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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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まともなのか、違うのか

「やっぱりボーチを放っておけないの」


昨晩ボーチのことを延々と考え続けていたら全然寝付けなくて、軽く眠りに落ちかけてはふっと起きるのを繰り返しているうちに外が明るくなってしまって、ほとんど寝ていない。

起きぬけで見た私の顔は寝不足のせいで目の下にはクマができてしまった。


そんな顔のまま皆にボーチをどうにかしたいと伝えると、サードは呆れたような顔で、


「お前、ろくに関わってもいねえ他人のためによく寝不足になれるな」


と毒を吐いてくる。


何を、と睨みつけるとアレンが、


「そこがエリーの良い所なんじゃん」


とギュッと抱きしめてくれるから渋い顔のまま黙っていると、ガウリスも頷きながらサードに向き直った。


「このままではエリーさんも私たちもボーチさんが気になってヲコの討伐に身が入りません、ボーチさんをどうにかしたいです」


サードは面倒くせえ…という顔で軽く頭をかいて面倒臭そうなため息をつくと、唸るように口を開く。


「このままエリーの寝不足が続いたら髪の質が落ちちまうからしょうがねえか…。まあボーチのことだがな、裁判もなしで助けることもできなくもないぞ」


「本当?」


顔をあげるとサードは心の底から面倒臭そうに説明を始める。


「まずレディアは重要な書類にハンコを持っている。何の書類とハンコか分からねえが、簡単に考えりゃ何かしら契約を交わす仕事をしてるってことだ。それにあの服装を見る限りかなり儲けてるのは間違いない。どうやら移動も馬車で楽に移動してるみてえだからトップかそれに近い立場なのは間違いねえ」


うんうん頷いて話の続きを待つ。


「想像してみろ、もし自分があのレディアと契約を交わす相手だとして、ヒステリー気味に自分の奴隷に当たり散らす姿を見たら?契約を交わしたいか?」


「俺は…遠慮したいな…」


アレンはそう言う。もちろん私だって答えはノーよ、あんな風に子供に辛く当たる人なんて信用できない。それにボーチだけじゃなくて私たちに対してもすごく嫌味ったらしいし腹立つ言い方するし…。


私たちの反応を見てからサードは話を続けた。


「だろ?そんな奴と仕事したくないだろ?」


うんうん頷くと、


「だったらレディアのあの喚く姿を公衆の面前で(さら)して信用を落とす。もしくはレディアが奴隷に辛く当たってる事実を吹聴してレディアの悪評を立てて仕事を次々と潰す」


「…え?」


「そうなったら自分の立場と仕事を守るために騒ぎの原因になったボーチも要らねえって捨てるだろ。俺がそんな状態になったらあんな使えねえ、それも仕事の邪魔になるガキは真っ先に切る」


「…」


思わず絶句したけれど、「ちょっと待ってよ…」と首を横に振る。


「レディアが何の仕事してるか分からないけど、悪口を言いふらして評判落として仕事を潰すとかどうなの?」


「手っ取り早いだろ」


この男…。


額に手を当ててため息をつくと、サードはイラッとした顔をして文句を言ってくる。


「てめえがボーチをどうにかしてえって言うからレディアのことは無視してボーチ優先で考えたんだろうが、俺はどっちがどうなろうがどうだっていいんだよ」


「けど引き離された後ボーチはどうなるの?奴隷商には戻れないんだから」


「孤児院に入れりゃいいだろ、調べて待遇の良い孤児院につっこんどけ」


この男…。


呆れた目で見ると、サードはかすかにムッとした顔をする。


「俺だってフェニー教会孤児院につっこまれたがあそこの待遇は良かったんだぜ?孤児院に入れるのは悪い考えじゃねえだろ」


「別に孤児院が悪いとか言ってるんじゃないのよ。ただサードの言い方が悪すぎるのよ。もっと言い方どうにかならないわけ?」


言い返すとサードはイラッとした顔で、


「知るか」


とそっぽ向いた。でもここで「知るか」と話を終わらせられても困る。だから私も不愉快な態度を改めて、


「で、でもそれならレディアと契約を交わすかもしれない重要な相手を見つけて、これ以上ボーチをいじめたらその重要な相手との取引をやめさせるわよってレディアに忠告して、ボーチに優しくさせるってこともできるわよね?」


レディアのことは好きじゃないけれど、それでもやっぱり悪口を言って評判を落とすのはどうかと思うから、あまりレディアに被害が行かないよう、それでもサードの考えに則ったことを言ってみる。

それでもサードは首を横に振った。


「そんな生半可なもんじゃダメだ。生ぬるいやり方で外部がちょっかいかけると余計に暴力が酷くなるか陰湿なやり方に変わる…」


サードはそこまで言うと妙な顔をして「ん?」と口をつぐんだ。


「陰湿…。陰湿…?」


サードはその言葉を繰り返してから黙り込んでしまう。

その様子を見る限り、サードは何か考えがついているような感じだけど…。


「何?何か考えでもついた?」


後ろをウロチョロしながら聞くアレンにサードは鬱陶そうに眉間にしわを寄せて、


「本当に暴力ふるってる奴が、俺らも見てる前であんなに堂々とガキを怒鳴り散らして脅すようなことするか?」


そう言われて皆がフッと黙り込む。


そう言われてみれば妙な話。サードだって人の目があって勇者の顔をしている時にはアレンにも私にも暴力を振るわないし暴言も吐かない。裏の暴力的で毒を吐く顔も性格も見ず知らずの人には決して見せようとしないで隠し通してる。


それにレディアが暴力を振るっているとして、私たちが見ている前でわざわざ「私はこんなにも子供をいじめてますよ、虐待している可能性がありますよ」って思われるようなことをする?普通に考えたら人前であんなことはしないはず。


「それがサードさんが昨日言っていた妙な違和感ですか」


ガウリスが聞くとサードはまだ妙な顔をして、


「いや…他にも気になる所はあるが…」


サードはそこで黙り込む。まだ気になる所はあるけれどハッキリしないから口にしないって感じね。

それでもサードは急に考えを放置したようなスン…という顔になると、投げやりに言い放つ。


「放っといてもいいんじゃねえの、あの二人」


「え、でも…」


結局見捨てるわけ?


そう言いたい気持ちを押さえて見ていると、サードは口をつぐんで私から視線をずらしていく。何かを見る目つきに私も首を動かすと、アレンとガウリスも私と同じような視線をサードに送っている。リロイは…一人窓の外を見てボーっとしている。


サードは面倒くさそうな顔になった。


「…お前ら、ボーチがどうにかなるまでその面倒臭え目やめねえだろ」


サードはため息をついて腰に手を当てる。


「だったらレディアについて調べてみろよ、それで人間性が最悪かどうか分かることだろ」


* * *


サードからゴーサインをもらった私たちは早速朝からレディアについて調べあげた。


そして調べてみて一番に分かったことは、レディアに悪評を立てて信用を落とさせるのはまず無理という結果。


何故ならレディアは…。


「この国のスペラービト商会の社長だったなんてね…」


スペラービト商会…この国の宿泊業の全てを一手に束ねている商会。

彼女、レディア・グローナは観光客が大量に来るこのデキャージャ国の宿泊施設をたった数十年で実質手中に収めている女性だった。


レディアの生い立ちを調べてきたアレンによると、レディアの名が広まったのは成人の頃合いにこの国の某高級ホテルで働きだしてから。とはいえ現高級ホテルの宿泊施設は、当時あと数ヶ月もすれば潰れそうなくらいのものすごい経営難でランクの低いホテルだったんだって。


そんな中レディアの独断でお客さんが多く入るサービスを実施すると、国がレディアの実力に目をつけ、そのバックについた。


そこからがレディアの快進撃の始まり。


もう少しで潰れるはずだったホテルを立て直し、国からの協力も得た。そんなレディアに他の廃業寸前の宿泊施設の人たちも相談を持ち掛け始めたんだって。


レディアも快く協力して、現場を見て改善した方がいい所などを上げ連ねる、そして指摘された所を直すとどの宿泊施設も以前よりグッと人が増え自然とランクが上がる。

逆にこんな小娘の言うことなんて聞けるか、そんな考えは現実的じゃないってレディアの助言を突っぱねた宿泊施設はあっという間に潰れていく。


そんなことが重なると皆はもっとレディアに相談を持ち掛ける。そこで相談を受け助言を与えるのはお金になると踏んだのか、レディアは宿泊施設を退職後に国の援助も受けスペラービト商会を創立。レディアはここから飛躍的にぐんぐんとのし上がった。


儲けが少ないのなら他のホテルとホテルを併合させてしまえばいいじゃない、潰れそうならもっと上の所に買い取ってもらって援助してもらえばいいじゃない。もっと細かい宿泊プランを考えればいいじゃない、ここは国から補助金を仰いだらいいじゃない。


レディアの提案は面白いように実を結んで、この国のホテル業界は大いに盛り上がった。

そして様々なホテルを歩き渡って、全ての宿泊施設がまとまりお互いに助け合えばこの国で潰れるホテルなど無くなると全ての宿泊施設を一挙にまとめあげてしまった。


そして現在、レディアの手腕を認め信頼しているこの国が、宿泊業だけじゃなくて観光についてもレディアに相談をしているんだって。


聞いた限りレディアはかなり敏腕な経営者で、国からの信頼も厚ければ宿泊業者からの信頼も厚く、今は観光業界からの信頼も厚くなりつつある人みたい。もはやこのデキャージャ国の経済の支配者と言ってもいいくらいに。


レディアの生い立ちを大体話したアレンは、最後に付け足たした。


「それに今も毎日抜き打ちチェック的に何も言わないで国の至るホテルに飛び込みでやってきて、わざわざランクの低い部屋に泊まってしっかりサービスが行き届いてるかチェックしてるみたいだぜ」


サードは大体話は終わったかという顔で私たちを見渡す。


「で、てめえら丸一日かけて調べてどうだった?レディアの人間性は最悪だったか?」


「うーん…そうは、思えない…」


私がレディアについて聞いた限りでもレディアは本当にすごい人と褒め称えられるばかりで、けなす人は誰もいなかったもの。

それどころか「レディアさんのおかげで代々赤字経営でどこからも見捨てられていたうちの宿にもお客さんが連日入るようになった」と涙ぐみながら語る人さえいた。


でもそうだとおかしいじゃない。


「こんなに人から信頼されて助け続けている人が、何でいつも近くに居るボーチには辛く当たるしお世話もしてないのかしら…」


「表では称賛されてても裏では何をしてるか分からねえ奴もいるからな」


サードはそんなこと言っているけれど、それはあなたも同じだからねと呆れた目を向ける。

アレンは自分が聞いた話を思い返しているのか、


「でもこうなりゃレディアすげーまともな人って感じしねぇ?あの怖い性格も経営者としてなら『あー分かるー』って感じだし。けどまぁやっぱ昨日のボーチへの態度見たら怖ぇーとは思うけどさ、他の人どう思ってんだろうなぁ」


「この国の経済を牛耳ってるレディアに向かって奴隷が可哀想、虐待してんじゃねえかなんて口出して睨まれたら後が大変じゃねえか、何か思ってても口に出す奴はいねえだろ」


アレンの言葉にサードが返す。それでもサードの言葉に私の中でふと疑問が沸いた。


「国の経済を牛耳ってるっていうなら、レディアはたくさんお金を持っているってことよね?」


「そうでしょうね」


ガウリスの簡単な肯定に私は首をかしげながら続けた。


「それだけのお金があるならもっと自分の経営のサポートとかお世話に向いている有能な人を雇うことだってできるはずじゃない?執事とかメイドとか秘書みたいな教育を受けている一流の人。なのに何でわざわざ幼いボーチを手元に置いて自分の世話をさせているのかしら」


「そう言われれば…そうですね」


ガウリスも不思議に思ったみたいで静かに考え込んで口を閉じる。


サードじゃないけど何かが妙だわ。でも何が妙なのかと言われると…よく分からない。

宿泊場を一つにまとめたってのは、以前テレビ番組で見たのからアイディアもらいました。


たしか九州のどこかの地域の温泉場だったか宿泊場を一つにまとめて助け合って経営していこうぜ、みたいなドキュメントだったんですが、途中から見たから詳細は忘れました。九州だったかもうろ覚えです。でもそれぞれの経営場を一つにまとめあげるとかすげーなぁ、と思いました。

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