あっあっヽ(´Д`;≡;´Д`)ノ
時間をかけながら出店が多く立ち並ぶエリアまでやって来た私たちは、気になるお店に立ち寄って美味しい食べ物を口に入れている。
「ん~!これも美味しいわねえ」
少し厚めのモチモチとした生地に野菜やお肉が挟まれて折りたたまれている変わったパンを食べながら、隣にいるサードに同意を求める。
「まあ。いつも食ってるパンよりならこのパンのほうが俺は好みだな」
私たちが勇者一行だと気づかれないからって裏の表情になっているサード。でも食べ物に興味のないサードでも美味しいと認めているわ。
「あ、サードさん、エリーさん」
後ろから声をかけられて振り向くと、人並みを抜けガウリスが近づいてくる。
「宿舎に戻っても誰もいませんでしたので私も来てしまいました」
「あ、そういえば宿舎に戻ってきてってサードが言っていたものね。ごめんなさい、あのあとリビウスとアレンがダッシュでどこかに行っちゃったから私たちもここで何か食べようってこっちに来たのよ」
謝りついでに今までのことを説明するとガウリスは首を横に振る。
「いえ、私も楽しんでいましたから」
よく見たらガウリスは色々食べ物の入った紙袋を何個も持っている。それの一つが美味しそうで、
「ねえ、それってどこで…」
と聞こうとしたらガウリスの遠くに見たことがある後ろ姿を発見した。
「あれ?あれってリンカ?リンカー!」
最初私の声は雑踏にかき消されて全然聞こえないみたいだけれど、近づきながら何度も名前を呼んでいたらリンカもようやく気付いて振り向いて「あっ」と笑みを浮かべて近づいてくる。
「どうしたの、宮殿に行ったんじゃなかったの?」
聞くとリンカは嬉しそうに微笑んで、
「それがね、私あっという間にミスマル王子の召使いに決まったの。皆が立ち去る前にそれだけ伝えようと思って急いでクッルスに向かっていたのよ」
えっ、朝に別れたばっかりなのにもう決まったのと驚いていると、
「それがね、ミスマル王子がすごいのよ」
「何がすごいって?」
サードの言葉にリンカは驚いたような雰囲気で、
「昨日の夜とは全然性格が違っていたの。奇声をあげて喚き散らすし怒鳴り散らすし食べ物も手づかみで掴んで従者にぶつけて当たり散らすし…本当にあのジューショクさんの生まれ変わりなのか分からないくらいの悪童ぶりで」
訴えるように言いながらリンカは宮殿であったことを伝えてくる。
どうやらミスマル王子の我がままっぷりにミスマル専属で仕えたい人はいないんだって。
そしてミスマル王子に仕えたいと申し出たリンカはまず犯罪歴がないかどうか調べられて(どうやら魔族だとはバレなかったみたい)、宮殿の偉い人々によるチェックに合格して早速ミスマル王子と対面したら、
「俺はこんなもん食いたくないって何度も言ってんだろ、他のもん持って来させろこんなもんいらん!もっとうまいもん持ってこいこのクソボケが!
俺は誕生日を迎えたミスマル様だ、建国日に生まれた歴史に名を残す第一王子ミスマル様だ、てめえらみてえな格下の無能とは違うんだこの役立たずどもが!てめえらなんて俺の一言で処刑できんだぞバーカバーカバーーーーーカ!」
と怒鳴りつけながら従者の顔に食べ物を投げつけ皿を床に叩きつけ割るシーンを目の当たりにしたって。
昨日のジューショクとの性格の差に呆然としたリンカだけれど、
「いけませんミスマル王子。食事を粗末にするのも、人に暴力を振るうのも」
と声をかけると、ムッとした顔をしつつミスマルは渋々と言うことを聞いて黙り込んだ。それを近くで見ていた国王ナウヒ、王妃ヒミナが絶句して、
「ミスマルが人の言うことをこんなに素直に聞くなんて…!?」
同時に顔を輝かせたナウヒ国王はリンカに詰め寄り、
「きっとこれは運命だ、君がミスマルの召使いになれなくて誰がなる!」
「お願い、ミスマルを真っ当な大人になるように教育してあげて!この子本当に親の私たちの言うことすら聞かなくて…!」
ってヒミナ王妃も迫ってきて、あっさりミスマルの召使いに決まったみたい。
ミスマルの二人のお姉さんの王女様たちは離れた所からその一部始終を見つめていて、第一王女マハーラはリンカの手を握り、
「辛くなったら私にいつでも相談しにきていいんだからね、こいつ本当に悪ガキだから大変だよ」
と真剣な顔で言い、第二王女バーラタはリンカを心配そうに見つめ、
「嫌になったら嫌って言っても大丈夫だからね、無理だけはしないでね」
と気づかってくれたって。どうやらこの国の王家一家はパレードで見た印象そのままの人たちみたいね。
「良かったですね、頑張ってください」
ガウリスの言葉にリンカは嬉しそうに頷く。
あなたが好き。もう表情からしてそう言っているようなものじゃない。
でもやっぱりガウリスはそんなリンカの視線を受けてもいつも通りの愛情深い表情で微笑んでいるだけ。
…もういっそのことガウリスに伝えちゃう?リンカはガウリスのことが好きなのよ、ガウリスはどうなのって。
ああでもそれってやっぱり余計なことよね、私が勝手に言うことじゃないわよね。でも今朝でお別れだと思っていたのにまたこうやって会えたんだし、本当にこの今のタイミングを逃したらもう会えるかどうかも分からないし…。
でもリンカは好きなガウリスと離れてでもミスマルの近くでブッキョーの教えを学びたいって別れる道を選んだもの、自分の恋心より自分の目標の神様になる修行を。
…そうね、リンカが自分で決めたことに私がしゃしゃり出るのは無粋だわ。
私は両手を差し出してリンカの手を握る。
「頑張ってねリンカ、神様になる修行。応援しているから」
リンカは嬉しそうに微笑んで「ありがとう」って頷いている。
「誰が神になるってえ?」
聞こえてきた声に私の背筋がヒヤッとして、後ろを向く。
この間延びしたやる気のない声、まさか、こんな所にいるわけ…。
それでもいた。後ろにやる気の無さそうな顔で、手にいっぱい食べ物を抱えた…。
「ラグナス…」
誰にも聞こえないくらいの声で呟くと、ラグナスは、モッモッモッ、と食べ物を食べ、飲み込んでからリンカをジロジロとみて口を開いた。
「あなた魔族だよねえ?」
「え、あ、はい、あなたは…?」
「ラグナス・ウィード」
名前を聞いてリンカの表情は強ばる。私はさりげなくリンカの前に立ち、
「ラグナスはどうしてここに?」
と聞いた。ラグナスは「分からないかなぁ」と首を横に振り、
「この国のお祭りは食べ物が充実してるって先輩から聞いたからいつか来ようとは思ってたんだよ、そんで今は暇だったから今だって思って」
やる気の無さそうな顔だけれど、興奮しているのか鼻息はフンフン荒い。
それでもまた私の後ろにいるリンカに視線をずらしていく。
「ところで今、神になるとかリンカとか聞こえたんだけど?リンカってダンジョンを捨てて急に地上で行方をくらませたあのリンカ?スウィーンダ州セロ家の孫娘?」
そこまで知っているの、と私は口を引き結んで、刺激しないようにそっと声をかける。
「…ラグナス、落ち着いて聞いて欲しいんだけど」
「うん、私はいつでも落ち着いてるよ」
モッモッモッ、と食べ物を頬張りながらラグナスは私の次の言葉を待つ。
「リンカは悪い子じゃなくて…」
「悪くない魔族はむしろ悪い子だねぇ。それで何?神になるって何?」
普通の会話みたいだけど、それでも探るような詰問調…。思わず口をつぐむと、リンカは私の横から前に出て、青い顔ながらも頭をバッと下げた。
「お、お願い、見逃してください…!」
ラグナスはリンカをチラと見る。
「私、魔界は合わなかったの。好き勝手に行動する人も、私を好きでもないのに大臣の地位を狙って口説いてくる男の人も何もかもが怖くて、嫌で…。
そうやって地上に来たとき偶然神様を見かけて、それ以来神様が好きになって、今は神様の元に身を寄せてて、今は神様を守護するような存在になるために修行中で…」
「ほーお?」
ラグナスのたった一言でビク、とリンカの言葉が止まる。
「つまり魔族なのに魔族を裏切って敵対する神の元に行っちゃったと、そういうこと」
リンカはカタカタと震えているけれど、それでも口を開いた。
「か、神様は優しいの」
「魔族にだって優しいのはいるよ」
リンカは首を横にブンブン振る。
「魔界で見てきたほとんどの魔族は、自分の言う通りに私が動いている時だけは確かに優しかったわ。でも少しでも私が言うことをきかないと何が何でも言うことを聞かせようと抑えつけてきた。でも神様たちは自分の思い通りにならなくても優しくしてくれる、愛してくれる。その差は全然違う」
「…」
わずかに冷たい視線を向けるラグナスに、リンカは「あっ」と口をふさぐ。言いごたえして怒らせた?ってビクビクしているとラグナスは手に持っている串焼き肉をリンカに向ける。
「どうせ言葉だけ優しいんでしょ、実際はどう思ってんだか。あいつら腹黒いって魔界じゃ有名なんだから下心のある詐欺師みたいなもんだよ、あんた騙されてんじゃない?」
するとリンカの脅えた表情が少しおさまって、おかしそうに微笑んで体の力がゆるんだ。
「いいえ。私の知ってる神様は下心込みでとても正直なの。少しでも気に入った女の人はすぐに口説くし、すぐ襲おうとするの。下半身が特に素直なんだって家庭の女神様が笑っておられたわ」
下半身が特に素直の部分でサードはわずかに吹き出して顔を背けて笑っていて、ラグナスはギョッとする。
「え、襲われたの?可哀想、力がないばっかりに…」
「いいえ。私は家庭の女神様の庇護を受けていて守られているわ。母親のような方でとても優しいし包容力もあるし、ご飯を作るのも上手でとっても美味しいの」
神様たちのことを話すリンカのキラキラした目を見てラグナスはどこか鼻白んだ表情で肉をモッモッモッと食べる。
「神がどんなもんだろうがどうでもいいけどさぁ、偶然とはいえこうやって見つけちゃったものは見逃せないんだなぁ~」
するとガウリスが前に出てそっとリンカを守るように腕を伸ばす。
「それでもリンカさんは自身の考えで魔界と決別したのです。そして新たな道を歩んでいます。魔族とは自分勝手に行動するのが当たり前なのでしょう?リンカさんは魔族として自分勝手に行動し、それがたまたま神の元に赴くというものだった、それだけです。どうか見逃しては貰えませんか」
「ガウリスさん…」
「…」
ラグナスはリンカ、そしてガウリスを見て面白く無さそうな顔になると、むー、と口をとがらせて考え込むような顔をする。
「じゃあ条件付きで見なかったことにしてあげてもいいよ」
「条件…?」
リンカが声を出すと、ラグナスはガウリスに近寄って腕を掴み…。
「うひょう」
ラグナスはガウリスに触れ身震いして手を離したけど、すぐ服を指先でつまんでガウリスを見上げる。
「ガウリス。私とデートしよう」
「…はい?」
ガウリスは何を言っているのか理解できない顔でラグナスを見下ろす。
「私とデートしてくれたらリンカのことは見逃してあげる。いい条件でしょ」
「え、あ、はあ…え?」
「じゃあ行こー」
ラグナスはそう言うと困惑しているガウリスの服をぐいぐい引っ張っていく。
「ガウリスってさぁ、女の子とデートしたことある?」
「え?いえ無いです」
「じゃあお互い初デートだねー」
連れ去られて行くガウリスを見て「あっあっ」とリンカは胸の前で手を組んでウロウロしていて、私も「あっあっ」とラグナスとリンカを交互に見ていると、ラグナスは人並みに消える間際に振り返り、明らかにリンカに視線を向けて「ベー」と舌を突き出してから消えていった。
そのころヒズたち
リビウス
「わっ!木彫りのつけたら呪われそうなお面売ってる!ほしい!買う!」
マイレージ
「何だこの爪が飛び出すナックル!すげえいい、買う!」
ヒズ
「きゃー!この大きい羊さんのぬいぐるみモコモコで可愛いですう~!私これ買いますう」
ナディム
「ロナーガ神殿の神聖な力が込められたイヤリングか…これは買ってもいいね」
周りの人
「(呪われそうなお面被って神殿のイヤリング身に着けた人が爪の出るナックル装備して可愛い羊のぬいぐるみ抱えて歩いてる…全体的にチグハグで怖い…)」




