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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ダドバ村、ときどきロナーガ

イルルが消えて、これでゾルゲ探しに一歩進んだんだわ、と私は少し息をついてクッルスのソファーにもたれる。


「エリー」


サードに声をかけられたから少し身を起こすと、サードは真顔で私を見ていた。


「イルルの動向には目を光らせておけ。用が無くても度々呼びつけて今何しているかしつこく聞いて、その話の内容も俺ら全員と共有すること。いいな」


「…何で?」


「あいつの目が信用ならねえ」


「…」


サードがあの目は信用できない、あいつには気をつけろって言う時はほとんど当たる。船の船長ヤッジャ、マフィアのボスのラニア、それとゾルゲ…。


それでも、と私は口を開いた。


「イルルは私の使い魔になったのよ。私のために力になるって言ってくれたし、実際すぐ動いてくれたし…こんな風に呼べばすぐに来れるようにする指輪もくれたんだもの大丈夫よ」


「なんつーかな、あいつは反応がなさすぎだ」


「…反応がなさすぎ?」


「命を救われた恩は確かに感じてるかもしれねえ。だがいきなり俺らが勇者一行だと告げた上で協力しろつってもあいつは驚きも動揺もなかっただろ。

今まで会ってきた力のない魔族共の反応を思い出してみろ、ロッテぐれえの変人は除いて、魔族を何度も討ち果たした俺らと対面した弱い魔族らは警戒するか脅えてただろ?なのにイルルはニヤけた顔であっさり頷くだけだった」


確かに今まで会ってきた貴族階級以下の魔族たちは、私たちが勇者一行だと分かるとギョッとするか、脅えるか、自分は終わったと諦めるか、見逃してと懇願するかの反応はしていたけど…。


「それでもイルルはそういう性格なだけじゃないの」


「表情が変わらなすぎて腹の底が見えねえ。それにあいつはヘコヘコしているが俺らの動きを観察してる。そのうえで最も扱いが難しそうな俺の命令はきかねえって最初から釘刺して一気に距離を取りやがった」


…。自分は扱いが難しいって自分で分かってるのね、こいつ。


「いいか、あいつはエリーが思ってるよりよっぽど頭が回るクセ者だぜ、目の前では従うが物陰に隠れたら一体何をしでかすか分かったもんじゃねえ」


サードはそこで言葉を一旦止めて、


「お前、あんなのと相性いいのか…」


ってどこかしみじみと呟いた。それにはムッとして、


「それどういう意味よ、私がクセ者だとでも言うつもり?」


サードはソファーにもたれて呆れたように、


「俺が認めるほど頭回るクセ者だったとしたら、てめえはもっと俺の考えを汲んで進んで協力してるぜ」


それを聞いて余計にムッとする。


「何それ、私が馬鹿だとでも言いたいの?」


「分かってんじゃねえか」


思わず杖を振り回す。


そうやってクッルスは進んで…次の日にはダドバ村までやってきた。


大きい道から逸れて「地図上から考えるとあれがダドバ村だと思う」ってアレンが言うからクッルスの窓から見てみたけど…聞いていたとおりの小さい村。


村に入るための簡易の木のバリケードがある程度で、どこまでが村の境界線って境目の柵も何もない。あちこちに大きい木の葉っぱで作られている家が赤茶けた砂地の上に点々と建っているから、かろうじてここは人の住む村なんだろうなって分かる感じ。


バリケードの手前にクッルスを停めて、皆で村の中に入る。


「けどここにきて何かあんの?」


アレンに聞かれた私は、


「よく分からないけど…ロナーガの神殿に行った時、ヒズを通してダドバ村って言われたのよ」


「誰に?」


「…ロナーガなのかしら…」


「ロナーガ様ですよ」


急に見知らぬ優しい女性の声が聞こえて、驚いてそっちの方向を見る。

そっちに目を向けると…ここに住んでいる女性かしら。ふっくらした体つきの黒髪の女性がニコ、と微笑んでいる。


「お待ちしておりました、勇者御一行様。お話は聞いておりますどうぞこちらへ」


「え…聞いてたって、誰から…」


「ロナーガ様です」


私たちは顔を見合わせる。いきなりの急展開に驚くけど…それでも女性は立ち止まったままこちらにどうぞ、と手を差し向けている。


サードは微妙に警戒の表情をして、聞いた。


「それが本当なら証明できるものは何かありますか?」


女の人は微笑む。


「ありません。私は今日勇者御一行様がいらっしゃるので連れてくるようにと仰せを受け、ここで待っていた使いですので」


「…」


まだ警戒しているけれど、それでも明らかに相手は丸腰で敵意は無いと思ったのかサードは女の人の後ろを歩いていく。

私たちもそれに続いて、周りの家と比べるとすごく立派な…レンガで作られているような家が見えてきた。


「ここはロナーガ様が訪れる特別な建物です」


そう言いながら女の人は扉というか…入口にかけられた模様の入った大きい布を上げて、


「このまま真っすぐお進みください、扉はありませんからそのまま部屋にどうぞ」


ロナーガの訪れる場所にしては小さい家。それにしてもなんて風通りがいい造りなの、扉がないせいかしら。…っていうか窓にも布がかかっている程度でガラスは入っていないのね、これは風通りがいいはずだわ。でも暑い地域なんだしこれくらいでちょうどいいのかも。


女の人は皆が入ったのを確認すると、入口の布を下げてそのまま去っていく。


視線を動かして奥をみると短い廊下の先に部屋っぽい入口があって、ドア代わりの布が風でゆらゆらと揺れている。


その隙間からみえるのは絨毯の上にあぐらをかいて座っている女の人。この辺の人が着ているような涼しげな衣服、褐色の肌に爽やかな水色ストレートのボブカット…。


「私の前にどうぞ、人数分あります」


ロナーガに呼ばれておずおずと布をかきあげ部屋に入ると、平べったい藁製のクッションが敷いてある。

全員で座ってみるとしっかり人数分…。…あれ?でも三つ多くない?ん?もしかしてその三つのクッションってマイレージとリビウスとナディムの分?


全員が座ったのを確認したのかロナーガは顔を上げる。でもその目はつぶったまま。

そんなロナーガはあぐらをかいた足に手をついて深々と頭を下げた。


「さてと初めまして、勇者御一行様方。そしてインラス一行の皆様方。私はエハン・ミハンデと申します」


その言葉にリビウスが「えっ」と口を開く。


「ロナーガじゃないの?誰?あんた誰?誰?」


「私はロナーガではありません。エハン・ミハンデという人間の子、そして神に愛された目を持ち、ロナーガに強く祝福された者。…正直迷惑なんですけど」


…何か最後に一言ボソッと言った?迷惑とか言ってなかった?今…。


でも神に愛された目ってことは…。


「シーリーとかスダーシャンみたいな感じなのね」


エハンは私の言葉を聞くと目を閉じたまま顔を上げた。


「二人を知っているんですか?奴らは私の幼馴染です」


「ということは、もしかして神に愛された目を持つ子が生まれるというのはこの地域のことなのですか?」


ガウリスが聞くとエハンは頷く。


「そう、ロナーガはここに根差す存在だからか不思議とこの村周辺の地域には神に愛された目を持つ者が多く生まれます。

まあ私たちのように神に愛された目を持つ者が同じ年、同じ村に三人生まれるなどかなり珍しいようですが。ここ以外の村にも数名神に愛された目を持つ者もいましたが全員大人になって旅に出ているようですね」


「あなたは旅に出ないのですね?」


ひとまず表向きの顔と口調でサードがそう言うと、エハンは頷く。


「ロナーガはこの地域に根差す者ですから、ロナーガ直々に祝福された私はシーリーやスダーシャンのように他国に行くことはしません。…私だって別の国に行ってみたいですけどね正直…」


…やっぱちょいちょい最後に文句言ってるわね、エハン。


そこでエハンはフッと何か気付いたように身を乗り出し、嫌な予感がするみたいな表情で聞いてきた。


「ところでシーリーとスダーシャンに会ったのは一人ずつ?それとも二人同時に?」


サードが答える。


「最初はシーリーさん一人でしたが、二回目にお会いした時にはシーリーさんとスダーシャンさんの二人同時にでした。それが何かあるのですか?」


それを聞いたエハンの眉間に深くしわが刻まれて、唇をかみしめて地面を見下ろしている。


「そう…ですか、二人同時ですか…」


「何か問題でもあるの?」


ただ二人同時でやって来ただけなのに妙に深刻そうな感じだから声をかけると、エハンは渋い表情で目をつぶったまま私を見返す。


「『神に愛された目を持つ者たちが行き合うのは世の厄災が起こる前触れ』」


「え?」


「そういう言い伝えがあるんです」


真面目な顔でエハンは続けた。


「神に愛された目を持つ者たちは世の人々の役に立つようにと村から出て世界を歩き回ります。その広い世界の中で神に愛された目を持つ者たちが偶然にも行き合った…これは神に愛された目を持つ者一人の力では解決できないほどの厄災がその後に待ち受けている。

だから世の厄災が起こりえそうなとき、神に愛された目を持つ者複数が必要な場で偶然にでも必然にでも行き合うようになっているのだと」


世の厄災の前触れ…?あの二人、ただ知り合い同士で行き合った程度に微笑みあっていたけど、そんな酷いことが起こる前触れだったの?


エハンは乗り出した身を元に戻して、一息ため息をついた。


「なるほど、ですからロナーガがわざわざ会おうとしたわけですか。ちなみにどういった時に二人と同時に会ったんです?」


「シーリーさんとスダーシャンさんのお二人と会ったのは私が天使様をやった後なんですけどお…」


ヒズが天使様という降霊術をシャーマン抜きで友人らと行ったら、マイレージが現れ自分から離れられなくなった話からリ今までのことを丁寧に説明した。


そこからサードは補足的にインラス一行の全員がこの世をさ迷う原因を作ったのはエルフのゾルゲで、世界を征服するためインラス一行を手下にしようと呼び出したこと、それとシーリーたちにインラス一行を全員で会わせるのが必要と言われていて、次はベルーノ、最後にインラスの居る場所に行く手はずだと伝えた。


エハンは最後まで話を聞いて、なるほどと頷く。


「つまりはインラス一行がこのようにゾルゲという者の手によって呼び覚まされたことが厄災の前触れだと、そういうことになりますね」


「俺ら厄災なの?」


リビウスがショックを受けているとエハンは首をかしげる。


「さあ?何がどう動いて厄災になるかなんて、私は分かりませんから」


するとリビウスの顔がマイレージに切り変わって呟いた。


「インラスが復活したのが厄災なんじゃねーのか?」


「…」


その言葉には皆が黙り込んでしまった。だってインラスが厄災っていうの…すごく()に落ちるんだもの。


「…どうやら皆さん、何か思い当たる節があるようですね」


エハンはそう言うと、両手を合わせてわずかに上を向く。


「ならそろそろロナーガとの対面といきましょう。私はシーリーやスダーシャンのように人の未来も神や幽霊も視えません、ただロナーガの依り代になるための存在です。降ろしますよ」


そう言うと同時にエハンの閉じられていた目がガッと開いて、水色の髪の毛が放電しているかのようにバリバリと音を立てて白く輝く。


その目は…青白い魔法陣がグルグルと回転していて、表情もエハンとは違う、この前神殿で見た厳しい表情…!

しかも何て威圧感のある雰囲気なの、少しでも動いたらいけないようなこの感じ…!


「ロナーガさんですか?」


それでもサードは恐れもせずに声をかけると、無言でエハン…じゃなくてロナーガ?が頷いた。


「よう来た、勇者御一行」


この声も神殿で聞いた声と同じ。じゃああれはやっぱりロナーガだったのね?


感慨深く思っているとロナーガは続ける。


「ここに来させたのは…今エハンから聞いたな?世の中に厄災が起ころうとしている、それを止めてもらうために来てもらった」


「私たちもあなたに用があってきたのです、ロナーガさん」


ふん、とロナーガは鼻で笑う。


「取り繕った表情と言葉はやめよ、悪い言葉遣いであれ心の声で話せ」


するとサードの表情は表向きから裏向きに変わる。


「性分なんでな、とりあえず相手の出方伺ってからじゃねえとこっちは見せられねえよ」


…こいつ、伝説のドラゴンで神様相手だってのにいつも通り話すわね…。


ロナーガは、ふむ、と腕を組んでサードを見る。


「こちらの話は長くなる。よい、先にそちらの質問に答えてやろう。そこのガウリスの変化のことだろう?」


なるほど分かってんのかとサードは頷き、


「そうだ、ガウリスの体を自らの意志で龍と人間と自由に変化させてえんだが、そのやり方がわからねえ。何かコツとかねえのか?」


ロナーガはニヤニヤとサードの顔を見返した。


「私は知っている」


その言葉にサードはピクッと反応する。


「どうやんだ?」


ロナーガはもっとニヤニヤと笑いながらもったいぶるように背筋を伸ばす。


「だが教えん」


「あ?」


サードはイラッとした表情を浮かべて喧嘩腰の声をだすけど…やめてよ…相手を見てよ…!


ヒヤヒヤしているとロナーガはクックックッと声を押し殺したように笑った。


「身の自由な変化。それはサード、お前の望みであってガウリスの望みではない。心から望まぬ者に教える義理はない」


一瞬黙り込んだサードだけれど、すぐに口を開く。


「何言ってんだ、俺らはゲオルギオスドラゴンと会って戦ったこともあるんだがな、あんなでけえ敵と戦うって時にガウリスが龍の姿になれるんだったら助けになるんだよ、そうやってすぐ倒せるんだったら人にも被害が行く前に仕留められる、なあガウリスもそう思うだろ?」


あ、こいつ人々を助けたいからガウリスを変化させたいんだってことにしてガウリスを説得しだしたわ。


するとロナーガは鼻でフン、と笑ってサードに手の平を向ける。


「ならサード。お前を龍にすれば万事解決するな?」


ロナーガの目の魔法陣が素早く回転し始め、手の平がバチバチと光り出す。サードは口をつぐんで聖剣を引き抜き一歩後ろに飛びのいた。

ロナーガはその反応を見て目を弓なりにすると、おかしそうにアッハッハッハッハッと肩を揺らして大笑いしている。


「お前嫌がったな?それと同じだ、自分が嫌がることを他人に押し付けるな」


「…チッ」


これ以上強くあれこれ言ったらとんでもないことになりそうと感じたのか、サードはもう何も言わず、聖剣を鞘に戻すと藁のクッションに座り直して面白くなさそうにロナーガを見る。


…けどサード、夜に眠くならないんだったら色々楽しめるとか言っていたけれど、結局自分が龍になるのは嫌なのね。ふーん。


「で、そっちの話は?厄災が何だって?」


「そこのマイレージが言った通りだ。インラスを中心に厄災が広がる可能性が非常に高まっている」


ザワッとした雰囲気が私たちの間に広がる。


「じゃあ、やっぱり奴が何かやろうとしてんのか…!?」


マイレージの質問にロナーガはどこか渋い顔をして、大きいため息をついた。


「…それについては、私にも非があるのやもしれぬ」


「非がある?インラスのことでロナーガに?何で?」


アレンも相手が相手なのにいつも通りの調子で質問する。するとロナーガはまた大きくため息をついて、反省するように口を開いた。


「インラスがあのような残虐非道な性格になったのは…きっと私のせいだ」

以前働いていた職場の女性から聞いた話です。

昔のある夏の日、暑いので二階の窓を開けたまま仕事に出たそうです。

そうして仕事が終わり家に帰りました。三人暮らしのその女性の旦那はまだ仕事、子供はこれからお迎え。だから他に人はいないはずなのですが、玄関に入ってすぐ誰かが居るような気配がしたそうです。

何かおかしいと思ってキョロキョロして、玄関から見える階段の上をハッと見たら…。


近所の猫が階段の上から頭を出してジッと女性を見下ろしていたそうな。

窓から侵入し、二階のその場所の風通しが良いから涼んでいたんだろうって言ってました。猫じゃないと許されない行為。

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