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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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人助けよりも財宝優先

「たっだいまー!」


バーソロミューが引きずられながら去って少しすると、バーンッと勢いよくドアを開けリビウスが入ってきた。


「あのなあのな、今外歩いてたらな、鎧着たのが『女は俺がいただく!』って近寄って来てな、で、俺男だから男だーってそいつぶん殴ったらブーンって飛んでゴロゴロって…」


リビウスは勢いよく喋りながら近づいてくるけど、すぐさまヒュッとマイレージに変わる。


「つーかあちこちで兵士じゃねえ鎧着た野郎どもがこの町の食料に女漁ってんぜ、あれなんだ?今ん所そんな野郎共はリビウスが全部ぶん殴って沈めてきたが…」


じゃあやっぱりオビドの傭兵が随分とこの町に入って来て略奪をしているのね。


私はバーソロミューにも説明したのと同じことをマイレージたちに伝えた。オビドとその配下の傭兵たちがこの町に侵入していること。


「っはああ!?ってことはバーソロミューとオビドの戦いが始まるってことじゃねえか」


マイレージの言葉に頷いているとモディリーは、


「だから皆が戻ってきたらさっさとこの町を出ようって話してたんだけどさ…中々皆戻ってこないね…」


するとマイレージの顔がヒュッとナディムに変わる。


「それなら皆を待ってる猶予なんて無いと思うよ。町を出るなら早々に出たほうがいい」


私は首を横に振る。


「でも…」


「でも?」


少し悩んでから私が思っていることを伝える。戦いが起きるんだからどうにか町の人を逃がしたいけれど、その方法は思いつかないってこと、それに私は魔法が使えないから行動が制限されてるってこと…。


うつむきながら話し終えると、ナディムの顔がヒュッと笑顔のリビウスに切り替わる。


「じゃあ町の人助けるんだ?」


「…うん、本格的な戦いになる前に逃がしたいんだけど…」


すると、あっけらかんとリビウスは返した。


「じゃやってくる」


「え、どうやって?」


まさかリビウスが私の思いつかない方法を思いついているのかと驚いて顔を上げると、リビウスは腕をグルグル回す。


「一軒一軒家ん中入って、人がいないか探して声かけて外に逃げるように言う!ついでに嫌な奴いたらぶん殴る!」


「…でもそれ手間も時間もかかるじゃない」


するとリビウスはそんなこと言われて驚いたみたいに目を大きくして、


「え?黙ってるよりやったほうがいいと思ったんだけど何か違うの?俺言ってるの何か違うの?」


ハッとする。


その通りよ。ここでグズグズと一軒一軒回るなんて手間も時間もかかると言い合っているより、少しでも人を逃がす行動に移したほうがいい。


そうと決まればあとは動くだけだわ。


「じゃあお願いできる?私も今からこの近所の人たちに声をかけるから」


するとヒュッとマイレージに切り替わった。


「エリーは魔法使えねえんだろ?危ねえから家ん中にいろよ、俺らがやってくるから」


「…」


黙っているとモディリーが後ろからヘラヘラと声をかけてくる。


「その通りだってエリー、俺らは家ん中で大人しく待ってようよ」


モディリーはやっぱりやる気がないから無視しておいてマイレージに言い返した。


「せめてこの家の周辺の人たちには私が…」


「エリーが走って伝えに行くより俺らが伝えに行くほうが速いぜ?」


う…それは確かにそうだけど。


するとマイレージの顔がヒュッとナディムに変わって、私の肩に手を優しく置く。


「適材適所だよ。君はこの家の中にある皆の荷物をまとめていつでも外に出られるようにして待機しているんだ。そして誰かが帰ってきたら現状を伝える。それも立派な役割だよ」


「…」


少し申し訳なさも感じるけど、そうよね、マイレージたちが伝えに行ったほうが速いし、私は人を助けようと思っても夜まで魔法もろくに使えない。


そう思って頷いたけど、フッと顔を上げてナディムを見た。


「ところでナディム、こういう時に役立ちそうな黒…」


黒魔術はないの、と聞こうとして後ろにモディリーが居るのをハッと思い出し、口をつぐんでから改めて聞いた。


「…こういう時に役立ちそうな魔術とかないの?私とか周りの人が危険になった時に使えそうな…。そういえばそういう魔術を教えるとか言っていたのに未だに教えてもらってない」


ついで程度に文句を交えて言うと、


「それは…どれを教えようか厳選してたんだよ」


言い訳がましく言いながらナディムはうーん、と宙を見上げ少し考え込んでから私に視線を戻した。


「だったらあの術はどうかな。『カーテン』というものなんだけど…」


「…カーテン…」


頭の中に窓にかかっていてシャッと開けるカーテンが浮かんでいると、すぐさまナディムが続けた。


「名前は同じだが違う。中級ぐらいの魔術だけど君の強さならきっと使えるはず。これの能力は…」


「能力は?」


初級じゃなくて中級レベルの役に立つ黒魔術が覚えられると思うと身が自然に乗り出していく。


「火を出現させてそれで攻撃することができる。自然を操るのが上手な君ならカーテンと心の中で唱えて火をイメージすればすぐに使えるだろう」


え…それだけ?だって火で攻撃とか、魔術でも初級レベルじゃないの?

まぁ私はゼロから火を出す魔法が使えないからありがたいと言えばありがたいけど、それだったらランディキングからもらったオルケーノプネブマのほうが威力あると思うし…。


私がガッカリしたのを知ってか知らずかナディムの説明は続いていく。


「カーテンの火は揺れるような透明な火で、ろくに目にも映らないし触れても熱くもない。ああ、暗い中だったら明かりにもなるね」


「…それのどこが中級レベルなのぉ?」


こんな危険な中で全く威力のない明かり程度のものをどうして教えるのよと不満が湧いて聞いてみると、ナディムの表情がスッと真面目なものになった。


「熱くはないが、その火に当たった者は目にほとんど映らず熱くもない炎にまかれ、意識があるまま自分の体が燃え落ちるのを死ぬまで見続けることになる。水をかけても砂をかけても消えないし、術者本人であれ解除呪文を覚えていなければ逃れられない。使う時には自身や仲間に当たらないよう細心の注意を払わないといけないよ。それと解除呪文は『ティニェダッゲタルエリム』だ」


「…」


なるほど…黒魔術という名がつくと威力のない火でも害が確実に出るのね。

それよりカーテンって分かりやすい術名と短さのわりに重要な解除の呪文が言いにくいし覚えいにくいのなんなの。


「もういいかい?僕たちはいくよ」


「うん。気をつけて」


するとナディムは黒魔術を教える時と違って頬がゆるんでどこか嬉しそうに笑った。


「インラスの時には人を助けるために動くなんてこと一度もなかったから…こんな形で人助けができるならできる限り頑張るよ」


するとその顔がヒュッと好戦的なやる気に満ち溢れたマイレージの顔に変わり、自分の手の平に拳をパァンッと叩きつける。


「そんなら俺だって全力で力をふるってやるってもんだ」


そのままヒュッとリビウスに切り替わって、その顔は明るくパッと笑っている。


「俺人助けんの好き!俺も頑張る!」


リビウスはそのままピョンピョン跳ねながら回転しつつドアに向かって着地すると、


「ひっとだっすけ!ひっとだっすっけ!イイィッヤアッハーーーー!」


大声と共に床の木材をへし折りスタートダッシュしたリビウスは、ドカァンッと入口の扉を破壊しながらあっという間に消えていった。


「ああっ」


叫びが漏れる。なるべく家は荒らさないようにして去ろうと思っていたのに…リビウスが床の一部に穴を空けてドアも壊してった…。


ともかく壊れたドアをゴトゴトと入口に立てかけておく。


まず皆の荷物を全部取りに行って、その荷物は私の大きいバッグに入れておけばいいわね。それじゃあ皆が寝泊まりしている部屋に…。


歩き出すと今立てかけたドアがゴトッと音をたてた。


「!?」


オビドの傭兵が入ってきたのかと振り返ると、そこにいるのはドアを寄せて中に入ってくるサード。サードは壊されたドアを見て、


「どうしました、このドアは」


「それ今リビウスが壊していったの。それより大変なのよ、今この町に…」


「オビドの兵士や傭兵が大量に侵入しているということですか?」


ああ、そこは分かっているのねと話を進める。


「うん、それもだけど…さっき私、オビドの傭兵の一人に毒を使われて」


「毒?どのような」


毒の言葉にサードはすぐ反応して聞き返してくるから、今まで何度も色んな人に話したことをざっと説明した。


エディンム地下墳墓でのこと、オビドの傭兵に違法の薬物を使われ、オビドと接触したこと、夜まで魔法が使えなくなっていること、それとさっきまでバーソロミューが来たことも。


「魔法が…使えない」


オビドやバーソロミューと関わったことよりも魔法が使えないことにサードはショックを受けているわ。それでも私が魔法を使えない状態でこれからどう動けばいいのかと素早く考えを回しているような顔。


それに対して私はコソッとサードに小声で耳打ちをした。


「でも黒魔術は使える」


サードはなるほど?とばかりに軽く頷くから、私は続けた。


「それとイルルは結局見つからないし、目の前に現れてくれないの。度々指輪に声をかけているけどこんなに反応が無いんだもの、もしかして危険なことに巻き込まれてるんじゃないかしら」


「…」


サードは少し考える素振りを見せたけど、クッと私を真っすぐ見た。


「まずは放っておきましょう」


「え」


「イルルであれば危険なことからはすぐに逃げるはずです。それにあちこち自由に動けるイルルをどう助けに行くつもりですか?それならば現時点で私たちがイルルにできることは何もありません」


「ちょ、ちょっとそれ酷くない?」


あまりにもあっさりイルルを見捨てる発言をするサードに思わず返すと、


「エリー」


サードは私の肩に手を乗せる。


「今はどこにいるのか分からないイルルに構っている場合ではありません。私たちが今すべきことは…」


黙ってサードを見返して、その言葉の続きを待つ。


「財宝を手にすることです」


ズルッと思わずコケてしまう。


「ちょっと!こんな国を揺るがす争いが起きそうな時に財宝って何なの!?」


「いいやちょっと待てよ?」


モディリーが何か思いついたようにあごを撫でながら喋り出した。


「思えばルミエールの財宝にあれがあるんじゃね?ルミエールの王冠」


サードは頷き、


「ええ。この大帝国ではその王冠を手にした者が否応なしにこのリベラリスム大帝国の皇帝になれると言われています。だとすればその王冠をバーソロミューかオビドに渡せばこの無駄な争いもさっさと終わります」


そう言えばサードは最初から王冠を手にして争いを終わらせて名声を上げるって目論見をしていたっけ。


「でもそれだと結局エディンム地下墳墓に入らないといけないのよ?ナムタルに通用する呪文だって分からないし…」


「呪文が分かるものが居ます」


「え、誰?」


「この町に唯一ある聖堂、そこにいる聖職者ならば知っているだろうと聞いたので向かおうとも思ったのですが…どうやら不穏な空気が流れていましたから一時戻ってきました、エリーはこういう時に謎の正義感と使命感から単独で突っ走って危険ごとに巻き込まれやすいですから」


「…クッ」


私は拳を握ってうつむいた。


悔しい…!ムカつくけど実際にイルルを探しに行って魔法が使えない状態になってるから、そんなことないって否定できない…!


「ってことは、まずは聖堂にいくってことか」


モディリーの言葉にサードは頷く。


「ええ。その聖職者も争いごとが酷くなれば避難するかもしれません、そうなる前に行きましょう」


私たちは頷いて、手早く皆の荷物を全部私の大きいバッグに突っ込んでから出発した。

サード

「どうやら不穏な空気が流れていましたから一時戻ってきました、エリーはこういう時に謎の正義感と使命感から単独で突っ走って危険ごとに巻き込まれやすいですから」


モディリー

「(おっとぉ?それってつまりエリーが危険に巻き込まれるのが心配だから呪文を聞きに行くよりもエリー優先で戻ってきたってことかぁ?へーえ、なるほどねえ。ムフフ、ムフフフフ)」(チラッチラッ)


サード

「…(何でこいつニヤニヤしながらこっち見てくんだ?ウゼェ…)」

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