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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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食事時の会話

「ええ?私も勇者御一行についていくんですかあ?」


ヒズは驚いて目を見開く。それというのも和やかに夕食の食事が進む中、いきなりシーリーが、


「ところでトリズさん。ヒズさんをどうにかしたいのならヒズさんを勇者御一行と行動を共にさせるのが一番だと思うのですが、どうでしょうかネ?」


と話を切り出したから。ヒズはビックリした表情のままで、


「そうなんですねえ、じゃあ一緒に行く準備が必要ですねえ」


とあっさり受け入れる。そんなヒズにトリズは驚きのあまりナイフをお皿の上にカチーンと落として、


「ヒズ待ちなさい!あなたはどこにもいかないわ、お母さんとここにいるの」


と慌てて止めると、フォークも置いて真っすぐシーリーを見返した。


「急にそんな変なこと言わないでください、一体勇者様たちと行動して何があるというんです?何かさせるおつもりで?」


「いいえ何も。ただ一緒に行動してもらうだけですネ」


「ああでも一個だけ。ヒズさんにはインラス一行の依り代になってもらいたいですー」


付け足すようにスダーシャンが口を開く。それでもトリズは困惑の顔で聞き返した。


「ヨリシロ…?何ですかそれは」


スダーシャンは指を上に向けてペラペラと、


「依り代っていうのは本来神を降ろしてそこに居ていただくためにとりつかせる人や物のことですよー。ヒズさんはそういうお化けみたいなのに憑りつかれやすい体質なんでー」


「…え?」


ものすごい不審人物を見る顔でトリズはスダーシャンを見て、その表情のまま私たちも見てくる。もしかしてこの場にいる全員に私たちは騙されそうになっているんじゃないかって警戒している感じ…。


そんな最大限に警戒されていてもスダーシャンは気にせず話を続けた。


「そんな体質でもヒズさんはのびのびとお化けに全く興味もなく生きてきたと思うんですー。でも天使様っていうお遊びの降霊術をしたせいでそんなのが一気に寄って来ちゃったんですよー。

マイレージさんもその一人ですけどー、マイレージさんは強いんで低級なお化けは全部弾き飛ばしてボディーガード代わりにもなってるんですねー。でもヒズさんをいつまでもこのままじゃしておけないでしょうしー、マイレージさんが居なくなった後のことも心配なんですー」


警戒の顔ながらもそう言われると少し不安になってくるのか…、それとも話だけは全部聞いてやろうと決めたのかトリズは聞き返す。


「例えば…そのマイレージさんとやらがいなくなったらヒズはどうなるっていうんです?」


スダーシャンは「そうですねー」と首をかしげてあれこれと考える顔をする。


「僕が今まで見てきた例だと多いのは…低級のお化けに体を乗っ取られて憎い相手を殺すのとー、とにかく無駄に暴れるのとー、たくさんの異性と遊び回るのとー、命を絶った人と同じ方法で命を絶つのですねー」


「…」


トリズはドン引きみたいな顔をしてから気を取り直したようにため息をついて、


「もういいです、そんな幽霊みたいな話で私とヒズを怖がらせてお金を騙し取ろうとでもしてるんでしょう?旦那が居なくなってからあなた方みたいな詐欺師も随分うちにやってくるんですよ。宿泊もと言いましたが食事を終えたら出てっていただけます?行きましょう、ヒズ」


イライラした顔でガタッとトリズは立ち上がった。


「死にますよ」


シーリーの言葉にトリズが立ったままの姿勢で見返す。シーリーはニヤニヤと笑って、


「疑われているようなので怪しい占い師として脅すようなことを言いますがネ。このままじゃあなたニヶ月後に死にます」


「…え?」


「死因は過労死です」


二ヶ月後に死ぬといわれてトリズの顔から血の気が引いていく。それでもギッとシーリーを睨みつけて、


「そんな先のことが分かるわけないでしょ、適当なことを言って脅せばお金を出すとでも思ってました!?」


と喧嘩腰で言い返す。


「お母さん、失礼ですう」


ヒズはそう言うけれど、トリズはヒズの隣りに近寄って抱きしめ、優しく声をかけた。


「ヒズ黙ってて、あなたのことは母さんが守るから」


「あのお…でもお母さん、あのお…」


ヒズが何か言いかけているけれどトリズは、


「ヒズは騙せても私は騙せませんよ」


と私たちに牙を剥くように睨みつけてくる…。ここまで警戒されちゃったら、もう話し合いなんて無理なんじゃ…。


そう思っていると、サードが鼻で笑ったかと思ったら軽快に笑いだした。急に笑い出すサードを見てトリズは少し困惑の顔をして黙り込む。


サードは笑いを収め、ニヤニヤしながらトリズを見返した。


「いやはや、これはこれは。とっくに成人している娘に対してそんな子供相手にするようなことをして」


「…どういうことですか」


ムッとしたようにトリズが聞き返すと、サードは葡萄酒の入ったグラスを持つか持たないか程度に軽く揺らす。


「ヒズさんの危機管理能力はそうとう低い。きっとあなたもあなたのお父様もヒズさんを悪い出来事からとことん守り抜いて育ててきたのでしょう」


「当たり前でしょう、親なんですから」


「その結果がこれです」


「…は?」


「ジニダさんの言う通りですね。あなた達は随分と頑丈な箱にヒズさんを入れて、花よ蝶よと何の憂いもないように育ててきたのでしょう。

何て幸せな境遇、しかし悪い出来事に触れることがなかったからヒズさんは悪いものがどのようなものかよく理解できず、何事に対しても嫌がる感情が湧かず、このように幽霊に憑りつかれても受け入れてしまう結果になった」


「何ですかその言い方…!」


「だからシーリーやスダーシャンはヒズさんをあなたから自立させましょうと言っているのですよ。あなたはそろそろ子離れする時期にきているということです」


「…。いくつになっても娘は娘です。どこの親もきっと同じことを言います、どんなに大人になった子供でも守りたい、世の中そういうものでしょう」


「しかし…いつまでも子供扱いされたままでは子は潰れてしまいます」


ずっと黙って成り行きを見守っていたガウリスが声をかける。


「私もそうでしたから分かります。このような体格の私を父はいつまでも幼い子を相手にするように接していました。

…非常に辛くやるせない思いでいっぱいでした、何度私の気持ちを伝えようが自分の考えた通りにすれば間違いないからと聞く耳を持っていただけなかったのです。

ヒズさんは私ほど辛いとは思っていないかもしれません、しかしそれでもヒズさんは船頭をやると言って実際にこの家から外に出て船頭の仕事を行っていました。それがどのような思いからの行動か私は分かる気がします」


ガウリスはそこで少し区切ってから、トリズを諭すように続ける。


「少しでも自分を一人前の大人として認めて欲しいと思っていたのでは…と」


「…」


黙り込むトリズの腕からもごもごとヒズは顔を出して、


「あのう、お母さん…」


と言うからトリズはヒズを抱える腕をゆるめる。


「ここにいる皆さんは悪い人じゃないですう。皆さんは先を急ぐ勇者御一行なのに、私でもどうなっているのか分からない私の体のことを真剣にきいてくれて、心配してくれて、ずっと慰めて傍にいてくれたんですう。お願いですから悪い人みたいな扱いはやめてほしいですう」


「…」


トリズは少し口を噛みながらその場で私たちを見渡して、


「じゃあ…勇者御一行と行動させて私から自立させたら娘のこの状況は確実に良くなるんですか?」


「ですねー。ヒズさんに足りないのは世の中の様々な経験なんでー。その中で嫌だと思うものを見つけて拒否する気持ちを育てて欲しいですねー」


スダーシャンの言葉に続けてシーリーも、


「ヒズさんはとてもピュアでお優しいのがいいところです、しかし世の中なんでもハイハイ受け取ってはいけないものもあります。嫌だ、やりたくない、拒否する、逃げたい、面倒くさい、辛い。そのような悪い事も経験して世の中のあれこれを見て精神面をもっと鍛えてもらいたいですネ」


スダーシャンは更に重ねるように、


「ヒズさんはこういう裕福な家でたくさんの人から愛情を受けて、そんで良い物や綺麗な物に囲まれてその恩恵を受け続けてきてるんでー。ピュアな部分が爆発して自分が受け取るものは全部安全な良いものだってほとんど拒否しない性格に育っちゃったんですよねー」


「そうそう、だからこの家から離れるのがヒズさん自身を守るのに繋がるということですネ」


トリズはそれを聞いて少し黙って…ソッと聞いた。


「…ちなみに私の寿命が二ヶ月だというのは…本当ですか?」


「さっきの時点では二ヶ月ですネ」


トリズはまだ信用できてなさそうな顔でシーリーを見て、そんな表情にシーリーはケラケラ笑う。


「『信用したいけど見た目が怪しすぎる、やっぱりこの人たちは詐欺師でこのまま娘をさらってお金を請求するつもりかもしれないわ。勇者御一行というのも本当のことだか分からないもの』ですか?いやぁまぁそう思うのもしょうがないですネえ」


トリズはギョッとして首をブンブンと横に振る。それでもシーリーはニヤニヤしながら、


「『何でこの人私の考えてることが分かるの?』ですか?分かるんです僕たち」


するとスダーシャンも、


「そういえばあなたが探してる書類ですけどー、舟の年間利用書照会の原本ですねー。それ旦那さんの部屋のゴチャゴチャしてる…入口から向かって左の書類の山に埋もれてますよー。旦那さんの仕事部屋だけはメイドや使用人たちも遠慮して入らなかったから今まで発見できなかったでしょー」


「え、何でそれ探してるの…」


「ちょっとは信じてもらえましたかネ?」


二人の色々当てることを聞いてトリズも少し信じる気持ちになったのか、ゆっくりと席に戻った。そのまま黙って料理を見ているような見ていないような顔でジッとしている。


ヒズも黙っていたけれど、「あのう」とシーリーとスダーシャンに顔を向けた。


「お母さん…本当に二ヶ月で死んじゃうんですか…?」


「ええ、さっきの時点では」


シーリーの変わらない返答にヒズはクシャッと顔をゆがめて、


「私、お母さんにはもっと長生きしてほしいですう。どうにかならないんですかあ?だって…私が勇者御一行の皆さんと一緒に行動しないといけないって言われているのに、二ヶ月でお母さんが死んじゃうなんて…!お願いですう、お母さんが助かる方法が分かるなら教えて欲しいですう…!」


耐えられなくなったのか、ブワッと涙を流しながらヒズは顔を覆って泣き出してしまった。


でもそれはそうよ、余命少ないお母さんを置いて家を出ていかないといけないとか…あまりに酷なものじゃない。


「いいこと教えてあげましょうかネ」


ヒズはヒック、ヒック、としゃくりあげながら顔を上げた。


「僕はさっきの時点では、と言ってます。僕の言うことは大体当たりますけど、そんなもの人の考えと行動次第ですぐ変わっちゃうんです」


「…それって…?」


「トリズさんが僕たちの話に耳を傾けようと席に戻った時点で目まぐるしく未来が変わってるんですよネ。さっきまで僕が見ていたのはトリズさんがヒズさんを勇者御一行と行動させなかった未来。

その未来では残念ながらこの家は没落街道まっしぐらです、それでも何とか家を守ろうと今以上にトリズさんが頑張ってしまい残念ながら…という未来でしたけど、今の所トリズさんが二ヶ月後に命を落とす未来は消えましたネ。

悪くて半年後に倒れて入院の未来はチラチラと見えますけど、半年後なら今日から生活習慣を変えればギリギリ回避できるでしょう」


その言葉にヒズは心からホッと胸をなでおろして、今度は嬉し涙をポロポロ流しながらトリズに微笑む。


「お母さんが無事ならよかったですう、本当によかったですう」


シーリーは微笑ましそうにヒズを見てからトリズに視線を移す。


「見てください、あなたが自分の娘を手放したくないとムッツリ黙り込んでいる時、娘はあなたのことを心配して助けたいと思っていたんですよ。どちらがより相手を想ってると思います?」


「…でも勇者御一行は危険なモンスターとも戦うでしょう?ついこの前も隣の国でドラゴンと戦ったと聞いています。それに比べてヒズは…人と口喧嘩すらしたこともありませんし、何より自分の足でこの町の中を歩いたことすらありません。それなのにどうやって勇者一行と…」


「おい」


トリズが驚いて顔を上げる。そこにいるのは嬉し泣きしているヒズ…じゃなくてマイレージ。


「あんたとこうやって話すのは初めてだな」


「…あなた…まさかインラス一行のマイレージ?本当にいたの…?」


驚くトリズにマイレージは頷きながら向き直って、足を組んでふんぞり返る。


「てめえさっきからグダグダ言ってやがるがな、俺を誰だと思ってんだ?元勇者一行のマイレージ・ランダー様だぜ?俺だってヒズの体が無くなればどうなるか分からねえんだ、こうなったよしみだから最低限以上にヒズは守ってやらあ。それで安心だろ?」


「…」


無言のトリズをマイレージはしばらく黙って眺めて、軽くため息をつく。


「だよなぁ、娘を手放すのは辛ぇし心配なのは俺だって分かるさ。俺も娘を嫁に送り出す時同じ気持ちだった。だがいつまでも俺が娘の隣にいるわけにもいかねえ、だから黙って見送ったんだ。…てめえもいい加減に送り出してやれよ、それだって親の務めだろ」


同じ親の立場から出たマイレージの真っすぐな言葉はトリズにとても響いたのかもしれない。段々と涙が浮かんできて、両手で目を覆うと…黙って頷いた。

アレン

「(考えてみればインラス一行の一人に守ってもらえるとかすげー安心感。ヒズが羨ましい)俺もマイレージに守ってほしいなぁー」(チラッチラッ)


マイレージ

「てめえ勇者一行だろ、自分でどうにかしろ」(親指を下に向けて首の前で横に動かす)


アレン

「え~…。じゃあエリーもそんな感じ?」


マイレージ

「…。俺の家は子供から孫まで全員女だったからなぁ、身内の女は守ってやるさ」


アレン

「(お。今ちょっと柔和なお爺ちゃんっぽい顔になった。マイレージ子煩悩だ、絶対子供にも孫にもデレデレになるタイプだ。俺も甘えればなんとか守ってもらえそう)」


アレン

「ねぇ俺のことも守って守って~」


マイレージ

「…」(無言の中指立て)


アレン

「(クソッ、男には厳しいタイプか…!)」


サード

「(何やってんだこいつ…)」

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