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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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なん…ですって!?

「見て、クッルスの上にあった金貨あつめたらこんなにあった」


ほくほく顔でクッルスの中に入って来たアレンは金貨を見せてきて、サードはもはや裏の顔つきで冷たい一言を投げかける。


「人が見てる前で卑しいまねすんじゃねえよ、てめえ勇者一行の一人だぞ」


この金貨は上から降ってきた。


パレードも大体過ぎ去って、これで終わりかしらと遠くなっていく音楽に耳をすませてしばらくぼんやりしていたら、空一面を覆う大きい花火が打ち上げられて、それと同時にバラバラと金貨が降って来たのよね。

クッルスの上にもバラバラと金貨が降って来たからアレンは即座に「お金お金」と拾い集めていた。


でもパレードのために国外からやってくる人が多いのって最後のこの金貨を降らす花火目当てなのかも。むしろ王家の誕生日の度にこんなに金貨をばら撒いててお金大丈夫なのかしら。


それにしても…。


私はチラとサードを見る。何でかサードはパレードの途中から妙に考え込んでいるような顔をして黙っているのよね。

それも色々考えているけれど、それでも答えに行きつかなくて気持ち悪いって感じ。サードがこうやって悩み続けているって…何があったのかしら。


「どうかしたの?」


聞くとサードは微妙な顔をしながら口を開く。


「…あのガキ…第一王子のミスマル。あいつ、俺のこと指さして何て言ってたと思う?」


「分かるわけないでしょ、周りの声がうるさくて全然聞こえなかったもの」


「俺だって聞こえねえよ、あんな中で」


「…」


何よ、とイラァ…としているとサードは、


「あいつの口の動きが言ってたんだ、俺を指さして『キーチ』って」


「キーチ?それって確か…サードがサドって所にいた時の名前よね?はじめに喜ぶって意味の」


その名前はサードの「はじめに喜ぶなんて俺には合ってねえんだよ」の一言でよく覚えてる。


…あれ?でもそうなるとおかしいじゃない。


何で初めて来た国の、一度も会ったことのない幼い王子がサードを指さしてキーチって名前で呼ぶの?


…そうか、だからサードは考えても考えても答えが出なくて、意味が分からなくて気持ち悪そうにしているんだ。


すると私のすぐ後ろがコンコン、ってノックされて振り向いた先の窓を見ると、鎧を身につけた五人の男の人が立っている。…この鎧はアキャシャ国の兵士よね、何かしら。


窓を開けようとすると、サードは「待て」と私を引き留めた。


「何が狙いか分からねえから俺が出る」


サードはすぐに聖剣を引き抜いて攻撃できるように引き抜くと、いつでも振り回せる状態にしながら窓を少し開ける。


「何か」


「勇者御一行様ですね?私たちはギャラバヤ都専属の兵士です。少々お時間よろしいでしょうか」


ギャラバヤ都専属の兵士…ってことは、近衛兵と同じくらいの立場ってことでいいのかしら。


「ご用件があるのなら手短に」


「アキャシャ国第一王子のミスマル様があなた方と会いたいと仰せです。どうか我々についてきていただけないでしょうか」


サードをキーチと指さして呼んだミスマル王子が、サードを?


チラとサードの反応を見る。サードも一瞬考え込む顔になったけれど、すぐさまニッコリと微笑んだ。


「この国に我々のことは詳しく伝わっていないようですね。我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


ピシャリとサードは窓を閉じた。


兵士たちはまさか断られると思っていなかったのか、ものすごく驚いた顔で困惑してお互いの顔を見合わせたけれど、断られたなら仕方ないって足取りで去って行った。


「…いいの?」


兵士たちを見送りながらサードに聞く。


するとサードは鼻を鳴らして、


「どうであれ俺らは国とは関わらない。関わるならとことん正体は隠す。それと王家が信用に足る人物だと確信がねえなら絶対に関わらねえ。それにミスマルはクソガキだって話だろ、誰が行くか」


…クソガキとは誰も言ってないけどね?癇癪持ちとかわがままくらいしか言ってないけどね?


まあサードがそう決めたなら横からあれこれ言うこともないしと私も頷いてからしばらく。


さっきの兵士たちがまたやって来た。


「無理を承知の上でお願いいたします。ミスマル様はどうしてもあなた方とお会いしたいと所望しておられます。今日ミスマル様は誕生日を迎えられました、その祝いの言葉をどうか勇者様方から…」


「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


「あ、あの、それなら特別な場を設けます、宮殿ではなく別邸で…」


ピシャリとサードは窓を閉じた。


兵士たちはどうしよう、思ったより勇者様は強情だという困った顔をしながらも外からあれこれと説得を試みていたけれど、サードは知らんふりで紅茶を飲みながら本を読む始末。


兵士たちはこれは無理だと察したのか諦めの顔でトボトボ去って行った。


「…何だか可哀想ですよお」


兵士たちの背中を見送りながらヒズはそうサードを見たけれど、


「わがままなガキの言うことなんて聞く必要はねえ。今のうちに世の中どんなに喚いてもどうにもならねえもんがあるって分からせてやりゃいいんだ」


ってサードは一蹴した。


それでも日が暮れる頃、またまた兵士たちはやって来た。


「お願いいたします、ミスマル様はどうあってもあなた方と話がしたいと仰せで、勇者様たちが泊まる所もなく馬車の中にいるとお伝えしたら特別に宿泊する場所を提供していただけるそうです。よければそちらに移動を…」


「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


「しかしミスマル様は政治に関わる年齢でもありませんし、国王のナウヒ様にも内緒で個人的に、純粋にあなたがたとお会いしたいとおっしゃっているだけです」


「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


「ミスマル様は王族ではありますがまだまだ子供です、幼い子供の純粋な希望を勇者として聞き届けていただくことはできませんか」


「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


…もうどんな説得の言葉にも同じセリフしか繰り返さないサードに兵士たちの顔からは絶望の色が浮かんできているわ。


そりゃ私だってミスマルの使い走りとして宮殿とクッルスの間を行き来している兵士たちが可哀想って同情する。それでも過去に国に利用されそうになったこともあるし、サードが頷かない限り私たちだって勝手に動けないもの。


「どうか勇者を説得して」と視線を向けてくる兵士たちに「ごめんなさい無理」と同情に似た視線を送って首を横に振る。


兵士たちはどうしようとお互いの顔を見て諦めたような、それでも引き下がれないという困った顔でクッルスの横で立ち尽くしていると、兵士たちの間から小さい手がニュッと出てきた。


兵士たちは驚いて脇に避けて、下から生えてきた手の主を見て更に驚いた顔をしている。


私も、サードも、皆も驚いた顔で小さい人物に視線を送った。


「ミスマル様…!」


兵士たちはザッと膝をつくけれど、ミスマルは立つように手で合図を送る。


「変装して来たんだ、そんなことをされたら周りに私が何者かバレてしまうだろう?どうか立ってくれ」


質素だけどそれでも質のいい服を着たミスマルは、パレードの時とは違う利かん気の強いわがままそうな顔じゃなくて、大らかで優しい顔つきで前に進んだ。


「どうせいくら説得しようとキーチは言うことを聞かぬだろうからこっそりついて来てしまった、お前は昔から頑固だったからなぁ」


「…え?知り合い?」


カーミとアレンが声を合わせて同じことを言うけれど、そんなのサードだって分からないんだもの。サードは答えようがないまま黙ってミスマルを探るような目つきでジッとクッルスの中から見ている。


ミスマルはニコニコと笑いながら両手を合わせてクッルスの中にいるサードを見上げる。


「三度目の正直だ、どうか私と話し合ってもらえないものか?なあキーチ」


知り合いのような口ぶりにサードは怪訝な顔をしている。ミスマルはそんなサードを見て、フーム、と悩むように腕を組んだ。


「そうだなぁ、分かるわけないな」


そう言うとミスマルは聞き取れるけど意味が分からない言葉を発した。


「トモアリエンポウヨリクル」


サードはスッと返す。


「マタタノシカラズヤ」


でもすぐさまハッとした顔になってクッルスの扉を開けて外に出て、ミスマルの前に立った。


「それはこの世界に無い思想のはず、あなたは一体どこでそれを…」


「キョウモンも丸ごとそらんじてみようか?それなら私が誰か分かってくれるか?」


ふぁっふぁっふぁっと空気が抜けたような笑い声をミスマルがあげて、サードはその笑い声を聞いて驚いたかのように目を見開くと、膝をついてミスマル王子と真っすぐ目を合わせた。


「その笑い方…まさか…!?」


「おや?笑い声で気づいたか」


また空気が抜けるような笑いをあげるミスマルを見て、サードは嘘だろと言いたげな顔でポツリと呟く。


「ジューショク…!?」


* * *


「nnoinvksaoafnppwef」

「prepienfowvndfjurnoaasakvmi」

「cmlwefnnvnzozwenf」

「pvqnvoenovedlsfnoifnv」


サードとミスマルの二人は私たちにはさっぱり理解できない言葉で延々と話し合っている。所々聞き取れるんだけど、それでも意味は分からない。


とりあえず今はクッルスから移動して、兵士の宿舎に移動してここで宿泊することになった。


まあ兵士の宿舎とはいってもここはミスマル専用の宿舎。どうやらアキャシャ国に生まれた王族の男の子は剣の腕と自立性を磨くために十歳になったら王宮を離れて兵士として宿舎で一人暮らしするんだって。


だからミスマルが生まれたと同時にこの宿舎を作らせたみたいだけど、ミスマルは六歳だからまだこの宿舎は一度も活用されていないって聞いた。

…それにしても一人で過ごすにしては広すぎると思うんだけど、十歳でこんな広い建物に一人きりは結構辛いんじゃないかしら。


キョロキョロ辺りを見回していると、


「さてキーチ…ああ、サードと言ったほうがいいか。サードとばかり話が盛り上がってしまって申し訳ない」


ミスマルはそう言いながら私たちに分かる言葉を話すと「どっこいせ」と子供から出るには似つかわしくない声を出しながら私たちに向き直る。


「私はニホンのサドガシマのある寺院でジューショクをしていた、アンカイと申すもの。今はこの国の第一王子に生まれミスマルという名前になっている。あなた方はサードと共に旅をしてくれているそうで、なんと有難いことか…」


ミスマル王子はそう言って手を合わせ頭も下げてくるけど、それでも一番気になるのは…。


「むしろ何で?何でサドにいたジューショクがここに?なんで子供?何で?」


私も気になっていたことをアレンが全て口に出して質問してくれたから、うんうん、と頷いた。見ると皆も一体どういうこと?とばかりに真剣な顔でミスマルを見ている。


「とりあえずこちらの世界には無い思想だろうが、私が関わっていた宗教では魂が体から抜けると天に戻り、また新たな体に入って生まれ変わるという思想がある」


「何だっけ、それって車輪みたいに死んでは生まれ変わってを繰り返すってものでしょう?」


手をグルグル動かしながら言うとミスマルは軽く目を見開いて、知っているのかという顔をするから、


「サードが前に言っていたの」


ってサードに手を差し向ける。ミスマルはそれを聞くと「おお」と嬉しそうな顔になった。


「宗教に全く興味が無いサードがそんなセッポーを言うなんてなぁ」


「話の流れ上だ、信じちゃいねえよ。…ま、あんたもこうなってんだ、どうやら四つ足の動物にも人にも生まれ変わりってのはあるんだな」


冗談みたいにサードが言うと、ニコニコ顔のミスマルは私たちに視線を戻して、


「そういう思想に則り私は天に昇って生まれ変わった。今回この国の王子ミスマルとして生まれたのには目的があったからだ」


「え?目的があって生まれたの?生まれる前の記憶あるの?腹の中で決めたの?」


「母親のお腹に入る前、天の上にいる時から誰もが目的があって自分で自分の人生を決めて…おっと、この話は関係ないからやめておこうか」


…ちょっとその話気になるけどな、と思いつつ黙っているとミスマルは続ける。


「私はこの世界にブッキョーをもたらす目的で生まれてきた。ブッキョーは私が何度もの生まれ変わりの中で幾度となく携わってきたもの。その教えが今この世界には必要であるとのお考えを受けたから、その下地を作る第一人者として私が来ることになった」


「考えを受けたって、誰からさ?」


カーミが聞くと、ミスマルは笑う。


「さあ?姿は見ていない。ただ上から全ての考えが頭に流れ込み、私の長らく携わった教えが今この世界に必要であるようだからそれならば喜んでその役を受けましょうと生まれてきた。

まあ私は下地を作るだけで主に活動し広めるのはもう少し後に生まれる者たちになるだろうが、そろそろブッキョーに詳しい者たちもこちらに続々と生まれてくるころだ。きっと私が成人するころには私と共に下地を作る存在になってくれるだろうよ、今この世界はそういう流れの時なのだそうだ」


「うーわ、エセ宗教家が言いそうなセリフばっか、胡散(うさん)くせー」


カーミがニコニコしながら馬鹿にするように笑い飛ばすと、ミスマルもふぁっふぁっふぁっと笑いだす。


「私もそう思う。こんな話、普通信じられるものか」


あ、なーんだ、怒らないんだ、とカーミが少し肩透かしを食らって黙り込むと、ニコニコ笑いのミスマルは、


「それでも他の者に声を届けやすい王子の立場で、それも建国日に生まれた者は歴史に名を残すという俗信に則りここまで目立つ形で生まれ、思わずハラハラして見守ってしまうぐらいのわがままな性格で皆の注目を集めている。

私はこの人生でブッキョーをこの世界に根付かせるための下地を作る。それが目標だ」


静かに、でも力強い目でミスマルは言い切り、そして顔を穏やかなものに戻して誰もいない隣に視線を向けた。


「そういえば建国日に生まれた者は歴史に名を残す者になるという俗信だがな、あながち俗信でもない。建国日に生まれた者にしか見えないし声も聞こえない者が王宮に居るんだ。そして王国の者に人生を、正しい生き方を説いてくれる」


「え?どういうこと?」


アレンが聞くとミスマルは誰もいない所に手を伸ばして、誰かを紹介するように手を動かしている。


するとガウリスとヒズは一斉に反応した。


「やっぱりその方、他の人には見えてなかったんですかあ?そうなんじゃないかなって思ってたんですよお」


「…何が?」


はしゃぐヒズに聞くとガウリスはミスマルの誰もいない隣に手を差し向けて、


「ミスマルさんの隣に褐色の肌で緑の長い髪の毛を三つ編みにした男性が…」


するとヒズの顔がパッとリビウスの顔に変わって、わきゃわきゃとはしゃぎだす。


「ナディム!ナディムだ!何でナディムさっきから何も喋らないの!話そ!」

サード

「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


サード

「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


サード

「我々は一つの国とは関わらない中立の立場を心がけています。申し訳ありませんがその旨を王子によくよくお伝え願います」


アレン

「村人みたいに同じセリフしか言わなくなっちゃった…勇者なのに…」

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