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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ドラゴンツッコミ

そうしてリロイと共に意気揚々と様々な町を通り抜けて…いない。

とりあえずリロイを含めて町から出発したはいいけど、ヲコがどこにいるのか分からないからどこに進むかの話し合いが一向に決まらないいんだもの。


「あのヲコが暴れた時、北からやって来たっていうから北に家っぽいのあるんじゃね?だったら北に向かえば…」


「だがあいつだって嫁探しに出てあんなに暴れたのにいちいち巣穴に戻るか?ヲコは女だったらどれでも構いやしねぇって野郎だ、その辺で女かっさらってることもあり得るぜ」


「それにゲオルギオスドラゴンの(おさ)の元から直接やってきた可能性もありますし、アロメダ山からヲコが去っていったのは東方面でしたよ」


とにかく少しずつ移動してヲコの新しい目撃情報が無いかハロワに赴いてみるけど、情報は全くない。それどころか本当にこれはちゃんとした情報だろうかという憶測だらけの内容ばかりが届けられるみたいで、ハロワ職員も困ったように、


「今は売るのが申し訳ないくらいの雑多な情報しかないので、すみませんが…」


って最初から売り物にならないから売らないと言われる始末。


それでも私は思った。もしかしてその雑多なものにいい情報が潜んでいたりするんじゃない?って。


だから一番上にある情報を無理に頼み込んでいくつか買って読んでみたけど…。


「きっと他の国に潜んでいるに違いない」

「人が何人も食べられているのを見た。炎を吐かれたが自分は昔から足がとても速かったので無事に逃げ切った」

「実は隣の家の人がドラゴン。理由はうるさいから。早く捕まえてくれ」


全く役に立たない情報に腹が立って、キィ!と紙をカウンターに投げ捨てると、


「だから言ったのにぃ」


って職員の人は呆れていた。


ヲコの行方を捜すと同時にガウリスはリロイに対して別のことを遠慮がちに提案し始めたわ。


「あまり人のプライベートに口を出したくはありませんが…。それでも確実にパートナーをヲコよりも先に見つけなければもっとあちこちで混乱が多発してしまいます。できるならリロイさんもパートナーを探す努力をお願いします」


そう。リロイはお嫁さんを探さないといけない。

でもリロイは女の人にろくに興味を示さない。むしろ女の人が近くに居てもチラ見もせずボーっとしている。


けどいちいち「ほら、女の人が近くにいるわよ、お嫁さんにどうなの」と促すのも余計なお世話と私も皆思っていたのか何も言わずにいたけれど…。

それでもあまりに女の人に目を向けないリロイにアレンも見かねたのか、


「今通り過ぎた女の人めっちゃ美人だと思うんだけど、リロイどう思った?」


って遠回しな感じで声をかけたけれど、返ってきたのは「ん?」っていう間の抜けた声と、


「…すまない。雲が流れてくのを見てて女がいるのに気づかんかった」


というもの。


でも自分の好みじゃないからアレンに気を使って誤魔化しているのかしらとその時は思ったけれど、段々わかってきた。


基本リロイはボーっとしている。


見た目的に真面目そうで意志の強いリーダーのような顔をしているし、自分のことは「我」と言って堂々とした口調をしているから中々気づけなかったけど、リロイは真面目にこれからの事を考えているような引きしまった顔で基本ボーっとしている。


「ちゃんと女の人を見てよ!」


あまりに空を見上げボーっとしているリロイにイラッとしてしまって一度そう言うと、リロイはしどろもどろと、


「ドラゴン種は長命だから少し考え事をするだけで軽く十年たつこともざらにある、そんなのだからせわしなく立ち動く人間などをみて好みかどうかすぐに推し量れないんだ、そこは分かってほしい」


そう弁明したリロイだけれど、女装のサードは一目で気に入ってたじゃないのって心の中で突っ込んでおいた。リロイが嫌がるから口には出さないけど。


でも内心私はすごくやきもきしている。早めにお嫁さんを見つけねばならぬとリロイは自分で言っているのに焦っている様子が全然ないし、その間にヲコが女の人を無理やりさらって長の元に連れて行かれてしまったら…って。


けどまあリロイだって今まで女の人とあんまり関わってこなかったのにいきなりお嫁さんを探せって言われて戸惑う部分もあるわよねと思う所もあるけど…それでもリロイはサードとかアレンと違って女の子と仲良くしたいっていう欲求がほとんどないんじゃないかしら。


夜、宿屋に宿泊してサードに髪の毛をとかされながらそのことをグチるように伝えると、


「リロイのあの性格から考えても女にすぐ声をかけるような奴じゃねえだろ。あいつはエリーと同じでじっくり腰を据えて相手と仲を深めるタイプだ。エリーだってリロイと同じ状況だったとしても通り過ぎざまの男にすぐ目は向かねえだろ?それと同じだ」


言ってることはわかるんだけどぉ…。


私は大きく息を吸って、長く吐く。


「こういう恋愛とか結婚って他人が口出しするのは余計なお世話だから私だってせかしたくないし、できればいい人が見つかるまで放っておきたいわよ。でも腰を据えるって、長生きのドラゴンが腰を据えたら何百年かかるのよそれ?」


「…」


髪をとかす手が止まったから鏡越しにサード見た。サードは何か考え込んでいるような表情をしていて、ボソッと呟く。


「…占い師…」


「え?」


「あのマジックショーの団長の妻、それとケッリルが行き合ってアドバイスしを受けた占い師だ。ケッリルとの別れの時にビルファが時に言ってただろ?俺らに必要になるから覚えておけってよ」


確かに別れの時にレーシカがそう言っているってビルファが言っていたけど…まさか。


「その占い師を探すの?…どうやって?どこにいるのかも分からないのに」


ケッリルの話からしてその占い師は一ヶ所に腰を据えて占いをやっている人じゃなくて、あちこちを放浪しながら占いをしているのよね?

まさかこの広い世界を放浪しているたった一人の占い師を探すとか言うつもり?っていうニュアンスを含ませて聞くと、


「確かにどこにいるのかは分からねえが、あのレーシカが俺らに必要になるから占い師のことは覚えておけって言ってただろ。だったら今がその占い師の使い時じゃねえか」


使い時って…物じゃないんだから。


呆れたけれど、それでも確かにそのよく当たる占い師にリロイのお嫁さん探しに協力をしてもらったらリロイと気の合いそうな人と行き会うのは早くなるかも。

体の不調を治す魔界の薬草を団長の妻のギャザに教えて、ウチサザイの情報をすぐ手に入れられるようになったケッリルみたいに。


それにもしかしたらヲコの現在地もわかるかもしれない。今日だって通りすがりの人たちからヲコについてあれこれと聞かれ続けたけれど、今は探している途中だとしか言えなくて…。

それも素直にそう伝えると、まだ探してる段階か…って何とも言えない顔で失望されるんだもの。そして私はそんな顔をされるとイラッとする。

しょうがないじゃないこっちだって情報がないんだから、早くどうにかしたいのはこっちだって同じよって。もちろん相手も不安で早くどうにかしてほしいからそんな対応になると頭では分かってる。でもやっぱりイラッとする。


だからせめてどこに向かえばいいのかくらいの道しるべは欲しい。


「…確かその占い師って正に占い師みたいな格好だったってケッリルが言っていたわよね?」


ビルファからレーシカが覚えておいたほうがいいと言われたあとは、サードがケッリルに占い師の見た目の詳細を事細かに聞いていたっけ。


ケッリルが言うには、


「褐色の肌に映えるような濃いピンクの口紅をしていたが、やはり声と体つきから察するに男だったな。

身長は百七十センチほどか?顔は紫色のベールと前髪で覆われていてろくに見えなかったが、濃い紫で外はねのクセっ毛の強い長髪、体格は中肉中背で、肌質から考えれば二十から三十歳ほどだと思う。

あとしゃべり方に特徴があって、語尾によく『ネ』をつけて、それも一旦前の言葉と区切るようにしてから上がり気味で言っていたんだ。あなたは探しているものがみつからないようです、ね、のような感じで…。あの団長の妻のものまねはよく似ていたよ。あとは金の耳飾りに首飾りに腕輪…そんな派手な装飾品を身につけていた」


というものだった。


「それにしてもよ。金の飾りを見せびらかしながらの一人旅なんて危険じゃないかしら」


どうやらその占い師は護衛や冒険者もなく一人旅をしているらしいのよね。それなのにジャラジャラと装飾品の金を見せつけながらあちこち移動しているなんて信じられない。

私たちみたいな実用的な高い服ならまだしも、飾りで金をあちこちに身につけて一人で歩くなんて「さあ襲ってください」って言ってるようなものじゃない。


「よっぽどの馬鹿かよっぽど自分の腕に自信があるかのどっちかだな」


「占い師なのに強いとか?神官だけど強いガウリスみたいに?」


サードは首を横に振る。


「そのお得意の占いで危険な人物に場所を避けてでもいるんじゃねえの?」


ああ、腕っぷしの方じゃなくて占いの腕のほうね…。


そう思って納得しかけたけど、ふと背中をねじってサードに顔を向ける。


「それよりサード、そこまで占いとか信じているの?」


何もかもを疑いにかかるサードが占いなんてものをそこまで信用するだなんてと思いながら聞くと、


「別にそこまで信用してるわけじゃねえ」


前を向けとばかりに頭をクイッと動かされ鏡に向かわされる。


「そんな力のねえ占い師を覚えておけだなんてわざわざレーシカが言うと思ってんのか?だとしたらその占い師は神が目をつけるほど力のある奴だろ」


「神様のこともそんなに信じるなんて…」


珍しい、と呟くとサードは、


「一度見た奴に関しては信じる。それ以外は信じねえ」


「…あ、そう…」


こいつってそういう奴よねと思いながらも、


「でも結局この広い世界を動き回っているたった一人の人をどうやって見つけるわけ?いくら金の飾りをつけて目立つ人だからってまず無理でしょ」


するとサードは鼻で笑った。


「何言ってんだ、探す方法なんて十分にあるぜ」


* * *


サードは表向きの表情でニッコリ微笑んだ。


「ではこの条件でお願いいたしますね」


サードに微笑みかけられたハロワ職員はペコペコと頭を下げながら、


「はい、確かに承りました!」


と奥のほうへ消えて行った。


サードが考えて実行したのはハロワに占い師を探すように手配することだった。


ハロワは少し大きい町だと一つはある。

それもハロワ同士の情報共有の連携は取れているから、地図に載っている地域全ての情報すら手に入れることも可能。


「ま、ウチサザイ国ぐれえ乱れた国だと正確な情報なんぞろくに外に流れねえだろうがな。それでもハロワのあの情報網の広さを上手く利用すれば占い師にたどりつけるはずだぜ」


サードはそう言っていたけど、アレンとガウリスはハロワがそんな人探しに協力してくれるかと首をかしげていた。

二人が言うにハロワは冒険者に出す依頼の受け持ち、それに対するモンスターの情報収集、開示が主な仕事。人探しなんてハロワの仕事じゃないから情報屋をあたれ、探偵を雇えと追い払われるだけかもしれない。


そんな会話をしつつハロワに向かったわけだけど、サードは勇者の立場とヲコ討伐の依頼を受けているのを上手く利用して、


「実はその占い師はドラゴン…通り名としてヲコと名付けたのですが、ヲコ討伐に重要な役割を果たす方で…」


とあくまでもヲコ討伐関係で必要な情報だと言葉ちらつかせつつ、口先で軽くハロワ職員を丸め込むと占い師捜索依頼を受理してもらって、そのまま依頼金も支払った。

これであとは占い師の発見して報告してくれた人に私たちが今払ったお金がハロワ経由で渡される。もちろん、お金が渡されるのはその占い師が私たちが探している本人かどうか確認を取ってからだけどね。


「じゃあ後は占い師の情報が入り次第そっちに向かえばいいってわけだな、それまではどうする?この町に待機でもしてる?」


一旦宿に戻って軽くこれからの話をアレンが振るとサードは頷いた。


「そうだな、無駄に動き回ってから真逆の場所に占い師が居たなんてことになったら面倒だからしばらくここにいるか」


「ってことは三日くらい?」


流石に今日明日に情報が入ってくるわけないし、それならどうやって過ごそうと思っているとサードは、


「いいや、占い師の情報がある程度たまるまでここにいる」


ええ、珍しい。何かあればすぐ出発しようとするサードがしばらく動かないことを選択するなんて。


するとサードはニヤリと笑う。


「とにかくハロワに依頼を出したんだ。俺ら勇者一行が占い師を探してるっつーのはハロワ経由で噂になって広まるはずだろ?」


「それはそうよ、今はヲコの討伐で余計に皆の注目が集まっているんだもの」


そう返すとサードはもっとニヤニヤする。


「そうやって時間をかけて広めときゃどこぞに消えたカーミが噂を聞きつけて情報収集に乗り出すだろ、そんでカーミが先に占い師を見つけて俺らに接触してきたらすぐさま依頼は取り下げる。そうすりゃハロワに出した依頼金はそのまま俺らに戻って…」


そこまで言ったサードはフッと何か思いついた顔になって、独り言のようにブツブツと続ける。


「いや、ヲコを討伐するまでは占い師の捜索依頼は出したままにしててもいいか?そうすりゃ占い師を探す会話ついでにヲコの情報もタダで手に入れられるかもしれねえ…。…ふっ、俺もいいこと考えついたもんだ」


ケケケケケ、とサードは悪どく笑いだす…。こいつ、どうやったらそんなせこい方法をとっさに思いつけるの…。


「けどそんな都合よくカーミが動くものかしらね」


何か腹が立ったから意地の悪い口調で言うとサードは急に冷ややかな目になって、


「あいつには金貨二枚の評価を与えてやってんだぜ?それくらい察して動かねえようなら完全に用無しの邪魔者だ、牢屋送りにしてやる」


なんて辛辣(しんらつ)な…。私が言われたわけじゃないけど、まるで私が用無しだと切り捨てられた気分。

…むしろ私の髪の毛が普通の金髪になって魔法も使えなくなったとしたら…私もサードに用無しだと見向きもされなくなるのかしら。

…。どうしよう簡単に想像できる。「髪の毛も金にならねえ、魔法も使えもねえてめえなんて用無しの邪魔者だ、帰れ」って冷ややかにあごであしらわれるのが簡単に想像できる。


そんな現実には起きていないことで軽く恐怖を覚えていると、アレンはニヤッと笑った。


「でもそれって裏を返せばちゃんと自分の思惑通りカーミが動くって信頼してるんだろ?」


「…」


黙りこむサードにアレンはニヤニヤ続ける。


「カーミも嬉しいだろうなぁ、サードにそこまで信用されたんだからさ。俺らの仲間になりたがってたのにサードは利用するだけ利用してあとは冷たいし」


サードは吐き捨てるようにアレンに指を突きつける。


「言っておくが信用してるわけじゃねえ。だがあいつの腕は認める、だから使ってやってんだ」


そう言うと「面白くねえ」と言いながら部屋から出て行った。そんな去っていったサードを指さしアレンはリロイに向かって、


「あれツンデレって言うんだぜ」


ってわけの分からないことを教えている。リロイはキョトンとした顔で、


「つん…?」


「いっつもつんけんしてるけどふっとした時に優しくなったり照れくさそうにしたりすんの。リロイああいう性格好き?」


「…。いや…面倒な性格だと思う」


「そっかー、リロイはサードの性格はタイプじゃないんだな。でも一つ自分の好みが分かって良かったじゃん?」


「…ん?んん…?…うん…?…。…いやあいつは男じゃないか」


リロイはなんとも言えない表情で納得しかけたけど、最終的にやっぱなんか違うと思ったらしく静かに突っ込んでいた。

リロイにとって初ツッコミだわ。

情報って本当に重要だと思うんですよ。

戦国時代の本能寺の変が起きた際、秀吉が引き返して明智が各地の武将に書を送って家康が伊賀越えしてとわちゃわちゃしてる中、私のお国の武将は、

「今度信長さんに鷹送りますね☆」

みたいな手紙送りだしてたからね。情報の遅れってそんなもん。


関係ないですが個人的に大河ドラマ「真田丸」の笑ってはいけない伊賀越えシーンが大好きです。服部半蔵の「押し通ります!」というごり押し、家康の「うわあああああ!」というヤケッパチの全力疾走。

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