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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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海と勇者とそれから私

「わあ!エリー可愛い、可愛い!」


アレンが満面の笑みで迎え入れるから少し気恥ずかしくなって、うつむいた。


海を泳ぐにあたってまずは皆で水着を買いに行った。


アレン達と別れ女物の水着ショップの中で水着をチラチラと見てみると、アレンの言っていたようなキャミソールやワンピース風のものはたくさんあった。


それでもやっぱり肌がかなり出るのよねえ、と不満に思った私は水着ショップの店員さんに、


「肩からふくらはぎまで全部隠れる水着が欲しいのだけれど」


と声をかけたら満面の笑顔で、


「レインコートをお求めですか?来た店が違いましたなぁ」


とあしらわれそうになって、慌てて露出が一番少ない、ビーチで遊ぶ用の水着が欲しいと訴えて見繕ってもらい、それを買った。


上は胸の周りでヒラヒラと揺れるレースのキャミソール風、下はスカートの白い水着。

お腹もしっかりと隠れるし、太ももの見られると恥ずかしい部分もスカート部分でしっかりと隠れているからそこは一安心。


ついでに浮き輪も水着に合わせて白いものを買って、一応サードにも気を使って髪の毛は高く結って団子状にまとめて海の水に浸からないようにした。


…でも自分で髪の毛を結うことなんてないから何度やり直してもボサボサになっちゃったけど。


「いつもと雰囲気が違ってていいですね。愛らしいです」


ガウリスにも褒められてちょっと恥ずかしい気持ちで顔を上げると、水着姿のアレンと、服を着たままのガウリスがいる。


「あれ?ガウリス、水着は?」


「いや、私は…」


「水着買うから一緒に泳ごうって言ったのにさ、いいって言って聞かねえの」


アレンがズイッと前に出て親指をガウリスに向け口を尖らせながら言うと、ガウリスは、


「私は見ているだけで十分ですよ」


と手を振った。


「まさか泳げないとか?」


ふふ、とからかうように言うと、ガウリスは曖昧(あいまい)な表情で微笑んだまま何も言わない。


この反応…まさか、本当に泳げないの?


アレンはハッとした顔でガウリスを見た。


「だからサードがエリーの髪が痛むって言った時に浮き輪っていう候補が真っ先にでたのか!だからいくら海パン買おうぜって言っても要らないって言ったのか!?そうなのか、ガウリス!」


ガウリスは苦笑いの表情で頭をかく。


「ええまあ…。昔、魚を採るため海で泳いでいたら沖合に流されてサメに襲われまして…。海は嫌いではないのですが、泳ぐとなると少し足が(ひる)むといいますか…」


「よくそれで無事に戻って来られたわね…」


本の中でしか見たことが無いけど、サメはとっても危険な生き物で軽く人の体を食いちぎるのは知っている。


「ええ、手に持っていた(もり)でなんとか応戦していたら、そのサメを追っていた漁船に助けられました。これも神の助けがあったからでしょう」


ガウリスは微笑むと私たちを見た。


「さあ、早く遊ばないと時間が過ぎてしまいますよ」


アレンと私はハッとした顔で砂浜を走って、海へ飛び込んでいく。


それから私たちは色んなことをして海で遊んだ。


海で泳ぎ、浮き輪にはまって波に流されて、浜辺で砂を盛り上げ、逆に掘って水がしみ出してくるのを楽しみ、砂浜を横断するカニを追いかけて、ガウリスと一緒に横になったアレンの体を砂に埋めて…。


そうしてアレンの体を完全に埋めたころには日は随分と傾いてきて、オレンジ色に染まり沈んでいく太陽を眺めながら埋まっているアレンの側面をペンペンと叩いて…軽く私はため息をついた。


「どうかしましたか?」


ため息を聞いたガウリスが声をかけてくる。私は顔を上げて、少し躊躇(ちゅうちょ)してから口を開いた。


「腹が立ったからって、サードを一人置いてきて悪かったかしらって思ったの」


初めての海はとても楽しかった。

それでも太陽が傾いてきてなんともノスタルジックな雰囲気に包まれてくると、私たちがこうやって楽しんでいるこの瞬間もサードは一人だと思ったら…段々と罪悪感が湧いてきた。


「つってもなぁ。誘って素直に行くって言うサードでもねえしなぁ」


「うん…」


それはそうだと分かっているけど、いくら嫌いな相手でもすごく悪いことをしたような気分でいっぱいなのよね…。


罪悪感を感じながら砂をかき集めて、私はアレンのおへそ辺りにサラサラと砂を盛り上げる。


「デベソ」


アレンは私を慰めるように見上げてきた。


「大丈夫だよ、多分サードもここについて来てもあの表向きの表情でニコニコ笑って座ってるだけだったって。あんまりサードは海好きじゃないみたいだし」


「うん…」


そうだと思うけど、と力なく頷きつつ、さっき見つけた大きい貝殻を二枚、アレンの胸の上にチョンチョンと乗せる。


「下着ぃー」


クスクス笑いながら貝殻の位置を調整する。


「…エリー、実はそこまで深刻に考えてないだろ」


少し呆れ顔のアレンにそう言われて、そういうわけじゃ、と首を横に振りながら、


「悪いなぁとは思ってるわ。でもいくら考えても『俺はいかねえ、てめえらだけで勝手に行け』って睨んでくる姿しか想像できないんだもの」


「確かになぁ…誘い過ぎたら逆にしつけぇって怒りそうだしなぁ」


微妙にサードの真似をしながら言うとアレンも同意の頷きをする。


そうなのよ、そもそもサードが海で遊んでいる姿が全く想像できないのよ。

海で泳ぐ姿も、砂遊びしている姿も、すぐそこの屋台から食べ物を買って食べる姿も全く想像できないのよ。

むしろサードに海が全体的に似合わない。


ここまで海が似合わない人も珍しいものだわ。海辺出身だっていうのに。


「ま、そろそろ帰ろうか。体もそこのシャワー室で洗ってからじゃないと宿には戻れないし」


「…そうね」


正直もっと遊んでいたい気もするけど、太陽も半分まで沈んできているからもうタイムアップなのかも。

見るとそのシャワー室の前にも人がたくさん並んでいて順番待ちをしているし、そろそろ切り上げないともっと帰りが遅くなってしまいそうだわ。


「エリー、楽しめたか?」


アレンはドシャーッと砂をまき散らしながら起き上がって、体についた砂を手で払う。


「うん、楽しかった!」


海はしょっぱいと聞いていたけど、普段料理に使ってる塩より生臭いしょっぱさだったこと、大きい波が来ると一気に頭から波に飲み込まれてしまうこと、砂を掘ったら海水がしみだしてくること、砂浜が思った以上に熱かったこと…。


楽しかったことを数え上げたらきりがないわ。


「俺も久しぶりに海で遊んだよ。あー、楽しかった」


アレンは手を伸ばしてグッと背伸びをしてからシャワー室に向かうと、ふっと遠くを見て、


「ん?あれって…」


と独り言のように呟く。


アレンの視線の先に目を向けると、浜辺の上の道をよく見知った男が歩いている。


サードだわ。


サードは豊満な体をしている小麦色の肌の女性の腰に手を回して、睦まじい様子で話し合いながら歩いて行く。


「…」


「…」


「…」


私たち三人は女性に付きっ切りで話し合いながら歩いているサードを無言で見ていると、三人分の視線に気づいたのかサードはフッとこっちに目を向けて目がバッチリ合った。


するとサードはどこか自慢でもするかのようにあごを上げて、「ハッ」と私たちを鼻でせせら笑うような裏の顔を見せつけてきた。

でもすぐに表向きの表情に戻って女性に何かを囁くと、女性はうっとりとサードの肩に頭をもたれ、サードは女性を促し日も暮れかけた暗闇へと消えて行く…。


「…サードを置いてきたの後悔して損したわ…」


サードへの妙な怒りが私を襲う。


「うん…まぁサードってああいう奴だよな」


「…」


ガウリスは何か言いたげな顔をしていたけど、口に出すことは無かった。


* * *


「…で、随分と楽しんできたみたいね?」


「まあな」


何こいつ、嫌味に真っ向から頷きやがったわ、余計ムカつく。


今は海水に浸った私の髪を洗うため、サードが部屋にやってきて頭を洗おうとしているところ。


部屋の備品の背もたれ付きの木椅子をサードがお風呂場に持ってきて、私はそれに座らされて髪の毛をワシャワシャと洗われている。


「くっそ、砂まみれじゃねえか…」


サードの独り言に私はツンとそっぽ向いて何も答えない。


「しかも海の中に入りやがったな?こんなにゴワゴワにしやがって」


私はツンとそっぽ向いて何も答えない。


しょうがないわ、大きい波が来たら防ぎようなんてなかったもの。


「んだよ」


何も言わない私にサードがイラッとした口調で文句を言ってくる。


「何も言ってないでしょ」


何も言ってないのに喧嘩を売られる筋合いなんてないわ。


「…」


サードが眉間にしわを寄せて睨んでくるけど、私はツンとそっぽ向いて何も言わない。


「んだよ、俺が女と歩いてたのがそんなに悪いことか?」


「べっつにー?今更のことだしぃ」


サードが女性に手を出すなんてこと、心の底からどうだっていいし興味ない。


でも私が珍しくサードに悪いことをしたって後悔している時にこいつは女性を口説いて楽しんでいたんだと分かったら、何なのあいつと腹の底からブスブスと怒りの炎が(くすぶ)ってきて、それは今も収まらない。


しかも私たちに気づいたらこれ見よがしにせせら笑ってきたことも腹が立つ。


何アピールよ、俺はこんな短時間でも女にモテるんだっていうアピール?何様のつもりよ、本当ふざけてるわ、女性なんて性的な対象としか見てない節操無しのくせに。


それにあの女の人とイチャイチャした手で髪の毛を触られていると思うと、それも何か気持ち悪くて触ってほしくないしで怒りが湧いてくる。


でも拒否してもサードは髪を手入れするまで引かないだろうから黙ってされるがままになっているけど、そんな完全に拒否できない私自身にも怒りが湧いてくる。


とにかく今は虫の居所がすごく悪い。

サードの顔も見たくないし、洗髪の途中でもいいからさっさと出て行ってほしい。


「…んだよ、クソが」


サードは悪態をつきながら髪を洗い続ける。


「あなたの性格のほうがよっぽどクソよ」


「っだと、ゴラ」


サードが私の髪をグイと引っ張って顔を自分に向けさせた。


「イタッ!やめてよ馬鹿!」


私は椅子から立ち上がってサードを叩いた。


「お金になる大事な髪だとか言って私にも髪の毛触るなって散々言ってるくせして、自分が腹立ったらその髪の毛引っ張るとか何のよ!最低!」


サードは口をひん曲げて泡だらけの手を私に突きつけた。


「いちいちうるせえからだよ、このブス!黙って口閉じてろ!」


昔はこの程度の言葉でひるんで脅えていたけど、今はもう普通に言い返す。


「私だって自分で洗えるのにあなたが無理言って髪の毛洗ってるんじゃないの!自分でやるから出て行ってよ!」


さあ出ていけと人さし指を入口に向けるとサードはその手をかなりの強さでたたき落とした。


「てめえにやらせられるか、てめえの洗い方雑なんだよ!」


「雑じゃないわよ普通よ!それより痛いじゃないのこの馬鹿!」


かなり本気で引っぱたいたわねこいつと手を押さえサードを睨むけど…。

思えばこいつ、何で私の洗い方雑だって決めつけているわけ?


そう思うともっと怒りが湧いて、


「そもそも私の頭の洗い方が雑って、見たことないくせに適当なこと言って!」


「見た」


「は?」


サードの一言で怒りが一瞬で吹っ飛んだ。


見た?見たって…今言った…?

嫌な予感を感じてサードの顔を見ながら早口で重ねて聞く。


「どこで」


「旅の途中で」


嫌な予感がジワジワと形になっていく。


「どうやって洗っている時…」


「てめえが上半身素っ裸になって川で…」


「っいやーーーーー!」


思わず絶叫した。


その声が風呂場に反響してサードは耳を抑える。


「やだ、見たの!?いつ、どこで!?いやあああああ!」


サードは片耳を押さえながら乾いたタオルを私の口にグモッと突っ込んできて、私の絶叫は強制的に止められる。


「てめえが十四の時か。急に居なくなったからアレンと手分けして探してたら頭洗ってるところが見えたんだよ。

あの頭の洗い方…毛先から毛根までグルグル丸めるあんな変な洗い方したら髪が絡まって毛が無駄に抜けるだろうが!しかもてめえそのまま手に絡みついた髪を川に流しやがっただろ!ざけんな!」


口からタオルを取り出して、私は顔を真っ赤にしてサードを睨みつける。


「見たのね!?」


「背中しかみてねえよ」


「結局見たんじゃないの!」


「背中だけだつってんだろ、背中なんて見たって面白くねえんだよ!」


イライラとサードは私の肩を掴んで椅子に無理やり押しつけて座らせた。


「な、何するつもり…」


「頭!すすぐんだろうが!何期待してんだブス!」


サードはそういうなりシャワーで泡を流そうとしているのか力任せに椅子を斜めに傾けたけど、何期待してんだの言葉は聞き捨てならなくて手を振り上げ地団駄するように足を動かす。


「何も期待なんてしてないわよ!」


と、椅子がガタッと大きく斜めに滑って、視界がグルッと回る。


目の前の動きがスローモーションになった。


…あ、このままだとバスタブの(へり)に頭がぶつかる…。


ゆっくりと壁や天井が動く、バランスが取れなくて上がっていく自分の足が見える、何かを掴もうとする両手が虚しく空を切る…。


そのままバスタブの(へり)があるところまで傾いた次の瞬間、軽い衝撃が後頭部に響くと同時に、


「いっでぇ!」


とサードが短く叫んだ。


サードの声で周りの動きが普通になる。


ハッと気づくとサードは私の頭の横から後頭部をがっちりと両手で掴んでいる。それに今頭に感じたのはバスタブの固い縁じゃなくてもっと柔らかい…。多分サードの指。

きっとサードは私が頭を打つと手を伸ばして、バスタブの(へり)と全体重をかけて倒れた私の頭に思いっきり指を挟まれたんだわ。


まだ私の頭を掴むサードの目は、まるでお皿を落っことしそうになって慌てた人みたいな、一瞬心臓がすくんだような目で私を至近距離で見ている。


でも目が合った次の瞬間にはいつも通りの眉間にしわを寄せた鋭い目つきになって、


「気ぃつけろブス!斜めにした椅子の上で暴れたら倒れるに決まってんだろが、馬鹿か!」


と怒鳴り散らした。


「ご、ごめんなさい…!サード、指大丈夫?」


立ち上がって倒れた椅子を起こしながらサードに聞いた。


「いてえよ、ブス」


サードは両手を振ってから指を握ったり開いたりしているけど大したことは無さそうで、


「座れ」


と椅子を指さし私に指示してきた。


言われた通りにしずしずと椅子に座って、再び斜めにされた椅子の上で私は大人しくされるがままに頭の泡を流される。


シャワーの音を聞いていると、今まで全然見たことのない慌てたサードの表情が脳裏に浮かんできて、フフ、と笑いが込み上げてきた。


「さっき(あせ)ったでしょ」


「焦ってねえよ」


「一応いざって時は助けてくれるのね」


「髪のためだ」


「そう、ありがと」


「…んだよ」


「うふふ」


なんかサードへの怒りはどこかへ吹き飛んじゃったわ。

水着ショップの店員

「そういえば先日肩から足まで隠れるもん新入荷しましたなあ」


エリー

「えっ、そうなの?見せて見せて」


水着ショップの店員

「こちらのダイバー用ウェットスーツですぅ」


エリー

「…。普通の水着でお願い」

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