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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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エタンセルカンパニー

ずんずん近づいてくるのは見た感じ男の人…だけど…それでも女の人の格好をしているわ。歩き方は女性的だけど…でも男の人よね…。


近づくにつれてその人の細かい所が見えてきた。


オレンジ色の毛先を外側に大きくカールさせたボブカット、化粧もバリッとしていて、足の見えるドレスを着て腰をくねらせ歩いてくる。


「ちょっと!ちょっとそこのあなた!」


その女装の人は私を指さし真っすぐ突き進んでくる。


「え…え…私?」


もう女装の人は歩くのがじれったくなったのかドォドッと全力で走ってきて、そのままの勢いで私の肩をガッと掴んだ。


「そうよ、あなたよ!」


「ヒッ」


勢いある迫り方に思わず引いていると、女装の人の手が私の胸元に伸びる…。


え、セクハラ!?


驚きで身を固めていると、女装の人はシースルーのストールを掴んだ。


「やっだ、やっぱりそうだ!これアタシが今季限定でデザインして作った服じゃな~い!」


「えっ!?」


この服を作ったっていう…例の人気デザイナー?


マジマジと見ていると目の前の人も何かに気づいたみたいな顔をして、スッと背筋を正して微笑む。


「あらいきなりごめんなさい。アタシはリアン。今言った通りデザイナーをしているの。エタンセルカンパニーってとこのオーナー兼デザイナーよ」


その言葉にヒズは目を輝かせて顔の前で両手を合わせて、


「ええ!そうなんですかあ?会えて感動ですう、私この服一目みて気にいったんですよお、絶対エリーさんに似合うって思って、この服もすっごく素敵なんですもん~」


するとリアンは「あら」とヒズに視線を動かして、


「当たり前よ、アタシがデザインして作ったものなんだから。特にこだわったのがこの刺繍よ、白地に映える青とこの金の刺繍。この地域暑いから白に青で目には涼しく、それと模様は金でちょっと豪華に」


「私も刺繍するから本当にすごいな~って。こんなに綺麗な刺繍どれくらい時間かかったんだろ~って思ってたんですよお」


「刺繍はベテランを雇ってやってもらってるわ。この服全体で何か月かかったかしら、ちょっと特殊な糸と布を使ってるからベテラン三人がかりでも苦労してたわね」


「そうなんですか~?もう本当にこことかこことか、色の混ざり合いとか形とか縫い方も綺麗ですし本当にいいですよねえ~毎日エリーさんの着てるこの服見るだけで私幸せになれるんですよお」


「お目が高い!あんたプロの技が分かってるぅ!」


ヒズとリアンの二人が私の着ている服を両側から掴んだり引っ張ったり指さしたりと熱く語っている…。でも私を挟んで私の着ている服をあれこれ指さしながら言わないで欲しい。


するとリアンがフッと動きを止めて私をジッと見る。


「ん?そういえば、あんたエリーだって?」


そう言いながら少し落ち着いたのか一度皆を全体的に見渡して、ハッと手で口を押えた。


「え、ヤバ!もしかしてエリーって、エリー・マイ!?ってことはあんたら勇者御一行じゃないの!?見た目勇者御一行の奴ら揃ってんじゃない!」


「ええ…一般的にそう言われています」


本当は勇者一行とバレる前に変装したかったサードは不承不承ながらもいつもの言葉で頷くと、リアンは両手で口を押えて「ヤバいヤバいヤバい」って連続で続ける。


「ってことはあれじゃない、アタシの作った服を勇者御一行のエリー・マイが着てるってことじゃない、ねえ!」


同意を求められたから頷く。すると相手はそれまで女性的な声をしていたのに、


「ッシャア!これでアタシの宣伝文句が一つ増えたわ!」


と明らかに男って分かる野太い声を出してガッツポーズを決める。するとアレンは聞いた。


「ところでオーナー兼デザイナーの人が木の上で何やってたの?」


するとリアンはホホ、と笑う。


「あの木の葉っぱが色染めにちょうどいいって聞いたから試しに取りにきたの。キレイな緑色になるんですって、楽しみ~」


そこでよくよく見てみるとリアンの背中には籠があって、その中に葉っぱがたくさん入っている。


「へー、これからどうやって色出んの?」


「お湯で煮詰めたら色が出るんですって。まあとりあえずやってみないことには分からないから」


「…でも木に登って葉っぱをむしるとか…他の人にやらせてもいいんじゃね?」


「ん~まあね~。でも自分の目でどういう所にこういう葉っぱがあるかとか見ておきたかったからさ」


リアンはそう言いながら木を見上げて、


「ほら、馬鹿二人が兄弟喧嘩してんじゃない?そのせいで布どころか染色の原料も手に入り辛くなってきてんのよ。だったら自分たちで作るしかなくなってきたの。手が足りないのよ」


そっか、だからオーナーなのにわざわざ一人でこんな木に登っていたのね。


「だったら他国に拠点を構えればいいのでは?戦いはこの大帝国の中のみなのですから他の国に行ってしまえば布も染色の原料も手に入るでしょう」


サードが最もなことをいうけど、リアンは少し口をつぐんで、


「まあね。でもここで育ったからさ。他の国にいくのは…ちょっとね」


「利益優先で考えんなら他の国に行ったほうがいいと思うけどなぁ」


商人気質のアレンも他の国で商売したほうが儲かるのにとばかりに言うけど、それでもリアンはあんまり乗り気じゃなさそう。

ほんの少し無言の時間が流れて、サードはリアンに声をかけた。


「では私たちは用事がありますのでこれにて」


話は済んだとばかりに声をかけて離れようとすると、


「あ、ちょっと」


とリアンが声をかけてくる。


「ここに入ったばっかりでどうせ泊まるところないでしょ、あたしのキャッチコピー増やしてくれた礼ってことでうちのカンパニーに泊まって行きなさいよ。人数分の部屋はあるし、勇者御一行が泊まってってくれたらうちの従業員も皆喜ぶわ」


「そうですか?ならお願いします」


こんな所で無料の宿泊場をゲットできるとは。そんな感じでサードは即座に頷いた。


そうして私たちはリアンのカンパニーにお邪魔することになってリアンと雑談を交わしつつ後ろをついていった…けれど…。


たどり着いたところはどう見ても修道院にしか見えない。


「ここがカンパニーですか?…修道院ではなく?」


ガウリスが聞くとリアンは振り返ってニヤニヤと笑っている。


「元修道院よ。アタシがここに入れられた時はちゃんとした修道院だったんだけど、司祭の男がサイッテーな野郎でさ、ムカついたから追い出してやったの」


「…ええ…!?」


ガウリスの驚く声にリアンは悪びれない顔をして、


「『ええ』って何よ、司祭のあいつが悪いのよ。アタシが持ってきた持参金までならともかく、余分に持ってきた金も全部巻き上げてこの修道院の信者と賭博やってたんだもの。しかもあの野郎、元手増やすならともかく全部スリやがって。そんな奴ボコボコにして追い出して何が悪いわけ」


「…それは…」


黙り込むガウリスにアハハと笑いながらリアンは、


「ヒールで二回頭ぶん殴ったらひぃひぃ逃げ出してったわ。ついでに司祭の息のかかった修道士たちも全員ヒールでぶん殴って追い出して、賭博に出入りしてた信者も全員ヒールでぶん殴って出入り禁止にしてやったの。

そんで馬鹿皇太子どものせいで職に困ってる人たちを集めて服飾業を始めたってわけ。まー正しい選択だったわね、ここの修道院なんてあるだけで何の意味もないもんだったもの、だったらこうして金を作り出す職場に変えて働き口を作ったアタシってサイコーにカッコイイじゃない?」


「それはカッコイイ。お金を作り出して世の中に回すのは大切」


「でしょ~?あんた分かってるぅ。キスしてあげようか」


「ん~それはいい」


アレンは断り、リアンも「あっそ」と鼻で笑いながら、


「まー中に入ってー」


とドアを開けていくけど、ガウリスはどこか寂し気な顔で修道院を見つめているわ。修道院が潰されたことが寂しいのか、司祭がとんでもない人だったから寂しくなっているのかはよく分からないけれど…。


ともかく促されるがまま修道院の建物内に入ると、中身は修道院だった面影を残しつつ…それでも至る所にレースの布がかけられていて、窓にもお洒落でカラフルなカーテンが下がっている。


信者が座るための長椅子には丸められた布が山となっていて、ショーウインドウに飾られているようなお洒落な服を着たマネキンが至る所に置かれている。そもそも神様の像にまでフリフリの服を着せてるじゃない。さすがにあれは罰当たりすぎじゃ…。


「とりあえず元々修道士たちが使ってた部屋に案内するから好きに使ってちょうだい。たまに寝泊まりする人もいるから部屋は綺麗よ」


そう言いながらリアンはさっさと移動をしてその後ろを皆でついていく。


本来は祈りを捧げる場だった祭壇の脇を通って奥へと進んでいくと、日当たりのいい中庭で人々が糸を染色して、紡いで、裁縫をしている人たちが見える。


「やってるー?」


リアンが声をかけると針をチクチク動かしていた全員がこっちを振り向いてニコニコ笑いながら手を振っている。


そのほとんどがお婆さんたちだわ。


リアンは振り向いて自慢げにその人たちに手を向けた。


「あの人たちがうちのベテランの職人たちよ」


「ありゃあ確かにベテランだなぁ」


アレンの言葉にリアンは笑う。


「そ。年齢が全てじゃないけどやっぱ経験値が違うもの。自分、子供、孫にかけて刺繍のある服を作って教えてきたんだからその技術力はまさに一流よ。一人で針の穴に糸が通せないのが難点だけどね、老眼だから」


皆で軽く挨拶してから通り過ぎるけど、色んなことをしている人たちがいるわ。


部屋や廊下で布をマネキンにかけてあれこれと意見を出し合っている人、せっせとマネキンに服を着せて細かい調整をしている人、刺繍の縫い方を教える人、教わっている人…。


へえ…お婆さんたちだけじゃなくて男の人も結構いるのね。年齢層はかなりバラバラね。


そのうちの一人がリアンに駆け寄ってきた。


「リアンさん、あの…」


「あらランソワ、どうしたの」


ランソワと呼ばれた気弱そうな男の人は恐縮したように身を縮こませながら、


「さっきいつもの商人の方が来たんですが、新しい布がもう手に入らないそうなんです」


「っはあ!?」


リアンのドス声にランソワはビクッと震えて、オドオドと続けた。


「その…オビト様の軍が…」


「あんな馬鹿皇太子に様付けしなくて結構よ!で、何!」


「あ、はい、あの、オビドの軍が他国からの経路を大体押さえてしまったから、布をこの国に持ち運ぶ商人が危なくて行けないと断ってきたとのことで…」


「…ちなみにだけど、どれくらいの間入ってこないの、いつ入ってくるの」


「…分かりません…」


リアンは「ッカー!」と言いながら額を押さえて天を仰ぐ。


「参ったわぁ、お得意様からの依頼がまとまって入ってんのに…!」


「…」


うーん…色々大変そう…。

サード

「それにしてもヒールで二回殴られた程度で逃げだすとは、随分と軟弱な者たちだったのですね」


リアン

「トップリフト(ヒールの先端)に鉄仕込んだのよ、それで思いっきりぶん殴った」(悪い顔)


サード

「…(こいつ最高か?)」

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