アキャシャ国到着!
「そういえばアキャシャ国なんだけど」
新しい服を購入して出発してから、私はハッと顔を上げて皆に声をかけた。各自自由な時間を過ごしていた皆は私に視線を動かす。
「アキャシャ国のギャラバヤ都にナディムがいるじゃない?」
うんうんアレンが頷いて、その横からサードのハッと吐き捨てるようなため息が聞こえてくる。
「『都』だからやたら広いんだよな…リビウス探す時より大変だぜ、きっと」
それはそう。地図に疎い私からみてもギャラバヤ都はかなり広い。
リビウスの居たサエロ市なんて目じゃないもの。都内の端から端まで歩いて二週間はかかりそうな広さだもの。それも首都だからかなり人が多いもの。
そんなウンザリしているサードと、大変だろうなぁって思ってる皆に私は更に打撃を与える発言をしないといけない。
「もしかしたら皆も知ってるかもしれないけど…、さっきショップで聞いたの。あと五日ぐらいしたらアキャシャ国第一王子の誕生日があるらしくて王家がパレードするって」
「へー。それが?」
カーミでさえそう聞いてくるってことは、私が今聞いてきた情報は誰も知らない?
「それがね…王家の誕生日の祝祭は一ヶ月続くんですって。しかもその祝祭に国内の人がギャラバヤ都に押し寄せてくるらしくて、他の国からも観光客が押し寄せるからきっとものすごい人だよって言われて…」
「…マジで…?」
やっぱりアレンとサードもその話は知らなかったみたいで顔を引きつらせている。しかもアレンはボソッと、
「ってことは今のまま進んだら俺らが到着した次の日から祝祭が始まるってわけか…」
「それならば本当にナディムさんを探すのは大変かもしれませんね、ただでさえ首都で人が多いのに人が集まるとなると…」
ガウリスもこれは大変なことになったと少し難しい顔をする。そんなガウリスにリンカは不思議そうな顔をする。
「けど皆で手分けして探せば大丈夫なんじゃないの?」
するとサードがイライラしたように言い放った。
「相手は幽霊みてえな奴だぜ、それに見えるのはヒズとガウリスの二人しかいねえ」
「え?マイレージさんとリビウスさんは探せないの?」
リンカの質問にヒズはうんうん頷いて、
「お二人は私からあんまり離れられないんですよお」
「そうなんだ…」
納得したようにリンカは黙り、サードは嫌な誤算だとばかりに頭をかいてイライラしている。
「シーリーとスダーシャンの言うこと信じるなら適当にうろついてりゃナディムには会えるだろうが、そこまで人が集まる時期に来ちまったとはな…。そうだと知ってりゃベルーノのところに先に行くべきだったか…」
それからはどれくらい人が多いのか、そんな中でナディムは見つけられるのか、どうやって探そうかとあれこれ話し合いながらもどんどんアキャシャ国に近づいていった。
そうして数日後、ふとした時にアレンが遠くを見てクッルスのソファーに膝立ちして遠くを指さす。
「アキャシャ国までもうちょっとだぜ!ほらあそこに国境の門が見える」
ついにナディムの居る国まで来たんだわと私も窓から国境の門を見た。
とりあえずここに来るまでに話し合って、国に入ってからの私たちの行動はこんな感じ。
・お祭り期間中だから宿の確保が先決。国に入ったらすぐさま私とアレンで手早く探す
・ガウリスとヒズはマイレージとリビウスから見た目の詳細を良く聞いてナディムを探す
・サードはナディムについての情報収集、ドラゴンの神殿についての情報収集、現地視察
ナディムはすぐ見つけられないかもしれないけど、イージンから聞いた神に近いドラゴンが祀られた神殿はすぐ見つかるだろうから先に神殿にいくかという話にはなっている。…まあそのドラゴンと直接会えるかも分からないでしょうけど、神殿に行けば何か話す手がかりがあるかもしれないってことで。
まあそのドラゴンにどうしても会って話をしなければならないと言い張っているのは主にサードだけだけど。
だって度々サードは独り言みたいな、それでもノーは認めない圧のある言い方でガウリスの目をガッツリ見ながら、
「お前が龍に変身して攻撃するなり空を飛んで移動できるようになれば俺らが楽になるんだがなあ。その神に近えドラゴンと話でもしてゲオルギオスの野郎どもみてえに自由に変身できるような極意でも教わりゃ俺らが楽になるんだがなあ」
って言っていて、ガウリスは曖昧に微笑みながら静かに頷くだけでどうしても乗り気には見えなかったもの。
「ガウリス、嫌なら断ってもいいのよ。サードはただ自分が楽になるためにガウリスを利用しようとしているだけなんだから」
サードが圧のある言い方でガウリスに言い含めるのを見かける度に私はそう言って断りなさいと勧めてみるけど、ガウリスは睨みあう私とサードの間で困ったように微笑んでるだけだった。
「さて、通行手形でも用意しとこう」
色々思い出していたらアレンが通行手形を用意し始めたから、私たちもめいめい通行手形を取り出し始める。リンカも取り出したけれど…。何度見てもよくそれで国境を越えられるものだわって思っちゃう。
リンカは正式な通行手形は持っていない。持っているのは「通行手形」って書かれているだけのただの一枚の紙。
それはどうやらサンシラ国のバーリアス神から渡された物らしいんだけど、そんなペラペラの紙をリンカはあたかも通行手形みたいに渡して、兵士も魔法陣にその紙をかざして確認した後は、
「はいどうぞ」
って何事もなくリンカの手元に返すだけで何も突っ込まない。
どんな構造なのか良く分らなくて最初は不思議に思ってその紙をひっくり返したり眺めたりしていたけれど…。
「バーリアス神は旅先安全を守る神ですから、このようなことはお手の物なのかもしれません」
っていうガウリスの言葉で、ああなるほどって納得できた。なんとなく「イエイ☆」って親指を立てながら笑っているバーリアスの顔が脳裏に浮かんでおかしく思ったものだわ。
それにしてもここから見るだけでもアキャシャ国に向かっている人の数があまりにも多い。歩いている人もいれば、ラクダに乗って進んでいる人たちもいる。馬車で進む人もいればどこかの軍隊かしらって感じで武装した人たちがずらっと並んでいる…。
「…すごいわね」
そんな人たちを目で追いながら進んでいくと、向こうから武装した人が馬に乗ってクッルスの隣に並んできて、窓をトントンとノックしてくる。
「ん?どした?」
アレンが窓を開けると武装した人は頭にかぶっていた鎧を暑そうに指で押し上げて、
「入国審査で混雑していますから乗り物に乗っている方にはなるべく左側通行でお願いしています、右は歩行者専用にしていますから轢かないように気を付けて」
それだけを言うと武装した人はクッルスから離れて、後ろからやってくるラクダに乗った人たちに近づいて左に寄るようにジェスチャーしている。へえ、ラクダも乗り物扱いなんだ。
「交通整備かぁ…こんな暑いのに鎧もつけて大変だなぁ、あの人たちアキャシャ国の人だなきっと」
確かにこんな蒸し暑い中、鎧もつけて大変だわ…。
でも人も増えてきているし、クッルスはかなり大きいから少しゆっくり進まないと人にぶつかってしかうかも。勝手に人は避けるしよっぽどの時には止まるようになっているけど、国に入る直前で人を轢いてしまうような事故は起こしたくないし。
なるべく進むのをゆっくりめにして国境までたどり着いて、窓から全員分の通行手形を兵士に渡した。
私たちの通行手形を全て受け取った兵士はハッと顔を上げて私たちを見る。
「勇者御一行…!?」
「ええ、世間一般的にはそう呼ばれています」
「わあああ…!こんなところまで勇者御一行がくるんですか、会えて光栄です」
兵士は窓から私たち全員と握手をするとポシェットからゴソゴソと何かを取り出して、パラパラとめくるとそのうちの一枚をびりっと破って私たちに渡した。
「これは乗り物に乗っている方に渡している整理券です。中に入ったら乗り物は一定区間に置いていただく決まりになっていますんで、この番号の所に乗り物を停めるようご協力おねがいします。番号は町中にいる兵士に聞いていただければ全員分かっていますから」
「分かった、ありがと」
アレンが整理券を受け取ると、兵士はニヤッと笑ってアレンの腕を手の甲で軽くペシペシと叩いた。
「良い場所を融通しときました、どうぞ祝祭をお楽しみください」
「え、何それラッキー。ありがとう嬉しい」
アレンがバイバーイ、と腕を振ると兵士もニコニコと手を振って見送ってくれる。
そのいい場所ってどんなどころなのかしら、町中に近い所なのかしらと思いながらたどり着いた場所…。
それは王家のパレートが目の前で見れる、そんな特等席だった。
「本当にいい場所を選んでくれたのね」
嬉しい気持ちとちょっと申し訳ない気持ちを感じながら言うとアレンは、
「スッゲー!こんな目の前で見れるんだぁ」
とキラキラ目を輝かせている。
「まずクッルスも停めたからお前らは宿探してこい。人が多いから変な奴もきっと多くいるはずだ、エリーは気をつけろ」
「…なんで私にだけ…」
文句ありげにヒズだっているのにと視線を動かすと、サードは即答する。
「ヒズにはマイレージとリビウスがいるから心配ねえ」
ニコニコ微笑みながらヒズは、
「はい、大丈夫ですよお。お二人ともお強いですからあ」
まあ…元勇者御一行の二人がボディガードとか、ものすごく心強いわよね…。
「じゃあエリー、俺と一緒に宿探しに行こうぜ」
「ええ」
アレンの言葉に頷いて私はアレンと一緒にクッルスを出た。
そうやってアレンと一緒に宿を探しに出たはいいけれど…こういうお祭りの時期だからクッルスを停めた所から近い宿は全滅。
しかもその全ての宿で、
「ここら辺で祝祭のある前日に飛び込みで宿を取るなんて無理な話ですよ、もうここから三日くらい歩いた場所じゃないと空いてる宿はありませんよ」
って言われる始末。
「…もしかしてこれ、去年から宿の予約してた人がかなり居るな…?」
ある宿でアレンはピンときた顔でそんなことを呟くと、宿屋のおじさんはうんうん大きく頷いて「その通り」って言っていた。
…ということで、諦めずにあちこちの宿…普段サードが目にも留めないような安めの宿まで巡ってみたけれど、結局全滅だった。
「もうこれクッルスで寝泊まりするしかないな…」
「そうね…。でもしょうがないわ、こんなに探しても見つからないんだもの」
二人でしょうがない、こういう状況ならしょうがないって頷きながら引き返しているうちに、アレンは通りすがりの地元のおじさんとあっという間に親しくなって、
「ところで祝祭ってどんなことすんの?」
って質問し始めるとおじさんも親し気にあれこれ教えてくれるから私も隣で一緒に話を聞いた。
今回の祝祭の主人公は今年で六歳になる第一王子。名前はミスマル。
「それもミスマル王子はアキャシャ国の建国日と同じ日にお生まれになった方なんだ!」
おじさんは興奮気味でそう言ってきたけど、それの何がすごいのかよく分かんなくてキョトンとしていると、
「このすごさが分かっていないな?」
って、おじさんは得意げに教えてくれた。
「この国ではなぁ、建国日と同じ日に生まれた王家の子は歴史に名を残す方が多くいらっしゃるんだ。だから『建国日に生まれた王家の子は名君になる』って言われてんだよ。いや~のちの名君が御世継なんだからこの国も安泰、安泰!」
カカカカ、と得意げに話終えたおじさんだけど、それでも少し顔を改めてポツポツと続けた。
「だがその名君になるだろうミスマル王子は今のところ利かん気が強いみたいでなぁ…よく癇癪を起すわがまま王子らしい。まあ子供ってのは基本わがままなもんだが次期国王がわがままってのはちょっと不安なもんだぜ」
それと聞いたのは王家の家族構成と名前。国王はナウヒ、王妃はヒミナ。それとミスマル王子の二人のお姉さん。一人は今年成人したマハーラ第一王女と、それより少し年下のバーラタ第二王女。
今回のミスマル王子の誕生日は建国日でもあるから、そのどっちのお祝いを同時にやるみたいでかなり豪勢なんですって。
とりあえず祝祭の一ヶ月はギャラバヤ都のあちこちを練り歩くみたいだけど、初日の明日は特に派手なパレードをするみたい。
「じゃあ二人はこの祝祭は初めてってことか、だったら派手過ぎて目が眩んじまうぜ!楽しみにしてな!」
おじさんはカカカ、と笑いながらそう言ってきたけれど…毎年見ている地元の人がそう言うくらいなんだからきっとものすごいんだわ。
「楽しみね。普段こういうお祭りをやっている所に行ったりしないもの」
「だよなぁ。せっかくなら楽しみたいよなぁ」
私とアレンは明日のパレードに思いを馳せながらクッルスに戻った。
文章の見直ししてコピペで文字を張りつけ並び替えしていたら、偶然にも「第一王子のミスマルはんだって」と京都っぽい感じになった部分があってフフwとなりました。
京都エリー
「楽しみやねえ。普段こういうお祭りしはる所に行ったりしいひんもの」
京都アレン
「ほうやなぁ。せっかくなら楽しみたいなぁ」
サード
「…大文字焼き…」(ボソッ)
京都エリー
「え?今なんて言いはりました?大文字焼き?あれは五山の送り火言いますのや。観光で来はったんですか?ええなあ時間があって。なんならうちでぶぶ漬けでも食べていかはります?ぶぶ漬けなんてうちにあらしまへんけど」(冷笑)
サード
「wwステレオタイプのいけずのオンパレードやめろww」
~~
ずっと前に京都へ行った時、昼は「風が柔らかくて気持ちええですね」と話すカップルの会話が、夜は「ええわ、酔い覚ましに夜風に吹かれながら帰りましょ」と話す夫婦の会話がふっと聞こえてきて、その言い回しに京都にはまだまだ雅な精神が行きわたっていると確信しました。大変良かったです。




