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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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事件勃発

次の日の朝、ガウリスは早速サードに一週間このホテルに留まることの了承を得に行った。もちろんボーチのことはアレンも私も気になっていたのだから、ガウリスだけ怒られるのは違うでしょと三人で。


ガウリスが相談もなしに一週間ここに留まると決めたことに対してサードはすぐさま、


「あ"あ"!?」


と喧嘩腰になったわ。


「あのガキについての話は終わっただろうが!てめえざけんじゃねえぞ、俺の了承も得ずに勝手なことしやがって!」


…。そんな風に怒りに任せて怒鳴り散らすかと思ったけれど、最初に「あ"あ"!?」と言った後怒りの形相で口を開きかけて…でも何も言わずゆるゆると口を閉じて渋い表情をしながらガウリスを睨むだけ。


「…怒らないの?」


聞いてみるとサードは怒りよりも諦めに近い顔になっていて、重々しくため息をつく。


「ガウリスがこんな顔したらもう他の意見なんて聞かねえだろ、やるって決めたら誰になんて言われようが突き進む男だぜ?…まあ一週間で助かった、これがボーチとレディアを引き離すまでここに留まるだなんて言い出したら目も当てられねえ。…まず一週間だからな…一週間…」


もう諦めたとばかりに、それでも文句ありげにブツブツ言うのを見たガウリスはサードだけじゃなくて私とアレンにも頭を下げる。


「勝手なことをして申し訳ありません、ですがやはり自分が納得できる行動をしたいのです」


サードはチラとガウリスを見ながらフン、と鼻を鳴らして嫌味みたいに言う。


「俺よりお前のほうがよっぽど勇者に向いてるぜ」


するとガウリスは顔を上げて首を横に振った。


「いいえ、私はサードさんが最も勇者らしいと思います」


「あ?どこが」


何で褒められているのにイラッとして喧嘩腰になってんのこいつ。そう思っているとガウリスは微笑んで、


「人と同じ目線に立って明るい方向に導けるところ、一度始めたことは最後まで責任を持つところ、愛情深く優しいところ、…あ、何をなさいます」


ガウリスはサードに蹴られた。


そうしてあまりサードも怒らないまま一週間同じホテルに留まることと決まった。

だとすればこの町を少し散策してきてもいいかしらと近くにあった商業施設に赴いてウィンドウショッピングをして楽しみ、外が暗くなり始めたころにホテルに戻る。


こんなにゆっくりと時間も関係なく一つの施設にいられるなんて滅多にないことだわ。


そう思いながらホテルに足を入れると、


「エリー」


と声をかけられた。見るとロビーの待合のソファーにリロイが座っていて、私の姿を見つけたら立ち上がって近づいてくる。


「リロイ?どうかした?」


リロイがロビーにいるなんて珍しいと思いつつ私も近寄ると、ある方向に向かって指をさす。


「ここのホテルの支配人が勇者御一行に用があるそうだ、勇者たちがロビーに居ると皆騒ぐから俺がここでエリーを待ってた」


っていうことは、他の皆は揃っているってことね。


「一体何の用なの?」


「分からん。ただエリーが帰ってきたらこっちの部屋に連れてこいとだけ言われている」


そう言いながらスタッフオンリーと書かれたドアを抜けて少し廊下を歩き、支配人室のドアを開ける。中には私以外の皆、それと…多分ホテルの支配人の年配の男性に、レディア、そしてボーチが揃っていた。


「…何かあったの?」


レディアとボーチまで揃っているのに驚きつつも、空いてる席に私とリロイも着く。

それと同時にレディアが身を乗り出した。


「ええ。事件ですわ」


「事件」


オウム返しをするとレディアは頷きながら続ける。


「エリーさんが来る前に他の皆さんには説明しましたので、手短に申し上げますわね」


そこでレディアの話が始まったけれど…それを聞いて私の顔はどんどんしかめっ面になっていく。


まず事件の始まりはこう。

レディアとボーチが現在宿泊しているここから百メートル先のホテルで人が殺された。


ホテル側に残された通行手形の情報によると被害者は一人旅の女性の旅行者、出身国は隣の国の人。

ホテル側はひとまず公安局に報告し、兵士たちが確認にきたんだけど…その遺体が明らかに妙だったみたい。


「足の一本しか残ってなかった…?」


思わず顔をしかめて聞き返すけど、レディアは淡々と話を続ける。


「そうなんですの。隣の部屋から女性の叫び声が聞こえたとフロントに走り込んできたお客様がいらっしゃったので、ホテルマンが合鍵を使って中に入ろうとしました。しかし鍵は開いたまま、そしてベッドの上に足が一本だけ転がっていたらしいんですの。他の体の部分は捜索中ですわ」


想像するだけでゾワッとする話。そんな事件がここから少し離れた場所で起きたんだから余計に…。


今の所公安局からはまだハッキリとした言葉は出ていないけど、どう見ても並の人間のやった仕業じゃないのは明らかだって。

皮膚の断面は何かしらの鋭利な刃物で切断された跡があるから、魔法で体を消されたわけじゃない、それと足以外の部分はどこに行ってしまったのか現時点では分からない…。


とりあえず話はそこで止まったたけれど、話を聞いていて思ったことを質問する。


「でもそれって公安局の管轄よね?どうして私たちに話を?」


殺人とかの事件関係は公安局がやる仕事。でも私たちはモンスターを倒すのが仕事の冒険者。まさか殺人事件の調査で冒険者に依頼なんてことないでしょうし…。


するとレディアは呆れたように肩を軽くすくめて、


「勇者様もそうでしたけど、あなたも自分の管轄じゃないからと私たち民衆の助けを求める手を振り払うおつもり?」


「別に…そんなことは言っていないじゃないの…」


そりゃモンスター退治と殺人事件じゃ管轄が違うとは思っているけれど、最初から無視もしないで話をちゃんと聞いているのにそんな言い方しなくたっていいじゃない。


…やっぱこのレディアって人、性格悪い…?


ムッとして少し怒ったのを見たレディアは、クス、と人を馬鹿にするような嘲笑を浮かべる。


「ごめんあそばせ、勇者御一行のエリー様を怒らせてしまいましたかしら?」


…なーんか、馬鹿にされてる気がする…!


怒りがたまってきて口を開きかけると、アレンがどうどう、と私の肩を軽く抑えつつレディアに視線を向ける。


「けどさっきサードも言ったしエリーも今言ったけどさ、俺ら殺人事件の解決なんてしないのは本当のことなんだぜ?なのに何で俺らにその話伝えにきたの?」


アレンの言葉でレディアは人を馬鹿にするような顔を引っ込めて、


「遺体を見る限り人間業じゃない、もしかしたらモンスターか何かの仕業ではないのかしらと公安局の者は言っておりました。

町中にモンスターが現れることはほぼありませんけど、その可能性がゼロではないでしょう?モンスターだとしたら勇者御一行様のほうが詳しいと思いましてお話を伺いに来た次第ですわ」


サードはなるほど、ととりあえず頷いている。どうやらここまでで私とリロイが来るまでにされていた話に追いついたみたい。


サードは「しかし」と口を開いた。


「我々もそこまでモンスターに詳しくないのでお力になれるか分かりません、モンスターは依頼があったら倒す程度で、モンスター辞典で調べるのもよほど面倒事に巻き込まれた時くらいのものですから」


「それなら今が面倒事の時ですわね」


ホホホ、とレディアは手の甲で口を軽く抑えておかしそうに笑っているけど、それが人に物を頼む態度…?


ああ、やっぱりレディアとは気が合わない。いちいち人を怒らせようなことしか言わないんだもの。できれば関わりたくない人の部類だわ…。

それでも私たち勇者一行にすがってきた人を性格が合わないからなんて理由で追い払うわけにもいかないし、モンスターのせいで人が殺されたかもしれないんだし、それはそれと割り切らないと…。


とりあえず大きいバッグからモンスター辞典を取り出して隣に居るアレンに視線を向ける。


「とりあえず足…以外がなくなってたって、やっぱり食べられたのかしら」


するとアレンじゃなくてレディアが答える。


「食べられたにしては出血跡や体の破片が少ないと公安局の者は申しておりましたわ。むさぼり食べたならもっと出血量も多いだろうし、肉片も辺りに散らばっているものだろうと」


うわぁ…想像したくない。ああもう、ウチサザイ国で見続けたグロテスクな光景を思い出しちゃう、最近ようやく記憶がぼやけて忘れかけてきていたのに…。


「だとしたら一口で食べられたのでしょうか、足の一本を残して」


顔をしかめて口をつぐんだ私の代わりにサードが聞くと、レディアは軽く首を傾げる。


「ちなみに被害者女性ですけれど。残された足から察するに身長百七十を超える高身長らしいんですの。

そんな高身長の人を一口で食べるような巨大な口を持つモンスターはあの部屋には入れないと思いますわ、あの部屋はランクの低いシングル部屋でベッドに向かうまでの通路は二人並んで歩けないくらい狭いんですのよ」


サードは軽く口をつぐんでレディアに視線を向ける。


「念のためどのような部屋か詳しくお聞かせ願えますか?入口から奥までのおおよその幅、そして間取りを。そこから少しずつモンスターを特定していきたいので」


するとレディアはボーチの持っているトートバッグから紙を取り出して目の前に広げ、ニッコリと妖艶に微笑みながらサードにツ、と近づけた。


「そう言われるかと思いまして最初から用意しております」


サードはそんなレディアをジッと見つめてから軽くニッコリ微笑む。


「素晴らしい、さすがこの国の全てのホテルを束ねた方です」


…これは…レディアがサードの好みの範囲内に入ったわ。サードは頭の回転が速くて機転の利く女の人は好きだもの。まあその主たる人はロッテなんだけど。


全員がその紙を覗き込んで、アレンが真っ先に口を開く。


「本当に小さい部屋だな。バスルームはトイレとシャワーだけでバスタブはなし、ベッドも百七十センチの人が寝たら結構ギリギリの大きさだし…鏡台とベッドでほとんど部屋が埋まっちゃう感じで立って歩く場所は少ないと…」


「お金を節約したい方向けの部屋ですわね」


レディアが軽くアレンの言葉に返し、ガウリスがふと気づいたように窓部分を指さす。


「窓は?窓からモンスターが侵入したなどは…」


レディアが首を横に振る。


「窓から落下されたり外から不審者に侵入されると迷惑ですから、窓はあまり開かない設計になってますの。大きく開いて約十センチからニ十センチくらいかしら」


私は皆の言い分を聞いてからモンスター辞典をめくろうとスタンバイしているけれど、それでも要領を得ない情報ばかりで辞典を引くに引けない。


サードはまだじっくり間取りを見ていて、


「ベッドの上に足が残っていたのなら随分と部屋の奥まで侵入されていますね…。女性自らが加害者を部屋に連れ込んだ線はありませんか?」


「フロントの者によればこの女性による連れ込みのお客様はいなかったようだとは言っておりますわ。それでもお客様全ての行動を覚えているわけではありませんから完全にあり得ないとは言えませんわね」


「ちなみに隣の部屋の方は女性の叫び声を聞いたとのでしょう?その叫び声はどのようなものだったか言っていませんでしたか?単なる叫び声?それとも何か言葉を発していた?」


レディアは口をつぐみ、今までいろんな人から聞いた話を思い出しているような顔付きになる。


「…隣の部屋の鍵を開けて人が入ったような音が聞こえ、その直後に驚いたような短くて鋭い叫び声が聞こえて、その後ふっつり静かになったと聞きましたわ」


「何者かがドアから出たような音は」


レディアは眉間にしわを寄せ口をつぐむ。


「そこまでは聞いておりませんわ。その隣の部屋の方は公安局の者に色々質問されている時もまだパニックの興奮状態でしたので、そんな冷静に細かい所まで覚えてらっしゃるかしら」


サードは頷く。


「とりあえず大体は分かりました。しかしこれ以上はここで話し合っているだけでは分かりませんね、現場を見せていただいても大丈夫ですか?本日はこちらからそちらのホテルに移動して腰を据えて臨みたいのですが」


「大体は公安局の者が調べつくした後だと思いますけど…見たいのでしたらどうぞ、まだ調べている最中ですから清掃業者は入っておりません。色々とそのままですわ」


…つまり、人が殺されたそのままの現場ってこと…。


できればそんな事件が起きた部屋に入りたくないし現場も見たくない。いくらウチサザイ国で何度もそんなのを見ていても慣れないものは慣れない。

でも…こうなったら行かないといけないんだわ、それがもしモンスターの仕業だったら私たちの力が必要になるんだから。

一瞬でそこにいた人がいなくなってたとか恐怖じゃないですか?


「天のかみさま(かね)んつなください」

という私のトラウマ絵本で、お母さんが出かけて三人の男の子たちが留守番して夜になった際、ドォッと明かり(囲炉裏端の火)を消し真っ暗闇にして母親のふりをした山姥が入って来たんです。

そんで飯もなしに寝ろ寝ろとだけ言われてとりあえず全員布団に収まり、でも末っ子はいつまでも「お腹空いた」とめそめそしていたら、「うるせえガキだ」的な悪態とともに末っ子の声がふっつりしなくなったという描写があってものすごく怖かったです。

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