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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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依頼を受けるのかい、受けないのかい、どっちなんだい

昨日私はあなたを見たの発言にモディリーは驚いて、


「えっ!?勇者御一行がどこで俺を!?」


と私に聞いてくる。


そこでハッと気づいた。思えばあれは一方的にこっちから見たもので、モディリーがその事を知ってるわけがない。


「え…っと…私の使い魔の目で遠くにチラッと…」


「えー、何それ覗き?いやん」


そう言いながらなぜか胸を隠すモディリーに脱力しつつ私は顔を上げて、


「覗きなんてしてないわよ、遠くにチラッとみえただけ!…で、依頼のことで来たのよね?」


話を本題に切り替えるとモディリーは胸を隠す仕草をやめて、


「そうそう、だがまずは俺の自己紹介から始めようか。俺はモディリー・ドアーニ。五十七歳の考古学者、今まで見つけてきた財宝は数知れず、考古学者の中では謎のトレジャーハンターって有名なんだぜ俺。で、依頼内容は財宝のありかに巣くうモンスターから俺を守って欲しい、これだけ。そんで報酬なんだけどお…」


「少々お待ちください」


モディリーが話し続けるのをサードが手を差し出して一旦止める。


「どうしてあなたは私たち勇者一行がここにいると分かったのです?」


「え?」


「あなたはこの部屋に入ってきた瞬間『勇者御一行様』と言いました。それとたった今もあなたを見たという言葉に『勇者御一行がどこで俺を』と返しましたね?」


そこで区切りわざとらしく分からないとばかりの素振りをしながら、


「しかしおかしいではないですか。私たちがここに入国したのは昨日で、それを知っているのは入国審査をした兵士とこのカンパニーの一部の者のみ。でもあなたは部屋に入ると同時に勇者御一行と私たちに向かって言い放ちました、それはどうしてですか?」


そこで私もフッと気づく。カーミは勇者御一行がいるとは相手に伝えてないって言っていたはず。


サードと私がジッと見つめていると、モディリーは少し顔を強ばらせて、少し焦った様子で喋り出す。


「え、いや、ほら、昨日俺が依頼をお願いしたカーミって子いたじゃん?あの子が俺は勇者御一行の知り合いだって言ってたからぁ」


「え?」


明らかにおかしい。カーミが言っていたこととモディリーの言っていることが全然違う。私の思わずの声にモディリーはドギマギしたように、


「えっ、て何さ…」


とモゴモゴ言っている。


チラと見るとサードの微笑みに裏の感情がよぎり始める。ものすごく不信感の募っている表情でモディリーを見据えている。


「そのカーミとやらは勇者御一行の知り合いだとあなたに伝えた、そういうことですね?」


「そうそう!だから勇者御一行に護衛してもらえれば心強いな~って思って…」


「そうですね、確かに彼と私たちが知り合いなのは認めましょう。しかしながら彼には勇者一行の立場では手に入れにくい(ひそ)やかな所での情報を集める仕事を頼んでいます。彼もそれを重々承知の上でお互いが連絡を取り合う間柄だと他人に明かさない取り決めだったのですが」


「…」


モディリーの顔がさらに強ばっていく。


「それでもカーミは、あなたに、自分は勇者御一行と知り合いだと、伝えた。それに間違いはありませんね?」


確認するように、怒りを押し殺すかのようにサードが一つ一つ区切りながら聞いていくけど…ちょっと待って、この流れのままじゃカーミがとんでもないヘマをしたってことでクビにされそう…!


私は慌ててサードに声をかける。


「ね、ねえサード、それでもカーミは私たちの路銀の心配をしてこうやって財宝を探す手伝いをしてくれたんだと思うの…」


言っててこんなもんじゃサードの怒りは解けないとアワワワ…とうろたえると、モディリーはため息をついて手を軽く上にあげて降参ポーズをとる。


「あー、もういいや。ごめんね、オッサンちょっと嘘ついた。カーミは何にも悪くねえよ、俺がカーミにしつこく聞きまくって勇者御一行がここにいるって知ったんだ」


「…」


サードは表向きの顔で無言ながらも話を続けろと促すように頷く。


「俺とカーミはお友達なんだよ、エルボ国城内で知り合った後ろ暗い職業お友達」


「エルボ国!?」


驚いて私とアレンが同時に聞き返すとモディリーは頷いて、


「そう、カーミは暗殺者、俺は殺し屋として雇われた時の知り合い。いやぁ昨日偶然会ってさぁ。サブリナちゃんが国王になったあとはお互いエルボ国からさよならしたんだけど、その時カーミが『楽しそうだから勇者一行の後追いかける』って言ってたからさ、今も勇者御一行の追っかけしてんの?って聞いたらすんげー渋って何も言わなくて…」


モディリーはそこで申し訳なさそうな顔をすると、


「俺とお前の仲じゃんってしつこく聞いたらようやく渋々と教えてくれたんだよ、今は勇者御一行の手足になって動いてるって。でも後ろ暗い経歴持ってるから勇者と関わってるって大っぴらに言えねえこともさ」


モディリーは帽子の穴の開いたところから手を突っ込み頭をボリボリとかきながら、


「で、ちょうどよく俺は財宝見つけたから勇者様方に護衛して欲しいから口利きしてくんねえかって無理に頼みこんだんだ。そしたら『じゃあ俺は腕利きの冒険者がいるってあんたに教えたことにするから、俺と勇者御一行が繋がってるようなことは絶対に言うなよ』って言ったんだよね。だからカーミは何も悪くないぜ、俺が無理に聞き出しただけ」


「…本当にモディリー殺し屋なの?じゃあ考古学者っての嘘?」


アレンの質問にモディリーは腕を組んで、


「どっちも本当。殺し屋が本業、考古学者はサブ職。ほれ、考古学って基本的に辺鄙(へんぴ)な場所歩くようなもんじゃん?だから実績のある考古学者だって堂々と言っときゃ変な所一人でうろついててもスルーされやすいってわけよ。まーおかげで名前は出回ってなくてもサブの考古学者のほうが有名になってっけど、俺」


モディリーは深ーくため息をつくと、


「でも失敗したぁ、噂の勇者御一行に会えたからついテンション上がってポロッと口が滑って…カーミごめんなぁ、俺ヘマしちまったよぉ。状況が状況だったらお前殺されちゃう所だったよぉ、ごめんよぉ」


どこかに向かってモディリーは指を組んで謝っている。殺し屋だって言うけど、何か憎めないっていうか、悪い人ではなさそうな感じ…。


そこでモディリーはクルリと振り返って、


「そんで依頼の話…」


「断ります」


「ええ!俺が殺し屋だから!?」


驚くモディリーにサードはツラツラと言い放つ。


「それもありますが一番の問題は私たちを騙しながら依頼しようとしたことです。我々は命を懸けて依頼を受ける立場なのです、それなのに嘘をつかれるなど非常に遺憾です。以前にも依頼主に嘘をつかれ殺される一歩手前まで追い込まれたこともありました。ですから嘘をつく依頼人など信用できません」


え?まさかサードが嘘をつかれたまま依頼を受けて死にそうになるヘマをしたことがあるなんて。私が仲間になる前の話かしら。


そう思っているとモディリーは渋い顔になってサードに問いかける。


「どうしてもダメ?」


「どうしてもダメですね。他の者を頼るのがよろしいでしょう」


モディリーは頭をガシガシかいて、諦めきれないように身を乗り出す。


「でも俺は本当に財宝を見つけたんだ!どうだ、その財宝を山分けってところで…」


「お帰り下さい」


サードは部屋のドアに向かって手を動かす。モディリーは変顔をしながら、


「だったら報酬の六割…いや七割そっちの分でいいから…」


「お帰り下さい、出口はそちらです」


なおも手をドアに向けるサードにモディリーは「く…!」と拳を握りながら、


「頼むよ!こんな内戦やってる国で他に護衛してくれる上級冒険者なんていねえんだから!」


「…」


もはや何も言わず黙ってドアを手で指し示すサードを見たモディリーはガックリうなだれた。そのままトボトボとドアに向かって歩いていく。


「サード…」


そのしょぼくれた背中を見ていると何だか可哀想になってきて、あんまりじゃないの、という気持ちでサードに声をかけると、ドアノブに手を伸ばしかけたモディリーがピタリと止まって「フフ…フフフフフ…」と肩を揺らし、かすかに笑いだす。


そのままモディリーは恨めしそうな顔でゆっくりと、ゆっくりと振り返った。


「いいのかなぁ?このままオッサンを帰しちゃって…。俺バーソロミューかオビドに勇者御一行がここにいるって直接言いに行っちゃうかもしれないよお?」


サードの動きが止まる。


「困っちゃうよねえ?そうなりゃ厄介だぜえ?この国の皇子どもはアホだからアホアホしい考えのまま勇者御一行を身内に引き入れようとどこまでも頑張るぜえ?カーミからちょっと聞いたけど、ここには人探しで来たんだろ?だとしたら人探しどころじゃなくなるよなぁ、へっへっへっ…」


おどろおどろしくモディリーは笑っている。でもそれはだけは絶対にダメ、以前のファディアントみたいな二人がどこまでも私たちに関わってくるなんてそんなのは…!


サードをバッとみた。それでもサードは表情を一つも変えず、いつも通りの表向きの微笑みをフッと浮かべる。


「どうぞ、言えるものなら」


モディリーの笑いはすぐさま引っ込み、サードは続けた。


「先ほどエリーが言いましたね?使い魔を使いあなたを見たことがあると」


そう言うとサードはモディリーにゆっくり詰め寄る。


「こちらはあなたの行動はつぶさに観察できます。これがどのような意味を示しているか、殺し屋のあなたならばご理解いただけるでしょう?」


今度はモディリーの動きが止まって、ヒク、と口端が動く。


「いつでも殺せるってか?」


「まさか。勇者の私がそんな脅しをするわけがないでしょう」


いや、誰が聞いてもその通りの脅しをしているじゃないの。


モディリーはもうこれは完全にダメだと察したのか、ガックリと肩を落として、


「あーあ、だったらいいよ、命は惜しいや」


と殺し屋が言うセリフじゃないことを言いながらドアノブを掴んだ瞬間、「うおっと!」とすぐさまドアノブから手を離した。


何かと思ったら、ドアを開けようとしたと同時に向こうからドアを開けられたみたい。


ドアを開けたのはヒズで、開けた目の前に人が立っていたから「ヒャッ」と目を丸くして驚く。でもその驚いて丸くなった目はヒュッとリビウスの開き切った瞳孔に変わるとモディリーを真っすぐ指さした。


「あ!ベルーノだ!」


「ベルーノ!?」


私たちは叫んで一気にモディリーに視線を向ける。全員から視線を向けられたモディリーはキョドキョドと、


「えっ?えっ?俺ベルーノじゃないよ、モディリーだよ」


と言っている。するとリビウスはモディリーの背後に回り込み「ベルーノ!ベルーノ!」っとはしゃいでいたけれど、その視線はモディリーの背中から壁のほうへ素早く移動し、


「あああ!ベルーノどこ行くの!?」


って叫んで走って両手をドンッと壁につけ…シュン、と肩を落として振り向いた。


「ベルーノ行っちゃった…」


「どこに」


サードが早口で問い詰めるとリビウスは壁を指さして、


「壁すり抜けてどっか行った」


「えええ…!?ってことはベルーノ最初っからこの部屋に居たの?もしかしてモディリーと一緒に?」


アレンが驚いたように言うとサードはガウリスをギッと睨みつける。


「ガウリス…?あなたは見えていたはずなのにどうして何も…」


サードが最後まで言いきらないうちにガウリスは慌てたように手を振る。


「あ、いえあの、全く動く気配もないし喋る気配もないのでモディリーさんに憑いているただの幽霊かと…まさかベルーノさんだとは思わず…!」


そのガウリスの言葉にモディリーは驚いたように、


「え?あれ幽霊だったの!?」


と言いだして、今度は私たちが驚いて返す。


「モディリーはベルーノ見えてたの!?」


モディリーはうんうん頷いて、でもどこかホッとした顔で胸をなでおろした。


「少し前から後ろにいたんだよ…何も喋らないし何もしてこないんだけど見た目すごく死神っぽいから、もしかして俺近々死ぬのかなって脅えてたんだよな…。良かった幽霊か…しかもどっか消えたわ」


するとリビウスの顔がマイレージの顔にヒュッと変わってせせら笑った。


「あいつは見た目も性格も暗い野郎だからな。それに冒険してる時の姿のままだとしたら黒いローブまとって猫背でジーッと俯いてる姿勢で顔もろくに見えねえだろうから、そりゃあ死神と間違われても仕方ねえ」


ヒズの変化にモディリーは何かツッコミたそうな雰囲気をしたけれど、それ以上にこっちの話が気になったのか質問してくる。


「ってことは勇者御一行はあの死神…っつーか幽霊を探してたってわけ?」


「まぁ、そういうことです」


そこは隠す必要はないと思ったのかあっさりサードが認めると、モディリーはシゲシゲとヒズを見ていて、顔をしかめながら指さす。


「見た感じこの女の子の周りにも幽霊みたいなのが三人いて身体に出入りしてるよねえ…。顔も声も性格もすげー変わってるけど大丈夫なのこれ」


「へー、モディリー見えるんだぁ」


「うん…やっぱり皆に見えてないの見えてるねぇ。大丈夫かな、やっぱ俺呪われてるのかな…」


驚くアレンにモディリーは不安そうに頷いている。


サードはその様子を見て何か考えこむようにあごをさすり、私に聞いてきた。


「エリー。イルルがベルーノを発見した時、モディリーも視界に入るほどの場所にいたのですよね?」


「え?うん、モディリーは遠くを歩いていたけど…思えば同じ方向に一定間隔の距離で歩いてたって感じもする」


そこでサードはモディリーに視線を向ける。


「ちなみにベルーノが背後に現れ始めたのはいつごろですか?」


「ルミエールの財宝を見つけた辺りから。だから財宝の呪いかなんかで死神がついてきたのかなって思っててさ、すげー怖かったんだよぉ」


「…ずっとあなたの背後にいたのですか?」


「んー…。怖くて後ろ見てなかったけど多分いたのかな?ほらオッサン殺し屋で背後に敏感なとこあるからさ、気配はかすかに感じてた」


「背後に現れ続ける理由などは分かりますか?」


「分かんねえって。呪われたとしか思ってなかったもん」


「理由も分からないのにあなたの背後に現れると…。なるほど、ならば少々事情が変わりました。あなたの依頼を受けましょう」


「マジで!」


パッと顔を輝かせるモディリーにサードはニッコリ優雅に微笑む。


「そういえば財宝の取り分はこちらが七割という条件でしたね?それも含め依頼をお受けします」


「うえーマジかよ勇者様エゲつねえよお!」


モディリーは膝から崩れ落ちた。

サード

「(裏社会の奴なのにこいつチョロいな)」


モディリー

「(勇者様は誰にでも優しいって評判だからチョロい野郎だと思ってたのに、想像以上に扱いづらい…。カーミこんなのが雇い主で大変だろうなぁ、同情するぜ)」

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