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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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名づけ

次の日。

ドラゴンも一時パーティに加わり、私、サード、アレン、ガウリス、ドラゴンの総勢五人で宿から出る。


ちなみにカーミは居ない。カーミはドラゴンとの会話が大体終わった後、忽然と消えた。


ドラゴンと宿に戻ろう、その前に服を…と話し合っている時カーミがいないとガウリスが言い出して、カーミはどこに行った、まさかセミロングのドラゴンの攻撃にあったのではと皆で心配しながら辺りを探し回ると神殿の中にメモが置いてあった。


『俺もうドラゴンとの戦闘じゃ役に立たないっぽいから他の所行って情報集めとくね、じゃ』


そのメモを見たサードはグシャッと握りつぶし、


「だからって黙って消えんじゃねえよ…!迷惑な野郎め…!」


ってキレていたわ。


そうして今、アレンはふとドラゴンに振り返った。


「思えば昨日色々ありすぎて名前聞いてなかったな。名前は?」


「名前など無い」


「えっ」


アレンと私とガウリスが同時に声を上げる。

ドラゴンは何をそんなに驚いているんだという妙な顔つきで、


「我々はそれぞれに名前をつけるなどということはしない。ゲオルギオスドラゴンという名も人間がつけたものだが、名目上その名前を使っている程度のこと。我々は卵から(かえ)って動けるようになったらそのまま独り立ちするのが一般的だからな」


アレンはハッと何か思い出したような顔をして独り言を漏らす。


「そういえばミレイダの名前も女の人からもらったとか言ってたな」


「え、そうなの?」


聞き返すとアレンは頷いて、


「ミレイダの名前って女の人っぽいよなって言ったら女の人の名前からもらったとか言ってたぜ。本当か嘘か分かんなかったけど…だとしたらあの話本当だったのかも…」


ずっと前を歩いていたサードがそれを聞いて振り返る。


「人として旅をする上で名前が無いと不便です。差し支えなければ私がお付けしますが?」


人前だから表向きの顔をしているサードに声をかけられたドラゴンは、ガタッと後ろに飛び退いて、


「また顔が変わったぞ、どういうことだ!?」


と混乱している。でもサードの七変化に驚いていてはやっていけないと思ったのか黙り込んだけど、それでも違和感のありそうな雰囲気でサードを見つつ、


「まぁ…名前にこだわりなどないから好きにしろ」


って簡単に返した。するとサードは近くを通り過ぎる男の子に「もし」と声をかけると、男の子は立ち止まってサードを見上げた。


「おはようございます、あなたのお名前は?」


「え…リロイ・テンニーンだけど…何?」


「そうですか、いい名前ですね。お手間を取らせました。どうぞ今日もお元気で」


男の子は(いぶか)しげな顔をしながらもそのまま去って行き、サードはドラゴンに目を向ける。


「ではあなたの名前はリロイ・テンニーンです」


ガウリスは何か言いたげな顔で、


「…そんな名付け方でいいのですか?」


と言うけれど、ドラゴンは、


「中々いい名じゃないか。気に入った」


ってご満悦な顔をしている。ガウリスもそんなドラゴン改めリロイを見て、本人が満足そうなら大丈夫かと口をつぐんだ。


…かくいう私も道行く女性二人に名前を聞いたサードにエリー・マイって名付けられたけど…端から見ていたらかなり適当な名付け方だわと改めて思うわね。


まあ今となっては私も本名のフロウディアよりエリーの名前の方がしっくりするし、ドラゴンも満足みたいだから別にいいけど…。


「ついでにもう一体のあのドラゴンにも名前を付けてあげましようか、そうですね、あのドラゴンには『ヲコ』という名前がふさわしいでしょう」


「ヲコ?」


アレンがオウム返しするとサードは頷く。


「ヲコは私の生まれた国で『愚か、滑稽』という意味を持つ古い言葉です」


思わず全員からプッと笑いが漏れる。サードの怒りが込められた名前だわと思う、でもあのドラゴンにはそれで十分だわ。


すると私たちの横をそっとついてくる人に気づいて、パッと横を向く。

みると年配の女の人。どこか心配そうな顔つきで目が合った私に「あの…」と声をかけてきた。


「ドラゴンは…どうなったんですか?昨日ですよね、アロメダ山に嫁をとドラゴンが言った日は…」


すると話を聞いたサードがすぐさま振り向いてこっちにやってきた。


「残念ながら討伐はしていません。しかし我々勇者一行が相手では不利と見たようでどこかへと去っていきました」


女の人はほっとしたような、でも納得できてない顔をしつつ、


「またあの山にやってきたりしませんよね…?」


と聞いてくる。


けどそんなの私たちに聞かれたってわかるわけない。サードも同じことを考えて心の中で一言毒づいたかもしれないけど、ひとまず勇者らしい返答をする。


「それはあのドラゴン…ヲコと名付けたのですが、そのヲコの考え一つなので我々からは何とも言えませんね。ともかく我々勇者一行で全力討伐を目指しますよ」


女の人は「お願いします、じゃないと怖くて…」と頭を下げつつ私たちを見送った。

でもヲコに脅えているのはあの女の人だけじゃないみたいで、少し歩いては声をかけられて、


「ドラゴンは討伐したんですか?」

「早く討伐しないとドラゴンがまた暴れるんじゃないんですか?」

「ドラゴンは今どこにいるんですか?」


ってあれこれ聞かれて中々前に進めない。それに聞かれたって私たちにも分からないしどうにもできないことばっかり…。


それにドラゴンを早く倒してほしいだなんて言葉をリロイの前で堂々と言うんだもの。そりゃあ私たちの隣にドラゴンがいるだなんて、話しかけてくる人たちも分かるわけないでしょうけど、それでも何度も目の前でドラゴンを倒してと言われ続けたらリロイだっていい気分じゃないはず。


「みんな色々と言っていたけど、悪く思わないでね。やっぱりドラゴンって聞くと皆怖いのよ、ろくに対抗もできないから…」


ようやく最後の一人と話をつけて町から出て周囲に誰もいなくなってから言い訳のようにリロイに声をかける。でもリロイは分かっているとばかりに頷いて、


「しょうがあるまい、特に我々の種は昔から動いてる人間を見ると妙にちょっかいをかけたくなる者が多いからな…」


…ゲオルギオスドラゴンの言うちょっかいって、人間からしてみたら壊滅レベルなんだけどね…?


「多分それ、アリの巣を見つけたらつい指つっこみたくなるのと同じ感覚なんだな…」


アレンはそう言うとリロイが顔を上げた。


「アリ?アリとはなんだ?どんなものだ?」


「見たことねえ?黒くて小っちゃくてウジャウジャしてて地面の穴に虫の死骸とか引きずり込んでく昆虫なんだけど」


「…不気味そうだな…」


リロイは首を横に振って顔をしかめて引いている。どうやらアリの存在は知らないみたい。

でもそうかも。本来の姿は空に届くほど巨大なんだから、人間よりはるかに小さい生き物を目視で見つけるなんてろくにできないのかも。


アレンはリロイの肩を叩きながら、


「今度アリの巣見つけたらリロイに教えるな」


って言うけれどリロイは顔をしかめたまま首を横にブンブンと大きく振る。


「いや、不気味だから要らぬ」


…アレンの変なところをピックアップする説明のせいでリロイはアリを不気味なものと認識してしまったわ。アリに脅えるドラゴン…。何か楽しいから放っておこう。


「でもリロイってばどんな女の子好みなの?そこハッキリしないと女の子と会っても行動できないんじゃね?」


アレンはずいぶんと突っ込んだところまで話をするわね、出会って一日と少しぐらいしかたっていないのに。

リロイは「そうは言われてもな…」と悩んだ顔つきになってチラと前を歩くサードを見て…表情を(かげ)らせてフッと自虐的に笑うと肩を落とし、視線を逸らした。


…それを見てやっぱり思う。リロイは女装した姿のサードが好みだったんだわ。

だとしたらリロイのタイプの女の子の基準って女装したサードってことよね?…だとしたらリロイの好みってかなり最高レベルに設定されているんじゃない…?


不安になってリロイの脇にススス…と近寄り、小声で忠告する。


「あのね、サードのあの女装した姿は最高レベルだから基準にしないほうがいいわよ」


「…その話はもういい、もうしないでくれ」


リロイはそう言ってむっつり黙り込んでしまった…。リロイももう黒歴史の中にサードの女装姿を入れて記憶を消そうと努めているのかもしれない。


「じゃあせめて人間がいいとかそれ以外がいいとかないの?エルフとかドワーフとか精霊とかさ」


アレンがそう聞くとリロイはまた悩む。


「そう言われても…今までそんなこと考えずに生きてきたからどんなのがいいと言われてもな…。まず種族は関係なく嫁となってくれる女なら誰でもいい」


…誰でもいい?ちょっとその言葉は女の身として許せる発言じゃない。


「女だったら誰でもいいとか、相手に失礼よ」


リロイは私を見て、


「失礼か?」


と軽く驚いたように聞いてくるから大きく頷いて、


「すっごく失礼。別に好きじゃないけど都合も悪くないから自分のお嫁にしてもいいぐらいの気持ちしか感じられないもの。私だったらそんなのでお嫁にって言われも絶対嫌よ、誰でもいいんだったら他の人にすれば?って大体の女の子だったら思うんじゃない?」


リロイは私の言っていることを完全に理解していないような顔をしていたけど、


「そうか…人間に近い種だと誰でもいいという考えは失礼なのか…。わかった、心に留めておく」


って応えるから私もうんうん頷く。

とりあえずリロイはダメと言ったらそうかと一旦納得してくれる人でよかった。人じゃないけど。


すると周りに人がいないからサードは裏の表情で振り向いて毒つく。


「それでもあまりのんびりもできねえぜ、ヲコは先に女を連れていったもの勝ちだって考えの野郎だったからな。人の恋路に興味はねえが、てめえもとっとと女見つけろよ」


リロイはわずかに表情を陰らせてサードを見返す。

気に入った女性を見つけたと思ったら男だったんだが…?とかそんなこと言いたげな顔ね。


それでもリロイは女装姿のサードを追い払おうとしているのか首を何回か動かして話題を変えた。


「ところでお前たちが言っていた冒険しているというゲオルギオスドラゴンは…冒険者をしているだけで人間種から大いに慕われているのか?」


「いえ、そのドラゴンのミレイダさんは人間とエルフと共に国に住む者たちに寄り添い手助けをしていたので余計に人気があったのだと思われますが」


ガウリスの言葉に、人間とエルフと共に冒険をしているだと?とリロイは驚いた顔になったけれど、自分も今それと同じことをしているかと思い直したのかガウリスに質問する。


「お前も…そうなのか?そのように人間と共に行動して人間から慕われているか?」


ガウリスはわずかながらに困った顔をしながら、


「慕われているかどうかは分かりませんが…。勇者一行として恥じない振る舞いをしているつもりです」


すると横からニュッとアレンが会話に割り込む。


「もうガウリス頭固くて女遊びとか全然やんないの。俺的にはもうちょっと楽しんでもいいと思うんだけどさ」


「まず私のことは放っておいてください」


迷惑そうにガウリスが言うと、アレンは迷惑そうな顔のガウリス見てニヤニヤしている。

アレンのニヤニヤ笑いを受けたガウリスは嫌だなぁと言いたげに口をつぐんだ。それでもすぐさまアレンはパッとリロイに目を向ける。


「それでも女の子と仲良くなりたいなら声かけて親しくなるのが手っ取り早いと思うぜ」


「しかし親しくなった後でドラゴンだと明かしたら逃げられないか?」


リロイの言葉にアレンはあっけらかんと返す。


「でもミレイダが正体明かしても皆そんなに態度変わらなかったし」


すると今度はガウリスが横から口を挟んだ。


「それでもあのブルーレンジャーの方々はとても大らかでしたから」


大らか…ブルーレンジャーのあれは大らかで済むものなのかしら、個性の強すぎる変わり者ぞろいのほうがふさわしい表現だと思うけど…。でもまぁ、ブルーレンジャーの皆はドラゴンであれミレイダはミレイダって接していたのは間違いない。


「やっぱりその人の性格が分かったうえでドラゴンだって明かされたほうがいいんじゃないかしら。そんなに親しくないのにいきなりドラゴンだって言われたら怖いでしょうけど、こうやって対等に話が通じて会話もできるのならドラゴンでも怖くないって人はいるはずよ」


ふむ、とリロイは頷いて、何度も話題に上がっているミレイダに興味が湧いたのか聞いてくる。


「ところでミレイダとはどのようなドラゴンだ?鱗の色は?」


ミレイダのことを伝えようとしたけど、私より先にアレンがペラペラと喋りだした。


「ミレイダは青い鱗のドラゴンでー、すっげー気さくで人間の姿で冒険者と一緒に冒険しててー…。あ、王族の付き人って立場に収まっててさ、見た目も黙ってれば上品なおじさんだから女の子におじさまおじさまって結構人気があった」


「…人間の女は年寄りが好きなのか?」


「それは好みの問題だと思うけど」


そこは軽く訂正しておいて、私も質問をした。


「でもリロイの赤銅色の鱗のドラゴンが強いっていうなら、鱗の色で強いとかあったりするの?それならミレイダの青い鱗ってどうなの?強い?」


リロイは軽く首を傾げて、


「別に鱗の色で強弱があるわけでもない。だが赤銅色は滅多に生まれない色、そして何故か他の鱗の者より格段に強いというだけだ。…しかし、そのミレイダというドラゴンはずいぶんと自由に人間社会で過ごしているのだな、そのうち話がしてみたい」


「ソードリア国でブルーレンジャーって名前のパーティー名でやってるから今度行ってみたら?とりあえずお嫁さん見つけてからのほうがいいだろうけど」


アレンがそう言うとサードは続けた。


「そいつは青い髪の毛で金色の目のやつだぞ」


サード…あなた、私たちがリンデルス神にやられたみたいに髪の色と目の色だけ伝えるだなんてことするんじゃないわよ。それにもうリロイには散々ミレイダって名前の年配の姿の男の人だって伝えているから行けばすぐに分かるんだから…。何でそんな妙な所で意地悪するのかしら、この男。


呆れているとサードはリロイを見て、


「ところでドラゴン以外の嫁つったって、種族が違っていても大丈夫なのか?」


リロイは頷く。


「問題ない。我々ドラゴン種と婚姻する別種は男女を問わず自然とドラゴンに近くなる。婚姻は人間で言うところの結婚だと(おさ)が言っていた。それが済むと相手は半分はドラゴン、半分は元々の種族のままという状態になる。…らしい、長が言うには」


リロイ自身も長からそう聞いたってだけでよく分かってなさそうね。


するとアレンはふーん、と言うと、


「結婚か…。じゃあ手っ取り早く結婚相談所行く?」


結婚相談所に行くドラゴンって…。


皆から一気に力が抜けていった。

初期の歌舞伎は女が男装して若い男が女装をして共演するっていう怪しい舞台が大人気だったそうですね。それが「イヤ!不潔よ!」って上から規制され男だけが演目するようになったと。


時代が流れた現代。ある歌番組でジャニーズと宝塚のトップスターが一緒に歌うのを観たのですが、男装の麗人と若い男性の図に「なんかオラ…ドキドキすっぞ…!」とたぎる自分もいました。

時代が変わっても日本人の性癖はあんま変わんないのかもしれません。

あと宝塚の麗人の声量がすごすぎてジャニーズの声がほぼかき消されていました。宝塚すごい。

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