表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

481/507

カゼロ町に堂々と侵入

「さっきの報酬の割り分の話なし、もう一回最初っから話そ?ね、もう一回話合お?」


依頼を受ける流れになるとモディリーは必死サードに持ち掛けていたけれど、サードは、


「先にその条件を出して頼みこんできたのはそちらで、それを込みで私が了承したのですよ?なのにどうして今更また変えようとするのです?」


と取り付く島もない。二人から目を離し他の皆とベルーノのことを少し話してから再びサードとモディリーに視線を戻すと、


「では王冠も私たちが貰い受けるということで…」


と、なぜかルミエールの王冠もこっちの取り分になる流れになっていた。


モディリーはもうこれ以上話しても無理だ…とばかりに(しお)れていて、サードはこいつチョロいぞ、としたり顔をしている。


…ほんの少し目を逸らした間に話を全部丸め込んでしまったわ…相変わらず怖い奴。


落ち込むモディリーにアレンは空気も読まず質問した。


「ところでルミエールの財宝って本当にあったの?地元の人は見つかるわけないって言ってたけど」


それは確かに。数百年色んな人が探しているけど未だに見つかってない、見つかるわけないって現地に住んでいるリアンが言っていたもの。


アレンが聞くとモディリーはバッと顔を上げる。


「あるってば、俺見つけたんだから!」


モディリーは少し気を取り直したように背筋を伸ばして、自慢げに腕を組む。


「俺は今までもすげー沢山のお宝見つけてきてんだからな!」


「えー、どんな宝見つけたことあんの?」


アレンが興味津々で身を乗り出して聞くとモディリーもフフン、とさらに胸を張る。


「そりゃすげーもんだぜ。失われたデナーニャ島、キャプテン・サイロンの隠し財産、古代ロースタリー族の秘宝、ヒロン聖女の聖遺物、そのセットでヒロン聖女の埋蔵品…」


「それは…どれもこれもここ数十年内で見つかった世紀の大発見級のものばかりではないですか」


ガウリスが目を見開き呟くとアレンははしゃぎながら、


「キャプテン・サイロンの隠し財産の話だったら俺も聞いたことあるぜ、大海賊サイロンが一生涯で蓄えた宝のことだろ!へー、それ見つけたのモディリーだったんだぁ!」


キャプテン・サイロンの話は知らないけど、失われたデナーニャ島の話なら私も知ってる。


デナーニャ島は進んだ文明を持っていたけどあまりに高度すぎる文明で消失してしまったという伝説の島。まぁ本当にあるとは誰も思っていなかったんだけど、ある日いきなりデナーニャ島があったとされる場所に島が出現した。


それは一人の考古学者がその地域に大昔から伝わる歌から島を出現させる方法を発見したとかで、急遽(きゅうきょ)集められた数十名のあらゆる分野の第一人者の学者が調査のため島に上陸した。でもその次の日に島は忽然と消えてしまって、上陸した全員戻ってこなかったって…。


「…本当にデナーニャ島を見つけた考古学者ってモディリーなの?」


「うん、俺。信じられない?」


「だって島を発見した考古学者も戻って来てないと思ってたから」


するとモディリーはアハハ!と笑った。


「俺だけとっとと島から逃げたんだよ。つっても歌の内容からして数時間で島を出たほうがいいって俺はしっかり学者どもに伝えたぜ?けど消失するほどの高度な文明を調べないといけないってあいつら息巻いて話聞いてくんなくてさぁ。自業自得ってもんだ」


そう言いながらモディリーは首からぶら下げているアクセサリーみたいなのを服の下から引きずりだして私たちに見せてくる。


「んでもってこれがデナーニャ島から唯一持ち帰ってきたお宝」


そんな不思議な島から持ち帰ってきたお宝と言われたら私たちだって気になる。目を輝かせると、それは逆三角形の形をした平たく赤い宝石みたいなペンダントで、読めない文字が細かくびっしりと書かれている…。


「これ何?これ何?」


アレンが近寄って許可もなくその赤いペンダントみたいなものをなんのためらいもなく指でつまむけど、伝説の島から持ち帰ったお宝に対してそれはダメでしょ。


「やめなさいよ」


アレンの手をペンッと軽く叩いて止める。でもモディリーは特に気にしていないのか早く自慢したいのか、さっさと話し始めた。


「何とこれ、お宝発見できるもんなんだ。価値があるもんがあれば光ったり矢印が現れたりするってわけ、世紀の大発見級のお宝みつけてんのもこれのおかげでさ。『お宝発見器』って俺は呼んでる」


「へーすげー。で、これなんて書いてんの?」


アレンは目線を赤い宝石に合わせながら聞くとモディリーは首をかしげる。


「さあ?たまに文字が変わるけどオッサンさっぱり読めない。近くにある財宝の情報でも書いてんじゃね?」


すると赤いお宝発見器の宝石をジッと見ていたサードが口を開いて呟きだす。


「『皇帝…宝…悪しき精霊多く…病…死ぬ…』」


「えっ、読めんの!?てかその距離でこのちっちゃい文字読めるとか目よすぎじゃね!?」


二つのことに驚いているモディリーを無視するサードは、


「所々の単語だけしか分かりませんが、どうやら古代の文字のようですね。内容的に財宝の情報が書かれているのは間違いないでしょう」


なるほど、と納得したのは束の間。だってお宝発見器に書かれているのは…。


「ほとんどが不穏な単語ばっかりじゃないの。ヤバくない?」


サードもモディリーのお宝発見器を見つつあごをさすりながら、


「確かに病、悪しき精霊多く、死ぬ、とも書いてありますからね。この『悪しき精霊』というのが財宝がある場所にいるモンスターということなのか…。ちなみにモディリーさんは財宝を守るモンスターを見たのですか?」


サードの質問にモディリーは首を横にブンブン振りながら、


「いやー…分かんない。普通に何事もなく財宝のある場所までたどり着いたんだよ。そうしたらどっかから人の唸り声みたいなの聞こえてきたからさ、こりゃやべーわってそのまま立ち去ったんだ」


モディリーは頭をガシガシかきながら、


「俺殺し屋だけど物影から()るタイプだからさ~。正面切って戦うとかそんなの無理だし?人相手ならまだしもモンスターと戦うの向いてないし。だからどうしても上級の冒険者と一緒じゃないと無理だな~って思って~」


なるほど、とサードは頷く。


「ではそのモンスターについて調べねばなりませんね。そこに書いてあるのが本当に財宝を守るモンスターの情報であれば、病に関係している精霊のようですから」


精霊といえば善良な人たちには優しいってイメージだけど…。でも悪いことをする神様も普通に見てきたんだから、人に害を出す精霊もいるのかも。


「じゃあモンスター辞典の出番ね」


大きいバッグからモンスター辞典を取り出すとモディリーはギョッとした。


「うわ、そんな重いもん平然と持ってんの?さすが勇者御一行、女の子でも力持ち」


何言ってんのよ、とモディリーを軽く睨みつけて、


「これはマジックアイテムの大きいバッグで、重さをゼロに、収納は無限にできるものなの!」


軽く説明してからまず適当に辞典を開く。


「病気に関するモンスター…」


その言葉にフッとイルスのことを思い出す、でもすぐさまブルブルと頭を横に振ってその考えを振り払った。するとアレンは腕を組んで、


「でも人を病気にして殺すモンスターなんて結構いるはずだぜ?ろくに情報もないうちに見つけんの無理じゃね?」


「ではその財宝のあった周辺の方々にお話を聞いて、どのようなモンスターがいるのかを調べるのが先決ですね」


アレンの言葉にガウリスが重ねると、サードは話はまとまったとばかりの顔をしながらモディリーに視線を移す。


「では今からその場へ向かいますが…ルミエールの財宝はどこにあるのですか?」


「ん~…」


モディリーは言いにくそうに帽子ごと頭をボリボリとかいてから、内緒話をするようにコソッと伝えてくる。


「カゼロ町…」


「カゼロ町…って…」


確かベルーノと最終的に行き合う場所で、バーソロミュー軍が居座っている町。


思わず全員を見渡すと皆も全員をそれぞれ見渡して、最終的にサードに視線が集まる。


サードは難しい顔でしばらく黙っていたけれど、


「…それでもカゼロ町には最初から行く予定でしたから、丁度よかったというべきでしょうか…」


そうは言いつつ、すごく面倒くさそうな顔付きをしているわ。

ベルーノのことだけならまだしも、バーソロミューの目をかいくぐって財宝も求め、更にモンスターの情報も集めないといけなくなったのがものすごく面倒なんだと思う。


するとアレンは腕を組み真剣な顔で頷く。


「じゃあ俺らはバーソロミューとその兵士たちに見つからないようこっそりカゼロ町に入って、こっそりモンスターのこと聞いて、こっそり財宝手に入れて、こっそりベルーノ見つけないといけないんだな」


「無理に決まってるでしょ」


即座に突っ込むとモディリーも「アホか」と呆れたように笑ってから、


「ついでにカゼロ町は王宮近くにある帝国最後の砦みてえな町でさ、町は防壁でグルッと覆われて出入り口も正門の一つしかねえんだよ。だから町に入るなら必ず顔みせてこんな理由で入るって説明してオッケーが出ないと入れないぜ」


「え…それってもしかして通行手形も必要だったりする?」


ウチサザイ国では首都に入る時通行手形を見せる必要があったし、カゼロ町に入る時に通行手形を見せるとしたら私たちが勇者一行だっていうのがすぐにバレて、バーソロミューが関わってきちゃうかも。


そう危惧していると今思った通りの返答がモディリーから帰ってくる。


「そう、通行手形見せろって言われる。俺も通行手形見せて『戦いに巻き込まれて壊れるかもしれないからその前に遺跡調査したい』って理由で中に入ったぜ」


「…」


私たちはまた視線を合わせ、そして最終的に全員がサードに視線を向ける。

サードは色々と考えていそうな顔つきで一瞬黙り込んだけれど、仕方ないとばかりにため息をついた。


「致し方ありません。あまり使いたくない手段ですがしょうがないでしょう。最終的な手を使います」


「最終的な…」


「手…?」


私たちはまた目を見合わせた。


* * *


私たちは変装をして、通行手形をきっちりと町の出入り口を警備する兵士に見せて、そして勇者一行とバレることもなく堂々と正面からカゼロ町に入った。


サードの言っていた最終的な手口、それは…。


「うわぁ…この偽造手形よくできてるぅ。勇者様手先器用だなぁ、こういうのやったことあるんじゃないの?」


兵士たちに見せた偽の通行手形と本物の通行手形を見比べたモディリーは感嘆の声を上げて、サードは平然と答える。


「昔から私は器用でして」


そう、サードがやったのは通行手形の偽造。


入国、そして出国する際はいつ誰が入国してきて出国したかの情報が魔法陣を通して自動で国に送られる。


それでもサードは言っていたわ。


「そんな町単位での確認なんて検問みてえなもんだろ。検問の情報が国にわざわざ送られるはずがねえ、だったら偽造の通行手形で十分。任せろよ、通行手形の偽造はウチサザイ国の手慣れてる宿屋の主人から学んだからすぐできるぜ」


昨日の夜、サードは宿屋でそう喋りながら偽造の通行手形を全員分あっという間に完成させ、今日はそれでカゼロ町にやすやすと入ることができた…けど…こいつウチサザイ国で何を学んできたのよ、他にもこんな悪行覚えてないわよね…。


不安に思っているとガウリスはコソッと小声でサードに質問する。


「ところで先ほどバーソロミュー軍に加勢するとおっしゃっていましたが、本当に加勢するのですか?」


するとサードは「まさか」と言いたげな馬鹿にする顔でガウリスに笑い返した。


そう、町に入る時に通行手形を確認していた兵士たちはモディリーに対して、


「まーた遺跡調査かよオッサン」


「こっちはそれどころじゃねえのに趣味に没頭かよ」


「気楽でいいよな」


と悪態をついていたけれど、私たちの通行手形を確認し始めたら「お」と急に目つきを変えてきた。


あの時は偽造がバレたのかとビクッとしたけど、兵士はモディリーに対するのとは違う親し気な態度で私たちに歩み寄り、


「お前らは考古学者じゃなくて冒険者だって?そのオッサンの身辺警護か?」


「ええ、彼のボディガードとして雇われました」


サードがそう返すと兵士は、


「そうか、現役の冒険者ならちょうどいいや、そっちの用事が終わったらそのまま俺たちの軍に加勢しろよ。依頼だから金も出すぜ」


つまり戦いに参加しろってこと。でも冒険者は戦争とかには基本的に不参加の位置づけにいる。だって戦う相手は人じゃなくて人に害を出すモンスターだし。


でも世の中ボディガードとして雇われていたら雇用主もろともゴタゴタに巻き込まれて戦争に加担していた、ということもまれにあるみたいなのよね。

だから依頼仲介をするハロワもこう表記している。


・冒険者が戦争あるいは紛争に加担した場合、自主的にせよ不可抗力にせよその全てにおいてハロワは一切関与せず責任を負わないものとする。


・戦争紛争に関わった時点で報酬は加担した側から得るものとし、ハロワからの報酬支払は取り消すことにする。それについての報酬支払の有無、責任はハロワが負うものではない。


つまりどんな理由であれ、争いに加担した時点で冒険者を守る側のハロワに見捨てられるうえにそれまで受けていた依頼の報酬はゼロ。

それに戦争は死ぬ確率が格段に高く、加担した側が勝利を得たとしても部外者の冒険者に与えられる報酬なんて微々たるもの…って噂程度の話は聞いている。


冒険者にとって戦争に加担するのは何のメリットもない。だからサードはのらくらと断るだろうと成り行きを見ていたら、次に続く兵士の言葉でサードはすぐさま、


「分かりました、こちらの仕事が終わり次第加勢いたします」


って頷いた。その兵士の言葉と言うのが、


「俺らの軍に加勢するってなら、兵士用の寝泊まりできる拠点を融通してやるぜ」


…そう、サードは無料で寝泊まりできる場所が欲しいだけで頷いた。それだけ。


目を前に向けると拠点まで案内する兵士が歩いていて、私たちはその後ろをついていっている。


「ちなみに敵対しているオビドはどのような者なのですか?」


サードが質問するとシモーンという名前の兵士はダルそうに軽く振り返りながら、


「オビド?あの野郎は昔っからガラの悪い奴で、国の兵士…とはいえほとんどオビド自らが雇った犯罪者紛いの経歴を持つ兵士との付き合いが深くてなぁ、他国の傭兵もオビドの元にいるがそっちも素性の知れねえのばっかだ」


そう言いながら前を向いて、


「この町にいる兵士はオビドを嫌う奴らで構成されてんだぜ、ガラが悪い奴らを優遇するオビドが皇帝になるくらいなら無能なバーソロミューのほうがマシだってよ。バーソロミューはおだてて後ろに引っ込めときゃ大臣どもが政治を執ってどうにかなる」


…この人バーソロミュー軍の一員なのに、呼び捨てにして小馬鹿にしているわ…。何だかんだバーソロミューも人望がないのね。


そんなことを思っているとアレンが後ろでボソッと呟いた。


「何かバーソロミューとオビドって、昔のファディアントとジルみてぇだな」


その言葉にサードはハン、と乾いた声で笑ってから気も無いように返答をした。


「旧エルボ国対ウチサザイ国の対決ですか?笑えませんねえ」

昔のファディアントVSジル


ジル

「ああ、んだこのジジイが、ぶっ殺すぞゴルァ!」(ガンギマりの目で腕の周りで火花がバチバチ鳴ってる)


昔のファディアント

「勝てるわけないだろおおお(泣)!お母様ああ、助けてお母様アアアア!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ