財宝の依頼は突然に
契約書にサインを書いて、リアンとヒズの契約は完了した。
「じゃあこのデザインの服を作る度に使用料をあんたの財布に振り込むことにするから、あとで公安局があったらそこでその手続きしてちょうだい」
「は~い」
「え、財布に直接お金振り込むとかそんなのできるの」
アレンが興味あり気に聞くと、ヒズは頷きながら自分の財布を取り出す。
「そうなんですう。旅に出る前にお母さんに説明されたんですけどお、つい最近作り出されて少しずつ広まってきたアルゲンタリアっていう魔法らしいんですう。契約を交わした人同士とか場所同士でお金を入れて、取りだして、っていうことができるって。実は私のこのお財布にもアルゲンタリアの魔法がかかっててうちの金庫と繋がってるんですう」
私は驚いて目を見開き、ヒズの肩を掴んで軽く揺らしガチめに注意する。
「あのねヒズ、それは絶対に人前で言わないほうがいい。それとそういうことならその財布も無防備に見せびらかさないほうがいい」
でもなるほどね、色んなものを湯水のように買っているヒズを見ていて、いつ「お金がなくなりましたあ」って泣きついてくるかと心配していたけれど…それでも尽きることなくお金を使い続けているから少し不思議だったのよね。
リアンも堂々と自分の財布は金庫と繋がってると皆の前で言ってしまうヒズを心底見下げるような目でみて、
「…あんた、本当にもっと広い目で世間を知るべきだわ。この先どうやって生きていくつもりなの…てか、その金庫にあるお金を使い果たしたらもうその財布からお金がとり出せないの知ってる?」
「知ってますう、お母さんに説明されましたから!」
エッヘン、とばかりにドヤ顔をするヒズにリアンは余計表情を歪めて「それくらいじゃ自慢できる内容じゃないのよ」とぼやきながらも気を取り直したように聞く、
「で、あんたのデザインが素晴しいのは分かったけど、デザインだけ?それとも布一枚から服作れる?」
「服は一から作ったことないですけど刺繍は得意ですよお。服のほつれも直すの得意ですう。レースも色んなところにつけることもできますしい、服にチャックを縫いつけるのも得意ですう」
するとリアンの顔つきが少し軽くなる。
「あら、つまり縫製は全般的に得意ってわけ?じゃあカンパニーの中ちょっくら見学してく?」
「いいんですかあ?」
「いいわよ、じゃあ行きましょ。勇者様方、ちょっとヒズ借りてくわ。こっから真っすぐ行ったところに宿泊できる部屋があるから適当に使ってちょうだい」
去ってくリアンとヒズを見送り、
「それなら私たちは部屋に行きましょうか」
とめいめい立ち上がった…。
* * *
「あのさあ」
「ギャッ!」
部屋に入って急に横から声をかけられて私は飛び上がる。横を見ると…。
「カーミー…!」
アキャシャ国で別れたはずのカーミが普通に私の部屋の中にいる…。っていうかまずは挨拶しなさいよ、いきなり声かけてくるんじゃないわよ驚くんだから…!
睨む私をよそにカーミはアハハと笑って、
「そんな怒んないでよ、いい話持ってきたんだからさ」
「いい話…?」
オウム返しをしてからハッとして身を乗り出す。
「もしかしてベルーノを見つけたの?」
「まっさかぁ。俺幽霊みたいなの見えないし、さすがにこの短時間じゃ無理でしょ」
笑って手を振りながらカーミが言うから私は先を促した。
「じゃあなんなの、いい話って」
するとカーミは指をVの形に突き立てながら目をキラキラさせて身を乗り出す。
「なんと、大金が手に入る依頼を勇者御一行の代わりに受けてきましたー!ヒューウ、パチパチパチィ!」
自分でテンション上がる口笛を吹いて拍手をしながらカーミはそのままの高いテンションで続ける。
「俺この国に入ってからすごく困ってる人に声かけられたわけ。どうやら俺のこと冒険者と思ったみたいでさ、ボディガードしてほしいみたいな話をされたわけよ。そんでもう少し詳しく聞いたんだけど…なんとそれってのがこの国の奴らが血眼になって探してたルミエールの財宝のことなんだってさ!」
「ルミエールの…財宝…?」
何それとばかりに聞くとカーミは興奮気味の早口で説明を始める。
「ルミエールはこのリベラリスム大帝国の初代皇帝。そのルミエールが隠したものが通称『ルミエールの財宝』として伝わってるわけだ。その財宝ってのがすげーらしいぜ。なんとお金や宝物を管理するための王宮が一つ用意されてて、その全ての部屋に光り輝く宝物が敷き詰められてたとか何とか!」
「へえ」
簡単に頷くとカーミは早口をピタ…と止めて私を見る。
「…何か食いつき悪いなぁ」
「いえ、楽しいと思ってるわよ?」
「いやさ~、普通財宝が手に入るかも~ってなったら目とか輝かせない?目が眩むくらいのお金がいっぱい手に入るんだぜ?」
カーミはケチをつけてくるけれど、すぐさまある考えにたどり着いたような顔で「あー、なるほど」とあごをさすり身を引く。
「そういやエリーさんって元々貴族で金に困ることのない家の出だもんね。そんで冒険者になっても金に困ったこともろくにねえらしいもんな。そこまで金銀財宝に執着するような人じゃないか」
そう言われるとムッとなる。
「私だってお金は大事だしあれば欲しいって思ってるわよ」
「勇者様ほどじゃないでしょ?」
「まあそれはね」
ふふ、とカーミは笑ってから改めた口調で私に続ける。
「まあそんな財宝が手に入る依頼を受けてきたんだ。やるでしょ?」
「ん~でも無理よ、悪いけど断ってきてちょうだい。私たちはベルーノを探さないといけないんだもの。ただでさえこの国は内戦中で色々と物騒だし、皇太子たちに私たち勇者一行がいるってバレないうちに外に出たいからあんまり長居したくないわ。そんな財宝探しの手伝いなんて時間がかかりそうな依頼は受けられないわよ」
「実はもう財宝がある場所はもうその依頼人が知ってんだ」
「…え」
目をパチクリしながらカーミを見て、でも何かおかしいことに気づいて質問する。
「だったらその人が一人で財宝を取りに行けばいい話じゃない」
「場所的に冒険者の手を借りたいんだって」
ということはモンスターが出る可能性がものすごく高いってことね。なるほど。
「でもベルーノを探さないといけないからそっちはちょっと…」
「イルルさんにベルーノさん探してもらえば?そういう目に見えないの見つけんの得意なんでしょ?」
「イルルにはゾルゲを探してもらっている最中よ」
「主人のエリーさんが探せって言ったら探すでしょ。俺もウチサザイ国にいた時は二つや三つ同時に依頼を進行してた時もあるもん。俺でもやってったんだから魔族のイルルさんにとっちゃどーってことないって」
「…」
でもなぁ、と一瞬思ったけど確かに良い考えかも。物静かなベルーノは探しにくいでしょうし、イルルは探し人と探し物に特化した人だからこそ私の使い魔としてやってきたんだし。
そうよね、サードだってできる限りこの国からは早めに出て行きたいって言っていて、目に見えないベルーノを探すにはやっぱりイルルに協力してもらえたら楽かも。
それなら早速私は指輪に向かって声をかける。
「イルル」
すると空中からスウ、とイルルが現れた。
「はい、エリーお嬢様…と、カーミ坊ちゃま」
私だけじゃなくてカーミもいるのを見つけて、付け足すようにイルルは続ける。
「坊ちゃまだって、ふふ、俺そんな家の出じゃねえのに」
低い物腰で坊ちゃまと言われたカーミは満更でもなさそう。サードは嫌がったけどね、坊ちゃま呼び。
私はそっと伺うように声をかける。
「あのねお願いがあるんだけど、いい?」
「もちろん。エリーお嬢様の願いことを聞くためにあっしは魔界から呼ばれたんでございやすから」
「…」
やっぱりサードが言うような危険な感じはしないのよねぇ。ナディムは何を考えているのか今の所ハッキリしないとは言っていたけど…。でもまあ、まだまだ知り合ったばっかりなんだから、これから時間をかけて全員と信頼関係を築いていけばいいわ。
そう思いながら私はイルルに伝えた。
「あのね、ゾルゲ探しの前にベルーノを探してもらいたいんだけど大丈夫かしら」
「ベルーノとは、一体全体どこのどいつです?」
あれ、ベルーノのこと伝えてなかったっけ。
「ヒズの周りにいる男の人たちは見えてる?あの全員が元インラス一行のパーティの人たちで、ベルーノはその一人なんだけど」
イルルはかすかに「インラスの…」と驚いたように目を見張りながらも、なるほどなるほどと何度か頷く。
「エリーお嬢様方はゾルゲ以外にもそういう存在を探しているんでございやすか」
「ええ。探せるかしら」
「それがご命令であればもちろん探してきやす」
あ、良かった。ゾルゲ探しの最中に別の仕事は無理って断られなくて。それならとマイレージたちから聞いたベルーノの特徴を伝えると、イルルは頭を深々と下げる。
「ならこれからベルーノ様を探してきやす」
スウ、とイルルは消えていき、それを見たカーミはうんうん頷く。
「じゃあベルーノさんのこともこれでオッケーってことで、俺が持ってきた依頼もよろしく、ちなみに依頼人の名前はモディリー・ドアーニっていう汚い身なりのオッサン、でも気の良い奴だぜ。一応そのモディリーには勇者御一行じゃなくて腕利きの冒険者がいる程度に伝えておいたから安心してくれよな!」
「安心って、何が?」
「だって俺が勇者様たちの周りうろちょろするのサードさんが嫌がるじゃん」
あ…そっか、元暗殺者兼スパイのカーミが勇者の周りにいるって思われるのサードは嫌がってるんだっけ、忘れてた。…むしろもうそんなのどうだっていいような気もするんだけどねぇ…、それでもサードはカーミのこと一方的に嫌っているのよねぇ…。
「じゃよろしくねー、明日ここに依頼者のモディリー来るから」
「え、ちょ、待ってよ、その依頼は受けられないってば、サード抜きで勝手に決められないし…」
私の言葉が聞こえているでしょうに、カーミはまるで聞こえないとばかりに片手をチャッと上げて窓から飛び降りて走り去っていった。
「ちょっとー!こらカーミー!」
窓に走り寄って声をかけるけど、もうカーミは走り去ってしまった後。
「…え~どうしよ、こんなの絶対サードだって嫌がるし怒るに決まってるじゃないの…」
多分カーミは自分が勝手に話を進めて依頼を受ける形になってしまって、これを普通に伝えたら絶対サードから「勝手なことをするてめえはクビだ」とブチ切れられると思ったから私経由で話をしてもらおうとしたに違いないわ。
でも本当に困った、どうしよう、そのモディリーって人は私たちに依頼を受けてもらえるって信じて明日やって来る。でもサードに無断でこんな話が決まったって伝えたら絶対に機嫌が悪くなって、カーミへ向かうはずだった怒りが全部私に向かってくるわ。
「…う~~~…」
私は頭を抱え、ベッドに座った。
カーミ
「ドロー!俺はこのカードを使うぜ、『犠牲の伝達者』!エリーさんを犠牲に真実を伝えさせ、俺に勇者様からの怒りを向けられないようにする!そしてターンエンドだ」
エリー
「じゃあ私もドロー…。え、『最悪のシナリオ』…?このカードを引いたら現時点で相手が発揮している能力に従わないといけないトラップカード…。ど、どうして私のデッキにこんなものが!?」
カーミ
「ククク…駄目だなぁエリーさん、戦う前に自分のデッキはちゃんと確認しないとさぁ~」
アレン
「わぁ、なんか楽しそうなことやってる~。まーぜーてっ」




