表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/506

陽気な船旅!…おや?なんだか雲行きが…

せかせか歩く船員の後ろをついて行きながら私は何となく思っていた。


サードには国の関係者には近寄るなって言われている。でも目の前を歩くこの人は国の軍人なんだから、これは国の関係者に近寄ってるってことじゃない?

うーん、でもサードも強く引き止めなかったし…じゃあいいのかな。


すると船員は手慣れたように関係者以外立入禁止のドアを開け、もっと奥にあるガチッとした頑丈そうな鉄の扉の前に立つと流れるようにその扉を開けた。


そこに見えるのは暗くて狭い空間、そこに浮かび上がる鉄製のはしご…?


船員はわずかに振り向いた。


「少々不便な所を通りますが、あまり人目につくのもはばかれるので」


そう言うなりはしごに慣れた動作手つきで飛び移ってカンカンと音を鳴らしながら登っていく。

まず並んでいる順でアレン、私、最後にガウリスの順番で登っていこうと…、


「うわっ、床がない!」


中に普通に進もうとしたアレンが慌てて飛びのく。


「このはしごは船底から最上階までつながっておりますので、飛び移ってください」


先を行く船員はかなり上まで登っているみたいで、ものすごく上からくぐもった声が聞こえてくる。


「先に言ってくれよ、落ちるとこだったじゃーん」


アレンがぶーぶー言いながらその長い手足ではしごを掴んで登っていく。


でも船底まで続いてるってことは…落ちたら死ぬわよね…。


ソッと下を覗き込むと、下は真っ暗で何も見えない。上を見ると登っていくアレンの下半身が見える。


はしごまでの距離はないから、ちょっと体を前に傾けただけですぐに掴める。でも下の真っ暗闇を見ると足がすくむわね、これ。コワ…。


「大丈夫ですか?」


ガウリスから心配そうに声をかけられて、ハッと我に返った。


「大丈夫よ、これくらい」


下を見ないようにして、えいやっとはしごに飛び移る。ひんやりとした固い手触りが手の平に伝わる。


まぁ、はしごをちゃんと掴めたならもう大丈夫。あとは前だけを見てひたすら登っていけば。


そうやってひたすら登ってたどり着いた所は、のんびりと安らげる客船の空間じゃなく、質素な鉄製の壁と様々なスイッチにレバー、大きい舵やそれを操作する人々、立派な椅子などがある部屋だった。


これは…もろに国直属の軍部が管理しているんだろうなと一目で分かるぐらいの物々しい雰囲気だわ。


「ここが船長室なの?」


アレンに手を引っ張られながらはしごから離れると、あのカチッとした船長が振り向いて、


「そう!ここは船長室です、よく来てくださいました!」


と答えて、両手を広げて近寄ってきた。


「いやあ、急にお呼びだてして申し訳ない。実はお話したいことがありまして」


キビキビと椅子を三人分用意してから「どうぞ」と座るよう促してくるからそのまま座る。船長は私たち全員が座ったのを見計らってから、


「そう言えば勇者様のご容体は芳しくないようですな?衛生兵…っと、失礼、医務の者から陸地に戻したほうがいいとの報告を受けましたが」


やっぱり軍の関係者にはサードの容態は筒抜けみたいねと思いながら頷くと、船長は話を続ける。


「もう二日ほど先に進んだら岬の近くを通ります、その時に船員を一人をつけますから脱出用の船で共に岬に向かってください、その岬はもう隣国ですが皆様が立ち去ると同時に私が事情を通達しておきましょう、そうすれば不法入国にもならないはずです」


もしかしてそのことで私たちを呼んだのかしらと思っていると、アレンは、


「話ってそれ?それとも他に何かあったの?」


と切り出した。


船長は大きい鼻穴からフムー、と息を吐き出して、首を横に振った。


「実は少々雲行きが怪しくなりまして」


「天気が荒れるのですか?」


ガウリスが返すと、船長はハッハッハッ!と腹から笑った。


「いいえ、天候の事ではありません。実は数日前から少々暴れまわっているという情報が他の船から入りましてね」


「何が?」


私が聞くと、船長は私の目を真っすぐに見て答えた。


「海賊です」


「海賊…」


そんな、海賊は数を減らしてるって言ってたのに…。


「海図は読めますかな?読めなくても構わないですが」


船長の言葉に私たちをここまで連れてきた船員の人が丸まっている大きい紙を一枚持ってきてテーブルの上に置いた。


「俺読めるぜ」


身を乗り出しながら言うアレンに、船長は、ほう、とアレンに目を向けた。


「船に乗った経験が?」


「冒険者になるまで実家の商船の手伝いをしてたからさ、父さんから覚えとけって言われて」


「…なるほど。どうりで武道家というより荷揚げをしている者に近い体つきだと思いました」


アレンはその言葉にギクッと肩を揺らしたけど、船長は構わず、


「あなたほどの高身長でその程度の筋肉しかついていないのなら中年期に腰を痛めやすくなりますぞ。僭越(せんえつ)ながら申し上げますと、もう少々背筋と体幹(たいかん)を鍛えたほうがよろしいかと」


と一方的に話しながら海図を広げた。


茶色い紙の隅には陸地の絵が描かれて、そして方角を示すギザギザの白黒の模様、あとは点線が海っぽい場所に張り巡らされている。


「本来この海図は軍のもの以外には見せてはならないのですが、勇者御一行なら構わないでしょう。今、我々はこの線上を順調に航海中です」


国の機密情報だとサラッと言いながら船長は地図の上に指をスッスッと這わせる。


まあ、見たって海の地図らしいということ以外何が何だかよく分からないけど…。でもアレンは、へえ~と言いながら興味深そうに隅から隅まで見ているわ。


「そして他の船からこちらの海域に海賊が出て、我が国と隣国の商船を連続で襲っているとの情報が入りました。ここは大体商船が行き交う航路です」


今進んでる所とは少し離れた別の線の上をトントンと船長が叩く。


「そして今、我々の乗っている船が一番近い所に居るのです」


まるで私たちのまるでこちらの反応を(うかが)っているような目つきで船長は一人ずつの顔を覗き込んできて、ガウリスは何か感じ取ったのか聞き返した。


「まさか戦うとでもいうのですか?一般の方も乗せているこの船で」


すると船長はバリッと背筋を伸ばしす。


「ここ数日の間に我が国隣国の商船が続けて四(そう)襲われました。うち死者二十二名、負傷者三十八名。行方不明者六名。

そのうちの一艘は未だに行方知れずで乗船している者たちの安否は分かっておりません。この船は名目上客船となっておりますが、モンスターや海賊の攻撃に備えた装甲船であり戦いに適した造りになっています。私の立場上、情報が入ったのに無視するというわけにはまいりませんでな」


「…」


ガウリスは口を開きかけたけど、何も言えないような顔で口を噛みしめた。

船にいるお客さんを巻き込んで戦うのは納得いかないけど、実際に死者もけが人も出している海賊の討伐と言われるとそれ以上は何も言えなくなったんだわ。


「お二方の意見は」


船長が私とアレンに目を向ける。


「その海賊ってどれくらいの数なの?」


とアレンが聞いた。


「生き残った者たちが言うには商船そのものだったそうです。商船を装った外観にしているか、行方不明の商船を乗っ取っているのかもしれません。

普通どの船にも救難信号を発信する魔法陣の装置があるものですが、未だにその信号が送られていないようなので海賊に乗っ取られた線が大きいと私は睨んでいます。大きさ的には最大で四十人ほどが乗れる大きさだというので、人数はそれなりですな」


「手口とかわかんねえの?」


「手口は…」


アレンはもう討伐しにいくので決定と思っているのか話をさくさくと進めていく。


まぁね、サードもやると言ったら私たちの意見は聞かない男だものね。

だからアレンは一度決められたことはやるものだと話を進めているのかもしれないけど、サードがあんな状態なんだから私はできれは海賊討伐なんてやらないでさっさと岬の近くまで進んでほしいわ。


…うーん、でも船長が示した海図だと海賊の出る海域の方が陸地に近そうな感じ?だったら結局海賊のいる地域に向かった方が岬も近いのかしら。

地図すらろくに読めないんだから、こんな海の地図なんか見たってよく分らないけど…。


「お嬢さんも、それでよろしいかな?」


ハッと海図から顔を上げて、慌てながら、


「ごめんなさい、話を聞いてなかったわ」


と謝った。


船長はそんな私の様子を見て、ふふふ、と表情をデレッと崩す。


「いやあ、あなたを見ていると娘を思い出しますなあ。うちの娘も妻に似た金色の髪の毛の可愛い子でねぇ。

先日娘の誕生日だったので服を送ったのですよ、しかし仲間内の女性らにこのような服を贈ったと話しましたらダサい、時代遅れだと散々けなされてしまいましてね。娘も気に入らなかっただろうと落ち込んでいたのですが、この船が出航する前に手紙が届けられたのですよ。

それが娘からで『誕生日プレゼントありがとう、パパ大好き』と書かれていて…。今年で十六になる娘なんですが、普通パパが嫌いという年齢でしょうに、なんて素直ないい子に育ったんだと感激して…。あ、うちの妻と娘の絵姿がそこに…」


ウキウキと絵姿を取ろうと腰を浮かせた船長だけど、私たちをここまで連れてきた船員の冷ややかな視線に気づくと子煩悩な顔はすぐ引っ込んで、カチッとした軍人の表情に戻って椅子に座り直した。


「話がそれましたな。別に全面的に戦うわけではありません、海賊を再起不能に陥れる、つまり船をある程度破壊できればいいのです。この船には大砲も積んでおりますので、商船程度の船ならマストに一発命中させればもはや航行不能でしょう。

ついでに海賊を全員捕えられたら最高の極みなのですがこれは我々が行いますので、あなたたちにも冒険者たちの手も煩わせません。いかがでしょう?」


それなら私たちが戦いに出ることもないし、船に乗っている一般の人に危害もいかなそう。


サードも心配だけど、連続で四艘の船が襲われてるんだからここで行かない、と言えばこれからも被害に遭う人たちが増えるかもしれないし。

これは勇者一行としてここで首を横に振るわけにもいかないわよね。


「分かった、行きましょう」


私がそう言うと、船長は白い歯を見せてニカッと笑った。


* * *


「…っていうことなんだって」


アレンが船長室での話をサードのいる部屋に戻って全部伝えた。


するとサードの表情は話を聞いているうちにどんどんと曇っていって、アレンが話終わる時にはまるで哀れみすら入っている表情になった。


「…三人で行ってそのざまか?」


「だって被害も出てるんだし、勇者御一行の立場じゃ断れないことでしょう?」


国の関係者には関わるなと口を酸っぱくして言われているけど、それと同じように勇者という肩書に見合う仕事をしないといけないってサードは言っていたはず。間違った選択ではないはずよ。


「はぁ…」


サードはため息をついてから船の外に視線を向けて、ぽつりと呟いた。


「船長にしてやられたな」


「船長に?どういうことですか」


ガウリスが聞き返すとサードはのそのそと私たちに向き直って、休み休み話し始めた。


「国の軍部は海賊討伐に力を注いでいる、だが完璧に戦闘向きの軍艦を出すと海賊がすぐに気づいて逃げていく。だから客船の(てい)を装って一般人も乗せて、戦闘に慣れている冒険者も乗るよう仕組んでいざという時の海賊討伐に臨んでいる。

だが一般の奴らはおおかた旅行だのバカンスだのでこの船を利用しているだけだ、急に襲われたならまだしも、わざわざモンスターだの海賊に近寄るとは何事だと文句を言う奴らも出てくるだろ」


うんうん、と私たちは頷いてサードの話を聞いている。


「だが、俺ら勇者一行にも相談して行くことにした、と言ったらどうだ?」


ガウリスがそこで何かに気づいたようなハッとした顔で、


「ワンクッションおかれましたか…!」


と呟いて、アレンも、


「そんな気はしたんだけどさ、それでも船長が行こうとしてんなら行くしかないんだろうなって思って。別に俺ら何もしなくていいみたいだから頷いたんだけどやっぱ駄目だった?」


と頭をかいた。


二人は何か分かってるみたいだけど、私は良く分らなくてアレンとガウリスとサードの顔をキョロキョロと見渡す。


「…どういうこと?ねえ、何がワンクッション?」


サードは私を見る。

何も言ってこないけど「まだ分かんねえのかこいつ」と馬鹿にしている目をしている。

何かムカつくけど、これもまぁ具合が良くなっている証拠だから…。でもやっぱりイラッとはする。


アレンは私を見ながら、


「一般のお客さんが『そんな危険なことをしに行くのか、ふざけんな』って船長たちに文句を言ったら『勇者御一行にも相談して、その結果行くと言いましたよ』って返したとするだろ?そうなったら俺らも船長たちと話し合って討伐に行くって決めたんだって皆思うじゃん?」


ガウリスも続けた。


「勇者御一行は国のみならず、世界中の民衆から絶大な支持、人気、知名度を誇っています。そんな皆さんが行くと決めたと言ったならば、表立って上層部の船長たちに文句を言う人はまずいないと思います」


そこまで言われて私はようやく分かった。


「…それって自分たちに文句を言われないように、私たちの立場を利用しているみたいじゃないの」


「利用してんだよ」


とだけ言ってサードはまた窓の外を眺めた。


「…それだけで済めばいいけどな」


…何かサードが不穏なこと言ってる。

旅行で高速船に乗った時、船べりから海を見るんだ〜とウキウキしていたら席を離れるなとのことでずっと座りながら窓の外を見ていました。

何かスピードがものすごくて、そうだな、これ高速船って名前だから遊覧船とは違うんだよな、これ落ちたら危険だしそのまま置いて行かれるんだろうなとしみじみ思いました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ