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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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色んなことが起きすぎて

「例のブツが効いたってことは、こいつは精霊じゃなくて人間じゃねえか?」


そう言いながら腕を組み私をジロジロと眺め降ろしてくるオビドは、しゃがむと私の胸倉をグッと掴みあげてニヤッと嫌な笑みを浮かべた。


「まあ精霊だろうが人間だろうがどうだっていいや。そんだけ顔がいいんだ、俺の女にして可愛がってやるよ」


顔も姿もまるで女の子そのものだけど言っていることはゲスな男が言いそうな言葉で、ウワ、と嫌悪感がわく。


すると身体は動かなくても私の目によっぽど嫌悪と蔑みの色が浮かんでいたのか、オビドはヒュッと表情を変えた。


「…んだぁ?その目は。まさかこの俺の女になるのが嫌だとでも言うつもりか?」


そう言うなりオビドは思いっきり私の頬をパァンッと叩く。


イッタ…!


オビドは私の胸倉から手を離し立ち上がると、私の肩を思いっきり踏みつけグリグリと動かす。


「てめえ何様だ!?この次期皇帝オビド様の女になれんだぜ、こんな名誉なことはねえだろうがよ!」


そのままオビドの目に残酷な色が浮かんで剣を引き抜くとニタ、と笑う。


「俺を侮辱したその罪は重いぜ。そうだな、まずは剣でてめえの爪を一枚ずつ()いでやる、その後は…どうする?股からこの剣を刺してやろうか、それともケツの穴のほうが好きか?」


ケケケケ、とオビドは楽しそうに笑っている。


こいつ顔は可愛いくせに言うこともやることも本当に最低すぎる…!っていうより私今凄く危険な状況じゃないの!


そう思っている間にオビドは剣を抜いて私の人さし指をつまみあげると、爪と指の間に剣先をグリッと押し込んだ。

かすかにでも爪と指の間に剣が入り込んだ痛みが全身に襲ってくる。


「…面倒くせえ、やっぱ指で剥ぐか」


オビドは剣を鞘に収めて私の指を掴むと、力を込めて私の爪を上に持ち上げようとする…!


ヒィイイイ!ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!絶対痛い、絶対痛い、絶対痛い!


痛みを覚悟して最大限に体を硬直させるけど全然体に力が入らない…!


―ッバァンッ


急激に聞こえた破裂音、同時にオビドの額が小さく爆発したかのように血が大量に飛び散る。


「…!?」


額から血を吹きだすオビドを驚いて見上げた。するとオビドから飛び出た血は煙のようにフワッとたなびいて、そのまま額に全部吸い込まれるようにシュンッと戻っていく。


「………!?」


余計驚いてオビドをガン見していると、血が出たことすらなかったかのようにオビドは後ろを振り向いた。


「チッ、人が来たか」


オビドはそのままフッと姿を消した。今のは…転移魔法?


「え、ええ!オビド様…いやオビドごら、てめえ俺らを見捨てんのかよ、ざっけんなこの…」


自分達を見捨て逃げたオビドに悪態つく男の一人に向かって、さっきと同じパァンッという破裂音が聞こえ、同時に悪態つく傭兵の声が途切れて倒れる音がした。

それも連続して何かが破裂するような激しい音の直後に傭兵たちが倒れる音がする。


…もしかして何者からか攻撃を受けてる…?


だとしたら私だって危ない、こんな無防備に仰向けで寝っ転がっている状態なんて「さあ殺して」って言っているようなものじゃない!


すると遠くの犠牲者を悼む大きい石碑の影から人影がノソ、と出てくるのが目の端に映った。


あれが今攻撃してきている敵…。きっと今のは魔法、でも一体何の魔法なのかさっぱり分からない。とにかく黒魔術のアーウェルサを使って攻撃が通り抜けるようにする…!


私はアーウェルサを発動して、敵が次に何をしてくるのか様子を伺った。


警戒する私とは裏腹に、のそのそ近づく人影からのん気そうな声が飛び出る。


「おーいエリー無事かぁ?」


その声に私は目を動かした…あ、これ目は動く。思えばさっきから眼球だけはあちこち動いてたわね。


向こうから歩いてくるのはカンカン帽を少し後ろにずらし、細長い木の棒を肩に担ぎながら近づいてくるモディリー。


ああ…敵かと思ったらモディリーだったの。それよりどうしてここに?確かモディリーもちょっと出かけてくるって朝ご飯を食べたら拠点から出て行ったはずだけど。

ともかく助かったわ、もう少し遅かったら左手の人さし指の爪が剥がされてたから…。


ホッとしているとモディリーは私の異変に気付いたみたいで、小走りでやってきて私の脇にしゃがみこむ。


「体が動かねえのか?」


問いかけられても体が動かないのよ。


モディリーは私の顔をジロジロと眺めてから人さし指と親指で私の目を広げ、私の口をパカッと開けて中を覗き込み、鼻の下に手を当て、首に手を当ててくる。


「顔色よし、白目の色正常、眼球は動く、舌の変色なし、呼吸も正常、脈も正常。ってことは例のブツ使われたな?体の自由を奪って魔法も使えなくする誘拐に特化した魔法薬。魔導士連盟から使用禁止指令が出てる違法の薬物だ」


うわぁあ…何それ違法の薬使われたとかやだぁあ…。


するとモディリーは自分のバッグから小さいビンを取り出した。


「大丈夫、違法つっても体に害はないから。ただ誘拐用だから違法指定されてるだけで。それだったらこれ飲みゃ毒が中和されて体だけは動くようになるぜ。まあこれも違法の薬だけど体に害はないから」


うわぁあ…違法の薬を違法の薬でどうにかするとかやだぁあ…。


それでも体が動かない今はそんなこと言えないし動けない。モディリーは淡々と私の頭を抱え起こすと口の中にビンの中の液体をデロリと入れる…。


「オブフオオッ」


舌の上を通り喉の奥に流れ込んでいく液体の味に思わず吹き出す。それでも大部分喉の奥に流れて飲み込んだけど…!


「ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!」


私は立ち上がって思わずジャンプしまくる。


口の中がものすごく辛いし甘いし苦い!喉が焼ける!辛い!甘い!苦い!要するにこれは…。


「まずい~~~…!」


辛いんだか甘いんだか苦いんだか訳が分からなくなっている口を押さえるけれど、一番押し寄せてくる辛みのせいで涙も鼻水もよだれも止まらない。


「はい水」


モディリーに手渡された水筒を受け取って一気に飲み干す。するとさっきまで感じていた辛みも甘味も苦みも水と一緒にスーッと流れて引いていって、ものすごいスッキリとした清涼感が私を包み込んでいく。


でも顔が涙と鼻水とよだれまみれだからすぐさまモディリーから顔を逸らして、慌てて大きいバッグからハンカチを取り出して顔を丁寧に拭き、ティッシュも取り出し鼻もかんだ。


「どう?」


モディリーの言葉に私は振り向く。


「…ありがとう、治った」


「だろ?それにしてもすげー顔だったぜ、これ飲んだら皆そうなるけど」


ニヒヒ、と笑うモディリーをキッと睨みつけて、手をにぎにぎと動かしてから魔法が使えるかどうか試してみる。…でもやっぱりいつも通りの魔法は使えない。


「魔法っていつまで使えないの?もしかしてこの先ずっととかじゃないわよね?」


「それはないない、半日ぐらいで使えるようになる」


半日…ってことは、ほとんど夜まで魔法が使えないってことじゃない?


まいったわ、オビドの兵士たちが紛れ込んでいて身の危険もあるかもしれないのに魔法が使えないなんて。黒魔術は使えるけど使えるものがクネスタとアーウェルサの二つだけだし…。


そこで私の周りに倒れている男たちにようやく気付いた。その全員は頭から血を流した状態で倒れてる。


「死んでる…!?」


飛びのくと、モディリーは頷いた。


「そりゃそうだ、見るからにエリーが襲われてたから動いてる奴全員殺しといたぜ」


…そういえばモディリーって殺し屋だっけ…それっぽくないけど。


するとモディリーは不思議そうに顎を撫でる。


「しっかし…エリーの脇にしゃがんでたあの白髪頭野郎も完全に撃ち抜いたはずなんだがなぁ…何であいつ死ななかったんだ?動いてこっち見てたよな?」


白髪っていうよりあれはプラチナブロンド…まあいいわそれは。


「なんていうか…飛び出た血が元に戻っていったのよ、額に吸い込まれて」


「…どゆこと?」


「私だって分からないわよ。額から血がでたと思ったら血は元に戻って傷口もふさがって、そのまま消えていったの」


「ええ…何それコワッ」


怖いで済む話?


まあともかく私は別の話に切り替える。


「ところでモディリーはどうしてここに?」


「いやーこれがさぁ」


そう言いながらモディリーは首から下げているお宝発見器のペンダントを引きずり出す。


「読めないけど内容が変わったっぽいからエディンム地下墳墓に変化が起きたのかなぁって様子見に来てみたんだよ。それよりエリーもどうして一人で…」


「イルルが昨日からずっと戻ってこないから心配で入口まで見にきたの、そうしたらこいつらが…。それより大変よ、このカゼロ町にオビドの兵士と傭兵とオビド本人も侵入してきているのよ、さっきのプラチナブロンドの男いたでしょ、あれがオビドよ」


「なぬ、あれがオビドだったのか」


すると緩やかにカーブした向こうからのんきな声が聞こえてきた。


「おーい、この町の地図手に入れたぞー。これで金持ちの家探して漁りにいこうぜ」


その言葉…こいつらの仲間の傭兵!?


するとモディリーはギュルンと向きを変えて肩に担いでいた細い木の棒を近づいてくる傭兵に向ける。


カーブの向こうから現われた傭兵は三人。

前を歩き地図を振っていた男は倒れている仲間を見て、状況を瞬時に判断すると地図を放りだし剣を引き抜いた。


同時に、ッパァアンッと鼓膜が破れそうなほどの鋭い音がモディリーの木の棒から響き渡り、剣を抜いた男は額から血を散らしそのまま倒れていく。


「…」


あまりの一瞬のことに何が起きたのか分からない。ただものすごい破裂音を間近で聞いたせいで耳が痛い。


「石碑の影に隠れたか」


モディリーはその場にしゃがみ込むと木の棒…魔法の杖?らしきものをそっちに向ける。


「…」


思わず私もそろそろとしゃがんで、モディリーが持っている魔法の杖らしきものをチラと見た。


…モディリーはこんな杖なんて持っていたかしら…それにしても変な杖。

基本的に魔法の杖は細長い木の棒に魔法を増幅するための装飾がついているものだけど、モディリーの杖は装飾は無し、それも簡略化した雷マークみたいな平べったい、杖というには妙な形…。


それよりモディリーの杖の向き逆じゃない?手に持つはずの細いほうを相手側に向けて、敵に向けるはずの幅広い部分を自分の肩につけて、その平べったい側面に頬もぴったりくっつけていて…。


「杖…逆じゃないの、それ。危なくない?」


邪魔にならない程度の小声で話しかけると、モディリーは私をチラと見てからニヤッと笑う。


「いーの、杖の向きはこれで」


ああそう、と思いつつ杖をマジマジと見ていると杖の上部に謎の出っ張りを見つけた。

ただでさえ持ちにくそうな形なのに余計持ちにくそうと思っていると、モディリーは視線を感じたのかおかしそうにニマニマ笑ってる。


「俺の商売道具そんなに気になる?」


「だって変な形、持ちにくそう、特にその上の出っ張りが変、何の意味があるのか分からない」


「この出っ張りがあるとないとじゃ命中率全然違うんだよ」


「命中率って…」


質問を続けようとしたけど、私は口を閉じた。


ニマニマ笑っていたモディリーの顔がスッと静かに遠くを見据えた真顔になったから。


するとバァアン!と鼓膜が破れるんじゃないかと思うぐらいの鋭い音がモディリーの杖から響くのと同時に、石碑からバッと逃げ出した二人のうち一人の頭へ当てて倒した。続けざまにモディリーはもう一人の傭兵へ攻撃をバァン!と加える。


「ギャッ!」


モディリーの攻撃は肩に当たった。それでも血の流れる肩を抑え、傭兵は障害物の影に隠れるようにしてヨタヨタと逃げて行く。


「外れた…!」


「いーや、わざと頭を外した。負傷させりゃお家に帰るだろ?そこに本隊がいるかもしれねえからな」


「本隊…ってことはあの傭兵を追いかけるってこと?」


チッチッチッとモディリーは指を動かす。


「なんでわざわざ危ねえ所に行くのさ。逆、逆。血が続く方向に傭兵の本隊がいかもしれねえなら血がない方向に逃げんの!オビド本人がいるならきっと遅かれ早かれこの町でバーソロミュー対オビドの対決が始まる。だとすりゃ財宝ゲットとかベルーノ探しとか言ってる場合じゃねえや、この町から一回立ち去ろう」


「え…でも待って、この町には一般の人たちもたくさん…」


「こういうのは情報を先に仕入れた奴が生き残るもんだ。いや~俺らは運が良かったな~」


「で、でもね、町の人もそうだけどイルルもこの町のどこかで行方不明になっているのよ、こんな危ない所に町の人もイルルも置いて立ち去るつもり?」


「だってしょうがねえじゃん?オビド本人がこの町にいんなら遅かれ早かれオビド軍も百かそれ以上この町に訪れるって考えるのが自然だ。敵がどこからどう来て、どこに潜んでるのかも分かんない中でどうやって市民を助けながらイルルも探すつもりだよ」


…。ああ…この流れはあれだわ。どうにか町の人を助けたいって私が言って、それならどうすれば助けられるかの案を出してみろって言われるパターンだわ。


三匹のネズミは言っていた。人をその場から逃がすためには空から逃げるような旨を書いたビラをばらまけばいいって。

…でもこんな今すぐにでも戦いが始まりそうな時に何百枚ものビラを書くとか間に合うわけがないし紙もない。ウチサザイ国ではサムラの幻覚魔法で天使のような見た目のリッツを作り出して国外に逃げるように促すことができたけど、ここにサムラはいないしああいう幻覚魔法は誰も使えない…。


ああもう、助けたい気持ちはあるのにどうしてその助ける方法が何も思いつかないの私は…!いつもいつもそう…!


「う~~~~…!」


頭をかきむしって悩んでいるとモディリーはヘラヘラ笑ってる。


「まあそれなら道中で行き合った人には伝えとこ、この町で戦い起きそうだから今すぐ逃げたほうがいいぜって。そうすりゃ噂になって皆町から一斉に避難するかもしんねえからさ。一旦拠点に戻ろ」


「…うん」


確かに、ちょっとずつでもできることをやっていったほうがいいわ。身の危険になる話なら皆耳を傾けてくれるでしょうし、疑り深いウチサザイ国の人と違ってこの町の人たちは鼻で笑って聞き流すこともしないと思う。


エディンム地下墳墓に背を向け歩き出すと、肩に攻撃を受け逃げていった傭兵の血が点々と続いている。


「ところでさっきモディリーが使った魔法って一体何なの?一瞬すぎて何が起きたのかさっぱり分からないんだけど」


モディリーはニヤと笑った。


「ありゃ爆発魔法だよ。それも俺が独自に考えあげて殺しに特化して編み出した爆発魔法。とにかくスピード勝負、時間をかけず遠くから一瞬で事が終わるようにってね」


そう言いながら自慢げに、


「実は自分で名前も付けたんだ。体を射ぬいて殺す魔法だから『射殺魔法』。どうよかっこいいだろ?」


「…」


確かにすごい魔法だったしあの魔法のおかげで助かった面もあるんだけど、人を殺すのに特化したものって聞いたら素直に頷けなくて曖昧に笑い返しておいた。

以前射殺される寸前でも笑顔をみせるスパイの写真を見て色々ショックだったということを書きましたが、対照的にスパイに向け銃を構える兵士の目があまりに恐ろしかったのも記憶に残っています。

狙いを定め人を撃ち殺す寸前の人の目ってこんなに怖くなるものかと思いました。

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