汚い大人の世界
最初はルールも知らないサードだったけど、やり方をアレンに説明されるとあっという間に覚え、あとは縦横無尽に場を荒らしまわった。
「さあ、次いきましょうか」
爽やかな顔でコインをベットしながらディーラーを促し、キッチリとした服装のディーラーは微笑みながらもかすかに眉と口元をヒクつかせサードを見ている。
最初は勇者がやって来たと嬉しそうだったものだけど、今の表情は「もういい加減にしてくれ」と言いたげな、迷惑そうな感じ。
周りに集まっている人たちも大盛り上がりで、我先にコインをベットしていく。
私たちはカジノに居る。
サードはカジノのフロアに入ると真っ先にサイコロを使ったゲームに吸い寄せられていき、延々とサイコロを振り続けてはオモチャみたいなカラフルな色合いのコインをどんどん山のように積み重ねていっている。
でも本当は私とガウリスは全く来る気なんてなかった。
でも今日のお昼にサードと一緒に廊下を歩いていたらカジノの取締役だという人が声をかけてきて、
「よければ一度遊びに来てください。勇者御一行が来ていただけたならお客様もお喜びになります」
と言われ、私は行かないと言う前にサードはさっさと返した。
「では今夜にでも四人でお邪魔させていただきましょう」
「そうですか!ならばお酒も良い物を取り揃えてお待ちしております」
って拒否しづらい状況になってしまったのよね…。
今の今までサードがカジノに行くように横からごちゃごちゃ言うのを無視し続けてきたというのに…。
そんなわけで今夜カジノに行くことになってしまったと渋い顔でガウリスとアレンに伝えると、アレンは、
「やったー、イエーイ」
と両手をあげて喜んだ。
…昨日甲板で強くなるって真面目な話をしていたのはどこの誰なのよと、ちょっとイラッとした。
まぁともかくそんなこんなでカジノの居るわけだけど…。
「エリーは賭けないのですか?」
サードに声をかけられて、コインを一枚取ってベットする。
「一枚?ずいぶんと遠慮なさいますね」
サードはそんなこと言ってくるけど、それ意訳すると「ケチくせえ賭け方しやがって」ってことでしょ。
「俺も俺も」
コインをベットするアレンを、隣のガウリスは微妙な表情でお酒を飲みながら事の成り行きを見守っている。
ガウリスはコインに一度もそれに手をつけていないわ。むしろ部屋に帰りたいと言いたげなその顔…。
サードは二個のダイスを掴んでコロコロと手の上でもてあそぶように振り回すと、ヒュッと投げ飛ばす。
「おお!」
「イエー!」
上を向いた数字をみた周りの人たちは大盛り上がりで歓喜の叫びをあげて、女の人たちは今がチャンスとばかりにサードに抱きついていく。
うわぁうるさい。海賊のガシマシよりうるさくないけど。
またコインが増える中、サード爽やかに微笑み、
「さあ、次ですね」
と促すと「行けー!」「勇者様頑張って〜!」と人々は熱狂的に思い思いの叫びをあげて盛り上がっている。
アレンも「サード頼んだぞ!」と楽しそうに身を乗り出してコインをベットする…。
そんな熱気から押されるように、私は後ろに少し身を倒した。
…楽しくないわけじゃないけど、今一つこの遊びのルールが分からない。
アレンの説明だと二つのサイコロの足した数字でゲームに勝つか負けるか続行するかっていう遊びみたいだけど、何でサードだけがサイコロを振っているのに周りの人もこんなに盛り上がっているの?
ディーラーの人も迷惑そうだし、帰ってくれって言えばいいのに。そうすれば私だって帰れるんだから。
「少し飲み物貰ってくるわ」
高い椅子から身をよじって降りる。
「こんなに早く部屋に戻るなど無粋な真似はなさらないでくださいね」
サードが即座に釘を刺してきた。
ここ数日サードの近くから頻繁に行方をくらませてきたせいか、サードは私の動きにかなり敏感になっている。私としてはサードと女の人が二人の世界みたいになるのを確認した所で立ち去っていただけだけど。
今日なんてトイレに行こうとしただけで「どこに行くつもりです?」と聞いてきて鬱陶しいったら…。
そこでチラとガウリスを見ると、ガウリスは自分のコインをスススとアレンの手元にずらし、アレンはそれに気づかないままベットしている光景が見えた。
私もウンザリしているけど、ガウリスもウンザリしてるわね。
「ガウリスも飲み物もらいにいかない?」
誘ってみたら、どこかホッとした表情で立ち上がってついてきた。
「…何か疲れるわ」
グチっぽく言うとガウリスも「同感です」と頷く。
私たちは端にあるカウンターへ向かってバーテンダーに飲み物を注文した。
私は甘いカクテル、ガウリスはさっきと同じお酒。
「それって強いお酒?」
「分かりませんが、カクテルより強いと思いますよ」
「神官ってお酒は飲んでもいいの?」
「そうですね、お酒の神様もいらっしゃることですし」
思えばドラゴン姿で初めて会った時も、お腹が空いていたのと喉が渇いていたので酒樽を次々と一気飲みして空にしていたわね。
「ガウリスってお酒好きなの?」
「あれば飲みます。なければ飲みません」
そりゃそうよ。
突っこめばいいのかどうなのか分からないからとりあえずカクテルを一口ふくむと、サードたちのいる場所からワアッと歓声が上がる。
盛り上がってて楽しそうね。でも私はあそこまで盛り上がるほど楽しくもないから戻る気にならない。
あーあ、このままサードたちが飽きるまでゆっくりお酒でも飲んでいようかしら。…でもあんな盛り上がりじゃいつ飽きるかも分かんないわ。
そういえば今何時?
辺りをキョロキョロ見回すけど、時計が一切見当たらない。時間なんて気にしないで遊んでねってこと?まさか二十四時間体制だとか?そんなわけないわよね?
朝になってもカジノのフロアから出られないのかしらと顔を強ばらせていると後ろから声が聞こえてきた。
「おや、こんな場所でずいぶんとつまらなそうな顔をしていますな」
顔を上げると、声をかけてきたのはヤッジャ。
服装はいつもの白い軍服じゃなくてカジノの場にふさわしい黒いスーツ姿で、いつもと同じようにカチッと立っている。
ほんの少し身構えた。
だって具合が良くなったサードは毎日一回私たちにこんな念押しをしてくるもの。
「ヤッジャには気をつけろ。あいつは食わせ者だぞ。海賊を倒すのにヤッジャたち軍部に協力したなんて事は一切会話でも匂わせるな。俺たちはただその場にいただけ、海賊を倒したのはドラゴン。誰に何を聞かれてもとにかくそれだけ言い続けろ」
ヤッジャには私たちの立場を利用された。サードほどじゃないけど、それでも利用された事実と毎日のように気をつけろと言われ続けているせいでつい警戒してしまう。
「カジノはつまらんですか?」
ヤッジャは隣に並び飲み物を注文する。
「サードとアレンは楽しんでいるけど、私たちには合わないみたい」
強引に連れてこられたようなものだからしょうがないわ。それにしてもお金を賭けるような遊びによくあんなに熱中できるものよね。
「ヤッジャさんも遊びに来たのですか?」
ガウリスが問いかけると、ヤッジャは受け取ったお酒を飲みながら首を横に振った。
「夜の見回りですよ。夜で賭け事に酒とくれば、もめ事が多いですから。…まあ、船長の仕事ではないので気晴らしと言ってもいいかもしれません」
カチッとした姿勢を崩さずにヤッジャはガウリスを見る。
「そういえば前に着ていた服はどうなさったのですか?随分とゆったりした服になりましたが」
「海賊相手に戦ってる最中に破れてしまいました」
ガウリスがドラゴンに変身したことは内緒にする。
これはパーティ内で一致した意見。
だからドラゴンがいなかったかとお客さん、副船長、ヤッジャにいくら質問されても、あまりに海賊が騒ぐから海の底から出てきたんだろうってことで通し続けている。
「上へ報告しなければならないので、私が居なくなってから海賊やドラゴンがどのような動きをしたのかもっと詳し教えていただけませんか」
と聞くヤッジャにサードはのらくらと、自分たちは何もしていない、いざ戦闘という時に海の底から現れたと思われるドラゴンが急激に暴れだして、自分たちもドラゴンから自身や船を守るのに精一杯だった、海賊たちはドラゴンの雷で倒されたと主張し続けた…。
「んん、美味い。このために生きてる」
酒を飲み干したヤッジャと目が合って、思わず目線を逸らしてしまう。
「カクテルは美味しいですかな?」
「ええ、もちろん」
しどろもどろに返すとヤッジャはフムー、と鼻から息を漏らし、フルフルと頭を振った。
「そんなに警戒しないでいただきたい。これでも客船の船長でもあるのだから、乗客に警戒されると傷つきます」
「警戒なんて…」
ヤッジャの顔を見ると、肩の力が抜けていてニカッと笑っていた。
「していないと言えますか?」
「…」
見透かされているわ、これ…。
チラとガウリスの顔を見ると、ガウリスは伝えた。
「それはそうです、あなたは勇者御一行の立場を利用して自らの保身をしたのですから。当然でしょう」
ヤッジャはガウリスの言葉に軽く頷きながら、もう一杯お酒のお代わりをする。
「いかに効率よく海賊討伐に向かえるかを考えた結果です。この船に勇者御一行が乗っている、海賊に遭遇しても勇者御一行がいるなら安全だ。乗客にそう思わせて安心させなければ非難轟轟で今回のような強行突破などできませんよ」
この人、私たちを利用したのをあっさり認めたわ。それも悪びれる雰囲気も一切ないし、それが一番だったみたいな言い方で…!
「そういう風に名前を使われたくないのよ、私たちは」
棘々しい口調で非難がましく言うと、ヤッジャは軽く笑う。船乗りみたいな快活な笑い方じゃなくて、悪役に似合いそうな含み笑いで。
「何をおっしゃいますやら、勇者御一行なんてブランド品と同じですよ」
そう言われて顔を動かすとヤッジャと目が合った。その黒い目はどこまでも黒くて、吸い込まれそうなほど。
「ブランド品は見せびらかして使わなければ価値なんてありません。見せびらかして使うからこそ周りから憧れの目で見られ、そして所持している者の価値をも高めるのです。私の今の言葉の意味がお分かりですか?国は勇者御一行のことをブランド品として扱いたいのですよ。
勇者御一行を手に入れ自国の価値を高めたい、そして周囲に見せびらかして使用し周りから憧れの目で見られたい。そして…民衆から絶大な人気を誇る勇者御一行を使って民衆をいいように操りたい」
次々にヤッジャから出てくる言葉に思わず引いた。ヤッジャは私の反応を見て、笑いながら続ける。
「もし私が報告書に『勇者御一行の力をもって海賊討伐に成功し、海賊どもの身柄を拘束した』と上層部に報告したらどうなりますかな?私の国の王は喜ぶでしょう。どの国にも協力せず中立の立場を守っていたあの勇者御一行が自分の国のために力を貸したとなったら。
そうしたらすかさず勇者御一行が自分たちに協力したと触れ回すでしょう。そして諸外国は勇者御一行は私の国に協力したのだから親しいのだと認識する。こうなりゃ言ったもん勝ちです。あなた方の名を使えば隣国との様々な交渉事も随分と楽になるでしょうな。…ま、その上で他の国に行ったら我が国のスパイかと疑われ国の横断が難しくなる可能性もあるでしょうが」
ヤッジャの言葉を聞いて思わず息をのんだ。
だから…、だから今までサードは国の関係者とは関わるなって言っていて、今回も海賊討伐に国の軍に協力したようなことを匂わせるなってしつこいくらい言っていたんだわ。
私だって故郷のエルボ国の王家に純金になる髪を狙われていたし、お父様にもどこの王家を頼ってはいけないって言われてた。別に国の人たちと仲良くなる出来事もなかったからその言葉通りにしてきた。
でもサードは国と関わった中で一番最悪なパターンを考えたうえで口酸っぱく国の関係者と関わるなって言っていたんだわ。
どうしよう、このままヤッジャに都合のいいように国に報告されてしまったら…!
ヤッジャの顔を見た。
ヤッジャはいつも通りの顔をしているけど、黙って睨みつけていると段々と傷ついたような顔になって眉尻が下がる。
「そんな軽蔑の表情で見んでください。娘に軽蔑されている気分になります」
ヤッジャは私から視線を逸らすと、喉を鳴らしながらお酒を一気飲みして、カウンターにコトリとコップを置いた。
「しかし誰がいくら聞いたって海の底から現れたらしいドラゴンが全てやったとしか言わないのですから、勇者御一行が完全に手を貸したなんて嘘の報告などできませんよ。
あの勇者様は物腰は柔らかいが頭の回転はずば抜けてよろしい。言葉一つで国とはきっちり一線を引いた付き合いを心がけている。…きっと外交官になったら言葉だけで数々の国を手に入れられるのでしょうなぁ」
でしょうね、サードの頭の回転の早さは悔しいけど私も認めている。
「しかしあなた方に伝えておかなければと思っていたんです。どれだけ自分たちの肩書に価値があるか、国はあなたたちを使ってどうしたいのか…。
サードさんはそれを全て理解していますが、エリーさんは世の中の思惑に無知すぎる。アレンさんは思惑に気づきながらも従順すぎる。ガウリスさんは基本的に人を信用している。要するに人が良すぎて心配になるのですよ、あなた方は」
どこか呆れた様な物言いでヤッジャは鼻から大きくフムー、と息を吐いた。
…何だかよくわからないけど、もしかして説教されてるの?今…。
するとガウリスはフッと微笑んで、ヤッジャの手を取って額に近づける。
「ご忠告感謝いたします。神の名のもとに、私はあなたを祝福します」
ヤッジャは苦笑いして、
「そういうところを忠告しておるのですがね、今私があなた方をいいように使いたいと言っていたのを聞いておられましたか?」
そう言っている間にもガウリスは手を離し、ヤッジャは小さく呟く。
「私のような悪人に祝福なんてくるものでしょうか」
「何を仰っているのです、あなたの立場でしたら都合の良い作り話を報告することは可能です。ですがわざわざ私たちにそのようなことはしないと言い、なおかつ国に良いように使われないか心配し忠告しました。それのどこが悪人のすることですか?」
ヤッジャはもっと苦笑いになって、カウンターに寄りかかって小さく笑った。
「いや、宗教家の言うことは最もらしく聞こえる。私のこの頭の中は小賢しい事ばかり考えていますよ。どうすれば効率がいいか、どうすれば乗客を手っ取り早く守れるか、どうすれば損害が少なく済むか、どうすれば自分の仕事の負担を減らせるか…。
そのようなことばかりいつも考えております。大悪党ではありません、小悪党の考えです。そのような小賢しいことを考え行動しているうちに船長という立場になったのです」
サードを中心に盛り上がっている場所にヤッジャは目を向けて、お酒をお代わりしてから飲む。
「あなた達を保身のために利用したのも小賢しい考えからですよ。乗客からの非難を自分に向けたくなかったんです、勇者御一行がこちらに協力したら我が国に引き込めると思ったんです。そうすれば自分や乗組員の地位も盤石なものになると。
…自分でも自分の考えが嫌になります。しかし私には妻や娘、両親がいます。乗組員とて私の家族です。私がヘマをしてクビになれば乗組員も散り散りになります。ここで自分の立場を危うくしたくはありません。守るものが多くなるたびにどんどんと小賢しくなり保身に走る自分がおります。もうどうしようもありませんな」
「…」
思わず黙ってヤッジャを見る。
昨日アレンは守るもののために力は必要だって言った。
でもヤッジャは守るものがすごく多いんだわ。自分、家族、乗組員、それと船に乗っている私たち乗客…。
ヤッジャは守るもののためにあの手この手を使って、とにかく全て守ろうとしていた…。
「どうか自分が小賢しいと思わないでください」
ガウリスが痛ましい表情をしながら口を開いた。
「小賢しい者は自分が小賢しいと思っていません。あなたは自分を過小評価しすぎなのですよ。本当に小賢しい人間がこのような一ヶ月も外から遮断された船の船長という立場になれますか」
「それがなれてしまったのですよ」
ヤッジャは笑うと懐から紙をぺらりと取り出した。どうやら奥さんと娘さんの二人並んだ絵姿みたい。
自然に見えるからその絵姿を見てみる。
奥さんと娘さんは私に似た金髪だって言っていたから少し気になっていたけど…。確かに金髪、でも二人とも髪の毛はふわふわウェーブしていて体もふっくらとしていて、金髪の色以外はあんまり私と似てない。
ただ、すごく優しそう。人を包み込むような雰囲気の人たちで、絵姿を見ただけで自然とこちらも笑顔になってしまうぐらいの優しい笑顔。
ヤッジャは家族の絵姿を恋しそうに眺めながら呟く。
「妻も娘も私とは違ってとても純粋なんです。…あんなに汚れの無い目で真っすぐ見られると自分の汚さが浮き立つような気がして潰れそうになる」
ヤッジャは絵姿を懐にしまって、私をチラと見てきた。
「私の娘はごく普通に育っています。あと数年もすればごく普通に結婚し、ごく普通に子供を産み、ごく普通に母親となるでしょう。
しかしあなた方は勇者御一行として旅を続けられる。人々から羨望、憧れ、好奇の入り混じった目にずっと晒され、権力者からはいいように使われそうになる。普通の者には耐えられん屈辱もあるでしょう。御一行は娘と近い年のせいか、無性に心配なのですよ」
「…」
もしかしてヤッジャは今、国に仕える軍人じゃなくて親の立場で私たちのことを心配をしているのかしら。
ヤッジャはサードの言う通り警戒しないといけない人なの?それともどんな手段を使ってでも全員を守ろうとする優しい人なの?
分からないけど…。私はヤッジャの目を真っすぐに見てはっきりと言いきった。
「大丈夫よ、私たちはそんなにヤワな神経はしていないわ。そんな周りの反応にいちいち巻き込まれるような人が魔族相手に戦ってるとでも思っていたの?」
ヤッジャは少し驚いた顔をしたけどすぐさま、はっはっはっはっ、と快活に笑って目じりを下げた。
「そうですな、周りの反応で弱るような神経のか細い者が魔族と戦うなんてできませんな」
そしてお酒を飲み干してコップをカウンターに置くと、カチッとした表情に戻る。
「では見回りの続きに戻ります」
何杯もお酒をお代わりしたのにヤッジャはキビキビとした足取りで立ち去って行って、その背中を見送ってから私とガウリスはお互いに目を合わせる。
何となくお互いにヤッジャは悪い人じゃないって思っているような気がする。こんな考えも人が良すぎるのかしら。
「…人には良い面も悪い面もあります」
ガウリスが口を開いた。
「あの方は非常に真面目で自分に厳しい方なのです。だからご自分の悪い面ばかり見つめて卑下しているのです。周りに認められたからこそ今の地位にあるというのに…心の中は孤独なのでしょう」
そうなのかしら。偉くて立派な地位に居る人でも、心の底から幸せってこともないのかしら。それも悪い人って思っていても心のどこかには良い人の面が隠れている…。
サードのいる場所を見つめた。
魔族じゃないかと疑うぐらい性根を持つサード。
でもガウリスがドラゴンから人間の姿に戻った時に言っていたわ。
『サードさんは見捨てずにここまで連れてきてくれました。サードさんは優しい方です』
戦争のどさくさに紛れてエルボ国から脱出し冒険者になった時のことを思い出す。
私はろくに歩けなくて、すぐに疲れたって座りこんで、帰りたいって泣き始めて、外で寝たくないって喚いて、虫一匹現れただけでそこから先に進めなくなるぐらいの役立たずだった。
でも三十分も歩けなかった私を面倒くさそうな顔をしてもサードは一度も見捨てようとしなかった。私が立ち上がって歩くのを辛抱強く待っていた。…悪態はついていたけれど、それでも。
「いい所…ね」
一緒に行動する人は途中で見捨てない所かな。
そんなこともあったなと思い出に浸りながら、私は盛り上がっている場所を見つつカクテルに口をつけた。
カジノから去った後
アレン
「サードがサイコロ振るといい目出るよなぁ!すげぇなぁ!」
サード
「出したい面を真上にしてから転がらねえように水平に放り投げんだよ」
アレン
「わぁ、イカサマだ!」




