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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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今、兄弟喧嘩の幕が上がる

聖堂に早足で向かう中、私は報告がてらサードに話しかけた。


「あのねエディンム地下墳墓前でオビドに遭ったって私言ったじゃない?でもそのオビドが変だったのよ」


「変?頭が?」


「違うくて。…いや違わないかもしれないけど、私の爪がオビドに剥されそうだった時、モディリーがオビドの頭に魔法で攻撃したの。確かに目の前でオビドの額から血が吹き出したのは見ていたし、私をさらおうとした他の男たちはその一撃で全員死んだのよ」


「…で?」


説明ばかりで中々本題に行かないと思ったのかサードが先を促す。


「その飛び出た血が煙みたいにたなびいたと思ったら、そのまま額に吸い込まれるように戻って、そのまま転移の魔法でオビドが消えていったのよ。他の人は同じ攻撃を受けて死んでいたのにオビドはピンピンしていたの」


そこで区切ってから私は続ける。


「バーソロミューが言うにはもしかしたら黒魔術かもしれないって言っていたわ。オビドは昔から魔族じゃないかと疑われるくらいの性格だから、あり得なくはないって」


するとモディリーは肩をすくめ小馬鹿にするように笑う。


「そんなんマジな話かも分かんねえぜえ?今時魔族に忠誠誓って黒魔術使う奴なんているかよ。オビドに押されてるの認めたくなくて、相手に魔族がついてるから勝てないんだ~って言い訳してるだけじゃないの、バーソロミューさんは」


サードは少し考えこむようにして首を横に振り、


「ウチサザイ国でも王家を含め黒魔術が横行していました。それを考えると完全にないとは言えませんね」


そこでモディリーはハッと小馬鹿にする表情を引っ込め、私たちを指さしてきた。


「そう言えばウチサザイ国の魔族ぶっ倒したのあんたらだっけ。そっか、だったらあり得なくないのか」


あっさり考えを翻しモディリーは頷いている。

これでもしカーミ、私、ナディムが黒魔術が使える・知識がいっぱいあるってことを知ったらどういう反応するのかしら…。やっぱりモディリーの前では黒魔術関係の話はしないほうがいいわね。


「あれが聖堂です」


サードの指さすほうに視線を向けると町の中心の大きい広場があって、まばらに聖なる存在をかたどったオブジェが設置されてある。


そしてその広場全体を見下ろすかのような大きい聖堂。


拠点に行くときにはこの広場は通らないで裏道を通っていたけど、居住区の向こうに聖堂らしい丸みを帯びた青い屋根と白っぽい壁は見えていた。けど近くで見てみると思ったより大きいし立派だわ。

言っちゃ悪いけどこんな小さな町にあるのが不思議なくらいの立派な造り。思えば私、この町にきてからここまで足をのばしたことなかったのね。


間近で見る聖堂に圧倒されて見上げているうちに、サードが聖堂の扉をギッと開けているのに気づいた私は慌ててその後ろに続いていく。


でもサードは中に入らず入口で立ち止まった。


「どしたの」


同じく私の後ろをついてきたモディリーが聞くとサードがドアの前から身をずらして中を見ろとばかりに首を動かす。


私とモディリーは中を覗き込んでみた。


「え」


中では…オビドとバーソロミューがお互いに怒鳴り合い、取っ組み合いをしそうになっていて、ガウリスが、


「おやめください、まずは暴力ではなく話し合いましょう、落ち着いて!」


と二人の間に入って引き離している…。


「ガウリス!どうしたの」


慌てて駆け寄ると全員が私に視線を向けて取っ組み合いが一時的に止まる。するとバーソロミューは私の姿を見ると激高(げっこう)しながらオビドを指さして、


「やはりこいつは魔族だ!魔族を崇拝し黒魔術を使っている異端者だ!」


と言っていてオビドは可愛い顔を歪ませ、


「んだゴラクソが!全部他人任せで無能のてめえに任せても国が終わるだけだろ、だから代わりにこの国を一から支配できるように色々走り回ってこの力を俺が手に入れてやったんだろうが、感謝しろよこのクソッタレが!」


オビドはバーソロミューを力まかせに何度も蹴っ飛ばし、バーソロミューはまるで女子みたいに手足をすぼませ「ひー!」と蹴られるがまま…。


「おやめください、暴力はいけません」


ガウリスが間に入りオビドを片手で抑え込むと、バーソロミューはサササッとガウリスの影に隠れた。


「…どのような状況ですか?」


サードが質問するとガウリスは困惑の顔で、


「あの…実はこの二人はこの国の皇太子で…」


「それは分かる」


私が説明を少し省けるように伝えるとガウリスは、


「私がこの聖堂の方と話をしている時にオビドさんがいらっしゃって、何かを教えろと問い詰めたところでバーソロミューさんが戦勝祈願を祈りに一人でいらっしゃって…喧嘩が始まったので止めていたところです」


するとバーソロミューは私たちのほうを向いて、


「こいつはエディンム地下墳墓の聖紋を寄こせと聖職者に迫っていたのだ、とんでもないことを…!」


「エディンム地下墳墓の聖紋?」


何それと聞き返すとオビドはフッと笑う。


「この町の端にあるエディンム地下墳墓にはナムタルっつー悪い精霊がいやがるんだ。その精霊が墳墓から出ないよう抑えるためにここの聖職者はここに赴任すると同時に聖紋を引き継ぐ。つまりその聖紋を手に入れたら…地下墳墓にいるナムタルを解き放ち俺の駒にできるってこった」


ザワッとした。


エディンム地下墳墓に入った末に人がどうなるかを私は見てきた。あんなのがこの町、この帝国全域に解き放たれたら…!


するとバーソロミューがガウリスの影からオビドに指を突きつけ怒鳴りつけた。


「貴様なんぞにそのようなものを渡してたまるか!大方自分の意に反する者を殺すために扱おうとでもしているのだろう!」


オビドは可愛い顔をゲスっぽくゆがめてニヤッと笑う。


「ったりめーだろ。まず殺すのはてめえだ、バーソロミュー。子供のころから俺はてめえが大っ嫌いだった」


「ヒッ…」


バーソロミューはサッとガウリスの影に隠れ、そのまま頭を抱えて膝をつく。


「…魔族だ…やはり魔族だこいつは…。こいつは子供のころから兄である余をいじめて…リアン…リアン…余を守ってくれるのはリアンしかいない…リアン…助けに来てくれ、昔みたいに余をオビドからかばって守ってくれ…!」


…思ってみれば、子供のころからこんな風にリアンはオビドからバーソロミューを守るための盾代わりにされていたのよね。

私だったら嫌だわ。自分を盾代わりにするバーソロミュー、爪を剥ぐことも厭わないオビドに挟まれる毎日なんて。そんなの耐えられない、逃げたくもなる…。


そこで私はハタと思った。


もしかしてそういうことじゃない?

こんな二人に挟まれたリアンはお城にいるのに嫌気がさした。だから言いがかりをつけられるよう女装を始めて、円満にお城から追い出されて自由を手に入れた…。


いやまさかね、と思っていると、オビドはナーバスになっているバーソロミューを見て呆れ果てた表情になると、腰に手を当てて訴えるように私たちを見てくる。


「見てみろよ、こいつはガキのころから末の弟に守ってもらってたんだぜ?なっさけねー男だろ?こんなのが皇帝になってみろよ、今度は帝国民に自分を守ってくれって泣いてすがりだすってもんだ」


するとバーソロミューは頭をガッと上げる。


「黙れ!貴様は自国の民に略奪を行っているではないか、貴様が皇帝になんぞなったら民から金も物も女も搾取し続けて国が終わるわ!」


「んだこのクソが!」


「余とて言われたままでは終わらんぞ!」


また取っ組み合いが始まりそうになってガウリスが間に入って二人を引き離す。


「さっきからこれの繰り返しでして…聖職者の方は私が先ほど逃がしました」


するとオビドはハッとした顔で、


「そうだ、あのクソから聖紋を奪い取らねえと…」


「させるか!」


バーソロミューは手につけていた白い手袋…じゃなく、剣の滑り止めのためにつけていた黒いグローブを外すと、オビドの顔に向かって力任せにバンッと投げつける。


「決闘だ…!」


顔にグローブを当てられたオビドは目を見開き、ブチ切れた顔でバーソロミューを見返す。


「…あ?」


威圧のある一言にバーソロミューはひるんだけど、ヤケッパチなのか顔を真っ赤にして怒鳴り返した。


「お前は倒さねばいけない悪だ!余はここで貴様と決闘を執り行う!」


オビドはそれを聞いてのけ反って大笑いする。


「てめえが俺に一度でも剣で勝てたかよ?ああ!?」


「それは子供の時の話、昔の余のままだと思うな!貴様はここで倒す!」


「おもしれえ。じゃあこの聖堂で決着付けようぜ、まあ勝つのはこの俺だろうがな!」


ゲラゲラ笑いながら舌を突き出すオビドに対してバーソロミューは、


「ほざけ!いつの世も滅ぶのは悪、勝つのは正義だと決まっている!」


そう言いながらバーソロミューはガウリスと私たちに視線を向けて、追い払うように手を動かす。


「お前たちは聖堂の外に出るがよい、この男は決闘であれ人質を取らんとも限らんからな!」


「だーれがするかそんなもん、そんなことしなくたって俺はてめえに勝てるぜ。じゃあ立会人を誰にするか…」


こちらを見渡すオビドにバーソロミューは大きく手を動かす。


「いいや余以外の皆は外に出るのだ、オビドは人質を取る気だ!」


「ハッ、んなことするかよ、どうであれ俺が勝者だ」


「良いから皆出て行くがよい!」


皆で顔を見合わせているとバーソロミューはガウリスの背中を押し、私たちにも外に出るよう扉の方へ追い立てるように向かわせる。


扉を閉める瞬間、ほんの少しバーソロミューはこの世とお別れみたいな寂し気な表情が浮べて、外に立っている私たちに微笑む。


「…きっと余は負ける。この扉から出ていくのはオビドであろう」


私は黙って見返す。バーソロミューは覚悟を決めたように顔を引き締めると、


「もしオビドがこの扉から出てきた時、今度はお前たちが危険に晒される。余が扉を閉めたらすぐさまこの町から逃げるがよい、少しの時間稼ぎはできよう」


そのままバーソロミューは扉をバンと閉じた。


「…!」


私は扉を開けようとする。それでも同時に中からかんぬきでガチンと閉められた音がして開かなくなった。


「助けないと!バーソロミューを!」


「つっても決闘に他人が手出すのってどうなの?」


モディリーはそんなことを言うけど…。


「こんなの決闘じゃないわ、ただの一方的な(なぶ)り殺しよ。バーソロミューは全体的に無能で皇帝になんかちっとも向いていないけど根っからの悪人じゃない、現にこうやって私たちを逃がそうとしてくれたんだもの、見殺しになんてできないわ!」


裏口なら開いているかもと走り出して、私は裏手に回った。


お願い…間に合って!


表とは違って質素な裏口の扉を見つけ、鉄輪のノブを引っ張ると簡単に開く。

聖職者たちの住居みたいなところを抜け、多分あっちが礼拝堂のはずと走っていって、二人を刺激しないよう、まずはそっとドアを開ける…。


「ん?」


そこで視界に映った異様な光景に思わず立ち止まってしまい、そのままその場所で中の様子を扉の隙間から伺い見る。


だってさっきまであんなに酷い剣幕で罵り合っていたというのに、オビドもバーソロミューも歯を見せるぐらいのとびっきりのいい笑顔をしていて、オビドなんかは腕を広げ、


「ほんっと久しぶりじゃねーか!こうやって会うのいつぶりだよ」


と顔を輝かせ言うとバーソロミューは、


「はて、三年は経ったか?互いに変わらずで何よりだ」


二人はお互いガッチリ強く握手をして、ガッチリ抱き合いながらお互いを称えるように背中を強めにバンバン叩いて、身を離したあとも「あっはっはっはっはっ」て再会を喜んでいるように握手をしたまま体をバシバシと叩き合っていたから…。

黒魔術は英語でブラックマジックだったので、そのまんまだなぁと少しガッカリしました。

そういや何かしらの黒魔術で「黒い鶏が産んだ卵を云々して、十字路の中心に埋めて云々…」というものがありました。やっぱり国が違っても十字路とか三叉路みたいな道が交差するところって何かしら術が使いやすいんだなって思いました。


そんでこの前YouTubeである動画見てて「おう…」と思ったんですが、中世ヨーロッパでは一般の人でも炎の呪文が使えたんだそうです。

それは人を指さし「ウィッチ(魔女だ)!」と唱えることで術が発動されるんです。恐ろしい呪文です。

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