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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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シャーマン

背後に立っているシーリーはニッコリ微笑んだ。


「ああ、前に見えた再会のシーンはこの場面でしたか。やはりまた会えましたネ。勇者御一行様方」


「誰ですう?」


ヒズが不思議そうにシーリーを見ているから説明しようとすると、馬車の御者が声をかけてくる。


「お知り合いでしたらお話は馬車の中でどうぞ、あまり遅く帰ると皆が心配します」


そう言われてみたら日も結構傾いて暗くなってきているわ。


そんなことでシーリーも馬車に乗りヒズの家にたどり着くと、中からメイドだの使用人だの執事だのがわらわらとやってきて、


「ヒズお嬢様が大変お世話になった様子ですので、奥様が食事と宿泊をどうぞと仰っております。他に食事や宿泊の予定がないのでしたらどうぞ遠慮なく」


と促されたから、言葉に甘えてありがたくヒズの家に泊まらせてもらうことにした。まあサードもこれで食事と宿泊分の金が浮いたぜって内心ほくそ笑んでいると思うし。


「奥様は応接間にいらっしゃいます、皆様の宿泊するお部屋の準備が整うまでご歓談下さい。食事ももう少しで整いますので」


確かヒズのお母さんはトリズって名前だったわよね?ロニーがそう言っていたはず。


そう思いながらヒズを先頭に応接間に入ると、ヒズのお母さんらしき人が立ち上がって私たちと握手をする。


「初めまして、ヒズの母、トリズ・ジョーエスです。娘が大変お世話になったそうでありがとうございます、どうぞうちを実家と思ってくつろいでください」


ヒズのお母さんはきっとヒズに似たホワホワした人なんだろうなと思っていたけれど、思った以上にヒズとは違うしっかりした顔つきの女性だわ。


むしろ…大丈夫かしら。すごく顔色が悪いし辛そうに眉をひそめているし、目の下には濃いクマができていて寝不足のように見えるけど…。ご歓談くださいって言われても、トリズは私たちの話相手をするのも大変なんじゃないかしら。


「お座りください、ヒズさんのことでお話があります」


サードも立たせたままだと倒れそうと思ったのか招かれた立場なのに座るよう促す。

全員が座ってからサードはヒズの体に起きている出来事の全てをトリズに伝えた。


インラス一行のマイレージが…それも幽霊みたいな存在になっているマイレージがヒズの体を乗っ取って人を殴ったり暴れたりしていたなんて話には最初「はあ?」みたいな雰囲気だったけれど、それでも最後まで話を聞いてゆっくり理解したのか、大きいため息をつく。


「…ヒズが人を殴りつけて舟から落としたなんて話、嘘だと思ってましたけど本当だったんですね」


「正確にはヒズさんの体を乗っ取ったマイレージさんですが」


トリズはまた大きいため息をついて眉間にしわを寄せて、


「でも確かに最近ヒズの様子がおかしいとは思ってたんです。一人で呟くことが多くなって、怖い顔付きで男っぽく振る舞うことが増えたなとは…。でも旦那も死んで役員会だの地域周りの話合いだのに出席しないといけないから中々ヒズに構ってあげられなくて…だけどまさかそんなことになっているなんて…」


いやいや、三十歳を過ぎているヒズに構ってあげられないって言葉はどうなの?子供じゃないんだから。

まあ確かにこんなにほわほわしているヒズをみていたら永遠の少女みたいで可愛がりたくなる気持ちは分からないでもないけど。


「ヒズは…どうにかできるんですか?」


トリズはそう言ったけれど首を横に振って、バッと頭を下げた。


「いいえ、お願いします。依頼を出しますから、娘を助けてください…!」


こうやって目の前で頭を下げられると表向きの顔になっているサードはもうこの言葉を言うしかない。


「分かりました、どうにかしましょう」


それでもドラゴンの討伐を頼まれた時のような別次元に意識が飛んでいるような表情じゃないわ。それというのもこの現状を突破できる人物が今近くにいるから。


「…というわけで、願いします。シーリーさんと…そう言えばあなたの名前は?」


サードはシーリーの隣にいる男の人に目を向ける。


そう、私たちと一緒にここまできたのはシーリーだけじゃない。シーリーは見知らぬ男の人と一緒にいて、さも当然のようにここまでやってきた。


そのシーリーと一緒にいた男の人はサードの問いかけにニコニコ笑いながら、


「スダーシャン・テラーですよー。ふふ」


と楽しそうに答える。


スダーシャン・テラー…。

シーリーと同じく占い師みたいな黒っぽいローブをまとっている、褐色の肌に銀髪のニコニコ楽しそうに笑っている男の人…。見た感じシーリーと親しそうにしているから知り合いの同業者かしら。


ジロジロとスダーシャンを見ているとシーリーは笑いながら、


「いやぁさっき偶然にもスダーシャンに会いましてネ。しかし偶然ではなく必然的に会ったんだと思います、勇者御一行と会うことについて」


「あの、ところで娘は…」


ヒズの話から会話が遠のいていると感じたのかトリズが声をかけるけれど、シーリーは手の平を向ける。


「まずは娘さんから事情を聞きますのでネ、お母様は少しお疲れのようですから席を外して食事まで仮眠を取ってください、このままじゃあなた倒れますよ」


トリズは納得のいかない表情をしてその場で黙っていたけれど、サードが声をかける。


「この者の言うことは百に近い確率で当たります、素直に従ったほうが身のためですよ」


「それは大変ですう、お母さん眠ってくださあい」


ヒズもトリズに眠るよう促して、トリズは本当だかどうなんだか、と言いたげな顔をしながらも、少なからずちょっと横になれると安堵しているような顔つきで出ていった。


トリズを見送り、それまでずっと微笑んで目を細めていたスダーシャンの目がわずかに開いた。

ふと見るとその目は金色に輝いていて、その目の中を魔法陣がゆっくりと回転している。


「あっ…」


つい指さすとスダーシャンはまた目を細めて微笑む。


「気づきました?そうです僕もシーリーと同じく神に愛された目を持ってるんですよー。僕たち幼馴染なんですー。ウフフ、目が細いから今まで気づかなかったでしょー。隠す手間が省けるんですよ、この目ー」


ほんわかした雰囲気でスダーシャンは微笑んでいる。

ってことは、スダーシャンはシーリーと似た力を持っている人なんだわと納得していると、シーリーは付け足すようにスダーシャンを指さした。


「スダーシャンの持つ力はいわゆるシャーマンですネ」


シャーマンとの言葉に全員が反応してシーリーを見てからスダーシャンを見た。


「マジで?ちょうど俺らシャーマン探してたんだよ。でも繋がり持てなくてさぁ」


アレンの言葉にシーリーはケラケラ笑って、


「ということはやっぱり僕がスダーシャンと会うのは必然だったみたいですネ」


「ええ、実は…」


サードは事情を話そうとしたみたいだけれど不意に口をつぐんで、


「話すと長くなりますし事の始まりがややこしいので私の頭の中を見てもらえますか?」


と伝える。シーリーも言葉の説明よりそっちのほうが早いとばかりに片目を出した。


「お金は貰いますからネ」


そりゃあ確かに手っ取り早いかもしれないけど…お互いなんて面倒くさがりなの…。


それでもほぼ一瞬でシーリーは状況を把握したのか目を髪の毛で隠し直すと、


「つまり始まりはウチサザイ国のゾルゲというエルフが死者の魂…主にインラス一行を呼び寄せ生き返らせようとしたのが始まりということですネ。それもヒズさんの近くから離れられなくなって、魂は戻る場所も分からずさ迷ってる…」


「違いますねー、これは魂じゃないですー」


シーリーの言葉をスダーシャンが止めて、続けた。


「正確には記憶の存在、と言った方が正しいですー。魂そのものではなさそうですねー」


「記憶の存在?…それは魂とは違うのですか?」


ガウリスが聞き返すとスダーシャンが微笑みながら口を開く。


「違いますー。魂はその人の核そのものですけどー、今の状態のマイレージさんは本人の記憶を持ったエネルギー体って感じですねー。例えばの話ですけどー、家とか鏡とか宝石とか人形って所有者の気持ちが入り込みやすくてお化けのホラー話にはつきもののアイテムじゃないですかー」


お化けと聞いたアレンはヒッと息をのんで私にキュッとしがみついてきて、スダーシャンは気にせず続ける。


「お化けのホラー話は人の執着とかの悪いエネルギーが凝り固まってそうなるんですけどー、マイレージさんもそんなエネルギーのかたまりに見えるんですよねー」


するとヒズの顔がヒュッとマイレージに変わった。


「ってことは俺は悪霊だとでも言いてえのか?」


「いえいえー。どっちかといえば今すぐにでも元々居た場所に戻れそうなくらいクリーンな状態ですよー。むしろその状態で何で戻れないのか不思議ですー」


スダーシャンの言葉にあれ?と疑問を感じて、口を挟んだ。


「マイレージをどうにかしたくて私たちはシャーマンを探していたんだけど…もしかしてスダーシャンにもどうすればいいか分からないとか?」


「だって自分は死んだって理解してここまで会話が通じる人はさっさと行く所に勝手に行きますもん、これは初めて見るパターンですけどー…」


急に黙りながら目をちょっとだけ開いて、スダーシャンはマイレージをジッと見る。


「マイレージさんには焦りっぽいのが見えますねー」


「…焦り?何だそりゃ」


マイレージは訳が分かってなさそうに呟くと、スダーシャンの言葉に被せるようにシーリーが続ける。


「何かをどうにかしないといけないって焦りに見えますネ。でもその詳細は彼は覚えていない、忘れてます」


するとスダーシャンは「あー」と納得するように頷きながら、


「そっか、何かしないといけないって思ってるからこの状態でも元いた場所に戻ろうとしないんだ。セルフ地縛霊みたいな感じかー。それにヒズさんもちょっと変わってるから余計だろうねー」


するとヒュッと顔がヒズに変わる。


「変わってるって、何がですう?」


「僕の目から見てあなたはピュアすぎるんですよねー、拒否するって感覚がひっっっっじょうに薄くて良いものも悪いものも全部受け入れてしまうんですー。

ヒズさんが最初からマイレージさんが近くにいることを怖がって嫌がって拒否していたらここまでくっついちゃうなんてことにはならなかったと思うんですよー」


「拒否…しなかったの?」


普通だったら見知らぬ男が急に近くに現れたら恐怖を覚えるものだと思うんだけど、とヒズに聞いてみると、ヒズは少し困惑しているような顔つきで首をかしげて、


「こんなこともあるんだなぁって思ってましたあ」


「…」


ここまで危機管理がないと段々とヒズのほうが怖くなってきた。


シーリーは私の考えを読んだのかケラ、と笑ってから、


「こんな感じでヒズさんは危機感もなく来る者拒まずでしょう?拒否しないからこそどこまでも受け入れてしまうんです。それが自分のパーソナルスペースだろうが、体だろうが全部明け渡してしまうぐらいにネ」


「なにその言い方、エッロ」


アレンが妙な所に強く反応するからなんかイラッとして、杖でドスッとアレンの足の甲を突く。


「それで?」


痛がるアレンを無視してシーリーとスダーシャンに話の続きを促した。


「ヒズさんってシャーマン寄りの体質っぽいんですよー。霊媒体質とも言いますけどねー、幽霊に憑かれやすい人ってことですー」


「ヒッ幽霊!?お化け!?」


アレンが足を痛がったり私に抱き着いてきたりと忙しい。そんなアレンをおかしそうに見ながらシーリーは、


「あれでしょう、やっぱり原因は天使様って遊びですネ」


「だねー、天使様だねー」


「やっぱりコインから指を離した呪いですかあ?」


ヒズが不安そうに聞くと二人はドッと大爆笑する。


「それはないですネ、天使様はただの遊びです、それに天使が…フフ、天使がコインから指を離しただけで呪うって本気で思ってるんですか?」


「どれだけ器のちっちゃい天使なのさーって話だよねー。ああでも天使様をやってて低級なお化けはかなり寄ってきてたと思いますよー、その中の一人がマイレージさんでしょうねー。

でもマイレージさんは低級なお化けと違って強力なエネルギーを持ってるんでー、低級なものはマイレージさんのエネルギーで全部弾き飛ばしちゃったんでしょうねー。それで霊媒体質のヒズさんにマイレージさんが捕まって、ヒズさんも拒否しないからこの状況ってことかなー」


スダーシャンはそう言ってから少し心配そうに、


「けどここまで他人が好き勝手に体に出たり入ったりできるんですからこの先が配ですー。ヒズさんは体を乗っ取られる感覚を覚えちゃったんでー、マイレージさんが居なくなったら低級なお化けがウジャウジャ寄って来そうでよねー」


それって…思った以上にヒズの今の現状って危ないものなんじゃないの?今はマイレージが要るから大丈夫みたいだけど…。


「じゃあヒズはどうすればいいの?私たちはヒズからマイレージを引き離そうとしているのに、マイレージがいなくなったら低級なお化けが寄ってくるとか…」


心配する私にシーリーはニッコリ微笑んでスダーシャンの肩を叩く。


「それをどうにかするために僕たち占い師だのシャーマンだのの怪しい人のアドバイスが必要なんですよ、ネ?」


「ねー」


シーリーとスダーシャンは楽しそうに笑い合ってるけど…一体どんなアドバイスをするのかしら…。


「そのアドバイスって、どんなものですう?」


ヒズがそう問いかけると、二人はニヤニヤ笑う。


「それはですネ」


「お食事時にー」


まるで後のお楽しみ、みたいな雰囲気だけれど、付け足すように続ける。


「でもあなたが覚悟を決めなくても大丈夫なことですネ」


「そーそー、覚悟いるのどっちかといえばトリズさんだもんねー」


…トリズ?どうしてヒズのことでトリズに覚悟がいるっていうのかしら…。

言いたいこと全部相手に感覚でボーンと届けられたら楽だよなと思うことが多々あります(喋るの苦手)


あとうちの猫と意思の疎通できたらなぁと思ってアニマルコミュニケーションの本を何冊か買ってます。

そんなある日、今日も猫と話す練習しよ~と近くにいたら私の腹があり得ないでかさでギュロロロロと鳴り、振りむき目が合った猫は私をジッと見つめ、

『…お腹空いてるの?』

と言ってきた気がしました。最初の会話できたかもしれない第一声が「お腹空いてるの?」は草。

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