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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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長に色々聞いてみよう

イージンへの今までの報告、それとサードのしたかったヲコの死体確認の話も大体終わったのをみて、アレンは心なしかホッとしたような顔をする。


「あー、ドラゴンの討伐依頼がやっと終わった。俺なんもやってねぇけど」


リロイも話が終わったのなら、と私たちに向き直った。


「本当に勇者御一行のお前たちには世話になった。その礼として次の長になる我から心づもりを贈りたい」


「いいのよ、そんな」


むしろリロイが居たからこそヲコを追いつめられんだし、手負いを負ったヲコが大暴れする前に攻撃を加えることもできたんだもの。

もしあの場にリロイが居なかったら…ホテル内でヲコが大暴れしてレディアを含め大量の死傷者が出ていたかもしれないし、町にもものすごい被害がでていたかもしれない。


私は断ったけれどサードは私の肩に手を置いてゆっくりと首を横に動かす。


「いいえ、リロイからの心づもりなのです。遠慮せずいただきましょう」


こいつはいつも通り貰えるもんは貰っておけって言っているわ。


リロイもそんなサードの様子にフッと笑いながら腕を組んだ。


「残念だが物ではないぞ」


その言葉にサードは少し肩透かしを食らったみたいだけど、レディアたちもいる前で物を寄こせとごねるわけにもいかないのか黙ってリロイの言葉を待つ。


「お前ら勇者御一行のパーティが解散するまで我々ゲオルギオスドラゴンは人間たちに害を与えないと約束しよう。そしてその約束を破ったゲオルギオス種に関しては我がきっちりと責任を持って処理する。この条件も悪くないと思うが?」


「パーティ解散なんてするの?しねぇよ?」


アレンが驚いたように口を挟むとリロイは即座に返した。


「人間種は百歳を過ぎても冒険を続けられるのか?」


「あ、無理」


アレンは大人しく引っ込んだ。


でも確かにそれはいい条件かもしれない。

旅をする上で人間に一番害を与えて、戦うとなるとものすごく厄介なゲオルギオスドラゴンが暴れないならそれに越したことはないし、もし暴れたとしてもリロイがきっちり処理してくれるなた安心できる。

…あれ?リロイの言う処理ってもしかして殺すとかそんな意味の処理?でもさっきは種の存続のために殺す以外の方法でどうたらこうたら言っていたから事務処理みたいな…?まあともかくドラゴンの一種が暴れないのはすごくいいことだわ。


サードも私と同じようなことを考えていたのか、


「それはありがたいことです」


と頷いて、そんなサードの隣にイージンが並ぶ。


「ただし言っておくがなあ、勇者」


サードが視線を移すとイージンは指をサードの鼻先に突きつけた。


「今リロイが言った条件はお前が望んでドラゴンに攻撃を仕掛けなかった場合だけだ。仮にインラスのようにドラゴンを探し回って攻撃を仕掛けるようなことがあれば、リロイの代わりに私がお前らを殺しにいくぞ?」


柔和な顔だけれどその目はギラギラと輝いてサードを睨んでいる。サードは睨まれているというのに、呆れたような表情になってイージンに向き直った。


「言っておきますが、我々とてあなた方のようなドラゴンとわざわざ戦いたいと思いません。何よりドラゴンを相手にすると一番被害に遭うのが一般の方々なのですから。

私もインラスの聖剣を持つ身の上なので彼の偉業を色々と本で読みましたが、歴代最高の勇者としては杜撰(ずさん)な面も目立つように思えました」


杜撰の言葉にイージンはギラギラとした目をわずかに引っ込めて、ふん?と鼻を鳴らしながらサードの話を聞く構えを見せる。


「彼は二十五年の生涯を終えるまでに数えきれないほどの魔族を倒し魔王をも倒し、それに加え三十八体という数多くのドラゴンを倒しました。しかし彼は敵を倒すのを第一に捉えていて周囲にあまり気を配りきれなかったようですね。

インラス一行の戦闘に巻き込まれ死んだ人々、滅んだ国や町に村が目立つのは見過ごせません。それについてはインラスの過失だと思っています。彼の明らかな失態を書物から見つけてしまった以上、私は周囲への被害も最小限に抑えなければと決めているので」


凄く勇者らしい立派なことを言っているけれど、私は知っている。ヲコの討伐依頼を受けた直後にサードはこうぼやいていたもの。


『ドラゴンとの戦いで何が一番面倒くせえかって、一般の奴らの命と家を守らねえといけねえってことだよな。

奴らなんて倒してくれしか言わねえくせに、戦いに巻き込まれて家が壊されたらドラゴンじゃなくて俺たちに文句言いに来るだろ?手っ取り早く文句言える相手だからな。面倒くせえんだよそういう奴らが。何にもしねえしできねえくせに文句だけは立派なんだ』


ドラゴンに脅えて助けを求める人たちの前で同じこと言えんのこいつ、最低、とあの時は思ったけれど、イージンはそんなサードの考えは知らない。


「…インラスとは考えが違うようだな。ならいいんだ」


と納得の顔で身を引いた。するとサードはチラとガウリスに目を向けてからイージンに視線を移す。


「ところでもう一つ聞きたいことがあるのです」


「後ろのドラゴンのことか?」


そんなこと言われたらガウリスがドラゴンだってバレるじゃない。そう思ってレディアとボーチをチラと見たけれど、サードの後ろにはリロイもいるからレディアもボーチもガウリスのことを言っているとは思っていないみたい。


サードは少し口をつぐんで、レディアとボーチに視線を動かした。


「少々勇者一行としてイージンさんに聞きたいことがあります。この場を空けていただけますか?」


ボーチはなんで今更という顔をしたけれど、レディアは何か察した顔で、


「分かりましたわ。リロイ、ちょうどいい場所までの案内をお願いいたします」


というとボーチの手を引っ張り歩いていく。その背筋の通った後ろ姿を見たリロイは、


「…いい女だ…」


と言いながら二人の後を追っていった。三人が去って行ったのを見てからサードは説明を始める。


ガウリスは元々人間だったけれど、異世界の神によって龍という伝説上の生き物にされたこと。

それとたまにガウリスの意思とは関係なく勝手に龍の姿に変化してしまうこと、できればゲオルギオス種のように自由に龍の姿、人間の姿と変化できるようになりたいけれど、それができないこと。


「それでもガウリスが龍に変化したこともありました。そのうちの一つの原因は分かっているのです、このストールの下にある逆さになっている鱗を触ると激怒し我を忘れ龍の姿になり怒り狂うのです。それ以外で勝手に龍になったのは雷に打たれた時で」


そこまで話すとイージンはまるで壮大な物語を聞いたかのように大きく頷く。


「異世界の神に近いドラゴン…じゃなくて龍?そんなのいるんだ、まあ確かに神そのもののドラゴンが遠くの国にいるのは知っているが…まさかここ以外にも人やかみが住む異世界なんてものがあるとは…いやそれは本当の話なんだな?」


イージンもここ以外に人が住んでいる異世界があるって聞いてかなり驚いているのか、少し混乱しているみたい。まあサードからしてみればこっちが異世界なのよね。


イージンはしばらく考え込むように黙り込んでから続けた。


「私は婚姻もなしに人間からドラゴンになった話は初めて聞いた。まさか神の手で人の身が別のものに変化するとは…」


「向こうの世界ではよくある話ですよ」


サードが返すとイージンはこいつは妙に詳しいな?と不思議そうな顔で見返しつつ、


「だが勝手にドラゴン…じゃなくて龍だったな?その姿になる原因なら分かる」


「それはなんですか」


勝手に龍になるのは困ると今まで悩んでいたガウリスが身を乗り出して聞くと、イージンは微笑みながら答えた。


「簡単な話だよ。身の危険に晒されたからだ」


「…危険」


思ってもいなかった言葉にガウリスがオウム返しをするとイージンは続ける。


「人の身は柔らかいし弱いからなぁ。お前さんの体は鍛え上げられているがドラゴンの鱗の皮膚と比べてみろ、柔らかいだろう?」


「それは…そうですね」


「恐らく雷に打たれそうになった瞬間に龍の姿になって自分を守ったんだろ。ドラゴンも人間みたいな弱い姿に変化している時に身の危険に遭ったら条件反射で元の姿に戻っているのを何度か見たこともある。だからきっと同じだ」


イージンの言葉にふと思いだした。


それでもホテル内でヲコはリロイに首に噛みつかれそのまま炎を吐かれた時、ドラゴンの姿にならないでそのままもろに攻撃を受けて炎に飲まれていたけど…。何であの時ドラゴンにならなかったのかしら、明らかに身の危険に晒されていたはずなのに。


「けどヲコは明らかに身の危険に遭っていたのにとっさにドラゴンの姿に戻っていなかったわ」


するとアレンも思い出したのか、


「思えばアロメダ山にいた時もガウリスの攻撃モロに受けて空中に弾き飛ばされてたよな。それもドラゴンの姿に戻ろうとして俺に(じょう)を喉の奥に突っ込まれてたらドラゴンの姿じゃなくて人間の姿に戻ってたし」


それを聞いたイージンは「ええ…」とドン引きすると、腕を組んで渋い顔つきで視線を落とす。


「まさか赤銅色の鱗を持って生まれたくせにあいつそんなにどんくさかったのか…?ええー…」


イージンは頭をガシガシとかいてものすごく嫌そうな顔をして、


「血が濃くなったせいなのかなぁ…。分からないけどヲコのとっさの反射神経がものすごく鈍かったのは確かのようだ。どうやらヲコは性格も悪ければ実力もそうでもなかったようだな。

あんたらは我々ゲオルギオスドラゴンとはもう戦わないだろうがな、ヲコがゲオルギオスドラゴンの代表だと勘違いしないでくれよ、そんなどんくさいのが我々の代表だなんて思われたくない」


「…」


多分、黙り込んだ私たちは「ヲコって…弱かったんだ…」って少なからず思っていたと思う。するとアレンが沈黙を破って聞いた。


「だったらこれからもガウリスは勝手に龍になっちゃうってこと?」


「身が危険に晒されればな」


「じゃあ自分から龍に変化するやり方を教えることは?」


「龍なんて名前も初めて聞くのに、何をどう説明すればいいんだ?それも神の力でそんな生き物になったんだろう?私より神に直接聞いたほうが早いんじゃないか?」


その言葉に私は、


「その神様が言うには人間に戻すのはやったことがないから分からないらしいのよ。ガウリスの今の姿は人間界の大昔の魔術でどうにか人型に戻したって感じなの」


冗談で言ったのにまさか本当に神と会って会話したのを知ったイージンはまた驚いたように目を見張る。

ガウリスは腕を組みながら、


「その異世界で龍になるのは主に女性だったそうなのです、それでも人前に姿を現わす時は半分が人間で半分が龍という半身半獣のような姿で現れることもあるそうで…」


するとアレンは「あ」と言いながら、


「そういえばミレイダ言ってたよな?男と女の子じゃ何か違うとか、女の子はよく分からないものと繋がりやすいからあっち行ったり戻ってきたりコロコロ変わるとかなんとか。何言ってるのかはよく分かんなかったけど」


「女性は簡単に変身できても男には無理という話だったのかと私は思ったのですが…」


ガウリスがそう言うとサードが口を挟んだ。


「私の元々住んでいた場所の話ですが、海を挟んだ大国から渡ってきた思想でインヨウとうものがありました。陽の光とその影というもので陰陽です。陽の光があれば影ができる。そのように世の中のものを二つに分類し当てはめたのです。その思想では男性は陽で女性は陰と分けられました」


男は陽の光で女がその影って言葉にカチンと来た。何かそれは納得できない。


不服に思っているとサードは私の視線に気づいたのか、かすかに笑いながら続ける。


「別に男性が明るい所にいて女性は暗い所にいろなどという意味ではありません、あくまでも分類上のことですよ。女性がいなかったら男性も生まれない。それに空だけがあって地が無ければ生き物も暮らせない。そのように男女、天地のようにどちらも()ってこそ成り立つのが陰陽です」


ふーん…。まあそういうのなら別にいいけど。


とりあえず私も納得したのをみたサードは続けた。


「その陰陽の分類で女性は陰、幽霊やモンスターの類も陰、龍の元となったであろう蛇は信仰の対象ではありましたが水と深く関わる存在でしたので分類的には陰でしょう。

ですから同じ陰のカテゴリにいる女性はミレイダさんの言うように人間ではない別のモノと繋がりやすいとミレイダさんは本能的に嗅ぎ取っていたのでは?女性好きなお方でしたからね」


なるほど、とガウリスは頷いて、


「ということはその考えに則ると男の私は龍に変化できないということでしょうか」


「さあて、それについては私も分かりませんね。それでも龍は神に近い聖なる存在として考えられているのですから普通に変化できそうなものですが…」


「…神か…」


呟くイージンに皆の視線が集まる。


「神として存在するドラゴンならいるから行ってみてもいいんじゃないか?南東に。古い古い存在でな、私のお婆ちゃんのお爺ちゃんがそのドラゴンと一回会ったことがあると自慢していたと子供のころに聞いたことがある」


また聞きのまた聞きじゃねえか…ってサードの顔が言っている。アレンも少し笑いながら、


「いやでもさぁ、イージンって人間に例えたらリロイのお爺ちゃんくらいの年齢なんだろ?そんなお爺ちゃんのお婆ちゃんのお爺ちゃんがって言われても、どれくらい昔の話なのさ?」


「人の年月は分からんなぁ。ただし億年は超えるくらいの大昔だろうなぁ」


イージンも笑いながらそう言うと、


「そっちに行って変化の仕方を聞いたら教えてくれるんじゃないの?会えるかも分からんがな。それよりガウリスだっけ?話を聞く限りお前は人間の姿に戻りたいから古い魔術を使って人間の姿に戻ったらしいじゃないか?それでも龍の姿には変化したいのか?」


ガウリスは少し首を横に振った。


「私はどちらかといえばどうして龍になってしまうのかを知って安心したかったのです。その原因もイージンさんから教えていただきましたので私の憂いいはなくなりました。ありがとうございます、あなたに神の祝福を」


ガウリスが感謝の言葉を述べるとイージンはニッコリ微笑む。


「いやぁ…。こうしてお礼を言われることなんて今まで全然なかったから何か嬉しいなぁ」


そこでアレンが「ん?」と何か思いついた顔をしてイージンを見る。


「ドラゴンが神として信仰されてる場所があるなら、ここら辺のドラゴンも頑張れば信仰されんじゃね?人の中でもドラゴン好きな人いるし…」


イージンはアッハハハと笑った。


「一時期世界の半分を不毛の土地にして地上の生き物も八割方殺したゲオルギオスドラゴンが神の真似?そんなことしたら余計に神から制裁を受けるじゃないか。無理無理!」


「…」


リロイたちには申し訳ないのかもしれないけれど、次にゲオルギオス同士で喧嘩したら絶滅させるって神様が釘を刺して脅してくれて良かったって、心から思った。じゃなかったら今頃この世界はどうなっていたことか…。

祖父の祖母の祖父の続柄を何というと思いますか?答えは…。


_人人人人人人_

> 6世の祖 <

 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄


曾祖父とか玄孫(孫の孫)みたいなカッコイイ名があるはずと期待して調べたら、単に6代前の先祖っていうまんまの意味でがっかりしました。


あと子供のころドラゴンについて書かれた児童書を図書館から借りたんですが、炎を吐くドラゴンの鼻穴から炎が飛び出してるイラストがあって、まるで俺の鼻毛が火を吹くぜ!状態で大爆笑した記憶があります。

でも鼻と口は繋がってるから炎を吐いたら鼻からも飛び出るのはあり得るのかもしれない。だとしたらドラゴンの鼻穴は炎でも焼けない丈夫な皮膚と粘膜で守られてる。

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