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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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接触

「まさか拠点が国外に避難した人の家だったなんて…!」


私は今、激しく動揺してソファーに座っている。


少し前に「ここがお前らの拠点だ」とシモーンから案内されたのは一般的な一軒家だった。

兵士が寝泊まりする場所なら他の兵士たちと共同の宿舎みたいな所かしらと思っていたから、私はわぁ、と喜んだ。


シモーンは鍵のかかっていないドアを開けて、


「まあ見れば大体分かるだろ、適当に見て回れ。分かんねえ所があるならざっと説明する」


中に入ると普通に今から暮らせそうなぐらい整っていて、家具も食器もソファーもラグもテーブルも椅子も全て揃っている。


こんなに設備の整った一軒家で寝泊まりできるなんてなんてラッキーなの!と喜びながら私たちは存分に家の中を隅々までドヤドヤと確認して回っているうちにアレンが、


「ここ俺の部屋ー!」


とベッドにダイブして、リビウスもそのベッドに飛び乗り、


「ここアレンのベッド!」


と踊り狂って、私とヒズはシャワーとお風呂があると喜んで水をジャージャー浴槽に溜めて、食料も倉庫に結構あるのねとお昼に食べる分を引っ張り出して、ハムをつまみ食いしたりした。


「ハム美味しい…それにこんなにいい拠点だなんて最高…」


感動しながら呟くと、シモーンも呟いた。


「この家は一時的に国外に避難した奴らの家だ」


「え」


「内戦が終わったらこの家の奴らも多分戻ってくる」


「…え?」


「『無人の家があるなら兵士の宿舎にしてしまえばいい、次期皇帝の余が許す』っていうバーソロミューの命令で空き家の鍵は壊して兵士用の拠点にしてんだ。鍵が必要なら向こうに鋳物屋があるから頼んどけ」


その言葉に私は動揺して当初の通り「まさか拠点が国外に避難した人の家だったなんて…!」とソファーに座っている。


私だって戦争後に私の屋敷に戻ったら家財道具やお金になりそうなものを根こそぎ奪われていてショックを受けたもの。

きっとこの家の人たちもあの時の私と同じように荒らされた家の中を渋い顔で一部屋ずつ確認して回るんだわ…。


「そういやエディンム地下墳墓って分かる?」


他人の家に上がり込んでいたことでショックを受けている私をよそに、アレンはシモーンに目的地の質問をしている。


「ああ、そこの考古学者が調べてるあの一番奥にある遺跡な…」


そう言うとエディンム地下墳墓があるのかそっちのほうをみて、


「ルミエールが存命中に完成させたあのバカでかい地下墳墓のおかげで町の後ろから攻められることはない。だがあんま近寄らねえほうがいいと思うぜ、俺は」


「何で?何で?」


リビウスが兵士にズイズイ近寄りながら聞くとシモーンは鬱陶しそうに後ろにバックしながら、


「エディンム地下墳墓に入った者は死ぬって、この大帝国に暮らす者たちは全員知ってる」


その言葉に一番びっくりしたのはモディリー。


「ええ!俺入っちゃったんだけど!?」


モディリーは真っ青になるとシモーンの足にしがみついた。


「俺死んじゃうの!?ねえ死んじゃうの!?死にたくない、俺死にたくないよおおお!」


まるで余命宣告された人みたいにモディリーはおいおい泣きながらズルズルと崩れ落ちていくけど…。それ、本業殺し屋の人が口にしていいセリフ…?


シモーンは足にしがみついて泣くモディリーを無造作に振り払って、


「考古学者なのにそういうの調べねえで入ったのかよオッサン。エディンム地下墳墓に入った奴は熱病に侵されてうわごとを言いながら死ぬんだぜ、あそこに入って一週間も生きた奴はいねえ」


「一週間?」


モディリーはピタリと泣き止んだ。そして指で数を数えて、


「…あれ?俺あの地下墳墓に入ってから二週間はたってんだけど」


「そんなの知らねえよ、もういいか?他に何もねえなら俺は戻る」


シモーンはそう言うと面倒くさそうに拠点の家から去っていって、同時に皆がモディリーを見た。


「モディリーさん…無事でよかったですね」


ガウリスがそう声をかけると、アレンは不思議そうに首をかしげる。


「でも何でモディリー無事だったんだろ、変だなぁ」


「いや死んでないのが不思議、みたいに言わないで。何もなかったことを一緒に喜んで」


モディリーは嫌そうにアレンに突っ込みを入れて、サードは独り言のように言う。


「モディリーさんの持つお宝発見器とやらに書いていた『病、死ぬ』という単語はそういうことだったのですね。悪しき精霊の力で病にかかり死ぬ…厄介ですね」


「精霊…っていうけどモンスターとかそんなのに近いのかしら」


私の言葉にサードは少し黙り込んでから、


「とは思いますが…。ともかく正体を調べなければ私たちの身が危険です、何かしら対処法がないかの情報を探しましょう」


「そうですね、まだお昼前ですし情報収集に行きましょう」


ガウリスを含め皆さっさと次に向かって動いているけど、もう忘れてる?ここは他人の家だってこと…。


でもこれだけ堂々と侵入してドヤドヤ歩き回ってるんだから今更何を言ったって遅いわ。だったら早くここの町でやることを終わらせて、なるべく家の中を綺麗にしてから立ち去ろう。


「じゃあ私も情報収集に…」


するとサードは「いえ」と押しとどめる。


「これほど小さい町であればそんなに時間はかからないでしょう。エリーはモンスター辞典で熱病で人を殺すモンスターを少しずつ調べておいてください」


それもそうね、サード、アレン、ガウリスの三人が居ればさっさと情報なんて集まるわね。

じゃあヒズたちとモディリーはここに残るのかしら…。


「探険!探険!町中たんけーん!」


リビウスは素早く外に出て行った。そんなリビウスを皆で見送ってからサードたちも各自拠点から出て行ったから、私は椅子に座ってモンスター辞典をテーブルに広げる。


「…けど俺本当に大丈夫なのかなぁ」


隣に座ってまだ心配そうにしているモディリーに私は視線を動かす。


「一週間以上たっても無事ならもう何ともならないんじゃない?」


「かなあ?」


「分かんないけど」


「分かんないって言われると不安になるからやめてえ?」


「だって分かんないもの」


とりあえずお墓に現れるんだから精霊とはいえアンデッド色が強そうだし、アンデッドモンスターの項目を見ればいいわよねと私はモンスター辞典に視線を落とした。


アンデッド…アンデッド…。


そこでフッと気づく。思えばアンデッドモンスターは魔族が扱いやすい部類。

それもこっちにはあれこれすぐ調べてくれるイルルっていう心強い味方もいる。


そうよ、イルルに地下墳墓に現れるアンデッドモンスターを探してもらえばすぐに分かるじゃない!


「イルル」


指輪に向かって声をかけるとイルルがスウ…と現れる。


「うおっ誰っ、どっから来たっ」


驚くモディリーにイルルを紹介した。


「この人はイルルよ、私たちの仲間。それでねイルル。この人はモディリー・ドアーニっていう私たちへの依頼者で今は一緒に行動しているの」


イルルにもモディリーを紹介すると、イルルはモディリーをチラと見てから手もみをしてヘコヘコする。


「お初にお目にかかりやすモディリー様、あっしはエリーお嬢様の手足のような存在でございやすんで、どうぞおみしりおきを…」


モディリーは「へー…」といいながらイルルのズボンからはみ出る尻尾を見つけると指をさした。


「あんた人間じゃねえんだ?魔族みてえな尻尾生えてるし。おたく何の種族?」


イルルはヒッヒッヒッと笑ってから、


「長寿の種族であることは言っておきやす」


とだけ答え、私に視線を向ける。


「それでご用件は?それともゾルゲ関係の進捗(しんちょく)でございやすか?」


私は首を横に振って、


「あのね、イルルにお願いがあるの。この町のエディンム地下墳墓に現れる精霊っていうか、モンスターのことを調べて欲しいのよ。どうやらその地下墳墓に入った人たちを熱病で殺していくようなアンデッドに近いモンスターが居るみたいで、イルルなら簡単に調べられるかなって思って呼んだんだけど…お願いできるかしら」


「承知いたしやした、ではエディンム地下墳墓とやらのモンスターを調べてきやす」


うん、と頷くと、イルルは辺りをキョロキョロしている。


「…ちなみに他の方々は?どうしてその男と二人で家にいるんで?」


ちょっとその言い方…妙な誤解されてる?


「皆情報収集に出ているのよ。小さい町だから三人で大丈夫だっていうから私とモディリーはお留守番。あとリビウスは町中探険で一番先に出て行った」


なるほど、と頷くイルルに対してモディリーがからかうように笑う。


「おやおやぁ?うら若い自分の主がオッサンと二人きりだったから心配になっちゃったかなぁ?」


イルルはヒッヒッと笑う。


「まぁそんな雰囲気ではなさそうでございやしたが。ところでモディリー様の依頼とはどのようなもので?」


「そのエディンム地下墳墓にある財宝をゲットしたいんだよ。でもそこにいるモンスターが怖くて行けない状況ってわけ」


「しかも関わりたくない皇太子の一人がいるからあまりこの町に長居したくないの。その皇太子はバーソロミューっていうんだけど」


説明してから、私はフゥ、とため息をつく。


そもそもバーソロミューとオビドが戦いを始めなければここの家の人だって国外に逃げなくてもよかったのよね。どれだけの人が兄弟の内輪もめで大変な目に遭っているんだか…。


「何より皆の迷惑にしかならないんだからこんな内戦なんてさっさと早く終わればいいのにね。それが一番の望みよ」


この国の人たちにとっては、という意味で愚痴っぽく言うと、イルルは黙り込みながら私を見ている。

そんなイルルの視線に気づいて私は軽く腰を浮かしながら声をかけた。


「ちょっと休んでからいく?それならお茶を用意するけど」


「いえ、あっしはこれで」


スウ…とイルルは消えていって、消えていくイルルを見送ったモディリーは、私に身を乗り出してくる。


「あのイルルってほんとに何の種族?今消えていったの転移魔法だろ?だとしたら結構魔法の力も強いから…エルフ?…うーん、でもエルフにしては見目麗しいってわけでもなかったなぁ…」


「なんの種族かなんてどうだっていいじゃない、仲間なのは変わらないんだから」


これ以上探られたら面倒くさいから話はそこで終わらせて、広げていたモンスター辞典のページに視線を落とす。


…でもイルルがすぐ調べて戻ってくるでしょうし、一旦閉じよう。


辞典を閉じようとした瞬間、勝手に辞典がバッと開かれて、触ってもいないのに勝手にバラバラと紙がめくられていく。


「!?」


するとモディリーは顔を上げて「うおっ」とソファーの上でわずかに飛び上がった。そのまま空中を指さし私を見て、


「ベルーノ!あんたらの探してるベルーノそこにいる!」


「え、どこに!?」


立ち上がったモディリーは私の目の前を指さして、


「ここ!ここに立ってページめくって…」


辞典のページがめくられていくのがピタリと止まった。そしてモディリーは喋りかけた口を閉じてそのページを凝視する。そのまま恐る恐るベルーノが居る所に視線を上げて、


「…もしかして、このモンスターだって教えてくれてんの…?」


と聞いた。


そのページを見ると『ナムタル』という名前のモンスターの項目…。


それよりもよ、目の前にベルーノがいるならチャンスだわ。


「ねえ、私の声はベルーノに聞こえているのよね?」


モディリーに聞くとモディリーはチラとベルーノの居る方向を見て、


「頷いてる。聞こえてるってよ」


どうやらこの間と違って逃げもしないみたい。それなら話し合いに応じてくれるに違いないわ。


私はモディリーが見ている方向に視線を向けて、


「ねえベルーノ。私たちはあなたを探しに来たの。この前あなたに声をかけた男の人覚えてる?イルルっていう黒髪でこれくらいの身長で『~でございやす』って口調の男の人。あの人にあなたを探してって言っていたんだけど…」


一気にまくし立てたけど、私の目には何も映っていないからちゃんと私の話が聞いてもらえているのかさっぱり分からない。


「何か言ってる?」


モディリーに聞くと首を横に振って、


「なんか怪訝(けげん)な顔してるけど何も喋らない」

…そう言えばベルーノって戦いの時以外は全然喋らない人なんだっけ。でもそれだったら意思の疎通が全然できないわね…どうしよ。


うーん、と考えて、ハッとした。


「お願いだからちょっと待ってて、どこにも行かないでね!」


私はベルーノに念を押すと紙とペン、それとコイン一枚を取り出した。そして紙には基本の文字を全て書いて、上のほうに「はい」それと「いいえ」を書く。


これはヒズがマイレージに憑りつかれる原因になったものだけど、これがあれば喋らなくても会話できるでしょ。マイレージだってこれでヒズたちとやり取りしたんだから。


私はコインを紙の上に置いてベルーノが居る方向を見た。


「あなたと会話がしたいの、これでコインを動かして言いたいことを文字でつづってちょうだい?これなら喋らなくてもやり取りできるでしょ」


せっかくベルーノから接触しにきてくれたんだもの、ここでの話し合いでどうにか仲間になってもらわないと…!

私が学生の頃に40℃まで熱が上がった際「死ぬ!このままじゃ死ぬ!」と一人騒ぎました。

人は熱が42℃を越えたら死ぬと当時何かで見聞きしていたのですが(真偽不明)、私は数字に弱いうえ熱でまともな思考ができない状態だったので40℃で死ぬと勘違いし、

「そうだ寒い所で熱を計れば40℃以下になるはずだ!」

と北国のクソ寒い冬の廊下でグッタリしながら熱を計り、それを発見した母は「どうしたっ…!?」と驚いていました。

人ってまともな思考回路できなくなるとそうなるんですよ。ちなみに1℃下がりました。

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