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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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不審船発見

昨日船長室に呼ばれてから度々軍の使者が一般人を装ってサードの寝ている部屋に訪れるようになった。どうやら私たちがサードを心配してこの部屋によく集合しているのが多いと分かっているみたい。


サードは酔い止めのおかげかほんの少しでも揺れに慣れてきたのか、ようやくリンゴ以外のものが食べたいと言いだしたから私は喜んでおかゆを用意してもらい、それをどうぞと差し出したらサードもおかゆを食べてくれた。


…でもまだ胃に重かったみたいで、全部食べ終わったら戻した。


「サード大丈夫?」


「触んな」


バスルームから戻ってソファーに座るサードの肩を気遣うように軽く叩くと、サードは腕を振って拒否してくる。


前と同じように人をイラッとさせるこの反応も少しずつ調子が戻って来たってこと。戻してしまったけれど何か食べたいと思えるまで回復して良かったわ。


そう思いながら私はガラス製のボウルに入っているレモンスライスのはちみつ漬けを手に取り、アレン、サードに渡す。

今日は一番偉いコックさんから特別のデザートねともらってきた。後で器は返しに行かないと。


「んん…!甘…酸っぱ…美味しい…」


チューチューとレモンを吸って、頬を押さえ味わう。蜂蜜の甘さの後にくる酸っぱさ、でも口の中で甘さと酸っぱさがいい感じに混じり合って…美味しい…。


うっとりしていた私だけど、天井を見てフッと現実に戻る。


「けどもう海賊のでる海域に入ってるのよね?こんなにゆっくりしていていいのかしら」


今日の朝食が終わるような時間帯、突然部屋の天井に魔法陣が浮かび上がって、そこから船長のキビキビとした声が響き渡った。


『皆さまおはようございます。朝のお寛ぎのところ誠に申し訳ございません、ソーリス号船長のヤッジャ・マーリンスタです。お客様方にお知らせしたいことがございます』


そんな言葉から始まって、しばらくなりを潜めていた海賊が現れたこと、商船が続けて四(そう)襲われたこと、けが人が多数出ていること、その海賊の出る海域にこの船が一番近いこと、これ以上犠牲を出さないため討伐しに行くこと。

この船は装甲船にもなっているから身を守るための安全な設計になっている、そんな現状報告を告げて、


『我々船員が海賊討伐の対応をいたしますが、冒険者の皆々様には念のため装備を怠らず、いざという時すぐ動けるよう待機してください。そして一般のお客様方は危険ですので、できる限り部屋にいて、いざとなったら我々の避難指示に従って行動してください。

他に質問があれば船の関係者へ何なりと質問をどうぞ。希望があれば私から直接お話しをしに伺います。では、これにて知らせを終了いたします』


と、話し終わるとブツンという音と共に魔法陣も消えた。


その連絡以降私たちも装備をしっかりと身に着けて備えているけど、しばらく経っていても変わりの無い報告が船員を通じて知らせられている。


たまに廊下に出ると、装備に身を包んだ冒険者たちが私たちを見てきて、


「私たちもいざとなったら頑張ります!勇者御一行も頑張ってください!」


と、頼りにしていますとばかりに言ってきて、お客さんの一人が、


「どうぞ私たちを守ってください」


懇願(こんがん)しに来ると、すぐさま別の人が引き止めてきて同じように拝み倒される。


うーん、まるで乗船したての頃に逆戻りしたみたいと感じたわ。

船に乗って数日は勇者御一行だと囲まれて色々話しかけられ、部屋を訪ねられ、握手を求められ…まさか船に乗っている間これが続くのかしらと不安になるくらいひっきりなしに引き止められていたもの。


それでも一週間も過ぎた辺りからは、そこらを私たちが歩いてるのが当たり前みたいな慣れた対応になっていたからホッとしたものだけど。


「やっぱりいざとなったら私たちに頼る人が多いのね。冒険者は私たちがいればなんとなるって思ってる感じだし、他のお客さんも私たち以外の冒険者がたくさんいるのに真っ先に私たちに声をかけてくるし…」


「一種のステータスだもんなぁ。勇者って」


アレンは他人事みたいに呟いて、手に付いたハチミツを舐めている。


するとドンドンドン、とドアが叩かれたから扉の近くに居たガウリスが開けた。


そこにいたのは船員じゃなく、カチッとした姿勢で立つ船長のヤッジャと私たちを船長室に呼びだしたあの船員。


二人は部屋の中に入り、ドアを閉めると同時にヤッジャが口を開いた。


「不審な船を発見しました。少々甲板に出られますかな?」


私たちは顔を見合わせる。


私たちを利用するような船長とはあまり関わらないほうがいい。


サードも表の爽やかな表情をしながら信用ならないという目を船長に向けている。


でもこの前私たち三人で対応したら利用される羽目になったから私たちは頼りにならないとでも思ったのか、吐き戻したばかりだというのにサードは俺が対応するとばかりに立ち上がる。


「どのような船ですか?」


と言うと同時に船が大きく左に動いて、サードはヨロッとよろけた。


何か…今の動きでスピードも上がって揺れも大きくなっている気がする。


それでもヤッジャは急な揺れでもよろけずに真っすぐ立ったままハキハキと答えた。


「望遠鏡で見る限り不審船はまだ点のようにしか見えないのでハッキリしませんが、今その船に接近するよう指示を出しました。大砲もいつでも撃てるよう準備を整えて…」


「うぶっ」


急な揺れがたたったのか、具合がほんの少しよくなり始めたサードからまた不吉な音が出始める。


「…これは勇者様は動けませんな」


ヤッジャはそう言うと私たちに目を向けてきた。


「甲板に出てきていただけますかな?」


私は思わず口をつぐんで何も言わなでいるとアレンが、


「準備をしてからすぐ行くから、先に行っててくれねぇかな」


と返した。


ヤッジャは頷くと「では待っています」と船員の人を引き連れ廊下に出ていき、アレンはサードの背中を心配するようにポンポン叩きながら、


「…普通に甲板に行っても大丈夫かなぁ」


と呟くと、背中をポンポンされているサードは人生に挫折(ざせつ)した人みたいに背中を丸めてソファーの上で深く重いため息を長々とつき、ボソボソと言葉を吐き出す。


「…どうあっても俺たちを巻き込みたいってわけだ」


サードはそう言うと顔を上げた。


「いいか。もしその不審船が海賊であいつらが戦うことになっても絶対にお前らは手を出すな。大砲で片つくって自分らで言ってんだから自分たちでやらせておけ。もし俺らが手を貸したら……ッ」


サードはそこまで言うと顔色がさっと変わり、口を押さえ、いつも通りの素早い走りでバスルームに駆けこんでいった。


さっきより上下に揺れる感覚が強くなってきているわ。それに船のあちこちからギギギと鉄板がきしむ音が聞こえてくる。

これはサードじゃなくても乗り物に弱い人なら酔うレベルかも。この船に乗ってから今まででこんなに揺れたことなんてないもの。


『ソーリス号船長、ヤッジャ・マーリンスタです。お客様方にお知らせしたいことがございます』


ヤッジャの声が聞こえてきた。天井を見ると、例の声が聞こえる魔法陣が浮かび上がっている。


『現在不審な船を発見いたしました。一般のお客様は今すぐ部屋にお戻りになり、念のため荷物をまとめ我々の指示をお待ちください。できるだけ窓から離れるようお願いいたします。

四階の冒険者の者たちは我々の指示があるまで各自部屋で待機、呼び出しがあり次第部屋から甲板へ出撃。三階の冒険者各位は一般市民に危害が及ばないよう、三階及び二階を死守するものとする。以上』


ブツンッという音と共に魔方陣が消えた。

それにしても後半の冒険者たちへの伝達がガチガチの厳しい命令口調になっていたのは軍人という職業柄のせいかしら。


「とりあえず手は出すなってことだな?あと朝食後の酔い止めの薬まだ飲んでねえみたいだから、ちゃんと飲めよ」


アレンはバスルームをコンコンと叩いてサードに声をかけ、私たちは部屋の外に出る。


歩いていくとヤッジャの言うことを聞かず部屋じゃなく廊下で待機している冒険者もいて、私たちを見て応援するようにポーズを決めて見送る。


そして甲板に出た。


外に出ると船員が何人かと、望遠鏡を持ったヤッジャが遠くにいるらしい不審な船を見ている。


「なにか分かりましたか?」


ガウリスが聞くとヤッジャは振り向いてフムー、と鼻で息を吐き、


「行方不明中の商船のようにも思えますが…とりあえず向こうから光信号が届けられています」


「光信号?」


何それと聞き返すとヤッジャは、


「鏡などに太陽の光を反射させ、合図を送るものです。ですがあれは…」


と望遠鏡に目を当てて船があるらしい位置をまた眺める。


私もそっちを見てみるけど、海のキラキラした海面で船があるのかすらもよく分からない。

アレンも隣で同じように目を凝らして見ているけど、船を見つけているのかどうかは怪しい。


アレンはヤッジャを見た。


「光信号でなんて言ってるんだ?」


「…さあ?」


望遠鏡を外しながらそう言うヤッジャにアレンはこけた。


「さあって事はないだろ」


「我々ほど訓練は受けていなくとも『助けて』の光信号ならどの船乗りも覚えているはずですが…あまりに適当すぎて解読できません」


「その信号は海賊にも共通するものなのですか?」


ガウリスが質問する。


「まあ基本的なことですから知っているでしょうな。私が若いころ『助けて』の信号を出していた船が海賊船で不意を突かれたことがあります。しかしあれほど適当な光信号は逆に怪しいので海賊でもやらないと思いますがね」


「ならばやはり行方不明の船だということでしょうか?」


ガウリスが重ねて質問するとヤッジャは軽く考えこんで、


「見たところ外的特徴も行方不明中の船と同じですが、もう少々近寄らなければ何とも言えませんな。…他の船に連絡」


私たちを船長室に呼び出したあの船員に船長が指示すると、その船員はブツブツと何かを唱える始める。


すると目の前に四角い光が複数現れて、その中に見える人々に向かってヤッジャが、


「こちらソーリス号、海賊に襲われ行方不明の商船らしき船を発見。海域、七十五の…」


とその四角い光の中に見える人たちに伝えている。


通信魔法だわ、と私は目を見開いてその四角い光と、通信魔法を操る船員を見た。どう見ても海の軍人という雰囲気の人だけど、魔導士だったのね。


通信魔法は遠くにいる人と顔を合わせて通話ができる便利な魔法。

だけど話す側と受けとる側、そのどちらも通信魔法を覚えていないと会話はできない。


思えば天井に魔法陣が現れてヤッジャの声が聞こえたのも、通信魔法を使うあの船員の魔法だったのかも。


ヤッジャと船員の魔導士が光の中の人たちと会話をしているうちにどんどんと船は進んでいって、ようやく船らしい形のものがキラキラと輝く海の上に見え始めた。


すると後ろから船員の一人が船の中から紙を持って現れ、


「行方不明の船に乗っていた者たちの名前と顔のリストの書き写し、終了しました」


とヤッジャに渡す。


ヤッジャはフム、と受け取り、どんどんと近くなる船に目を向けるから、私もそっちを見る。


こっちの船が動いているからハッキリ分からないけれど、何となくあの船、動いてないような気がする。ただ波に漂っているだけって感じ。


もっと近づいて完全に目で見えるくらいになってくるとその全容が分かってきた。


一番に目につくのがそのマスト。マストの帆は大きく破れていて、破れた所が海の強い風で煽られてバタバタと虚しく音を立てているのが聞こえてくる。


「…海賊が乗っ取った船とは思えないな」


ヤッジャはその商船の中を(うかが)うように見てから呟いた。

なんとなくヤッジャはトルコっぽいイメージで書いてます

褐色の肌で黒い短髪で黒いひげを生やしてる感じの中年男性


トルコの民族衣装カッコいいよね。ロマンがある。まぁ私はどこの民族衣装見てもロマンを感じてたぎるんだけどさ。

あと中東の湾曲した剣とか最高。

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