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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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陽気な船旅!…おや?船長が呼んでるだって…?

サードの部屋から立ち去った私たちは、その足で元サードの部屋、現ガウリスの部屋に報告がてら向かう。


曲がり角を進もうとすると、着飾った服装、同じような薄緑の髪の女の子三人組がキャイキャイ騒ぎながらドアをノックしているのが見えて、思わず引っ込んだ。


そしてガウリスが顔を出すと、女の子たちはポカンとした表情でガウリスを見上げ静かになる。


「あれ…勇者様?」


「違うでしょ、勇者様黒髪だって話だし」


「金髪も女魔導士のエリーさんしかいないはずだよ」


ヒソヒソと話す三人にガウリスは多分何回も言っている言葉を返す。


「ここは勇者様の部屋ではありませんよ。何故かここが勇者サードさんの部屋と思われているようで私も困っているのです」


「ええー、服キメてきたのにぃー」


「誰?勇者様がこの部屋に居るって言ったのー」


「せっかく会いにきたのにガセネタ掴まされてたとかマジありえなーい」


具合の悪いサードを見たすぐ後だから、そんな軽い気持ちで訪れて自分勝手なことを言っている三人組に何かムカッとした。


「申し訳ありません」


しかもサードを守っているガウリスが謝っているし。全然ガウリスは悪くないのに。


「けど四階にはいるんでしょ?」


「うん、船長が初日に向こうにあるエリーさんの部屋に行ったって聞いたもん。エリーさん四階なら勇者サードも武道家アレンも部屋近いはずだよ」


「じゃあその部屋ってどこなのよ、あんた知らないの?」


女の子の一人が偉そうな態度でガウリスに指を突きつけて聞いている。


何て失礼な人なの、それが人に何か聞く態度!?


怒りは沸点に達して、ズン、と曲がり角から一歩踏みだす。


するとアレンが私の頭に自分のオレンジ色のパンダナをバッと巻き付けると、私の肩を掴み、ズルズルと曲がり角の影に引きずり戻した。


…それより何で私の頭にパンダナを…?

もしかして私の金髪を隠そうとでもしたの?でも私よりアレンの赤毛のほうが目立つから自分のを隠したほうがいい。


曲がり角の向こうからガウリスの声が聞こえてくる。


「申し訳ありません、勇者御一行の部屋は分からないのです」


「うそ、だって同じ四階でしょ?勇者様だけじゃなくて御一行の二人も見ないの?どんだけ部屋に引きこもってんのよ」


「同じ階なんだから一回ぐらい見たでしょ?どっちの方向からきたとかも分からないわけ?」


「こっちは高い金出して売店で服も買ったんだからさぁ、それぐらい教えてくれたっていいでしょ!?」


女の子たちはどんどんヒートアップしてきて、まるでガウリスが全て悪いとでも言いたげに責め立て続けている。


それにしても失礼だわ、失礼すぎる!

サードは具合が悪いのにそんな軽い気持ちで部屋まで押しかけてきて、今度はサードがいないからってガウリスに当たり散らすなんて!


ズン、と曲がり角から一歩踏み出し文句を言いに行こうとしたけど、アレンに肩を掴まれたままで前に進めない。


「離してよ、あんなふざけた人たちなんて追い返してやるわ!」


「ダメだって、今出ていったらサードの部屋に案内しろとか言われるかもしれないだろ?さすがに俺らじゃ知らないって言っても嘘なのはすぐバレるし、あんな興奮してる三人相手じゃまともに話も通じないよ」


「…」


アレンの言葉で少し冷静になる。


確かにあの三人は主にサード目当てっぽいから、今私が出て行ったらサードの部屋に連れて行くまであの状態で喚き続けるかもしれない。そして私はきっとブチギレてしまう。


…うーん、勇者御一行の立場で他のお客さんと言い争い合いをするのは避けたいかも。


でもそれだとガウリスはあの悪質クレーマー三人組に囲まれたままになっちゃうわ。どうしよう、廊下で喚いてる人が居るって船員に助けを求めに行ったほうがいいかしら…。


「ならばここで勇者様に会えるよう神にお祈りをしましょうか」


船員を探しに行こうとしたらそんなガウリスの一言が聞こえてきて、私も、女の子三人組も一瞬考えが止まったのか静かになった。


「…はあ?」


女の子の一人から戸惑ったような、馬鹿にするような反応の声が漏れ出る。


「私は神に仕える者です。神は平等に愛を捧げ、人々の祈りを聞き届けます。あなたたちが心の底から勇者様に会いたいと願うならそれをここで神に祈りましょう。そしてあなたたちに祝福の道があるのならばきっと勇者様に会えるはずです」


「え、神官なの!?その体格で?」


「はい」


ガウリスは簡単に肯定してから続ける。


「ではまず神はどのような存在だと考えていますか?」


「え、ええ…?」


「いや知らねーし…」


女の子たちからドン引きしている声が聞こえる。


でも私だってろくに素性を知らない相手から急にそんな神の存在の話を持ちかけられたら「何、何なの、何の質問なの、この人もしかしてヤバい人?」って対応になると思う。


そしてガウリスは何事もないように淡々と続ける。


「神は全ての者を守り愛を与えるために存在します。そして愛とは何でしょう?神が人を、人が人のためを想い与えるのが愛です。自分の願いを周りに押しつけるのは愛ではありません。それはただのエゴ、自己満足です、ここまでは大丈夫ですか?」


「…」


女の子たちはもう無言。でもガウリスはなおも続ける。


「勇者様たちは今まで数々のモンスターに魔族を討ち果たしてきました。しかし今はどうですか、船の中は?モンスターもいません、魔族もいません」


「そりゃいるわけないわよ…」


「その通りです。ここで愛を持って考えてみませんか?勇者という立場になってからずっと戦いに身を投じていた勇者様とその御一行は、今ようやく落ち着いた環境でくつろげているのではないかと」


女の子たちは何も言わない。


「きっと勇者様たちは自身の元に訪れたあなた方を受け入れてくださる優しい方たちです」


いや、ごめんなさいガウリス、私あまりに人が押しかけてきて面倒になったら部屋の中で居留守使っていたわ、たまに。


「しかし勇者様たちも人間です、今しばらくは船の中でゆっくりしたいと考えているかもしれません。勇者様は特に皆さんから一番注目される存在ですから、余計に一人になりたいと考えておられるかもしれません」


そうよそうよ、私たちだってゆっくりしたいわよ、特に具合の悪いサードにはゆっくりしてもらわないと困るわ。


ウンウン頷いて聞いているとガウリスは思い悩むようなトーンになり、


「勇者様がいると噂になるだけでこのように私の部屋にも引っ切りなしに人が訪れるのです、私からしてみたらもう少しそっとしてもよろしいのではと思えますよ、どうせもう一ヶ月以上同じ船にいるのですから」


ガウリスはそこで口を閉じたみたいだけど、クレーマー三人組からの返答はない。

神様の話を持ち出されてドン引きしたら冷静になったのか、まだドン引きしているのか…ここからは何も見えない。


「…では、あなた方が神に祝福され、勇者様に会えることを祈ります」


というガウリスの言葉が聞こえた。

あの妙に恥ずかしくなる祝福をしているのかもしれないけど、ここからじゃ見えない。


「…戻ろっか」


「うん…」


そんな声と共に足音が遠ざかっていくのが聞こえる。


その音が完全に聞こえなくなってから、アレンと私はダッシュでガウリスの元に走って行き、扉を閉めかけていたガウリスに横からタックルするように抱きついた。


私たちの急なタックルを受けてもガウリスはビクともせず、でも驚きながら受け止める。


「な、何ですか!?」


「ガウリス、すげーじゃん!」


アレンはバシバシとガウリスの広い背中を叩いて、


「あんなに失礼なクレーマーを上手く追い返すなんてすごいわ!」


と私はガウリスの太い腕をペンペンと叩く。


いつもだったらああいう面倒な人はサードの偽善的な微笑みと言葉で受け流して離れているけど、今みたいに興奮していた相手を冷静にさせて正面から追い返すなんて…すごい!


するとガウリスは笑った。


「大体の方は神の話を出すと話に乗るか引くかの二通りに分かれるもので、どちらにせよ本来の話題から話を逸らすのに手っ取り早いのです」


と言いながら三人組が去っていった方向を見て微笑む。


「しかしあの方々は私の言葉に最後まで耳を傾け、それを考え、自らの行動を省みる心があるからこそあのように引き下がってくださったのです。それは私がすごいのではなく、彼女たちの心根が良かったからですよ」


思わず息を飲んだ。


ガウリス…あなた良い人どころじゃないわ、もしかして聖人?聖人なの…!?


* * *


ガウリスの聖人ぶりに感動してから数日がたった。


どうやら酔い止めの薬は効いているみたいでサードは前より戻すことも少なくなったし、「うぶっ」と不吉な音が漏れ出ることも少なくなった。


でもまだまだ容体は変わっていなくて、未だにろくに物を食べられていないのよね。そしてどんどんとやつれてきている。


サードの部屋に訪れると先にアレンがいて、アレンが私に説明してきた。


「今まで医務室の医者に診てもらってたんだ。とりあえず栄養不足だからって栄養剤打ってもらって今日の分の酔い止めの薬をおいて行ったんだけど…。

次の港まで持たなそうだから脱出用の船に乗って陸地に戻ったほうがいいって言われたよ。もう二日進んだら少し陸に近い所通るみたいだから、その時に船員の人と一緒に行きなさいって」


そっか…お医者さんもサードはこれ以上船旅はできないって判断したのね。


「でも私もそれで良いと思う。サードもそれでいいでしょう?」


「…。くっそ、金払っといてこれかよ…」


サードからは度々悪態が飛び出してくるようになった。少しでも元気になっている証拠だわ。


私はスッと木の器をサードに差し出す。


「今日もすりおろしリンゴと、ついでにオレンジを貰ってきたの。食べましょう?」


毎日三回厨房に行っているからか、今日はついに一番偉そうなコックさんに声をかけられて、


「今日も勇者様はすりおろしリンゴ?オレンジたくさんあるから持って行って汁だけでも吸わせてやりな?」


とオレンジをもらった。


そこでその一番偉そうなコックさんの肩に立派な勲章がつけられているのに気づいて、よくよく厨房にいる人たちを見てみると全員の肩に大小の差はあっても勲章がついていた。

料理上手のコックさんたちと思っていたのがまさかの国の軍人揃いでビックリした。


どうやらサードが船酔いでダウンしているのは船の関係者には筒抜けになっているみたいだけど、乗客の人や売店の人(勲章はついてなかった)からはサードの容態を訪ねられることもないから、勇者の立場を気遣ってサードの具合の悪さを言いふらしていないのかもしれない。


「はぁ…」


サードはため息をつきながら私の手からすりおろしりんごの入った器と木のスプーンを受け取ってモソモソと食べる。


前みたいに何口か食べてあらぬ方向に顔を向けて戻しそうなのを我慢する素振りも無くなったみたいで、時間をかけながらでも完食する。


オレンジは食べられるかしらと思いながらも皮をむいて「はい」と一房サードに渡すと、サードは無言で受け取って口の中に入れる。


それを見てホッとした。

だってようやくすりおろしリンゴだけじゃなくて固形の果物も食べられるようになったんだもの。


「美味そうだな。俺にもちょうだい」


アレンが手を出してきたからアレンにもはい、と渡して、ついでに自分の口にも一房入れた。


固い薄皮の触感、噛むと酸っぱい酸味が一気に口の中に広がっていく。


「うんん~!酸っぱい!」


想像以上の酸っぱさに口を押さえ足をダカダカ動かしているとアレンにアハハ、と笑われた。


「エリー、楽しい顔になってる」


酸っぱさと格闘して口をすぼめているとコンコンコンとドアがノックされて、アレンが立ち上がってドアの丸い穴から外を確認し、ガチャッと開けた。


あ、ガウリスね。


「ちょうどよかったわ。ガウリスも食べて」


中に入ってきたガウリスにもオレンジの一房を渡す。ガウリスは「ありがとうございます」と受け取ってから、全員の顔を見た。


「今私の部屋に船員の方がいらっしゃいまして、勇者御一行の皆さんに船長室まで来てほしいとおっしゃっているのですが…」


「何かあったの?」


聞いてみるとガウリスは軽く首を横に傾け、


「いえそこまでは。急用なので来てほしいとだけ言われましたのでこちらに来ました」


私とアレンが目を合わせ、サードとも目を合わせてから三人で頷いた。


「とりあえずサードはまだ体調が悪いから、俺とエリーとガウリスで行こうぜ」


「私は勇者御一行ではありませんよ」


私は行かないとばかりのガウリスの言葉に、私は口を尖らせて何を言っているのと返す。


「勇者御一行じゃないって言うけど今は一緒に旅しているんだから同じようなものじゃないの。それに船員だってガウリスに声かけにいってるんだから仲間だって思われている証拠だわ」


私が言うとアレンも続けて、


「そうそう。勇者御一行なんて勇者とその仲間って意味なんだし。それにサードがこんなに裏の顔見せてるうえにエリーと二人で船のチケット買わせに行ったのだって信用してるってこと…」


すると後ろから空を切る音が聞こえてきて、アレンの頭にゴインッと何かが当たった。


「いっで!」


アレンの頭に当たったのは、すりおろしリンゴの入っていた木の器。


「酷ぇなあ。頭にぶつけることねえじゃん」


後頭部をさすり悲し気な顔をしながらアレンが泣き言を言うと、具合が悪そうながらもサードは、


「いいからさっさと行って何があったか聞いてこい、深入りすんなよ」


と、いつも言っているような偉そうな口ぶりで指図をしてきて、私は渋るガウリスの背を押し外に出る。


「こちらへどうぞ」


すぐ外には勲章のついた軍服を着た人が立っていて、右方向へ手早く指し示し、さっさと歩き出した。

エリー

「ガウリス、あなたは聖人なの…!?」(感動)


ガウリス

「いいえ、まず神に会わなければ聖人認定されませんよ」


アレン

「けど神様に会ったんだろ?カームァービ山でさ」


ガウリス

「声は聞きましたが会っていません。それにあれは確かに神だと私は思いますが、姿は見ていないので本当に神だったとは断定はできません」


エリー&ガウリス

「(頭固い…)」

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