異常に恐れるではないですか、それなら置いて行かれたほうが本人もホッとするのでは?」


「だからってこんな戦いの中心になっている場所でアレンだけ放置しようとするのおかしいでしょ」


サードは実に面倒くさそうな表情をしながらバーソロミューとオビドに視線を向け、


「それではアレンとヒズという者を見かけたらエディンム地下墳墓へ向かうよう伝えていただけますか?その二人の見た目の特徴は…」


…サードは二人に探させようとしているわね?でも二人は各軍のトップとして色々動かないといけないんだから、そういうの頼んだって引き受けてくれるわけ…。


「うむ任せておけ。見かけ次第伝えておこう」


「ま、見かけたらの話だけどな」


ええ、まさかこんな状況で普通すぐ快諾してくれる?この人たち性格良過ぎない?

それとも最初の印象がものすごくガラが悪いとか、ものすごく無能すぎるとかだったからその分余計良い人に感じるだけ?


* * *


バーソロミューとオビドと別れた私たちはエディンム地下墳墓までたどり着く。


「…これがモディリーの殺した傭兵たちですか」


モディリーが殺した傭兵たちは朝のまま転がっている。

できれば死体なんて見たくないけどウチサザイ国ではもっと酷い死体をあちこちで見てきたから、まぁそれなりに落ち着いた状態で私は指を向けた。


「あそこに転がっている二人がナムタルに殺された人たちよ」


「…ちなみにナムタルの姿は見たのですか?」


「うーんと…赤い衣を着ていたわ。仕立てが良さそうな赤い布。皮膚の色は藻が張って淀んでいる沼みたいな緑色で、それと同じ緑色のモヤがモワモワと漂ってた」


サードは頷き、私をジッとみてくる。


「ところでエリー」


「ん?」


「あなたは今魔法がろくに使えないのでしょう、本当にエディンム地下墳墓に行きますか?」


「えっ…行くけど、どうして?だってナムタル除けの呪文も分かったし、それをガウリスが唱えたら安全なんでしょ?」


「とはいえこの中にいるのがナムタルだけかは分かりません」


「まあ…それはそうかもしれないけど」


「もしナムタルと対峙している時に他のモンスターが襲ってきたとしたら、あなたを守れるかどうか分かりません。エリーも自分の身を守ることもできないでしょう、それでも中に入りますか?」


何を言っているんだろうとキョトンとしたけど、ピンときた。そしてショックを受けた。


だってサードの言いたいことってあれでしょ?魔法が使えない私についてこられても邪魔ってことでしょ?


今まで心のどこかで薄々考えていたことがついに現実になった。魔法が使えなくなった私はこうやってサードにあっさり切り捨てられる。


「…魔法が使えない私は、用無しなのね」


呟くとガウリスは首を横に振り肩に手を置いた。


「違いますよエリーさん、中は危ないので外で待っていて欲しいとサードさんは言いたいのですよ」


そんな優しい言葉に言い直さなくてもサードの言いたいことはそれよ、魔法が使えねえお前は足手まといだからここに置いていくってことよ。


恨みがましい目でサードをキッと見ると、サードはどこかイラッとした表情で、


「何ですかその顔は。アンデッドに対抗できるのはガウリス一人なんですよ、ガウリスが他のアンデッドに集中している時に別のアンデッドに襲われたとしたらエリーは自分で自分の身を守れるのですか?」


「…」


私は頬を膨らませてフイッとそっぽ向いた。


「どうせ魔法が使えなかったら私は役立たずよ」


「そんなこと言ってないでしょう」


「言ってるも同じでしょ」


「言ってません」


「言ってるわよ」


「ガウリスが言った通り危ないからここで待っていてくださいと言ってるんです」


「本当は足手まといだからついてくるなって言いたいくせに」


「そのようなことは思ってません」


モディリーから見えない位置だからサードの顔がものすごくイライラしてきている。面倒くせえ女だって言いたげなのが明け透けに伝わってくる。


「あっはっはっはっ」


急に響いてきたモディリーの軽い笑い声に、私とサードが同時に黙り込んでモディリーを振り返った。


「おっと」


モディリーは口を押えたけどそれでもプクク、と笑って、


「いやごめんごめん、これから財宝探しでアンデッドの居る場所に乗り込むってえのに痴話喧嘩が始まるからおかしくてさ」


「…は?誰と誰が痴話喧嘩してるって?」


喧嘩売ってるのとばかりのドス声でモディリーを睨むとモディリーは「あっはっはっはっ」とひとしきり笑ってから顔を少し引き締める。


「でも本当サードの言う通り外で待ってたほうがいいと思うぜ?魔導士が魔法使えないんじゃ戦力にならねえうえに足手まといなのは本当のことだろ」


「でも…でも…」


そんなことしたら本格的にサードに切り捨てられそうでオロオロしていると、モディリーはキリッとサードとガウリスを見て、


「ついでに俺も陰からひっそり殺す派で正面切って戦うタイプじゃないから地上に残る。ほら魔法使えないエリーを野蛮な男どもが争う地上に一人残すのダメだろ、だから俺もここに残るし」


「…」


モディリー…あなたは単純に地下墳墓に入りたくないから私をダシにしているだけよね?


そりゃあ確かに私が行っても足手まといになるだけかもしれない。でも…やっぱり置いて行かれるのは凄く落ち込む…。


「おーい」


聞こえてきた声に頭を上げる。この声は…。


「アレン!」


振り返るけど、ここにくるまでの道にアレンが見当たらない。


あれ?


キョロキョロしていると、上からダンッと何かが降って来て「ギャッ」と思わず飛び上がった。ついでにモディリーも一緒に「ギャッ」と飛び上がった。


見るとヒズ…じゃない、マイレージがアレンを肩に担いでいて、アレンをそのままポイと放り捨てる。そのマイレージの顔はヒュッとリビウスに変わると、ワキャワキャと話し始めた。


「あのな、あのな、俺らこっちに来てな、あっち行けって、あ、違う、来る前にアレンが囲まれててそんで俺行ってマイレージがビューンてしてこっちってなって」


「すみませんが翻訳をお願いします」


サードの言葉にヒュッとリビウスからナディムに変わる。


「大体の人を町の外に避難させた。そうしたら見ず知らずの者がエディンム地下墳墓へ行くよう声をかけてきて、ここに向かう途中でアレンが傭兵に囲まれていたからリビウスとマイレージで素早く担いでここまできたんだ」


そう、結構早くにバーソロミューかオビドのどっちかがヒズたちに行き合ったようね。


ナディムからの話に納得したサードは簡潔に私の現状をアレンに伝える。


「エリーはオビドの傭兵に薬を盛られて夜まで魔法が使えなくなっています」


「えっ。それ大丈夫なの?エリー体平気?」


アレンがそう言いながら私に近寄ってくるから頷いた。


「うん、大丈夫」


そこでサードはアレンに指示を出す。


「ですのでアレンはここでエリーと待っていてください、何か危険があればすぐさまこの場を離れても構いません」


「分かった、エリーは任せろ!」


良い笑顔でアレンが私の肩を抱くと、モディリーも私の隣にスッと立って、


「それじゃあ俺もアレンと一緒にエリーを守るということで…」


モディリーの言葉にサードは首を横に振る。


「財宝の在処(ありか)が分かる者がどうして地上に残ろうとするのです、案内して貰わなくては困りますからあなたにはついて来ていただきます」


「ええ…行かないとダメぇ…?」


「ダメですね」


モディリーは肩を落としているけれど、私も肩を落としている。


どうであれ魔法が使えない足手まといってことで、私は地上に残されることで決定しているみたいだから。


ため息をつくと、スウ…と近くに何かが現れた。横目で見てみるとそこにいるのはイルル…。


「イルル!?」


驚いて声を出すと皆がイルルに注目した。私はイルルに駆け寄り、


「どうして昨日から呼びかけていたのに反応してくれなかったのよ、何かあったんじゃないかって心配もしたんだから」


軽く怒るとイルルはヘコヘコしながら、


「誠にすいやせん。しかしちょっと複雑なことが起きちやいやして…」


「複雑って…何が?」


エディンム地下墳墓のアンデッドモンスターの名前を調べてっていうものからどんな複雑なことが起きたのよ。


するとイルルは説明を始める。


「まずエディンム地下墳墓にはナムタルという悪霊…エリーお嬢様たちの言う所のアンデッドモンスターがおりやす」


それは知っているとばかりに頷くとイルルは続ける。


「そのナムタルは操られておりやすな」


「操られてるって、ゾンビみたいに?」


「ゾ、ゾンビ…?」


ゾンビの言葉でアレンが私の服をキュッと掴む。それを無視するサードは私より前に出てイルルに質問をした。


「ではその操る者を倒せばナムタルは消滅するのですね。その操る者が何者でどこにいるのかは分かりますか?」


イルルは腕を組んで、ニヤケながらも、ものすごーく困ったように肩をすくめる。


「それが…複雑な話になっていやして…」


サードはまどろっこしそうにイルルを詰める。


「何がいいたいのです、ハッキリと言ってくれませんか」


イルルはニヤケ顔のまま少し口をつぐむと、その後ろで黒っぽい煙がズズズ…と現れ動いたと思ったら、どんどんと人の形へと変化していく。


そして現れたのは…ほんわかと微笑んでいる優しいお姉さんみたいな大人の女性。

アップにされた黒髪、アンティークドールが身に着けていそうな白いフリルが目立つ若草色のお散歩用ドレス、レースの手袋に肩に羽織るショール、頭に乗っている小さめの飾りみたいな帽子…。


「わぁ…素敵なドレスですう~!」


ヒズは目を輝かせピョンコピョンコ飛び跳ねると、優しそうな女性は頬に手を当て、


「あらありがと。嬉しいわ、私もこの服お気に入りなの」


と鈴を転がすような声で本当に嬉しそうに返す。


それでもイルルは腕を組んだまま何とも浮かない顔でその女性を手で指し示した。


「この方は…あっしの元雇用主でございやして…」


元雇用主…。っていうことは、もしかして、その優しいお姉さんみたいなその人は…魔族…?


警戒する私たちとは対照的に、女の人は微笑みながらいそいそと一歩前に出てチョイとスカートをつまみ上げる。


「ご紹介が遅れまして。私はメーギュスト伯の姪、サリー・メルハナ・モンドールと申します」


メーギュスト()!?伯って、伯爵ってことよね?

魔界で貴族の地位があるってことは力があるってこと、それなら伯爵の姪であってもきっと力は強いはず…!


貴族だと知った私たちは余計警戒するけど、それでもサリーは私たちの様子なんて気にしないように続ける。


「その地下墳墓はメーギュスト叔父様が管理しているの。それで動きが活発になっているから様子を見てきて欲しいって頼まれて叔父様の代わりに来たのよ」


するとサードはサリーを警戒しながら口を開いた。


「ということはつまり、あなたの叔父がナムタルを使役し、ナムタルは地下墳墓に入る人の命を奪い、奪われた命は叔父へと献上される…そのようなシステムになっているのですか、この地下墳墓は」


「そうよ。でも私たちはそんな存在だって分かってるでしょ?人の魂を奪うなんてザラにすることよ」


サリーはそのまま笑顔でイルルの背中をドン☆と両手で押す。


「ね、イルル。昔も私の下で働いたんだから今も私のために働いてくれるわよね?私良い雇用主だったもの、お願い、この冒険者たち倒しちゃって?今日はお気に入りの服で来たから戦いたくないの、私」


「…いや…あっしは…」


イルルが口ごもると、サリーは茶目っ気たっぷりな雰囲気でイルルの隣にツツツ…と並んで微笑みあげる。


「私を敵に回す気?別にそれでもいいけど、あなた私に勝てないのよ?」


まるで次のお休みにどこかに出かけましょうみたいな微笑みと声色で脅しているサリーに、イルルは身を固め黙ってしまっている。

でも意を決したようにサリーに視線を向け、冷や汗を流し手もみをしながらヘコヘコと頭を下げた。


「実はあっしはそちらのエリーお嬢様の使い魔として魔界から呼ばれやして…今のあっしの雇用主はそちらのエリーお嬢様でございやす、申し訳ございやせんがサリー様のお力になることはちょっとできやせんで…」


サリーは「まあ」と目を大きくして口を指先で押さえる。


「あら、あらあらあら、イルル、あなた使い魔として人間界に呼ばれるくらい弱い魔族だったの?あらー可哀想~」


サリーはそう言うと私たちに手の平を向けてきた。


「じゃあイルルの代わりにあの子たち全員殺してあげる、そうすればあなたは自由の身よ」


その言葉と共に見えない圧にグンッと押された私たちは一気に吹き飛ばされた。


「エリーお嬢様…!」


「は~い、イルルはここにいるの~」


そんな入口の外の声もあっという間に遠くなって、私たちはエディンム地下墳墓の暗闇の中へあっという間に飲み込まれた。

傭兵たちと仲良くなったアレン


アレン

「そっかぁ、傭兵の皆ずっと家族連れの移動続きで大変だったんだなぁ。皆まとめて雇ってくれる所で腰落ち着けられたらいいのにな」(しみじみ)


傭兵

「まぁなぁ。だが強すぎて怖いからって迫害するような奴には仕えたくねえし…」


リビウス

「アレンみーーーーっけ!」(超スピードで走って来てアレンにドーンッとタックル)


アレン

「ギャーーーー!」


マイレージ

「っしゃ、エディンム地下墳墓に行くぞ!」(担いで全力ダッシュ)


傭兵たち

「何だっ!?あの女すげー速ぇぞ!?」

「つーかあの小さい体で百九十センチぐらいの男軽々担いでいったぞ!?」

「一体何者!?」

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