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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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海賊に襲われたという不審船

私たちの乗っている船、ソーリス号よりとても小さいその船に横づけされてからその商船を上から覗きこんで、私は息を飲んだ。


マストに年配の男性がくくりつけられていて、足の指に鏡を挟んで一生懸命片足を上げて光を反射させているのが見える。


船を先から後ろまでザッと見てみると、甲板には縄で一緒くたに繋がれた男の人たちがぐったりとした様子でこちらを見上げて、


「助けてくれえ…」


「水、水…」


「助かったぁ…」


と弱弱しい声を出し、中にはむせび泣いている男の人もいる。


甲板の上は縄やら木の箱の破片やら汚れた布やら折れた剣やらがぐちゃぐちゃに散乱している…もしかして至るところにこびりついているあの茶色のような黒いようなシミって、血の跡じゃないわよね?


ゾッとしたけど…そうなのかもしれない。甲板の上で一ヶ所でくくりつけられている男の人たちは皆どこかかしら怪我をしているし、服にこびりついている汚れは船のシミと同じような色。


しかも甲板の隅で動かないで横たわったままの人もいて、雑に布をかぶせられている人もいる。

その横になっている人たちはいくらじっと見ていてもピクリと動きもしない…。


何か嫌な予感がして、船の隅で横になっている人たちを指さしながらアレンに目を向ける。


「…死…」


んでないわよね?


「まっさか〜」みたいな言葉でアレンは私の考えを吹き飛ばすかとどこか期待したけれど、アレンは口を引き結んで黙ったまま私を見返して何も言わない。


そのままお互い視線を外し神妙な顔で静かにその場で佇んでいると、ヤッジャは甲板から身を乗り出し、


「船長は!」


とお腹から声を出して聞いた。すると「私です!」と声が聞こえて、マストに繋がれた年配の男性…頭がハゲ上がっていて、代わりにヒゲが長い年配の男性が足を下ろしてこちらを最大限に見上げてきて、


「助けてください!海賊に襲われ飲まず食わずでこの状態で漂流していたんです!早く助けてください!」


その声のかすれ具合と必死さが今までの出来事を物語っているようで、ヤッジャに早く助けてあげないと、と視線を向ける。


ヤッジャはそんな私の視線なんて気にせず行方不明者のリストを一枚一枚めくり、船長だという年配の男性をじろじろ見て、また紙に目を戻しながら、


「ノリス号船長、ノリス・ファイ船長ですな?」


と聞き返した。


ノリスという船長は何度も頷いて、すがるように見上げてくる。


確認も終わったみたいだから助けるのね、と思っていたらヤッジャは更に質問した。


「ガシマシ・タールという者は?副船長の」


一ヶ所に繋がれた所から「俺でぇす」と弱弱しい声が飛んでくる。


ヤッジャはリストの顔とその副船長の顔を見比べて、フムと頷いた。

ガシマシという副船長は、縮れた黒髪に白髪混じりのやつれた感じの人…。どうやらリストと同じ顔だったみたい。


じゃあこれで助けるのね…。


「海賊船に襲われた時、なぜ救難信号を出しませんでした?それさえしていればもっと早めに助けに来られたのですが」


ヤッジャはなおも質問するから私は驚いた。


だって船長も副船長もリストと同じ顔なんでしょ?もしかしてまだ疑っているの?こんな酷い状態の商船と船員たちをみてもまだ?


ヤッジャから視線を逸らし船を見下ろすと、ノリス船長は答えていく。


「あまりにも急で、信号を出そうとしたときには海賊に海に捨てられた後でした。仲間は次々と殺され、帆も切られ、(かじ)も壊され、(いかり)は断ち切られ…それから何日たったのか…」


感極まったのかウッウッとノリス船長は泣き出してしまった。


それでもヤッジャは疑い深そうな目で商船をチラチラと端から端まで眺めている。


アレンも同じように上から眺めて、


「確かに舵なんてどこにもないし、碇もないし、帆は破れてるし…。これじゃもう漂流するしかないレベルだな…」


と呟く。

舵は船を動かすためのグルグル回すもの、帆は風を受けて進むのに必要なものって分かるけど…。


「碇って?そんなに必要なものなの?」


「船をそこに留めておくための重りで必要なものだよ。それがないと一ヶ所に停泊できないから下手したら漂流しっぱなしになるんだ。ほらあそこの短いロープ、あれが碇のロープだったんだと思う」


見ると船の横を短いロープがプラプラ揺れている。

それならこの船は自分たちじゃ動かせないレベルでボロボロで、本当に海賊に襲われて漂流していたんだわ。


改めて、助けてあげるのよね?とばかりにヤッジャを見上げると、ヤッジャは私の視線を受けて肩をすくめた。


「そんな早く助けてあげてみたいな情に訴える目で見んでください、助けるかどうかは私が決めます」


まさか助けないつもり!?


驚愕の表情を浮かべのけぞると、ヤッジャは船員に視線をずらして指で何かしら指図した。船員たちは商船に綱を投げつけて船を繋ぐ。


「今からそちらに助けに行きます、少々お待ちを」


ヤッジャの言葉に商船の人たちは、


「助かった!」


「ああ、良かった!」


と口々に言いあっていて、同じく私もホッとする。


だって助けるかどうかは自分が決めるとか言うから、助けないのかと思った…。


「医務の者を呼べ、そして水と食事の準備、あの者たちの部屋の確保を至急。お前は船長室に戻って情報を本部に知らせろ」


ヤッジャは次々と指示を出して、例の魔導士には本部に報告をしろと伝えると、船員たちは一斉に動き出して船内に消えていく。


船の上にはヤッジャ、私、アレン、ガウリスが残った。


「とりあえず、発見できて良かったわね」


残念なことに何人か亡くなってしまったみたいだけど…。それでも生き残った人たちは助けることができたんだから。


アレンもガウリスも私の言葉に神妙ながらも、良かったよ、うん、良かったとばかりに頷いている。


「けど行方不明になったこの船がこの辺で見つかったってたってことは、この船を襲った海賊もまだ近くにいるかもってことだよな」


アレンの言葉に私はそういうことよね、と身を引き締めたけど、サードの「お前らは手を出すな」の言葉を思い出して肩の力を抜いた。


まずは成り行きを見守っていたらいいんだものね。

ヤッジャもただお客さんから文句を言われないために私たちを巻き込んでるだけで、自分たちでどうにかできるって言いきっていたんだから。


そう思いながら商船をチラと見て、思わず「あれ?」と声が漏れた。


甲板の隅で横になって死んでいる人たちがそこから消えている。

見るとマストにくくりつけられたノリスという船長もそこには居なくて、ロープだけが床に落ちている。


ううん、よくよく見ると一ヶ所にくくりつけられていた男の人たちも全員が動き回っていて、繋がれた綱を伝って静かに、でも素早くこっちの船に登ってきている。


私の首にスッと何かが触れてきた。


下に視線を向けると薄汚れた白い布地に、赤茶けた血がこびりついた腕が首にまわされているのが見えた。


思わず視線を隣のアレンに向けると、アレンも驚いたような目で私を見ている。


次の瞬間、首は骨の太い腕で締め付けられ「グエ」と呻くと同時に体がグルリと半回転させられた。


「てめえら、大人しくしやがれ!」


頭のすぐ上から聞こえる一喝に耳がキンとなって肩をすくめる。


視界の先には表情もろくに変えないで、でも少しだけ目を見開いているヤッジャがいる。


するとこちらの船に上がって来た商船の男の人たちは剣やら斧やらを手に手に私たちを取り囲み、威嚇するように刃を向けて笑っている。


え、何?これってどういう状況…?


「てめえら変に騒いだら、この女がどうなるか分かってんだろうな!」


私の首を腕で締め付けている後ろの男の大声が耳に痛い。

思わず耳をふさぐと、喉元に剣が突きつけられているのが見えた。


「…」


ヤッジャは商船の船長のノリスを無表情でチラと見た。


そんな無表情のヤッジャとは正反対にノリスはさっきまでの哀れな様子は全部消えていて、ニタニタ笑いながら剣先をヤッジャに向けて大声を出した。


「はっはぁー!ひーかかった、ひっかかった~!」


子供が(はや)し立てるような節をつけながらノリスは剣を振り回して剣先をヤッジャに向ける。

ヤッジャはしばらくノリスを見てから行方不明者のリストをめくって、それからノリスをまた見て、リストを静かに閉じた。


「ノリス・ファイ船長では?食べ物…缶詰の輸送を営んでるとのことですが。ご自分らは今、何をなさっているのですかな?」


ノリスはニヤニヤ笑いながらヤッジャの服装をジロジロとみて、ハッハァ、と笑う。


「お前軍人か?なのにまだ分かんねえか?ノリス・ファイの文字を入れ替えてみろ!入れ替えてみろよ!そうしたら出てくるだろ?イリス・ファーノっていうカッコイイ名前がよおー!」


「イリス・ファーノ船長カッコイイー!」


私首に剣を突きつけている男が絶叫して、私は歯を食いしばって耳を抑えた。


でもイリス・ファーノという名前を聞いたヤッジャの表情は一気に変わる。


「イリス・ファーノ…!?顔すら特定できないほど素早く船を襲うといわれた賞金首の…!?」


え!?商船の船長じゃなくて海賊だったの!?


驚いてノリスを見ているとヤッジャも驚いているのかノリスをマジマジと見ている。


「ここ十数年、音沙汰がないのでくたばったと思っていたが」


ノリス…じゃなくて、イリスという海賊は楽しそうに笑う。


「その十数年、海賊狩りが激しくなってるだろお?こっちだって生き残るのに必死なわけよ。老い先短い年齢になったが、だからと言って海は捨てられねえ。だからちょっくら成りをひそめるために名前を変えてふざけて貿易を営んでみたわけよ…。聞いてんのかてめえ!」


イリスは私の横の方に剣を向けて怒鳴る。

そっちを見るとアレンが私を助けようと少しずつ移動していたみたいだけど、イリスの一喝でその場にビシッと妙な姿勢で立ち止まった。


…動いてるのを見られたら負けっていう子どもの遊びじゃないんだから、アレン…。


そんなアレンを無視してイリスは続ける。


「ま、稼ぎはそこそこ。船員を養える程度金は稼げた。そんな暮らしで美人な姉ちゃんをはべらして、そんで死んだら妻になった美人でおっぱいのでかい姉ちゃんに海に流してもらう人生も悪くねえかって思ってたんだけどな…」


傘を振り回すように剣をクルクル回しながらイリスはヤッジャに向き直った。


「俺らは少し前に国から援助をもらえるぐれえの身分になったわけなんだが、思ったわけよ。あれ?こんなに商人になりきってる今なら他の船、楽に襲えるんじゃねえのって」


「…それで、商船を次々に襲ったと?」


「そうよ、向こうは俺らを国公認の貿易商だと思ってる。だから名前も知らねえ小さい船にちょっくら挨拶して通り過ぎる。そうしてお互い通り過ぎたと思わせて後ろから忍び寄って、現役の大砲でどっかーん!とな!」


イリスは両手を広げてゲラゲラと空を見上げて笑い転げた。


「そんで慌てる商人たちを次々とばっさばっさと斬り殺して、海に捨てて、後はその船の中身を奪う!完璧だろ!

まあ前に襲った連中が中々腕の立つ奴らで、俺の船をこんなざまにしちまったんだけどな!俺らが勝ったんだが船はもう役に立たねえし、そいつらの船奪おうとしたらさっさと逃げるしで。なぁ、俺らなっかなかの名演技だったろ!?ほんっと、助けに来てくれてありがとー!イリス嬉しいー!」


「イリス・ファーノ船長、かっこ悪ーい!」


剣を突き付けている男がまた絶叫するから思わず、


「ああもう!うるさい!」


と言ってしまった。


するとイリスが私の声を聞いてグルリと私を向いて、ハッと息をついた。


「おいおいおいおい、これまたずいぶんと可愛らしいお嬢ちゃんでちゅねえー。お爺ちゃんが遊んであげましょうかぁ?んっふふふふ」


イリスがいやらしい笑いを浮かべてニタニタ笑いながら近寄ってきて、ゾワッと体に鳥肌が立った。


逃げる…いやムリ、首はギッチリ締められている。そしてイリスは手をワキワキしながらどんどん近寄ってくる…!


と、素早い物が私の視界をよぎって、イリスに向かって飛んで行った。

イリスはその素早く動く物を剣先でキィンッと弾いて、そっちをギロッと睨む。


見ると、ガウリスが槍を突き出している。


普段の温厚な微笑みは消え失せ完全に戦士の表情になったガウリスは、弾かれた槍を素早く脇に構えると盾を前にしてそのままイリスに突進した。


「うおおおおおおお!」


イリスは叫びながら剣で盾を防いだけど、体格でも体重でも突進するガウリスには勝てず弾き飛ばされてお尻から仰向けに倒れこむ。


ガウリスはひとっ飛びで距離を詰め、イリスの体をガッと踏みつけ頭に向かってビュッと突き下ろす。イリスの頭に槍が刺さった、と思った。でもギリギリで顔を逸らしたイリスは頬から耳までを大きく切られながらも槍を避けた。


船に深々と刺さった槍を即座に引き抜いたガウリスは、再び上に振りあげ狙いを定める。イリスはガウリスに踏まれたままで動けもしない。


完全にガウリスが追い詰めた!


すごい、こんな数秒足らずで追い詰めて…。


呆気に取られながら見ていると、私の首に剣を突き付けている男が私の首をもっと締めながら、


「てめえ、この女がどうなってもいいのかよおー!首が真っ二つになるぜぇー!?」


と叫ぶとガウリスはハッと動きが止まった。

イリスはその一瞬の隙に鎧のつけていないガウリスの太ももにブッと剣を突き立て後ろに素早く逃げていく。


「ぐっ」


「ガウリス!」


「おお痛ぇ」と血の流れる顔と耳を押さえ立ち上がるイリスはガウリスを睨みつけ、ツバを吐いた。


「その盾と槍の使い方、サンシラ国の男か?あの国の男は戦い馴れしてて厄介だ。さっさと殺せ」


その命令に海賊たちが一斉に動いた。

太ももから血を流しながらも、ガウリスは迫る海賊たちを相手に槍を振り回して応戦し始める。


一人、二人、三人…次々と向かってくる海賊を確実に船の上に沈めていって、一人では敵わないと見るや数人がかりで海賊たちは一斉に刃を向けてかかっていくけど、ガウリスは全ての攻撃をスッスッと軽くかわし槍で防いで海賊の足を払い、槍で攻撃して倒していく。


…ガウリス、あなた本当に神官なの…?


「船長!駄目だ、サンシラの男はやっぱ強え!」


海賊の一人が叫ぶと、私の首に剣を突き付けている後ろの男が叫んだ。


「ゴルあああ!女の命がかかってるっつってんだろうがよぉーーー!」


その言葉で私はハッと気づいた。


そうよ、私がこうしているから皆が好き勝手に動けないんだわ!逃げなきゃ!


『てめえらは手を出すな』


そんなサードの言葉を思い出したけど、今はそんな言葉を守ってる場合じゃないわ!


私は力を発動して海を動かした。

周りの海がドドドォッとせりあがって船の周りを高い水の壁で囲み、大きい声で脅した。


「今すぐ降伏しなさい!さもないとこの水をあなたたちにぶつけて攻撃するわよ!」


甲板の上の全員が周りを囲う海水の壁を見て驚いた顔をしているけど、それでも何となくヤッジャは微妙な表情で首をフルフルと横に振ってやめなさいと止めるような雰囲気で、イリスはニタニタと笑っている。


「いいよ、やれよ」


「…え?」


予想外の返しにたじろいていると、イリスはおかしそうに、


「お嬢ちゃんよ、あの量の水を俺らにぶつけるってことは、あの量の水で船を攻撃することにもなるんだぜ?そうなりゃ俺らもろともこの船は沈む」


あっ…それは…。


発動した力を引っ込めると、船を囲う水の壁はシュルシュルと海に戻っていく。


「はーっははは!馬鹿だ!その女馬鹿だ!バーカバーカ!」


イリスが囃し立ててきて、恥ずかしさと悔しさでギッと睨みつけた。

サードとはまた違った馬鹿の仕方だけど、これはこれですごく腹が立つ…!


すると私の首に剣を突き付けている男が怒鳴ってきた。


「だが俺は馬鹿な女は嫌いじゃねえ!惚れた!結婚してくれ!」


「誰が!バカ言わないで!」


私も負けじと怒鳴り返し後ろを振り向く。

そこで私の首を締め上げていたのは副船長のガシマシだと気づいた。


そのガシマシは私の言葉にショックを受けた顔をすると、ガックリとその場に膝をついて空を仰いでおんおんと泣き出す。


「ふられたぁーん!あああーん!あああああああーーーん!」


解放された私がスススと離れると、アレンが私の肩を掴んで素早く安全な所に走って逃げる。


それを見たヤッジャは近くに居た海賊のあごを望遠鏡で殴打して、床に沈めた。


それが合図だったみたいに船の上が再び戦いへと突入する。


それでも海賊の人数は少なく見積もっても三十人はいるし、アレンは戦闘に向かないし、私が魔法を使うと船を壊すどころか沈めちゃうかもしれない。


風を飛ばす魔法なら…と杖を構えるけど、海賊に紛れてヤッジャとガウリスが戦っているから巻き込んでしまいそうで魔法が使えない。


あ、待って。そういえば船の中にはたくさんの戦い慣れした冒険者がいるじゃないの!


「ヤッジャ!冒険者、中にいる冒険者を呼びましょう!」


「通信魔法を操る魔導士が居なければ伝える(すべ)がない、私は魔法が使えません!」


攻撃を避けながら望遠鏡で海賊の頭を殴打しているヤッジャがそう返してくる。

そう言えば通信魔法が使えるあの魔導士の人、本部に連絡しろってヤッジャに言われて船の中に…。


「どうして行かせちゃったんだよー!」


アレンが叫ぶと、ヤッジャはキュッとこちらに向き直り、


「先に行かせて事務処理をさせようとしたのが仇になりましたな」


と望遠鏡で海賊の剣を弾きながら答え、望遠鏡の覗く側を海賊の目にドッと突き立てて床に沈める。


…ヤッジャも十分に強いわ。剣を相手に望遠鏡で戦ってる…。それでガウリスは?太ももに負った傷は大丈夫なの?


目を向けると、ガウリスは槍をグルグルと振り回し盾で敵の攻撃を防いで、その盾で相手を殴打して、海賊を槍の柄で弾き飛ばして…と、目で追うのが難しいくらいの動きで戦っている。


と、アレンが私のあごを上にあげ、喉元を確認した。


「良かった、首切れてないな。じゃあ俺、今のうちに冒険者たち呼んで…」


私の無事を確認したアレンが走りだそうとすると、猛突進で何かがこちらに突っ込んでくるのが視界に映った。


「俺の女にあごクイしてんじゃねえよぉー!返せよぉーー!」


さっきまでおんおん泣いていたガシマシが目を吊り上げ剣を振り上げながら迫ってきて、アレンに剣をビュンッと振り下ろす…!


「ぎゃあああ!」


アレンは絶叫しながらすんでのところでしゃがみ込み、ガシマシの剣先はアレンの髪を少し切り落としながら空を切った。


「てめえ、俺の女のなんなんだよぉーー!触んなよぉーー!」


ガシマシは剣を振り回し続けて、アレンはあわあわしながら剣先を上手く避け続ける。


「あんたの女じゃないだろぉ!?」


「何言ってんだ、もう結婚確定してんだよゴルァ!」


「そんなわけ無いでしょ!馬鹿なの!?」


気持ち悪いことを勝手に言っているガシマシを完全拒否すると、ガシマシはその場に膝をつき、空を仰いでおんおんと泣き出した。


「ふられたぁーん!あああーん!あああああああーーーん!」


「おいおい!そんな馬鹿だが良い女、てめえにはもったいねえよ!」


ビシビシと剣を振り回しながらヤッジャを攻撃しているイリスが笑いながら遠くから叫ぶ。


「だって髪の毛いい匂いなんだよぉー!すっげーいい匂いなんだよぉー!さっき捕まえてる時フンカフンカしたらすっげーいい匂いだったんだよぉー!惚れるに決まってんだろうがよぉー!」


ガシマシはおんおん泣きながら余計に気持ち悪いことを言うから思わずにじり下がると、私の横をスッと誰かが通過して泣きじゃくっているガシマシの横っ面を蹴飛ばす。


ガシマシは「モルスァ」みたいなことを言って横に飛んで行った。


私は目を見開いて蹴りを入れた人物を見る。


そこには紺色の鎧に身を包み、聖剣を手に持ったサードが立っていた。

ガシマシ

「ファー…ブルスコ…ファー…ブルスコ…ファー」


海賊ら

「(副船長またバグってらぁ…)」


海賊ら

「(情緒不安定だからなぁ…)」



先日テレビでファービーの声を初めて聞いたら、思った以上にイラッとする声でしたね。

そしてそのイラッとする声を真似て「ナデナデシテ〜」と言ったら猫が「えっ…!?」みたいな、驚きとドン引きの狭間の顔してた。

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