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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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占い師を探せ

ある程度占い師の情報がたまったころ、私たちは出発した。


ハロワに寄せられ信用できないと思った情報はハロワ側が選別しているのは私も知っている。だからカーミが見つけるよりも先に大多数の人たちからの情報で私たちが先に占い師を見つけるでしょ。


…最初はそう思っていた。でも案外と違った。占い師を見つけたという報告者の元に駆けつけてみたら、


「キャー!本当に来た!本当に勇者御一行が来たぁあ!握手、握手してぇ!」


と私たちに会いたいがために嘘を言っていただけだったり、明らかに違う人じゃないかと思うようなムチムチの体格の占い師らしき人と情報を提供した細身の報告者が「どうもー」と手を叩きながら同時に現れて、


「ショートコント」


「占い師」


と言いながら謎の寸劇を目の前で繰り広げ、


「自分らパブの雇われプロ芸人目指してますねん」


「どうすか、面白かったっすか」


と一仕事やり遂げた顔をしたり…。


それより一番多くて困ったのが「自分こそがその占い師であるぞよ」「専属占い師になるから仲間にして」「何だったら私が占いましょう…」と立候補してくる占い師の数々。


どうやらハロワ側も自分たちで人探しを受け持つなんて一度もやったことないから、とにかく勇者一行関係の占い師の情報は仕分けもせず集まり次第全て私たちに伝えて、その情報提供者に会いに行くかどうかは私たちの判断に任せようっていう風にしていたっぽいのよね。


とりあえずカーミが情報を集めるまで一般の人たちからの情報も少しずつ確認しようとしていたサードだったけれど、あまりにも関係ない情報で呼びつけられるからついにブチ切れて、こんな文書を作ってハロワに提出した。


『占い師特徴。身長百七十センチほど、肌の色黒く金の装飾品多数飾り立てており髪の色は紫。クセっ毛で腰までの長い髪。体格中肉中背、二十~三十歳ほどの男。紫のベールで頭から顔を覆い、口紅を塗っていて、一人で占いをしつつあちこちを移動している(よし)

なお虚言の情報の提供及び探し人と無縁の情報を提供した者にはハロワ経由で勇者一行への詐欺罪及び業務執行妨害などに値するものとしてその地の法にあたる同等の処置を公安局から行うことを要求する』


「困るんですよねえ、ドラゴンの討伐を頼まれていてこちらも命懸けで臨んで情報を集めているというのに虚言に振り回されるのは。

世の方々はドラゴンの被害に遭った方々の討伐して欲しいという願いより自分の欲を優先したいようで。それにしてもなんとまあこちらの望まぬ情報が多いのなんの。やる気が無くなりますよ本当に」


明らかに迷惑・不愉快を前面に出しながらその文書を提出すると、これ以上本来の情報提供とは違うものが届けられたらドラゴン討伐依頼を勇者一行に蹴られるかもと危惧(きぐ)したハロワの職員たちが即座に受理した。


「これで面倒くせえ奴らも減るだろ、ったく、余計な時間使わせやがって…」


サードはイライラしながら言っていて、その通り全く関係のない占い師情報はパッタリなくなった。けどそりゃそうよ、サードの送った文書は「嘘の情報だったら法律の下にてめえを牢屋にぶちこむ」っていう脅しだもの。


けどそんな脅し紛いの文書を出したら今度は善意の情報も無くなるんじゃないかとアレンは心配していたけれど、それでもチラホラと「それっぽい占い師がいます」と情報はたまに寄せられる。

でも会ってみると違う人なのよね、だってマジックショーのギャザがものまねした時みたいな「~ですからネ」という特徴のある言葉使いじゃないんだもの。


そうして占い師の情報提供は日がたつにつれどんどんと減って、ヲコの情報は占い師の情報より集まらなくなってきた。所構わず暴れないのはとても良いことだけれど、一体今はどこでどうしているのか分からないからすごく不気味なのよね。

もしかしたらその辺の女の子を適当にさらって長に報告しに行っているかもしれないんだもの、それを考えるとすごく落ち着かなくて焦ってしまうけれど、リロイは全く焦る素振りがない。


「もうちょっと焦ってもいいんじゃないの」


そう急かすとリロイはムゥと憮然(ぶぜん)として、


「我だって焦っている、せめて三百年内には嫁を見つけなければならないから…」


それを聞いて私はギョッとしてしまう。

だって三百年って、どれくらい時間かけるつもりなのよ。


ふざけないでと文句を言いそうになったけれど、それでもすぐにハッと気づいた。


思えば八千年生きてるミレイダでもまだ若造の部類だって本人が言っていたわよね?だとしたらその三百年はドラゴンにしてみたらかなり短い時間なんじゃない?


そうなればさらに気づいた。


だったら先に女を連れていって長になると豪語していたヲコだって数日、数週間単位で連れていこうとしているわけでもないんじゃないかしら。リロイと同じく百年単位で考えて女の人を連れて行けばいいと思っている可能性だってあるのかも?


それに気づいた私は今考えたことを皆に伝えると、そう言われればドラゴンの時間感覚は自分たちと違うかと皆も気づいたみたい。


「なーんだ、だったらそんなに慌てなくていいんだぁ」


アレンは一気にゆっくりした顔になり、ガウリスも肩の力が抜けたように、


「それならゆっくりパートナーを探せますね」


と微笑んだけれど、当のリロイはムゥウ…と余計に憮然(ぶぜん)とした顔になって、


「何を言う。焦らなければならないのだ、ゆっくりなどできるか」


どうやらリロイも人間の時間の流れがよく理解できていないみたいで、それが妙におかしくてプスッと笑ってしまう。

まぁリロイは「何を笑うことがある…?」ってちょっとイラッとしていたけど。


そうしてリロイは落ち着いているようで内心すごく焦っていて、逆に私たちはどっしり構えて情報収集しようと話し始めたころ…。


「よっ」

「ギャッ」


宿屋にてここが今日の私の部屋ね、と中に入って荷物を置いてベッドに座った瞬間、目の前にヒョイとカーミが横から顔を出してきて、私は絶叫を上げてベッドから飛び上がった。


「『ギャッ』だって、相変わらず女っ気ない叫び方〜ウケる〜」


カーミは私を指差しゲラゲラ笑って膝を叩いていて、そうしているうちに全員が私の叫びを聞きつけて全員が私の部屋の前に集まってくる音が聞こえる。

すぐさまサードがピッキングして部屋に入って、腰を抜かしている私と笑い続けるカーミを見て何が起きたのかすぐ察したみたい。


「てめえなあ…」


呆れ顔で何か言おうとするサードにカーミはケロッとした顔で返す。


「だって毎回宿に入って荷物置いたら皆エリーさんの部屋に集合すんじゃん」


ガウリスもどこか呆れたような顔で、


「それはそうかもしれませんが、女性の部屋に無言で入るのはよろしくありませんよ」


「俺エリーさんと横並びで堂々と入ったんだけどなぁ。まあそれなら次から気を付けるよ」


ガウリスの注意にカーミは反省の色もなく軽く返して、ニコニコとサードに視線を移した。


「ところで、何か俺に求めてる情報でもあるんじゃなーい?」


サードはカーミのニコニコ笑いにイラッとした顔をしたけれど、気にしないように聞いた。


「見つけたか、占い師は」


カーミはニコニコを通り越してニヤニヤしながら、


「あれあれあれぇ?勇者御一行から直々に出された情報収集の依頼なんだから、もう随分と情報が集まってると思ったんだけどなぁ、もしかしてまだ何にも集まってないわけぇ?」


無言で睨むサードにカーミは得意げな顔になって腰に手を当てる。


「やっぱ俺が居ないとダメだなぁ~。勇者御一行なのに裏の取れた情報ろくに集められねぇんだから~もう~」


「要らねえ情報寄越す(やから)が多かったんだよ」


キレ気味のサードがそう言うとカーミはどこ吹く風で、


「なにそれ負け惜しみ~?」


と指さしながらプププと笑い、更にサードを煽っている。でもこれ以上サードを怒らせたら私たちにも怒りが飛び火しかねないわ、ただでさえ前にカーミが何か言ったおかげでしばらくの間サードが私たちに当たり散らしてきて面倒臭かったんだから。


「それで占い師の情報は集まったの?どうなの?」


一旦カーミを止めて本題に切り込んだ。

カーミはまだサードをおちょくり足りなかったのか私に止められて一瞬つまらなそうな顔をしたけど、それでもニコ、と笑って、


「それっぽい占い師なら見つけたよ」


皆がカーミを見る。


「今はゲンメイ王国の中をうろついてるぜ。どうやらかなり当たるって評判になってるみたいでさ。試しに俺も占ってもらっちゃった」


「そうなの?何について占ってもらったの?」


当たると評判の占い師に占ってもらったとか、ちょっと羨ましい。思わず聞くとカーミはニコニコしながら、


「俺の雇い主が俺に辛く当たってくるんですけど、どうすればいいですか~って」


「んだゴラ」


サードがイラッとした顔で即座に返すけど、そんな所よ、そんな所…。


「そうしたら何て言ったと思う?」


むふふ、と笑いながらカーミが私たちをグルッと見渡すけれど、皆が何も言わないのを見てさっさと続けた。


「『あなたは上司との相性は悪いけどビジネスの上では頼りにされていますし、あなたが居ないと雇い主が困ることも度々あるでしょうからネ。そこでまだ働く意志があるならあなたが大人になって対応するのをおすすめしますネ』だって」


アハハとカーミは笑って、


「いやぁ、俺やっぱり頼りにされてるぅ?」


ってわざとらしく自慢するように髪を後ろになでつけているけれど、それよりその占い師の口真似、特徴のある「ですネ」みたいな喋り方は…!


ガウリスもすぐに反応して、


「その占い師は本当にそのような話し方をしていたのですか?」


と聞くとカーミは「ああうん」と頷く。


「なんか段々と語尾が気になって他にも色々言われたけどほとんど覚えてねえや」


「それ俺らが探してる占い師だよ!カーミお手柄じゃん!」


アレンは立ち上がってカーミの手を掴んで上下にブンブン振り回して、カーミはアレンの力でよろけながらも一緒になって手を振り回す。


「やっぱり俺が居ねえと勇者御一行はダメだなぁ」


「うん、カーミがいてくれてよかったぁ」


アレンの言葉にカーミは笑顔のまま口をつぐんで、照れくさそうに何も言わず下を見ている。

けなされた時はあれこれ言えるけれど、いざ手放しで褒められると照れるみたい。ウチサザイ国の人ってそういう所あるわよね。


「それじゃあ次はゲンメイ王国に向かうってことでいいわね?」


そう言うとアレンは次に向かう国の場所を確認しようと地図を広げて、


「ちなみにゲンメイ王国のどの辺にいたの?占い師は」


と聞くと、カーミも地図を覗きこんで少し悩んだ後に指を指した。


「また移動してるかもしんねぇけど、俺はここで会った。今すぐ向かえばまだ国内にいるんじゃねえかな?」


それは国の中心都市。やっぱり占いをするなら人が多くいる場所にいた方が実入りがいいのかもね。


「それでも不思議よね。こういう都心部に占い師がいつもいて沢山の人を占っているとしたら、誰かしら目の前にいるのが私たちが探してる占い師だって勘づかないものかしら?なのに今までそういう占い師に占ってもらったっていう情報はなかったじゃない?」


変なのと思いながら呟くと、カーミはわざとらしく真面目な顔で腕を組んでうんうん、と頷いてから指を突きつけてくる。


「そこが盲点なのかもよ」


「盲点?」


リロイが意味が分からないとばかりに聞き返すと、カーミはニコニコと笑う。


「その占い師に占ってもらおうって並んでる人も結構いたよ。でもそういう人たちってまず自分なんだよな」


「まず自分…?」


ガウリスの言葉にカーミは続ける。


「占ってもらおうって占い師の所に行く奴らって、まず自分なわけ。だってそうじゃん?自分のこと占ってもらおうって列に並んで占い師の目の前に座った時に『この人、勇者御一行が探してる占い師っぽい』って赤の他人のこと思い出すと思う?」


そう言われればそうかもしれないと一瞬納得したけど、ん?と首をかしげる。


「でも終わったあとに報告することもできるじゃない」


「当たる結果を聞いたあとでハロワなんて所に行って占いの余韻ぶち壊したくなかったんじゃね?」


…だからって全員が全員報告しなかったとかありえないじゃないの。でもそういう報告はなかったのは事実だし…でも一人ぐらい報告してくれたって…。


何か納得いかなくて気持ちがぐるぐるしている中、カーミは続けた。


「まぁ俺は占いはついでの気持ちで行ったから最初に聞いたわけよ、あんたって勇者御一行が探してる占い師の特徴に随分当てはまってるな?って。そうしたらその占い師はこう答えたわけ。『ああ、やっぱり自分が探されてるんですかネ?』って」


とりあえず納得いかない気持ちを振り払ってカーミの話に耳を傾ける。


「そんで探されてんだから自分がその占い師だって言いに行ったら?って促したら、そういうのって縁だと思うんですよネって言われて」


「縁?」


聞き返すとカーミは頷いて、


「必要なら会う、不必要なら会わない。世の中そう出来てるもんだと思うんですネ、まあ本当に勇者御一行と会う必要があるならどんなに時間がかかってもいずれは会えるもんだと私は思っていますんでネ」


占い師のモノマネをしながら一旦言葉を止めてカーミは身をのりだし、


「それも最後の最後に笑いながらこれだよ。『人の仲介でできる縁もありますけどネ。あなたみたいな』だって。何となくだけどあの占い師、俺の雇い主が勇者御一行だって分かってるような口ぶりだったぜ」


「…それってラディリア神父みたいね」


話を聞いて思ったことを言うとアレンが「ん?」と聞き返してくるから、


「ラディリア神父よ。ほらリギュラとのいざこざの時に神の祝福をしてくれて、アレンに身を守るエンブレムを渡したラディリア神父。…まぁあの人は神父の名前を借りた誰か、って言ったほうが正しいでしょうけど、何も言っていないのに色々とわかっている所とか似ているなって」


確かに、とアレンは頷いて、


「それだったらサードの言う本物ってことだな」


それを聞いたサードはようやく行き先が決まった、と言いたげな顔をして地図上の占い師のいる場所を指でコツコツと叩く。


「だったら決まりだ、明日からゲンメイ王国に向かう」

芸人1

「どうすか、面白かったっすか」


サード

「全体的に照れくささが残っていて見ているこちらが恥ずかしくなります、左のあなたは無駄に声が大きすぎて何を言ってるのか聞き取れません、右のあなたは客の反応を気にし過ぎて笑いに走るのが見ていて痛々しいです。

内容も目立つフレーズも無ければ趣旨がぶれていて結局最後のオチに繋がりもしなければ何が言いたかったのか分からないという内容の薄さで人前に出るレベルではないです、こんなもので呼びつけられたと思ったらガッカリしますね」


芸人1、2

「ガーン」


芸人1

「笑いの素人の勇者にコケにされたままでは終われへんわ…!」


芸人2

「負けられへん、負けられへんで…!」


でもワラにすがる気持ちでサードの言う所を直したらプロとして数件のショーパブに雇われた。


芸人1

「結局あの勇者は笑いにも明るかったってことや…」


芸人2

「あの勇者、芸人目指してたんかなぁ?」

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