性的な…
「っわああああああああ!」
絶叫して飛び起きて、頭を左右に動かしてイルスが居るかどうか、私はしっかり服を着ているか確認した。でもイルスはいないし、私はしっかりパジャマだって着ている。
「…夢…?」
でも夢にしてはあまりにもリアルすぎよ。今でもイルスに触れられた感触に耳元で囁かれた声が残っているし…青ざめればいいのか赤くなればいいのか…。
だんだんと頭が覚醒してきて、昨日の夜のことをじわじわ思い出してきた。
そうよ、昨日の夜はそろそろ話し合いも終わりにしようって流れになって、皆自分の部屋に戻っていったんだわ。サードだけは少し残って私の髪の毛をとかして部屋から出ていった後は、私もそのまま眠りについた。
確かにイルスは話合いに参加もしてなかったし、その後私の部屋に訪れてもいない。
「じゃあやっぱり夢だったのね…」
ホッとしたけど、それにしてもなんであんな夢を私は見てしまったのかしらと思わず自己嫌悪してしまう。とにかく夢オチで良かったけど…。
ひとまず軽く着替えてシャッとカーテンを開けてみると、どうやらまだ日も昇る前みたいで外は暗い。
「ええ?こんな早い時間なの…」
でも変な夢を見て飛び起きたせいで目はバッチリ冴えちゃってるし、朝だと思って着替えたのにまた着替え直して寝るのもなんかなぁ…。サードが髪の毛をとかしにくる時間もまだまだだし…。
そこまで考えてふっとガウリスの微笑みが浮かぶ。
そうだ、ガウリスはあんまり眠らなくても大丈夫みたいだから部屋に遊びに行ってみようかしら。
…でも今が眠い時だったら迷惑よね…でもあんな変な夢を見てから皆が起きるまで一人で部屋の中にいるのも何か…。
色々考えたけどやっぱり行ってみようとガウリスの部屋のドアをコンコンとノックしてみた。すると中からすぐに「はい」と返ってくる。
「私よ」
まだ朝も早い時間だから小声で伝えると、すぐに扉が開いてガウリスが出てきた。それでも快く迎え出たというよりどこか心配そうな顔をしていて、
「どうしました、何かありましたか?」
と聞いてくる。
そりゃこんな朝早くに来られたら何かあったのかと思うわよね。
私は首を横に振って、
「変な夢を見て早くに起きて目が冴えちゃって…ガウリスだったら起きてるかなぁって思って来たの。ごめんなさい、寝てた?」
「いいえ、あまり寝なくてもいい体なので」
ガウリスは入りますか?と部屋の中に招くように体を端に寄せるから、私もそのまま中に入る。
「何か飲みますか?ホテルの備え付けの紅茶ですが」
ガウリスの言葉に軽く頷くと、ガウリスはティーカップにパック詰めされた茶葉を入れ、お湯を沸かす魔法陣の上に置かれていたティーポットからお湯を注ぐ。
お湯の注ぐ音が終わると「どうぞ」とガウリスは私の近くの棚の上にカップを置いてくれて、そのまま自分の飲み物も用意すると少し離れたところに座った。
飲もうとカップに口をつけたけど結構熱くて口もつけられない。とりあえず少し冷まそうとカップを膝に乗せしばらく無言でいたけど、顔をガウリスに向けた。
「ねえガウリス」
「はい」
「女の人とイチャイチャする夢って見たことある?サードがするような女遊びみたいなの」
「…」
ガウリスはお茶を飲もうとしていたけどその動きが止まって、ゆっくりとカップをおろした。
「…私がですか?」
「見たことある?」
「…」
ガウリスはものすごく困っている表情で黙り込んでしまった。
ガウリスがこんな話は苦手で関わらないようにしているのは知ってる。私だってそれは同じ。
それなのにあんな夢を見るなんてと思うと何だか自己嫌悪で、こんな状態でイルスと普通の顔をして関われるか分からないしずっと気まずくて顔も真っすぐ見れるかどうか…。
で、ふと思った。
聖人みたいで私みたいに下ネタが苦手なガウリスでもそんな夢を一度でも見たことがあって、私みたいに自己嫌悪に陥ったことがあるのかしらって。
「…ええと…どうして急にそんな話を?」
しばらく黙り込んでいたガウリスがそう聞いてきて、今度は私が黙り込む。
でも私がそんな話をし始めたんだし、ガウリス相手なら茶化さないで話を聞いてくれるかもと口を開いた。
「…私の見た変な夢ってそんなので…。あんな夢を見るなんてって思ったらすごく嫌な気持ちで…。ガウリスでもそんな夢見たことあるのかなって…」
しどろもどろに伝えるとガウリスは何だそんなことかと困ったような雰囲気が消えて、
「それでしたらそんなに気にすることもないと思いますよ、少なからずそのような夢は一度くらい誰しも見るものだと思いますし」
「あるの、ガウリスもあるのね?」
「…これ以上は」
食い気味に身を乗り出して聞くとガウリスは軽く首を横に振ってハッキリ答えるのを拒否してくる。
でもそれならガウリスもそんな夢は見たことがあるってことだわ。
何となくホッとした。いやまぁ、ただの夢なんだけどあそこまでリアルだとやっぱりねぇ…。
「ガウリスもどうしてあんな夢を見てしまったのかしらって思ったりした?」
「いえ…あ、いやまあ確かにどうしてと思ったには思いましたけども…。まあ別に誰しも一度は見る夢だろうとは…」
うやむやとした口調ながらもガウリスはちゃんと答えてくれる。けどやっぱり内容が内容だからか歯切れは良くないわ。
それでも同士がここに居たって感覚になった私の心はだいぶ軽くなった。
「ありがとう、ガウリスに話したら気持ちが軽くなったわ。でも変な夢を見たからって朝早くにこんな話をしにきてしまって本当にごめんなさいね」
心が軽くなった反面ガウリスはこんな朝から妙な話を持ちかけられて不愉快になっただろうなと謝ると、ガウリスは首を横に振る。
「いいえ、他に相談できる方が居なかったのでしょう?」
そう言われてみて、そう言えばそうねと頷く。
サードはもちろんのこと、アレンも「え~?なになにエロい話?」ってヘラヘラ笑いだしそうだし、ヒズにも言い辛いしマイレージとリビウスにも言い辛い。
もちろんイルス本人にも。
「あまり深く考え込まないほうがいいですよ。結局は夢のことで現実ではないのですから」
ガウリスの言葉に、そうよねと頷く。
「でも何か自己嫌悪だったの、どうしてあんな夢見ちゃったの私って」
「驚きますよね」
「うん、しかも相手イルスだったし…」
「イルスさん、ですか」
「ええ、昨日の夜嫌われてるかもって言ったから、そのせいであんな夢を見たのかも…」
気分が軽くなったからそう自己分析しつつ紅茶を一口すすって顔をあげると、少しガウリスが心配するような顔つきで聞いてくる。
「私に相談しに来るくらいなのです、もしや本当に夢の中で嫌なことをされたのですか?」
「えっ…と…」
いくらガウリス相手でもイルスとお互い下着姿になってベッドに倒れ込んだ話をするのは気が引ける。
「嫌って言うか…起きてから自己嫌悪だったけど…」
「それなら別に体に違和感を感じることはないと」
その言葉に夢の中でイルスの足が私の足にめりこんできて、全身に鳥肌がたって寒気が走ったのを思い出した。
けどガウリスの言う通り結局は夢の話だしと、「別に」と首を横に振りながら返すと、ガウリスはどこかホッとしたように息をついた。
「ならいいのです」
「…」
今の聞き方、気になるわね。まるで私の体に何も異変が起きてなくて良かった、みたいな反応だったじゃない。
何事も無かったみたいな顔で紅茶を飲むガウリスに私は身を乗り出して聞く。
「今の言い方気になるんだけど、何か気になることでもあった?」
「いいえ、何も」
「…」
嘘よ、絶対何かガウリスは気になることがあったのよ。でもこれ以上は話にならないだろうから別にいいやって、話を終わらせにかかっているのよ。
サードもこいつに言っても無駄って見切りをつけて何も言わない時があるけど、そういう所本当にサードとガウリスってそっくりよね、もちろんガウリスのほうが対応はいいけど、中途半端に隠されると気になるのよ、こっちは。
ちょっとした怒りとともに意地悪心が湧いた。
「ねえ、ガウリスの見たイチャイチャする夢ってどういう夢だったの」
「…」
「美人な女の人が出てきたの、可愛い女の子が出てきたの、それとも私みたいに同性だったの」
「…」
「知り合いだったの、知らない人だったの」
「…」
「ガウリスが何か言うまで私ずっと聞き続けるわよ」
「…エリーさん、別にそんな話が聞きたい訳でもないでしょう?」
ようやくガウリスが口を開くから、私は頬を膨らませる。
「だってガウリスって変な所何も言わないんだもん。リトゥアールジェムの時だってそうだったでしょ、変に私に気を使って何も言わないで一人でどうにかしようとして」
ガウリスはそう言われると申し訳なさそうに眉を垂らして微笑む。そんな顔されると罪悪感が湧いてしまって、
「…まあいいけど」
と話を終わらせて紅茶を口にふくんだ。
「イルスさんですが…」
私は話を終わらせたけど、ガウリスはこのままじゃ申し訳ないと感じたのか口を開いた。私はガウリスに視線を向ける。
「エリーさんのことをとても好いているように思えます」
「…ええ、それは昨日皆から聞いた」
何を今更、と聞き返すとガウリスは真面目な…それと私を心配するような顔で、
「でもエリーさんにはあまりイルスさんの傍に近寄って欲しくないのです。できるならこのままイルスさんとはこの町で別れたい」
「え…」
普段のガウリスからは絶対に出ない人を見捨てる発言に思わず絶句してしまう。
「でもイルスはあの体調なのよ、もしまたどこかで倒れてしまったらどうするの?行く先も途中まで同じなんだし…それよりどうしたの、サードならともかくガウリスがそんなこと言うなんて」
その言葉にガウリスはわずかに苦笑した。
全然似てないけれど、その顔は「ほらな、結局てめえに何言っても無駄じゃねえか」と鼻で笑うサードを彷彿とさせる。
…あれ?もしかしてガウリスが私に言っても意味がないと思って言わなかったことって、イルスとこの町でお別れしたいってことだった?
うーんでもやっぱりいつ倒れるかも分からないイルスを中途半端に放置していくのはちょっと…。
「ガウリス、イルスのこと嫌い?」
「いいえ、そんなことは。ところでエリーさんは紅茶がお好きですが、このようなホテルのティーパックのお茶はどうお思いですか?私は普通に美味しいと思いますがエリーさんほど舌が肥えている方はどう感じているのだろうと思いまして」
「え?ああ、やっぱり良し悪しはあると思うわ。いつも値の張るホテルに泊まってるけど、それでもちょっとケチった紅茶使ってるなぁって所もあるし、こだわってるホテルはちゃんと茶葉とティーポットが置いてあるし…。ミルクは流石に部屋に置きっぱなしは悪くなるからか頼まないと運んできてくれないけどね」
話を逸らされた。
それでもガウリスとの話は楽しくて、紅茶の話から始まって紅茶に合うお菓子の話、それと打って変わってモンスターの話、これからの旅路の話と雑談を続けていると、カーテンの隙間から明かりが差し込んでるのに気づいた。
どうやらガウリスと話しているうちに日が昇っていたみたい。
「日も出てきたからそろそろ戻るわね、また朝食の時に」
「ええ?いつの間に…。気づかなくてすみません、つい話し込んでしまって」
「いいのよ、私だって楽しくお喋りしてたんだもの。むしろ朝早くから長々と居座ってごめんなさいね」
ガウリスはドアを開いて「ではまた後程」と笑顔で見送ってくれるから、私も手を振ってから部屋に戻っていく。
あー楽しかった、ガウリスと話すと心地いいのよねと自分の部屋の鍵を開けドアノブを回して中に入ると、サードが腕を組み椅子に座ってそこに居る。
ビクッと肩を揺らし時計をバッと見てみると、サードが髪の毛をとかしに来る時間をとっくに過ぎているじゃない。
ええウソ、こんなに長くガウリスと話が盛り上がっていたなんて。
サードは入口で固まっている私を横目でジロリと睨みつけてくる。
「朝帰りか?」
「何よそれ、サードじゃあるまいし」
それよりもまるで自分の部屋みたいに待ち構えているのを見ると呆れる。
「むしろもう少しお邪魔するような待ち方とかできないわけ?ここ私の部屋なのよ?」
勝手に私の部屋に入らないで。それが一番に言いたいことだけど、もう何度言っても侵入してくるから最近だと侵入するのはいいとしてももっと遠慮してと思ってる。
「どこ行ってた」
「ガウリスの部屋」
「夜にか?」
「朝方よ」
「何で」
「何でって…」
どこまでも問い詰めるサードに口をつぐむ。
だってイルスとイチャイチャする夢をみて眠れなくなっただなんてありのままを伝えたら、
「へえイルスと?どんな状況だったんだ、女同士ってどんなことするんだ?ええ?」
ってからかうような口調でどこまでも嬲ってくるに違いないもの。そういう話にはどこまでも突っ込んでくるんだからこいつは。
…そうね、だったら誤魔化して伝えておこう。
「朝早くに起きて眠れなくなったから、ガウリスなら起きてるだろうなって遊びに行ったの」
「で?」
「で。って、何が」
「…別に」
サードは立ち上がって今まで自分が座ってた椅子を指さし、座れと指図してくる。むしろ何か…サードが変にイライラしている。
「何怒ってんのよ」
「別に」
言葉がすごく素っ気ない。それでもいつも通りに髪をとかして抜けた髪の毛はすぐさま回収していくけど、その間もずっとサードは無言のまま。
何も言わないけど、サードがものすごくイライラしていてムッツリ黙り込んでるのは分かる。
「何よ、私が部屋に居なかったのがそんなに悪い?」
「別に」
ムッとなる。
「サードなんて今まで朝になっても帰らないことも沢山あったじゃないの。それと比べたら私なんてガウリスと話してただけよ、何が不満なのよ」
「…別に」
駄目だわ、もう「別に」しか言わなくなった。だったらいいわよ、こっちだって何も言わないから。
私は無言を貫き通して、サードも最後まで無言のままで部屋から出て行った。
何あいつ…朝帰りすること多かった自分を差し置いて、ちょっとガウリスと話してて部屋に居なかっただけの私にはあんなイライラするわけ?
ムカつきながらもそろそろ朝食の時間だから部屋から廊下に出る。ムカつくから絶対に朝食の時もサードとは口利いてやんない…。
「おはようさん」
廊下に出ると今にも出発できるほど身支度の整ったイルスと出会った。
急に現れたイルスに夢での情景とイルスの肌の感触がフッと蘇ってきて、気まずくて思わずパッと視線を逸らす。
「どないしたの?」
「え、えーと…」
どうしたのと聞かれても素直に答えられないわよ、あんなこと…。
するとイルスは私の肩にそっと触れてきた。
イルスから触れてくることなんて今までなかったから思わず視線を動かすと、イルスの顔が思ったより近くにある。イルスはさらに顔を近づけて、囁いてきた。
「何かうちにやましいことでもあるん?」
夢の中で高揚しながらの表情で耳元で囁くイルスの声が蘇ってきて、思わずシュバッとイルスと距離を取った。
ドキマギしているとイルスは私をじぃっと見つめて、肩が上下に揺れだしてかぼそく笑いだす。
「そないに驚かなくてもええやん」
イルスが初めて笑った。
でも弓なりになって笑う目と口はどこか冷たくて、人を見下げるようなもので…イルスの笑っている顔を見てゾワッと体に寒気が走る。
その笑うイルスの姿に私は思ってはならないことを思ってしまった。
イルスと、これ以上一緒にいたくない。
でもすぐにハッと我に返って首を横に振る。
何を考えているの、イルスは悪い人じゃない、何も嫌なことはされていないんだし、何よりこんないつ倒れてしまうかも分からない人を放っておけないわ。
そんな様子を見ているイルスは笑いを収めて、私の腕にすり寄ってきた。
「嫌わんといて、うちエリーさんのこと好きやさかい。一緒にいたいねん」
まるで心の中が読まれているような気がしてまたゾワ、と寒気がする。
「…朝ごはん食べにいきましょ?」
ともかく気持ちを振り切り誘ってみるとイルスはまた鳥肌が立つような笑みを浮かべ、頷いた。
イルスに背を向け食堂に向かって歩こうとすると、カク、と右足が何もない所で引っかかってつんのめる。それでもそのままトトト、とバランスを立て直した。
思わず自分の右足を見る。
何だろ、少し力が入らなかった気がする。
夢占いだと性行為に当たる夢はやる気アップと人間関係が良くなる前向きな暗示らしいですよ。
関係ないですが昔の私の夢には血と死体と謎の組織が大量に出てきて夢の中が絶賛☆絶望ワールド☆でした。
あと蛇をいじめると夢の中に出て来て追いかけられるからやめましょうね。
子供のころ蛇をいじめたら三回ともそのいじめた日の夜に怒った蛇が夢の中に出て来て逃げ場のない所に追いつめられました。怖かったです。




