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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ロナーガの話とヒズの成長

(2024/3/1)これの一話前を抜かして先にこちらを投稿してしまっていたので、これの一つ前の471話も読んでいただけたら幸いです。

報酬の話を切り出すサードをアレンとガウリスが止めたのを見て、私は改めてアレンのした質問を繰り返した。


「で、討伐って具体的にどうすればいいの?」


ロナーガはおかしそうに私たちの様子を見て、


「この世から消滅させればよい、その聖剣であれば霊魂とて斬れる」


なるほど、と頷くとロナーガはサードをチラと見ると余計おかしそうに笑う。


「しかしお前はどうあっても報酬を寄こせと言わんばかりだな」


振り返るとサードはガウリスとアレンの手を無理やり口から外させて、


「ったりめーだ、俺らはボランティアじゃねえんだぞ、それもインラスだのゾルゲだのトチ狂った凶悪な野郎を相手にしねえといけねえんだ。こっちだって命がかかってんだよ、命かける程の報酬がねえとやってらんねえぜ」


ふむ、とロナーガは頷く。


「まあ一理ある。インラス相手ではお前たちでも分が悪いからな」


「んだゴラ、俺らが弱えってのか」


「サードいい加減にして…!」


こいつ神様レベルの相手に何を喧嘩売ってんのよ、報酬も寄こせって偉そうに言うし…!


ロナーガは「よいよい」と私を抑え、


「ならば報酬と同等の物を先にくれてやろう、全員自身の得物を出すがよい」


その言葉にサードは聖剣、アレンは(じょう)、私は魔法の杖、ガウリスは槍を出す。見るとヒズはキョトンと首をかしげている。


「えものって、何ですう?」


すると隣に座っているマイレージが「自分の持ってる武器のことだ」と教えるとヒズは、


「ああ、じゃあこれですねえ」


と護身用で持っているナイフを腰から外していそいそと自分の前に差し出した。でもロナーガはそんなヒズのナイフをツッと指で戻す。


「へ?」


「お前は戦いに向かん、武器の強化はしなくともよい」


「…ですかあ?」


ロナーガはアレンの杖を掴むと、顔を上げる。


「アレン、この杖には炎の属性がついているがお前自身はどう扱えばいいのか分からないだろう」


「そうなんだよぉ。身体能力向上魔法みたいに炎出ろーって思っても全然炎出ねえの」


「お前も杖を持て」


「あ、うん」


お互い両端を持った状態でロナーガは続ける。


「炎をイメージしろ」


「…」


その瞬間、屋根を焦がすほどの炎が杖からドンッと立ち昇って、アレンは、


「ヒギャーーー!」


と絶叫しながら杖から手を離し後ろにでんぐり返ししながら飛びのく。


何でわざわざでんぐり返ししたのか意味不明すぎて思わずフッと鼻で笑うとロナーガは、


「自分で炎を出して驚いていてはこれからやっていけんぞ」


と少し厳しめの顔で注意した。アレンは起き上がって、


「え、俺?今の俺出したの?」


「お前は炎を出す感覚が分からないから出ないだけだ、一度覚えたなら後は勝手にできるようになるだろう、後は炎の強弱を練習しろ」


そう言いながらロナーガは私に視線を向ける。


「お前に杖の強化は要らん。代わりにこれをやろう」


そう言うなりその手の平にはバチバチと火花が飛び散って、ロナーガの手の平に石器の短剣みたいな物が現れる。

それを差し出されたから、私は両手で受け取ってシゲシゲと見てみるけど…切れ味が良さそうってこともない、全体的に丸みを帯びたシンプルな形の短剣だわ。


「これは?」


使い道が分からなくて聞くとロナーガは頷く。


「使い道は時が来れば分かる。お前は自然と造詣が深いのだから教えなくても使いこなせる」


「…そう」


できるなら今その使い道とか使い方を詳しく教えてもらえると助かるんだけど…。もしその時が来たときに「今だ!」って気づけなくて時すでに遅しみたいなことにならないか心配…。


とりあえず大きいバッグに石の短剣をしまうと、ロナーガはそのままサードに視線と指を向ける。


「で。サード、お前は頭が回るようで実は回らないな?」


「…あ?」


喧嘩売ってんのかとばかりのサードがイラッとした声に、ロナーガはニヤニヤ笑った。


「お前自身は魔力が無いからそれらしいことができないと思い込んでいるだろう。だがこれは私の牙から出来上がったものぞ、それが持ち主の力に比例するとでも思っているのか?」


するとサードは軽く目を見張って、


「つまり…」


と何かを確認しようとするけど即座にロナーガは頷く。


「今お前が頭の中で考えたのが答えだ、よーく頭を使って使え、さもないとインラスに勝てんぞ。身体能力と知力に関してはお前が勝つが、それ以外はインラスが強い」


「…」


ふん、と鼻を鳴らし、サードは聖剣を見下ろしながら柄を握る。


「さて最後にお前だガウリス…」


するとガウリスは遠慮がちに「あの…」と声をかける。


「ん?」


「龍への変化の話ですが…」


ロナーガは一回頷いてガウリスの言葉の続きを待った。


「あなたが見抜いた通り、私は別に龍に自由に変化したいとは思っていません。ですが龍の力があればと思うことは何度もありました」


「ふむ」


「相手が地上にいて近接で戦える人間のような相手なら私も対処のしようがあります。しかし相手が空中を飛び、遠くからの魔法を使う相手であれば手も足も出ません、聖魔法は覚えましたがそのほとんどが魔族に対してのみ有効なもので一般的なモンスター相手への攻撃、防御共にあまり…」


「役に立たんと言うのだな」


ガウリスは慌てて首を横に振るけれど、ロナーガは笑う。


「聖魔法は魔界の者に対抗する一点型の専門分野。魔族や魔族に近いモンスターに効果は絶大だが、それ以外の者に対し役に立たんのはその通りだ」


「役に立たないとまでは言いませんが…」


ガウリスはまた大きく首を横に振ってから、


「ともかく私は龍の力を普段から使えたらとは思っていました。どうかこの姿のままで龍の力を使う方法などはないでしょうか」


ロナーガはふむ、と頷いて、


「確かにお前は強い。が、どうにも人間同士の戦いに則りすぎていてインラスと戦うには少々役不足の所もあるか…。ならば特別にその姿のままで龍の力を引き出せるようにしてやろう」


「本当ですか」


顔を明るくするガウリスだけれど、ロナーガはどこかニヤニヤと笑っている。


「だがな。人の姿は保ちたい、それでも龍の力は使いたいなどというわがままな願いをこの私が直々に叶えるのだから、覚悟はしておけ」


「覚悟…?」


ロナーガはニヤニヤ笑いのまま人差し指をガウリスの額に向けると、その瞳孔がギュルギュルと高速回転する。


「これからお前が使おうとしているものは魔法ではなく種の特性だ。人の姿では扱いきれん。だから今まで通りの人型ではいられなくなる、その覚悟をしておけ」


「…え」


ガウリスから強ばった声が出るのと同時に、ロナーガはガウリスの額に指をピタリと当てる。


「これはお前が望んだことだからな、多少の身の変化は諦めろ」


「え、あのそれはどういった…」


ガウリスが何か言っている最中にロナーガの人差し指からバリバリバリと雷が落ちたようなすごい音がして、ガウリスの額が光で打ち抜かれる。


「ガ、ガウリース!」


光で頭を打ち抜かれたのを見てアレンが叫んでガウリスを支えるけれど、ガウリスは倒れず、ただポカンとした顔をしている。


そうしているうちにロナーガはスゥ、と目を閉じると、白く輝いていた髪がフワッと青色に戻って、まばゆく輝く光も静かに消えていく。同時にエハンは目を閉じたまま顔を上げた。


「ロナーガがお帰りになりました」


どうやらロナーガはそのまま戻っちゃったみたいだけど…それでも私たちの視線はガウリスに集中している。


だってガウリスの頭には…ツノが二本生えていたから。龍の頭に生えてるあの二本のツノが…。


「…え?」


皆の視線に気づいたガウリスが自分の頭に手を伸ばしてツノを触る。そんでツノに気づくと「え?え?え?」と言いながらツノを掴んで取ろうとしているような動きをする。でも取れるわけがない。


「…ええ…」


ガウリスはどこか絶望に陥った声を出すけれど、アレンは、


「いやまぁツノだけで収まってよかったじゃん、竜人族みたいでかっこいいよ」


あっさりしたアレンの言葉にガウリスは何とも言えない表情で頭に生えたツノをいじっている。


「いやそれかっこいいぜマジで」


「うん、すっげカッコイイ!」


マイレージにリビウスは大興奮で褒めちぎっているけれど、ガウリスは無言…。


「ツノだけで済んで本当に良かったじゃねえか」


サードの言葉にガウリスはツノの先に引っかかってプラプラ揺れている冑を手で取って、


「しかしこれではあまりに目立ちます…一般的な冑もかぶれません…」


何か納得いってなさそうな感じでボソボソ言うガウリスにサードはフンと鼻で笑った。


「前に俺が言ったこと忘れたか?人間から龍になった人間は半身が蛇になるのがほとんどなんだぜ?それよりならツノが何だよ、まだカッコイイの範囲内で収まるだろ」


「…」


ガウリスは無理やり自分を納得させようとしているのかとりあえず頷くけれど、でもやっぱり気になるのか手でツノを触っている。


「ところでそれ感覚あるの?」


「いえ全く感覚はありません、感触は鹿のツノに近いです」


「鹿の角?春になったら生え変わんのかよそれ」


サードのツッコミにリビウスはキャッキャと大はしゃぎする。


「それ取れんの?取れたらちょうだい!俺欲しい、カッコイイから欲しい!」


そうしたらアレンも手をあげる。


「だったら俺も欲しい!カッコイイ!」


「…」


男陣は皆カッコイイカッコイイって言ってるけど…私は可愛いと思う…。


* * *


その夜はダドバ村で新たに作られた家に泊まることになった。


まあ家って言っても、大きい葉っぱと木の枝で作られた一人専用の簡易テントって感じだけれどね。

それでもここら辺ではこれが一般的な家の造りみたい。いつも泊まっている宿屋と比べたらそりゃあ簡素だけれど、風通りは良くて涼しいし家が丸ごと私の部屋って感じなのはちょっとワクワクする。


…まあ、入口には布が一枚ぶら下がっているだけで防犯性は良くないけれど、ロナーガのおひざ元みたいなところで犯罪を犯すような人にはすぐ鉄槌が下って死ぬから大丈夫ってエハンが言ってたし、変なことは起きないはず。


するとヒズが入口の布をそっとめくって顔を覗かせた。


「エリーさん、今いいですかあ?」


「いいわよ、どうぞ」


一人専用の家でも十分に他の人が座るスペースはある。脇に避けるとヒズが中に入ってきてストンと座った。


「…ロナーガさんから話を聞いて思ったんですけどお、私って今、ものすごく大変なことに巻き込まれているんですねえ」


…今更?正直幽霊みたいな存在のマイレージに体を乗っ取られてる時からヒズはすごく大変なことに巻き込まれてるって私は思っていたわよ。


「…こんな世界が崩れそうな時に、私もついていっていいんでしょうか…」


「でもヒズが一緒に私たちといるのは、色んなことを経験するためでしょう?マイレージたちをどうにかするってこともあるでしょうけど、ヒズのためでもあるんだし…」


そう言っていてふと気づいた。

もしかしてヒズは世界が崩れるとかそんな話を聞いて私たちと行動するのが怖くなったんじゃ?


「…これ以上私たちと行動するの、嫌になった?」


遠慮がちに聞いてみるとヒズは驚いた顔で首をブンブンと横に振る。


「そんなことないですよお。皆さんと一緒だったら安心ですし…」


ヒズはそう言ってから何て言えばいいのかと少し悩みこむ。


「私が世界を守る皆さんの傍にいていいのかなって…エリーさんたちは現役の勇者ですしい、マイレージさんたちは大昔の勇者でしょう?私何もできないのに…」


「マイレージたちの依り代になっているじゃない」


ヒズはシュン、と落ち込む。


「それ以外何もできないですう」


…ああなるほど、ヒズ単体だと戦えもしないし何も力になれないってことで落ち込んでいるの。


ヒズは落ち込んでいるように指を動かしながら、


「私本当に何もできない、ニビアの言う通りですう、私にあるのはお金だけ、それも私が稼いだお金じゃなくてお父様たちが代々稼いできたお金…。それ以外は何もない」


「ニビア…?誰だっけ…」


「私のお友達ですう。天使様をやろうって誘ってきた貴族の…」


ああ、ヒズが居ない所でヒズにはお金しか能がないって陰口を言っていた貴族の子ね。それよりそんな子相手でもまだ友達って言うんだ。…ヒズって本当に優しい。


私は頭を横に振ってからヒズに指を突き付ける。


「何を言っているの、こういう時にこんな近くにいるならヒズだって世界を守るために必要ってことよ。必要じゃなかったらこんな所にいるわけないじゃない」


「…」


私の言葉にヒズは納得しようとしているような、でもやっぱり納得できないような難しい顔で黙って私を見てくる。


…でも出会ったばかりのヒズだったらすぐに「そうですねえ」って微笑むだけで、こんな納得できないって顔なんてしなかったはず。

何となくだけど、ヒズも家から離れて色々な人に会って…何でも受け入れるだけじゃない、少しずつ受け入れられない言葉はそれは違う気がするってかすかに否定することを覚えてきている、成長しているんだわ。


ふふ、と思わず笑うとヒズはキョトンした顔をした。


「何かおかしかったですかあ?」


「ううん。納得できないって顔をしているからそれが嬉しくて。前だったらすぐ納得して頷いて終わってたでしょ?」


するとヒズは驚いた顔をして目を大きくする。


「ええ?私そんな顔してましたあ?」


「うん、してた」


からかうように言うとヒズは「やだあ」って言いながら顔を両手で隠す。

その仕草が可愛くてキュンとなりながら、


「でもねヒズ。私はヒズが居てくれて嬉しいのよ」


ヒズは両手で自分のほっぺをグニグニ動かしながら私を見る。


「イルスのせいで体の具合が悪くなった時、優しい雰囲気のヒズが隣にいてくれてすごくホッとしたの。確かにヒズは戦闘向きじゃないけどね、ヒズがいるとすごく落ち着いて安心できるの。私だけじゃなくて皆もそう思っているんじゃないかしら」


私の言葉にヒズは少し嬉しそうになったけれど…それでも、と軽くうつむく。


「そんな居るだけじゃなくて、他のことでも皆さんのお役に立ちたいですう」


そんなヒズの言葉に思い出した。


昔の私。戦闘では役に立つけれどそれ以外のことは何もできない役に立たないって落ち込んでいた過去の私…。


ああ、今ヒズは昔の私が抱いていた悩みを抱えているんだわ。懐かしさと、同じ悩みを抱える者同士みたいな気持ちで私は微笑む。


「私も同じよ、前は戦闘以外何もできないって悩んでたわ」


「ええ、エリーさんなんでもできるじゃないですかあ。紅茶も淹れるの上手ですしい。…でも前悩んでたってことは今は悩んでないんですよねえ?どうしてですう?きっかけがあったなら教えてほしいですう」


確かにそんなことで悩むことはなくなったかも。それっていつのころだったかしら…えーと…。

あ。そういえばミレイダのいたソードリア国で私も情報集めとかやって皆の役に立ちたいって宣言して、一人で行動するようになってから?


…だとすれば。


「…反抗期」


「え?」


「反抗期よ、私はパーティ唯一の女だから皆も気を使ってある程度守ってくれていたの。でも守られているばっかりはイヤ、私だって皆の役に立つことがしたいって反抗したの。それから皆少しずつ色んなことをさせてくれるようになって、役に立てないって悩むことはなくなったような気がするわ」


「反抗期、ですかあ」


チラとヒズを見る。まるで永遠の少女みたいな純粋な目をしているヒズ。…きっと反抗期なんて知らないまま生きてきたのよね。


「とりあえず何にでも反抗してみたら?」


「反抗って、どうするんですう?」


「色々なことに嫌だって言ってみるのよ。それか過保護すぎる行為をされたらやめてって言うとか…。そんな感じじゃない?」


…まあかく言う私も貴族時代は反抗期らしい反抗はなかったけどね。その代わり冒険に出てから反抗期に突入した気がする、主にサードへの。


するとヒズはハッと背筋を伸ばして顔を輝かせる。


「だったら私も今反抗期やってますう!」


「えっ?」


聞き返すとヒズは家の外に向かって指をさす。


「今はエリーさんと二人で話したいから家の中に入って来ないでくださいって皆さんに言いました、これも反抗ですよねえ!」


ドヤ、とヒズは興奮気味に言ってくる。


そう言われればマイレージもリビウスもナディムも全然表に出てこないなとは心のどこかで思っていたけれど、そういうことだったの。


うーんでもそれは…十代に入ってからの何にでも噛みつく反抗期っていうより、大人も「はいはい」って微笑ましく思うぐらいの女児の軽いわがままっていうか…うーん…。


どうであれ、ヒズの反抗期はまだまだ遠いわね。

ヒズ

「私に何か言ってみてください、全部反抗してみせますう!」(ドヤ)


サード

「絶対に酒飲むなんてことすんなよ」


ヒズ

「え…」


サード

「ボトル一本空けようだなんて絶対にやめるんだぞ」(ボトルを用意する)


ヒズ

「え、あ、あ、あああ…」(涙目)


サード

「どうした、反抗しねえのか?自分で言っておいてまさかいきなりやめるだなんてことしねえよなあ?」(ニヤニヤ)


エリー

「(よりによってどうして万年反抗期のサードを相手に選んでしまったの)」


マイレージ

「ヒズ、そこは鼻っ面殴って断っていいんだぜ」

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