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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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次に向かう所は…

「しかしベルーノのいる国で内戦が起きてるだなんてな…」


サードの言葉に私たちはうんうん頷く。


朝になってダドバ村から出発という時、見送りに来ていたエハンにいきなりロナーガが降りてきて、最後の忠告とばかりに言ったのよね。


「お前たちがこれから探そうとしているベルーノが今居る国はな、次期皇帝の座を狙う皇太子らが内戦をしていて危ないぞ。争いの渦中に巻き込まれないようくれぐれも気をつけていけ」


気をつけていけって言われてもねえ…どう気をつければいいのよ、一体。


これから先が思いやられるわと思っていると、ガウリスはアレンに聞いた。


「そういえばベルーノさんのいる国はどこなんです?」


アレンは地図を広げてすぐに指さす。


「ここだよ、リベラリスム大帝国。新しい地図ができる度にちょっとずつ他の国に領地取られるのか小さくなってく国」


「…ってことはいつでも他国に負け続けってことか」


サードはそう言うと鼻で笑いながらクッルスのソファーにもたれる。


「大帝国って名前ついてんのが可哀想ってもんだな、そんなん遅かれ早かれ滅亡するだけだろ」


「俺もベルーノがいる国のことちょっとずつ調べたんだけどさー、このリベラリスム大帝国を興した初代皇帝はすごい人だったらしいんだけど、その子供が凡庸な奴で、さらにその子も同じく、その子も…って感じで初代皇帝がまとめあげた大きい領地を治めきれないままグダグダと現在に至ってるって感じ」


それを聞いたサードは呆れ顔でアホくせえとばかりに吐き捨てた。


「そうやって長年領地を奪われ続けてんのに今は皇帝の座を巡ってガキどもが内輪もめか…馬鹿息子の典型だな」


それにしてもそんな争いが起きている国に行くのは初めてだからちょっと不安だわ。

大いに荒れたエルボ国、治安が悪すぎるウチサザイ国を通ってきたけれど、エルボ国は荒れていても戦争は終わった後だったし、ウチサザイ国は治安が悪くても戦争が起きていたわけじゃないし。


「そんな戦いが起きている国でどうやってベルーノを探す?」


私が皆に向かって聞くとサードが真っ先に口を開いた。


「リビウスともナディムともシーリーの言われた通りの場所で行き合ったから、そこに行けば会えるだろうが…内戦が起きてるってのが面倒くせえな、ともかく早めにベルーノには接触してえ」


「難しいんじゃないかな」


ナディムがボソッと呟いて、続ける。


「マイレージみたいに派手に立ち回って目立っていたり、リビウスみたいに賑やかであれば見つけやすいだろうけど…。ベルーノは戦闘の時以外は全く喋らない。必要最低限の会話すらしないし、目立ちたがらない性格でいつも皆の影に隠れていたから探すのはすごく難しいと思う」


「…」


そういえば、ベルーノって基本的に筆談する人だったのよね。そんな全然喋らないで人の影に隠れるような人、どうやって見つければいいのよ。


「そういえばベルーノってどういう感じの人?」


急にアレンが会話を変える。するとナディムの顔がヒュッとリビウスに変わった。


「ベルーノ全然喋んない!でも好き!目が優しい!」


リビウスは前も言っていたことを繰り返す。するとヒュッとマイレージに顔が変わって、


「何考えてるかさーっぱり分からねえ奴だ。話しかけても筆談だから会話のテンポずれるし、口元は布で隠してて表情もろくに見えねえし。悪い奴じゃねえってのは分かるがパーティの仲間じゃなかったらぜってーお互い話もしねえタイプ」


するとその顔がヒュッとナディムに変わって、


「そんなこと言って何だかんだマイレージはベルーノのことは気に入っていたじゃないか。僕もベルーノのことは好きだったよ。ほら、僕の家族が全員死んだお祝いしようってケーキを買ってきてくれたのベルーノでしょ?」


…あのねナディム、それ家族に長い間冷遇されて育ったっていうあなたの前半の人生が分からないまま聞くとベルーノがただのサイコパスなのよ。


「で、結局そのリベラリスム大帝国まではどれくらいかかんだ?」


サードが聞くと、アレンはサクッと答えた。


「あと一週間ちょい。向こうの国はこっちほど蒸し暑くはないみたいだけど、熱波がすごくて結局めちゃ暑いらしいから」


「だったら服装もこのままでいいのね?」


「うん、このままでいいと思う」


私の質問にアレンが答えるから、今着ている服を触る。


…良かった、こんなに値の張るいい服を買ったのに、たった数週間で「もう元の服で大丈夫だよ」とか言われなくて…。値段を考えるともっとたくさんの日数分着ないとなんかもったいないもの。


とりあえずもう一週間と少しか。クッルスだとそれくらいだけど、これが歩きだったらどれくらいかかることやら…。もうクッルスなしの冒険が想像できないわ。


* * *


「イルルー」


夜、ホテルで寝る前に指輪に向かって声をかけてみる。サードには度々呼び出して今何をしているのか話を聞けって言われたし、寝るにはまだ少し早いから。


すると空中からスウ…とイルルが現れた。


「お呼びですか、エリーお嬢様」


相も変わらずの卑屈さを感じさせるようなニヤけ顔。…本当にサードが警戒するぐらい危ない人なのかしら。


「えっとね、今どんな感じかなって思って呼んでみたんだけど。どう?何かゾルゲのことで分かったこととかある?」


「申し訳ねえこってす、まだまだ必要な情報は見つかりやせん」


「そう」


「へえ、そうでございやす」


「…」


マジマジとイルルを見てみる。サードはイルルの目が信用ならない、私たちの動きを探ってる、表情が変わらな過ぎるって散々言っていたけど…いくら見てもイルルの目からはサードが警戒するような危険な感じは見うけられない。


今までサードが気をつけろと言ったのはヤッジャにラニア。あの二人は確かに感情の読めない薄暗い目をする時が度々あったけど、イルルは全然そういう目はしないし…。


そう思っているとイルルがフッと私から視線を逸らした。


「そんなに見られたら照れやす」


「えっ、別にそんなつもりじゃないから…」


この間ヒズが結婚指輪とかプロポーズとか騒いでいたのを思い出して居心地が悪くなってしまって、慌てて話題を変える。


「ところでイルルって魔界でも人探しとか物探しをしていたのよね?」


「へえ、その通りで」


「どういう人たちに雇われていたの?」


「へえ、あっしは…」


イルルが立ったまま話始めようとしているのを見て、近くのソファーを手で示す。


「とりあえず座って?」


するとイルルはじっとソファーを見て、ゆっくりと座った。


「…主人となった者に座って話せと言われたのは生まれて初めてでございやす」


「そうなの?」


「大体は立って話してやした。自身より格下の者と対等の立場で話そうする魔族はそうそういやせん」


「…」


その例外みたいな魔族に私たちは結構会っているんだけどね。


「それどころかあんな死にかけのあっしに水と飴と薬草を与えてくれた魔族もエリーお嬢様が初めて…ああいえ、エリーお嬢様は魔族のようですが魔族じゃありやせんな、失礼いたしやした」


「ううん、大丈夫」


だって私には魔族の血が入っているから間違いではないもの。言わないけど。


椅子に座ったイルルはゆっくりと話し始める。


「魔界であっしは大体が格の低い貴族やそれに近い名門の者にこき使われることが多ございやした。不思議なもんでたまに雇われる格の高い貴族よりそこそこの家格のもんのほうが横柄で偉そうにふんぞり返っていやして、ああいう下級のお貴族様は実に仕事がしにくい相手でございやしたな」


「…」


私も一応下級貴族出身だから、そう言われるとちょっと肩身がせまい…。


それでもそんな肩身の狭さはあっという間になくなった。イルルは魔界でのいろんな話をしてくれた。本当に面倒くさかった仕事の話、とんでもなく嫌だった主人の話、貴族と金持ちと一般人からの待遇の違いのこと…。


魔界の話なんてそうそう聞けないからその全てが面白くて、思わず私も笑ってしまったり、一緒に酷いと怒ったり…。


そうして話に一段落ついてから私はまたイルルをマジマジと見る。


だって、警戒するほど危険な人がここまで魔界での話を話したりするかしら。

思えば魔界の話って魔族の皆そんなにしてくれないのよね、ロッテも魔界の文字はサードに教えなかったし、あんまり人間界の人に魔界のことは教えたくないって感覚は魔族共通で持っているのかも。


そんな中でもイルルはこうやって包み隠さずあれこれと詳しく話してくれたんだから、やっぱり信用しても大丈夫よね。


「…ねえイルル」


「へえ」


「サードはあなたのこと警戒しているみたい」


「それは知っていやす」


「教えて欲しいんだけど、私たちが勇者一行だって知った時どう思ったの?サードはそう告げられた時に魔族のあなたが何の反応もしないし表情も変わらなかったことが妙に引っかかっているみたいなの」


「どうもこうもありやせん。エリーお嬢様に命を助けられた時からあっしはエリーお嬢様のために死ぬまで尽くそうと思っておりやした、それが魔族を何度も討ち果たしてきた勇者御一行だと知っても。ただそれだけのことでございやす」


ハッキリそう言う姿からは嘘をついているようにも見えない。


私は一息ついて、ふふ、と笑った。


「良かった。今までサードが変に警戒する時って私たちを利用しようとする人たちと会っている時だったから、実は私も少し気になっていたの。でも十分わかったわ、イルルはそんなこと…」


話している途中で私はイルルの目を見てフッと口をつぐんだ。ニヤケ顔ながらもイルルはどこか真顔に近い顔になっていて、まるでヤッジャやラニアみたいにどこか薄暗くて感情の見えない目をしている。


でもすぐさまイルルの顔はいつも通りのニヤケ顔になって、


「もちろん、そんなことあるわけありやせん。さあ、そろそろエリーお嬢様はお休みの時間でございやしょう。あっしはこれで…」


私が呼び止める間もなく、イルルは頭を下げてスウ…と消えてしまった。

マイレージ

「ベルーノはパーティの仲間じゃなかったらぜってーお互い話もしねえタイプ」


↑学校の部活仲間じゃなかったら話さない同士って感じだね。

ついでに今のメンバーが学校の生徒で必ず部活かそれに近いのに入らないといけないとしたらこんなん↓


サード…自主的に生徒会副会長に就任(面倒だが生徒会就任の肩書があれば進学就職に有利と判断)


エリー…推薦で生徒会副会長に就任(見た目すごく副会長っぽいという理由からの推薦)


アレン…バスケ部の目立つパリピ(他の運動部の助っ人としてもよく駆り出されて活躍してる)


ガウリス…三年を押しのけ一年の時から生徒会長に祀り上げられた(圧倒的な指導者&聖者感)


ヒズ…家庭科部のマスコットキャラ(家庭的と男子から人気だがリムジンの登下校でドン引きされる)


マイレージ…ボクシング部の幽霊部員(学校そっちのけでジムに通って喧嘩に明け暮れてる)


リビウス…陸上部短距離走のエース(邪悪な笑顔で速く走られると怖いと脅えられてる)


ナディム…コーラス部の頼れる先輩(テノールの美声と面倒見のよさで後輩女子から人気)


イルル…写真部&映像研究部(先生・生徒のヤバい写真や映像を集めまとめているのではとの噂)

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