死にたくない
「エリーさん、大丈夫ですかあ?」
クッルスの中でヒズに心配そうに言われて、私は大丈夫とも言えずに黙っていた。
私の具合はどんどんと悪くなっていて、今も辛すぎてヒズの言葉にも応えたくないぐらい具合が悪い。足は両方とも強ばって歩くたびに足はもつれるし、指も強ばってうまく動かなくて杖を取りこぼすことが多くなってきた。
色んな病院や魔導士の元に訪れて診察してもらったけど、言われるものは体に異常は見つけられない、魔法によるものじゃないというものばかり。
「もしかして黒魔術関係じゃねえか?あれに体の不具合を起こすもんもあっただろ」
サードはそう言っていたけど、私はガウリスから譲ってもらった魔族かそれに近い災いから三度守ってもらえる神のお守りを持っている。確認してみても赤い点は減っていなかったから魔族関連ではなかった。
私はため息をつく。
近頃朝起きるのが辛い。他の人は感じない体の冷えでろくに眠れないせいで寝不足続きで、起き上がるのも大変だし着替えるのも大変。
夜寝る時も鬱々とする。寝たら寝たで今度はイルスが夢の中に出てくる例の夢を繰り返し見るから…。
どうあっても寝不足、安眠もできない、なのに医者たちからは体に異常はないと言われるばかり…。
「何だったら睡眠薬とか処方してもらえばいいんじゃね?」
アレンはそう言ってくれるけど、私が欲しいのは睡眠薬じゃなくて夢を見ないようにする薬。
そう伝えると「夢?」とアレンは首をかしげる。
「どんな夢みんの?そんなに嫌な夢?…あっ!もしかしてこれってモンスターの仕業じゃねぇかな!悪夢を見せて眠らせないで弱らせる的な!」
アレンはそれだ!とばかりに私の大きいバッグからモンスター辞典を取り出して夢に関するモンスターを調べた。すると確かに夢に関わって人を弱体化させるモンスターはいたけど、それと同時に私みたいな症状を出すモンスターはいなかった。
そうした日々が過ぎるうちにも夢の中にイルスが出てきて、その度に体が一体化していく。
ずっと前に思い出したイルスの言葉通り、下半身全てがイルスと一つになって、お腹がイルスと一つになって…。
イルスと体が一体化した部分が次々と体調が悪くなっている気がする。ううん、気がするじゃなくて、確実に悪くなっている。
お腹が一体化した後はずっと胃が重くて気持ち悪くて吐き気がして食事もろくに取りたくない。
そんな様子を見ていたサードは、ヒズとイルスが居ない時にケケ、と笑いながら、
「お前死ぬんじゃねえの」
と言ってきた。
いつもの私だったら「はぁ!?」って即座に怒ってたと思う。でも今の状態だと怒るよりも本当にそうなるかもしれないという恐怖でゾッとして何も言い返せなかった。
あまりの体調の悪さ、あれこれと真実をつくようなサードに死ぬんじゃねえのと言われたことで心が折れて思わず泣いてしまったら、ガウリスとアレンがサードにそんなこと言ってはいけないと強く注意していたけど…。
私はずっと脅えている。もしかしてこのまま死ぬんじゃないのって。
食事も睡眠も動くこともろくにできなくなってくると段々と自分が起きてるのか眠って夢をみているのかの区別もつかないほどボンヤリすることが多くなってきた。
そうやって私の具合が悪くなるのに反してイルスは出会った時よりも肌の血色はよくなって、微笑む回数も皆と話すことも随分増えた。
それでも一番懐いているのは私。まるで自分の物とばかりにべったりと私の隣に張り付いて、率先して面倒を看てくれている。
…ありがたいと言えばありがたいわ。特に着替える時に手伝ってもらえるのは凄く助かる。
男の皆には頼めないし、ヒズは女の子だけどその近くにマイレージとリビウスがいるから着替えている所は見られたくないし。
むしろヒズは男二人の側で普通に着替えたりお風呂に入ったりしているのかしら。
そんな疑問が湧いても気分の悪さでそんな日常会話もろくにしていない。
でもかいがいしく身の回りの世話をイルスにしてもらえるのはありがたいと思う反面、近寄って欲しくないという気持ちのほうが大きい。
「エリーさん綺麗な肌しとるわ」
イルスにそうやって褒められてもゾワッとした気持ち悪さが湧き上がって、もうあっちに行って!と追いやりたくなる。
こんなに献身的に世話をしてくれるんだからとその言葉は必死に耐えているけれど、それでもやっぱりイルスはどうしても嫌い、気持ち悪い、近寄って欲しくない。
「イルスさん、エリーさんのお世話を代わりましょうか。あちらで少しお休みになられては」
私からぴったりくっついて離れないイルスに、ガウリスはたまにそんな風に声をかけている。
私としてもイルスに少しの間だけでも離れてもらいたいし、できれば話すとホッとできるガウリスに近くにいてほしい。
だからイルスがそのまま離れることを願うけれど、イルスは煩わしそうな目をして、
「エリーさんが着替えたいとき、男のあんたに頼むと思うぅ?それにトイレに行きたいとき女子トイレにあんた入って行けるぅ?できるんやったら、どうぞご自由にぃ」
そうまくしたてられたらガウリスももう何も言えない。
それでもガウリスはなるべくイルスと私の間に入るように配慮してくれているように思える。それがイルスは気に入らないみたいで、
「うちあいつ嫌いや、なんやうちが悪いことしてるみたいにエリーさんから引き離そうとしよって。あの笑顔の裏で何考えてるかも分からん、気持ち悪い」
とガウリスの悪口を言い始める始末。
ガウリスのことを悪く言わないで!と思うけれど、それでも体調の悪さで怒る気力も湧かない。
「エリーさん」
イルスに声をかけられて、ハッと顔を上げた。今はホテルの椅子に座って、イルスに冒険用のローブの紐を結ばれている。
ああ、着替えていたんだっけ…。じゃあ今まで思い出してたのは夢だったのね…。
「私…今寝てた?ヒズは?」
「うん、軽く寝とったよ。ヒズさんは自分の部屋やないの」
イルスは私の質問に答えながら「できたで」とローブの上から肩をポンポンと叩いて両手を差し伸べてくる。
「掴まり、立てへんやろ」
「…」
イルスの両手を黙って見つめる。何の変哲もない、肉の厚みのない手の平。
掴みたくない。でも掴まないと最近は立てもしない…。
イルスの両手を掴んで立とうとすると、イルスが下着姿になっている。気づけば私も下着姿になっていて、気づけば二人でベッドに横並びで座っていて…。
「エリーさん」
熱っぽい声で囁やきながらイルスが私にのしかかってくる。
え?これは夢?それともこっちが現実?どっちなの…?
パニックになっていると、イルスの顔つきが変わる。その目はギラギラと輝き始め、口が裂ける程に笑った。
その口の中に見える歯は牙といえるほど鋭く伸びて、イルスの青白い肌に血管がミシミシと浮かびあがる。
「エリーさん、見とれよ、てめえをぶっ殺してその体を乗っ取って、てめえの全てをグチャグチャにしてやる、体も魂も何もかも消え失せるほどにてめえの何もかもをぶっ壊してやる」
目を見開いた。
イルスじゃない。今のはイルスの声じゃない。まるでがさつな男そのものの喋り方と声。まるで全く違う誰かに体を乗っ取られているヒズみたい…。
するとわずかに上を向いたその顔が瞬間的にイルスに戻る。
「やめーや、あんたのそういう所ほんま嫌いやわ。エリーさんと二人の時は引っ込んどれほんま。だから男は嫌いやねん、自分勝手に行動してうちのやりたいこと全部潰しよる」
すると今度は男の顔つきになるとハハ、と野卑た笑い声を上げながら私の首を絞めつけてきた。
「うるせえ!こいつはぶっ殺す、絶対に俺の手でぶっ殺す…!」
そう話すイルスの裂けた口がドロッと溶け出して、次第にその喉、胸、お腹もが溶け、その溶けたオレンジ色に光る液体が私の体の上に垂れ下がってくる…!
いや!いやあああ!
「エリーさぁん」
ヒズに声をかけられて、私はハッと顔を上げた。今はクッルスのソファーに座って、ヒズに揺り動かされている。
ヒズはそれは心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。
「うなされてましたよお、大丈夫ですかあ?」
「…私、寝てた?起きてた?」
「うとうとし始めたからそのままにしてたんですけどお、すごくうなされてたから起こしたんですう。ごめんなさい、起こさないほうが良かったですかあ?」
じゃあさっきのが夢で、こっちが現実…。
呆然としながら窓の外を見る。…そうね、さっきまで見ていたのは全体的に薄暗くて嫌な雰囲気で、こんなに明るくなかった…。
「起こしてくれてありがと、ヒズ…」
そう言いながらヒズの何でも受け入れる優しさにすがりたい気持ちで肩に頭をもたれる。
ヒズのゆったりしたボブの髪の毛、それに女の子らしい柔らかい感触を頬に感じているとこのまま眠れそう。でもまた寝たらイルスとの変な夢が始まるかも…。
すると、私の真正面に座っているイルスが鋭い目でヒズを睨んでいるのが見えた。
どこか忌々しいという感情と、余計なことをしおってと言いたげな感情が見え隠れしている…気がするけど、そんなことにも気を回したくないと私はそのまま目を背けた。
* * *
「なあ、エリーさん。ついにうちら喉まで一体化したで」
イルスの言葉通り、私とイルスは頭以外の全てが一体化して、イルスの頬と私の頬がくっついている状態。
「なあ、気持ちええやろ?なあ?」
気持ち悪い、離れて、どこか遠くに行って。そう言いたくても何も言えない。
「そろそろだ」
イルスの喋り方が変わった。この間からたまにイルスの口調ががさつな男みたいになる。
頬と頬がくっついるから顔は見えないけど、きっとギラギラ光る目で口が裂けるように笑っているんだと思う。がさつな男の口調になった時にはいつもそんな目をしているから…。
…でもその光る目はどこかで見たことがある気が…。
「エリー」
名前を呼ばれながら肩を揺り動かされてハッと目覚める。目を開けるとサードが顔を覗き込んでいて、周囲は暗い。
ここはどこ?暗いから夢?
「てめえがクッルスの中でぶっ倒れて動かなくなったからプライベートを完全に守るし腕もいい医者が揃ってるこの病院に入院させた。それから半日眠って今は夜だ」
…ああ、私、入院してるの…。そう言われれば目が回る状態で誰かの背に負ぶわれてどこかに運ばれていたような気がする。
サード。
サードに声をかけたけど、声が出ない。
そのことに驚いて寒さでかじかんで震える手を喉に当てて、必死に声を出そうとする。でもヒューヒューと夢の中で出ていたような息が漏れる音しか口から出てこない。
サードは腰をかがめて真上から顔を覗き込んでくる。
「声が出ねえのか」
横になりながらかすかに顔を縦に動かすと、サードは眉間にしわを寄せ、厳しい表情で考え込んでいる。
そうしているうちに心臓がドクンと大きく脈打って、それに合わせるように胸が詰まって苦しくなった。夢の中でイルスと胸が一体化してから、変に心臓が大きく脈打って苦しくなって息がしづらくなっている。
「う、うう」
ようやく唸り声がでて、胸を押さえながら仰向けから横になって必死に息をする。それでもヒューヒューと喉が大きく鳴るばかりで息が自由に吸えない。
苦しい、苦しい…!
ベッドをかきむしるように掴み息を大きくしようとする。でもいつもは何も考えずにできていた呼吸が、今は全然できない…!
「落ち着け。大きく鼻で息を吸い込め」
言われる通り息を吸い込み、息を止める。
「細く長く口から息を吐く」
言われる通りに息を吐く。
「繰り返せ」
言われる通りに何度も繰り返すと少し呼吸も楽になってきた。それでもずっと喉はヒューヒューと鳴るばかりで、息を吸うと胸の付け根が妙に圧迫感があって鈍く痛むし、スッキリ息が吸えない。
サード。
声をかけたくても、出るのはやっぱりヒューヒューという音だけ。
それでも私が何か訴えようとしているのが分かったのか、サードはその場に膝をついて屈んで、私に向かって手の平を差し出す。
…何で急にそんなこ洒落た王子様ポーズしてんのこいつ?
私の妙なものを見る目を見たサードはイラッとした顔になった。
「てめえだってジルにやったんだろ、話せねえなら指で筆談しろ」
ジルの名前を聞いたら罪悪感でドッと息苦しさが増す。
それでもそれしか意思の疎通はできないと強ばる手を動かす。サードも私が指でなぞりやすい所に手の平を移動するから私は一文字ずつ文字を綴っていった。
『怖い、次に眠ったら死ぬ気がする』
サードはわずかに面喰った顔をしたけど、まだ文字を綴る私の指を見て黙っている。
『イルスが夢の中に出てくる、うちと一つになるんやでって、夢の中で体のあちこちがイルスと一つになってる、顔は最後って言ってた、もう顔しか残ってない』
そこまで綴るとボロボロと涙が流れてくる。
『怖い、死にたくない』
「それはどういう状況だ?もし全部一つになったらどうなる?」
『分からない、でも死ぬ気がする、イルスと夢の中で一体化した部分が次々に悪くなってる、夢の中で死んでからもずっと一緒って言ってた、どうなるか分からない、怖い』
「…なんでもっと早くにその話を俺にしねえ?」
体調の悪い私に怒鳴っても意味がないと思ったのか、怒りを無理やり抑えているような声色でサードが私に言う。私は指を動かす。
『夢の中でイルスと私、下着姿で、言ったらからかわれると思って』
サードは眉間にしわを寄せ、私を見ている。
これは怒っているわと落ち込んでいると、思った以上にサードは落ち着いた声色で喋りだした。
「イルスを保護してすぐ、あいつは妙だから気を付けたほうがいいってガウリスは俺に言ってたんだ」
その言葉に軽く驚いていると、サードは続ける。
「スダーシャンに力を分けられてから、エリーは完全に人間とは思えなくなったとガウリスは言ってた。同様にイルスも人間じゃなく見えるそうだ、それもとてつもなく嫌な気配がするんだと」
…そう言えば夢の相談をしに行った時、ガウリスが普段言わないような人を見捨てる発言をしていたわ。できればこのままイルスを町に置いて別行動したいっていうような話を…。
「人間じゃねえなら何に見えるって聞いたが、何かはハッキリと分からねえようだ。とにかくイルスがエリーと関わる時には周囲が全体的に濁って、その濁りがエリーの体にヒタヒタとくっついてまとわりつくのが見えるんだと。まるでエリーの体にイルスが侵食してるみてえだってガウリスは言ってた」
その話を聞いてあまりの気持ち悪さに全身に鳥肌が立つ。
サードはそこで一旦口をつぐみ、斜め上を見上げ少し考えこんでから私に視線を戻す。
「…俺が居た前の世界には疫病神って神がいた。人を病気にしていく神だ。神とは言え元々はただの病気、だが人間らはその病気を神と崇め奉った。神にするらどうかこれ以上猛威を振るわないで助けてくれと頼むために。
ガウリスから話を聞いてエリーの具合の悪さを見て何だか疫病神みてえだなって思っていたが…今エリーの話を聞いて確信した。イルスは俺らの世界での疫病神と似たような存在だ」
サードは私の目を覗き込んで寝ていないのを確認してから続ける。
「俺がいた世界にはガンザンダイシって中々すげえ力を持つ僧侶がいてな、そいつの元に疫病神が訪れた。『あなたもこの病気にかからねばならないからお体を侵しに参った』と。それが因縁なら仕方ないとガンザンダイシはその病気を小指に宿らせたが、途端に体に激痛が走って高熱が出た。ガンザンダイシは精神を統一させて、こう…」
サードは親指で小指を押さえてから、デコピンするみたいにビンと弾く。
「疫病神を弾き飛ばした」
そんなので病気が弾き飛ばせるの。
私も同じことをしようと手を動かすけど、あまりに手がかじかんで震えすぎてて指先がうまく合わさらない。
「今話したのはそういう特別な力のある奴の話だ、お前に真似できるわけねえだろ。ともかくお前の体は魔界の薬草で治るはずだ、これ以上は自力で治りそうにねえから今飲ませようと持ってきた」
そういえば、体の不調を全部治す魔界の薬草がまだ残っていたんだっけ。忘れてた。
それでもサードは魔界の薬草を取り出す気配はなく、真剣な顔で話を続ける。
「だが今聞いた限りイルスが近くからいなくならねえ限り同じことの繰り返しだ。それに今ここで下手に全快にしたら今話した疫病神みてえに一気に体に入って殺しにかかってくるかもしれねえ」
そんなのイヤ…!
サードを見上げると、サードは軽く微笑んで私の前髪を後ろになでつける。
「だが正体が分かったなら手はある。ガンザンダイシほど力がねえ奴らでも疫病神の追い払い方はいくらでも編み出してるからな。まずは聖魔術を覚えているガウリスを呼んでくるから、それまで寝るなよ」
サードはそう言いながら早足で出ていって、少しすると駆け足ぎみにガウリスが訪れる。
「エリーさん、良かった御無事で」
ガウリスはそう言いながらも隣にしゃがんで私の手を取る。
「サードさんがエリーさんを助けるために色々と動き出しています、急いでいるようなので詳細は聞かずじまいでしたが、私はこの部屋に悪い存在が入らないような聖魔術の呪文を唱えろとだけ言われました。今から呪文を唱えますが、どうか寝ないでくださいね、寝たら危険だとも聞いていますから」
ガウリスは早口でそう言うと、聞き取れそうで聞き取れない聖魔術の呪文を唱え始める。
うん…でも…寝ないようにって言われても…その聞き取れない言葉の抑揚を聞いていると段々と眠くなって…。
うつらうつらし始めると、バーン!と勢いよく病室の扉が開いて、ビクッと体が震えて一気に目が覚めた。首を動かすとアレンがズカズカと近寄ってきていて、ガウリスとは反対側にしゃがむと私の手を強く握る。
「エリー!寝るな!寝るなよ!俺ずーっと喋ってうるさくするから絶対寝るなよ!俺のとっておきの笑い話ずっと耳元で喋るから!俺が子供のころに船乗りのおじさんから聞いた話なんだけど!」
アレンは頭に響くくらいの大きい声で話し始める。するとヒズがジャンプしながら登場して…あ、顔はリビウスだわ。
「俺も!うるさくしてエリーが眠らないようにする!俺うるさくするの得意!キャッハー!」
リビウスはドタンドタンとベッドの周囲でジャンプを繰り返している。
…ああ…どうしよう、アレンもリビウスも私のためにやってるのは分かるけどうるさい…。具合の悪い時にはきつい…。
そうしているとサードも部屋に入って近寄ってきた。すると私の髪の毛にスッと手を通し、ブツンと髪の毛を一本抜く。
イタ。
サードは手に持っている…藁で作った人形みたいなものに私の髪の毛をグイグイと押し込むと、今度はその人形で私の頭から肩、お腹、下半身、足先までズー、となぞっていった。
…何、何なの?セクハラ?
サードはそのまま私の冒険用のローブを羽織ってフードを被り、水の入っているコップの下のお盆を見つけるとヒョイと持って病室から廊下に向かう。
「サード、どこ行くんだ?」
黙って行こうとするのを見たアレンが話を中断して声をかけたけど、サードは何も言わず、振り向きもしないで病室から出て行った。
元三大師のお札は疫病避けに大変効果があるものなので、買える方は買ってもいいと思いますよ。角大師とか。角大師のお札は絵が可愛い。手が「やぁ」って感じ。微笑んでるし。
ただ角大師のお札は家の内側にじゃなくて外側に向けて貼るんですよ、家の中に向けて貼ったら悪いものが外に出られなくなって家の中に充満してえらいことになるらしいのでね。




