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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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▼ドラゴン が 現れ…轢いたぁあああ!

今向かっている場所にいるインラス一行のリビウスは戦士、それも戦士としては特殊の狂戦士の肩書を持つ人。

その理由というのがどんなに酷い傷を受けても大笑いしながら敵に向かっていくから。


特に有名なエピソードは、インラス一行と魔族が対戦していた時のこと。

魔族はリビウスに瀕死(ひんし)になるほどの攻撃を与えた。それでもリビウスは痛がる素振りも無く攻撃を受けながらゲラゲラ笑い突っ込んできて、そのように迫りくるリビウスに魔族のほうが恐怖を覚えて逃げだして行った。


そんなだからどこか狂ってると揶揄(やゆ)されていたことも多かったらしいけれど、それでも全く敵を恐れず突き進み戦う様を目の当たりにした人々は尊敬と畏怖の念を込めてリビウスのことを、


「彼は最高の狂戦士」


と褒めたたえたって。


…でも正直それって褒めてるのかよくわからないわよね。それでもリビウスは狂戦士と言われてもニヤニヤ笑っていたって色んな本に書かれていたから、本人は気に入っていたのかも。


私は一回本から顔を上げて一息つく。


シーリーやスダーシャンと別れて次の町に到着したあと、私は通りすがりの本屋さんでインラス一行に関する本を何冊か買ってみた。簡単に読めそうなのもの数冊と、ちょっと難しそうな専門書を一冊。

やっぱりこれから会う人たちなんだからどんな人たちか詳しく知りたいし。


…でも子供の頃に読んだインラスの冒険譚でリビウスがろくに記憶に残ってない理由が分かったわ。


リビウスはかなり血生臭いエピソードが多い人だった。こんなの子供に聞かせられないというレベルで。

多分あの冒険譚をまとめた作者は、児童書にこんなエピソードは入れられないと大幅にリビウスの部分をカットしたに違いないわ。


そんなリビウスの暴走に一番手を焼いていたのが弓使いのナディム。ナディムはインラス一行の最年長でパーティのまとめ役。私が買った本の全部にはこう書いていた。


『ナディムがまとめ役を買って出ていなかったら、インラス一行は個性のぶつかり合いでまとまりがなくすぐに解散していたかもしれない』


インラス一行のことを本にまとめた学者全員がそう言うくらいの影の功労者ナディムだけれど、他の一行ほど目立つエピソードがないのよね。

だってナディムの一番有名なエピソードは戦闘での活躍とかじゃなくて、リビウスが人を大量虐殺した次の日、


「僕はもう無理だ、この旅は僕には荷が重すぎる、このまま僧侶になって命果てるまで仲間の仕打ちを懺悔(ざんげ)し続けたい。神よ、神よ、お願いです僕をどうか受け入れてください」


って、某聖堂で聖職者にしがみついて泣きながら訴え続けたエピソードなんだもの。


その後は聖職者に「あなたは勇者御一行なのだから」と慰められ叱咤(しった)されて送り出されたらしいけど…。ナディムはかなりの苦労人だったのね同情してしまう。


そんなパッと目立つエピソードがないナディムだけれど、もちろん勇者一行だから強い。戦闘時には光り輝く弓と矢を出現させ、水や炎、光に雷など相手に一番敵に効果のある魔法で戦っていたって。


魔法で弓矢を作り出していたからどちらかといえば弓使いというより魔導士のような気もするけれど、それでも矢を射る攻撃方法を見た人々が弓使いのナディムと呼んでいたから肩書は弓使いになったみたい。


ちなみに神様と同等の立場のドラゴンが居た伝説のある国と、ナディムと出会えそうな国がドンピシャで同じだったのよね。

インラス一行はやたらと世界に散らばっているから、最初に目的地としていた国にナディムがいて良かったって皆と少しホッとしたわ。


私は、私が買ってきた少し難しそうなインラス一行の専門書をじっくり読んでいるマイレージに視線を向ける。


本を買ってきた後、インラス一行の本だったら皆も読むかもしれないと思ってテーブルの脇に置いていたらヒズが真っ先に手に取ったから、あらヒズが一番に手にしたわと顔を見てみたらマイレージだった。


本人がわざわざ自分たちを考察するようなものを読むの。どんなこと書かれているのか気になるのかしら、それよりマイレージも本読むんだとちょっと驚いたけど…とにかくマイレージはじっくり読んでいる。


するとマイレージも少し読む手を休めたから聞いてみた。


「楽しい?」


マイレージは鼻で笑いながら、


「ああ楽しいぜ、後世の学者のお偉いさんが堂々と嘘書いてんのがよ。いやぁ大したもんだぜ、ここまで嘘の話をそれらしくまとめてんだからな」


「え、嘘書いてあるの?どこ?どれ?」


「教えねー」


そこで話を終わらせられてしまう。…でもそっか、ちょっと難しそうな専門書には嘘が書いてあるんだ、本のチョイス間違えたわね…。私が今読んでいる本は大丈夫かしら。


そう思いながら本にチラと視線を落とすとリビウスの絵画があるから、それをマイレージに広げて見せる。


「ところでこれ似てる?これは笑いながら向かってくるリビウスに脅えた魔族が逃げてくシーンで結構有名な絵なんだけど、その時こんな感じ?」


「んー?」


こっちに顔を向けて絵を見たマイレージはブッホ、と吹きだす。


「リビウスの面ぁこんなに良くねえぞ!アーッハッハッハッハッハッ!アーッハッハッハッハッハッ!」


「そんなに笑わなくても…」


「貸せ、他の奴らの顔どうなってんだ?こっちは文字ばっかりで絵がねえんだ」


私から本をむしり取ってマイレージはバラバラとインラス一行の絵を見ては、


「アーッハッハッハッハッハッ!アーッハッハッハッハッハッ!アーッハッハッハッハッハッ!アーッハッハッハッハッハッ!」


ってすごい大爆笑してる…。もしかしてそんなに笑うぐらい似てないの?その本に載ってる絵画は大体有名なものばっかりなんだけど…。

でもそうかも、インラスの絵はほとんどムキムキで精悍(せいかん)な顔つきをしているけれど、ウチサザイ国で見た本人の実物像は細身で柔らかい雰囲気だったし…。


そんなことを考えていると急にクッルスが止まった。何か障害物があったのかしらと思ったら進み始めて、妙に右前方の風景が傾いたと思ったらガタンと元の位置に戻った。


「…え?もしかして何かに乗り上げた?」


揺れは全然車体に伝わってこない。でも何か高さのある物を乗り上げて無理やり進んだ感じだったわよね、今。


「まっさかぁ、だってこれ障害物は避けて走るじゃん。乗り上げてまで走るなんてないない」


アレンはヘラヘラ笑っているけれど、一体何があったのかしらと心配になって窓から地面を見てみる…。


瞬間、ギョッとした。


だってクッルスの車体の下には人が地面に仰向けに横たわっていて、ジワリと後輪に()かれ始めてて…。


「ぎゃー!人!轢いてる!」


絶叫しながら慌ててクッルスをバックして停車した。


* * *


「あれくらいどうってことありませんよ」


クッルスに轢かれた人…じゃなくてジウムという名前のゲオルギオスドラゴンは微笑んでいる。人を轢いてしまったから慌てて救助して次の町の医者の元に行かないととクッルスに乗せたら、どこにも傷を負っていなくてピンピンしていた。

そこでジウムは自分はイージンの使いだって伝えてきたからとりあえずホッとしたけど…。

ジウムは全てが白髪頭の老齢の見た目で、イージンよりも柔和というか…まるでディーナ家の使用人みたい。柔らかい物腰で凄く優しそう。


それにしても…。


「クッルスは人は自然に避けるはずなのになんで轢いちゃったのかしら、本当にごめんなさいね」


謝るとジウムは「いえいえ」と首を横に振って、


「二足歩行の生き物に化けるのは久しぶりで足がもつれてしまっただけです。いやはや、この動く物の前に立って止めようと思ったら避けられたので回り込んだら石に足を取られて転んでしまって、車輪にマントが巻き込まれてそのまま下敷きになってしまいましてね。お恥ずかしい」


ってことは横を通り過ぎる人のマントが車輪に巻き込まれたら事故につながる危険があるってことね、今度からもう少し気をつけながら動かそう…。


「で、あなたが来たということは、ヲコのことですね?」


サードの言葉にジウムはゆったり頷いて、


「はい、イージン様から御言(おこと)付けを(たまわ)っております」


そう言ってからジウムは続けた。


「イージン様があちこち探して周り、ヲコは発見したようです。ですがその時すでに絶命していたようですね」


「ヲコって、少し前に皆さんが隣の国で戦って倒したゲオルキオスドラゴンのことですよねえ?」


ヒズの質問に私は頷いた。…むしろ目の前で喋っているジウムが人型に化けているヲコの同種だってヒズは分かっているのかしら。見たところ分かって無さそうな気がする。


そう思っている間にもジウムは続けて、


「イージン様はヲコがドラゴンゾンビにならぬようヲコの体を全て焼き尽くし、後に残るのは骨のみになりました。流石に骨だけで生き返るドラゴンはいませんのでこれにてヲコは完全に死んだ、という状態になったとの仰せです。そしてこれを証拠品として提出すれば人間たちも納得するだろうと」


ジウムはずっと自身の膝の上に乗せていた袋をテーブルの上に置いて、中身を引っ張り出した。


「ウッ」


アレンは驚き思わず声の詰まった叫びをあげてのけ反って、ヒズも「ヒアアア~」と気が抜ける叫びをあげて私にしがみつく。

けど私も思わず絶句してしまった。だってジウムが袋から取り出したのは、生々しい肉片がついた巨大な爪…。


「なにそれ、本物?」


アレンが聞くけれど、どう考えたって本物じゃない、これを証拠品に出せばいいってイージンが言うんだったら…!


サードはその爪をじっくり見ている。

サードの表情は私たちと違って引いているものじゃなくて、これでヲコの件は完全に終わったと肩の荷が下りたような顔。


それでもそんなホッとしたような顔をしたのは一瞬。すぐさま爪を袋に戻して袋ごと奪うように自分の元に引き寄せる。


「まずはこれでヲコの討伐は完了したと伝えておきます。そのままこれは私が討伐の証拠品として私が預かり管理いたしますね」


うわぁ…こいつ、何の苦労もなくドラゴンの爪っていう貴重品が手に入ったとばかりだわ。切り替え早ぁ…。


「あの…」


ドラゴンの爪を手に入れてご機嫌なサードにガウリスが遠慮がちにそっと声をかける。


「どうかしました?」


「それはあまり長く手元に置いておかないほうがよろしいかと思います」


サードは少し口をつぐんで、何言ってやがるとばかりに…もちろん表向きの顔は崩さないままガウリスに身を乗り出した。


「どうしてです?」


ガウリスはしばらく爪の入った袋をジッと見て、


「いえ…何と言えばいいのか…。ただこの爪を見ているとずっと手元に置いていたら良くないことが起きそうな気がしてならないのです」


「この装備は呪われている、ってやつ?」


よく物語で使われそうなフレーズをアレンが言うとガウリスは頷いた。


「ええ多分、そのようなものです」


サードはしばらくガウリスをジッと見て、


「それはスダーシャンにこじ開けられた力で見えるものですか?」


「恐らくそうだと思います。きっとこれは長く持っていたらよくありません。…それでもどうするかはサードさんにお任せしますが」


サード一気に面白く無さそうな顔になって、残念そうに鼻でため息をつく。


「それならこの爪はハロワに証拠品として見せた後はその辺の土にでも埋めますか…」


するとジウムは身を乗り出す。


「それならばその爪は証拠として提出したあと、私がもらい受けてもよろしいでしょうか」


サードは諦めきれないけどしょうがあるまいという表情で頷く。


「しかしなぜヲコの爪を?やはり冒険者たちの手に渡らせたくないからですか?」


微妙に毒つくサードの言葉にジウムは微笑みながら首を横に振った。


「食べるためです」


サードが軽く目を見張る。ジウムは微笑みながら、


「私はドラゴンの爪とか骨とかそういう固い部位が大好物なんです」


「…それ共食いじゃ…」


アレンが返すとジウムは更に微笑みながら頷く。


「はいその通りです。私が人間に名付けられたジウムというこの名前ですが、これはその土地の古い言葉で共食いを表わす言葉なんです。私はあごの力が強くてとにかく硬い部位が好きでしてねえ、特にドラゴンの骨は硬くて私好みなんです。

だからどの種類であれ死にそうなドラゴンや年老いたドラゴンが居ると聞けば近くに控えて死ぬのを待つんですが、今回は若いドラゴンが死んでねえ」


えっ…。ってことはもうヲコの骨を食べたってこと…?


骨をボリボリむさぼり食べるドラゴンを想像したらゾッと鳥肌が立って、そこでアレンは何か思いついたように恐る恐る質問する。


「あんたイージンの身の回りの世話してるんだろ?…もしかして今狙ってる年老いたドラゴンって、イージン…?…あ、いやそんなわけないよなぁ、アハハ…」


引きつった笑いを浮かべるアレンにジウムはどこまでも微笑みながら、


「イージン様は中々しぶとい爺でしてね、中々死なない。…ああ、自分の死骸が人間の装備品に使われるくらいなら食ってもいいと了承は得てますよ。もちろん死んだ後です、それまでは身の回りの世話でもしてますよ、ふふ」


「…」


皆黙りこんでしまった。


でもそういえばレディアは言っていなかった?

ドラゴンの死体はそうそう見つからないから、ドラゴンの墓場といえるところがあるんじゃないかっていう都市伝説の話。


けど今の話を聞いてて思ったんだけれど、ドラゴンの墓場って…もしかしてこのジウムのお腹の中なんじゃ…?


皆もそう思ったかもしれない。でも誰もそんな話は口にしないで、重苦しい雰囲気のままクッルスは進んでいった。

縄文時代の頭蓋骨に穴が空いてることあるけど、あれ脳みそ食ってるらしいですね。

その人の知恵を自分の物にっていう世界的にあったカニバリズム。人間、食う、人間の力、つく。

だから頭蓋骨に穴空いてるその縄文の人々は知恵があった人で、そうやって脳みそ食われるほど尊敬されてた人なんだろうなぁ。知らんけど。


どうでもいいけど戦国時代の兜を真上から見るとその下に生首がありそうな生々しさがあって怖い。


ついでにジウムはイージンよりずっと年下設定。老人の見た目をしているのは同世代ぐらいにしておけばなんか心開いてくれんじゃね?っていう考え。

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