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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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現実を見よ

去っていったドラゴンを見送り、残った短髪のドラゴンはふと木の根元にへたり込んでいるサードを振り向いて近寄った。


「大丈夫か?」


サードはもう女としての顔も表の顔もはがれて裏の表情。

それでもその化粧の効果で女性らしさはまだ残っている。少し乱れた服装を直しつつ…でもまだ精神的に落ち着いていない青い顔で、睨みつけるようにドラゴンを見上げた。


女の子としてまだまだ通用するその姿での睨み見上げるその仕草は…強がってキッと睨みつけている女の子にしか見えない。しかも吐き戻したせいで目はうるんでいるし…。


そんなサードに見上げられたドラゴンはグッと声を詰まらせて胸を押さえた。


…視線で殺されたわね、あれ。

でもそんなことよりまずサードよ。


サードに近寄って肩を叩きながら助け起こす。


「サード、大丈夫?」


サードは引きつったように笑い、


「大丈夫に決まってんだろ、ただ裸の男にしがみつかれた、だ、け…」


そこまで言うとブルッと震えて気持ち悪そうに胃を押さえ、口を押さえて反対側を向いてまた吐き戻した。咳き込んでいるサードの背中をみているといたたまれなくて、サードを後ろからギュッと抱きしめ、気持ちを落ち着かせるようにポンポン肩を叩く。


やっぱり男の意地を通そうとするサードに気をつかって引くんじゃなかった。ただでさえプライドが高いんだからこんな姿、皆に見られたくなかったでしょうに…。


「サード…大丈夫?」


心配そうにアレンがしゃがんでサードの肩に触れようとする。でも今は男の人が触れるのはダメな気がして、そっとアレンの手を抑えて首を横に振った。


「…我が同胞が、非常に申し訳ないことをした」


胸を押さえながらそう言うドラゴンに皆の視線が集中する。ドラゴンは渋い表情で、


「あいつは遊び半分で嫁を見つけようとしている。本当に申し訳ない、同族の者として詫びる」


「それよりまず隠しなよ、堂々としてんなあもう」


アレンは相手がドラゴンと分かりつつ、もはや普通に話しかけて自分の上着を脱いで前を隠せとばかりに手渡した。

ドラゴンは上着を受け取るとしげしげと眺めて、首を傾げながら皆を見て、これは上に着るものと判断したようで上半身に羽織る。


アレンはブフォと吹き出した。


「下!下!」


ゲラゲラ笑いながらアレンは上着を肩からずらして下を隠させる。ドラゴンは何で?という顔をしながらもとりあえず言われるがままに下半身を隠した。


これでようやくドラゴンをまっすぐ見られるわ、今までギリギリ視界に入らない目の端で見ていたから。


見るとすごく意思の強そうな顔つき。キリと上がった眉に真っ直ぐ目の前にいる人を貫くような強い視線。

…さっきのセミロングのドラゴンは最低なチャラ男ってイメージだったけど目の前の短髪のドラゴンは見た目だけだとすごく人の上に立つリーダーに向いていそうな感じ。


「で、嫁って何?あんたもドラゴンなんだよな?さっきのドラゴンとは知り合い?見た感じ仲悪いの?」


アレンの質問責めにドラゴンは話し始めた。


「仲は良くないな、あいつとは考えも性格も合わん。次いで(われ)とあやつは今ドラゴンの(おさ)の座を巡って争っている」


そう言えばそんなことをどうのこうのと色々言っていたわねと思いながらサードをポンポンし続けながら聞き続ける。


「我々ゲオルギオスドラゴンは昔暴れすぎて神の手により数を多く減らし、次に仲間同士で(いさか)いを起こしたら確実に絶滅させると宣言されたそうだ。何より同種同士の喧嘩が一番地上に被害を出すからと。

そこから好き勝手にしていた我らの種をある程度まとめる長の立場が作られた。それが赤銅色の鱗を持つ者だ。その色の鱗を持つ者は滅多に現れず、それも他の色の鱗の者たちより力が遥かに強い。だから赤銅色の鱗を持つ者が長の立場になることに決まった」


赤銅色って、もしかしてその赤っぽい茶髪の色のこと?ミレイダも鱗の色は青で髪の色も同じ青だったし。


「じゃああなたが次の長…」


そう言ってから「あれ?」と言葉を止める。思えばさっきのセミロングのドラゴンも目の前のドラゴンと同じ赤っぽい茶髪じゃなかった?


私の言葉に目の前のドラゴンは首を横に振って、


「我はあいつと争っている立場でまだ長と決まっておらん。我らが長になる条件はドラゴン種以外の者から嫁を見つけ、長の元に嫁を連れて行くこと」


「だからあの暴れたドラゴンはお嫁さんにできそうな女の子を寄こせって手紙出したのか…あんな暴れて」


アレンは納得しつつ「最悪なやり方で女の子手にしようとする男だなぁ」と呟き、嫌な顔でセミロングのドラゴンが去っていった方向を見る。

それはアレンに同意。あんなやり方しかできない奴はどう考えても長の立場に向いていないし、させたくない。


「それにしても赤銅色のドラゴンは滅多に現れないと言っておられましたが…もしかしてあなたと先ほどのドラゴンの他に長の立場を目指す者はおられるのですか?」


ガウリスの言葉にドラゴンは首を横に振る。


「いいや、赤銅色の鱗を持つドラゴンは現在の長、我、あいつの三体のみだ。

少し前に長の身の回りの世話をしていると名乗るドラゴンが現れ、長の元に来るよう促されてな。風の噂で長も随分と老齢になり次の若者へ長の立場を譲ろうとしていると聞いていたから、そのことでだろうと伺ってみたらあいつもいたんだ。赤銅色の鱗を持つゲオルギオス種の若者が同時期に二体存在しているなど未だかつて聞いたことがないと長は言っていた」


ドラゴンはそう言うと腕を組んで、


「それならば嫁を見つけてこい、先に連れてきた者に長の立場を譲ると言われたんだ。先ほど言った通り我が種は数を減らし血族が固まってしまった問題もあったから、長を譲る問題と同時にその問題も解決したかったのだろう。新しき長が他種族の嫁を見つけたら他のゲオルギオス種の全員の手本になるからと」


なるほどね、と納得しつつも私は文句を言うように呟く。


「それでもさっきのあんな奴がゲオルギオスドラゴンの頂点に立ったら自分から争いの種をまきそうじゃないの、あんなのが長になるのなんて絶対に阻止しないと。あなたさっさとお嫁さんを見つけてあんな奴より先に長になってよ」


ドラゴンは眉をひそめた。その様子を見て変に突っ込んだことを言って怒らせてしまったかしらと口をつぐんだけど、ドラゴンは難しそうな顔になって地面に視線を落としていく。


「そうは言われてもな…我らがゲオルギオス種は自由に暴れすぎて多様な種族に害を出してきた。

他のドラゴンたちからも完全に敵対視されているし、精霊であれモンスターであれ人間であれ全ての生き物からは憎しみの対象とされているはず、そんな中で嫁を探すのは非常に難しいだろうと長は言っていた…そんなさっさと見つけろと言われても簡単にできることじゃない」


「…」


そうね…ゲオルギオスドラゴンってドラゴンの中でも最も狂暴で人に一番被害だしてるものね…。


「それでも幸いなことに長の立場が作られて以降は仲間同士の喧嘩が起きないよう代々の長が見張っていたから、他種族にとっても平穏な時だったはずだがな…」


「…」


そんなことないわよ…人間の歴史でみてみたらゲオルギオスドラゴンの被害は色んなところであったわよ…。


するとサードがユラッと動いたから背中をポンポンするのを一旦止める。サードは私の肩に手を乗せながらドラゴンに向き直って、まだ気分も悪そうに口を開いた。


「どうやらてめえはさっきのクソ野郎とは違うな、だったら話があるんだ、聞けよ」


もう女の子の動作も言葉も声付きも全て無くなっていつも通りに話しているけれど、ドラゴンはサードと視線が合うと少しどぎまぎしたような顔つきで、


「う、うむ…」


と言いながら視線を逸らした。


私は察した。サードはこんなに男の声を出して口も悪くなっているというのに、目の前のドラゴンは未だにサードを女の子だと誤解している。


サードは引き抜いた聖剣を背中に隠している鞘にチンと収めながら立ち上がったから、支えるように私も一緒に立ち上がる。

それでもサードはもういいとばかりに私を軽く押しのけドラゴンに視線を向けた。


「俺らはあのドラゴンの討伐を依頼された冒険者だ」


「なんと」


ドラゴンは軽く驚きの声を上げて、痛ましそうにサードを見た。


「それで自らの身を囮としてあいつの気を引こうと…それなのに別の意味で襲われかけたのだな」


「…」


嫌なことを思い出させるなよと言いたげなサードを見て、私はサードをかばうようにドラゴンの前に出る。


「その話はもういいわ。嫌なことを思い出させるようなことは言わないで」


「ん、…それは、すまない」


素直に謝るドラゴンに、逆にこっちのほうが肩透かしを食らう。

だって一応目の前のドラゴンは次のゲオルギオスドラゴンの頂点に立つかもしれないぐらい強い存在なんでしょ?それなのにしっかり私の言葉を聞いて、サードにとって嫌なことを言ってしまったと気づいてすぐ謝れる…。


…やっぱり頂点に立つのならあのドラゴンより目の前のドラゴンのほうがいい。絶対に。


サードもだいぶ気持ちが落ち着いたのか、一歩前に出ていつも通りの雰囲気で語り掛ける。


「どうだ?俺らとあのドラゴンを殺さねえか?」


「…我が?」


話を持ち掛けられたドラゴンは軽く目を見開いて…顔をしかめる。


「しかし仲間同士の喧嘩は絶滅させられる」


サードはニッと笑い、


「何言ってんだよ、俺らはあのドラゴンの討伐を頼まれてんだぜ?これはドラゴン同士の喧嘩じゃなく俺ら人間とドラゴンの戦いだ。てめえはそれにちょっと手を貸すだけ、そうなりゃ完全に同種同士の喧嘩ではなくなるだろ?」


ドラゴンは目をシパシパと瞬かせて、そういうこと、なのか…?いやでも…って頭を悩ませている。

サードはもう一押しとばかりに話を続けた。


「俺らは人間に化けて冒険者をやってるゲオルギオスドラゴンと会ったことがあるんだが…」


その言葉に目の前のドラゴンは「え」と顔上げる。

サードは話に喰いついたのを見て、わざとらしくあごをさすり過去を思い出すように空を見上げて、


「いやあ、あのドラゴンの男は人間の女から大変な人気だったなあ。年配の姿をしててもおじさまおじさまと慕われて」


サードはミレイダの話を引き合いに出し、ニヤニヤ笑いながら目の前のドラゴンに視線を戻す。


「そうやって冒険をしながら好いた女を見つけんのも乙な物だぜ。どうだ?あのドラゴンを倒すまで俺らと共に行動するってえのは?」


「…」


ドラゴンは無言になって色々考え悩んでいる顔付きになって…チラとサードを見た。

一緒に私たちと行動を共にする、それはつまりサードとも一緒に居られる。そんな考えにたどり着いたのか、それはいいかもしれない…って心が揺らぎ始めているように見える。


「嫌か?」


サードが声をかけると、ドラゴンは慌てたように首をブンブン横に振った。


「…悪くない」


…どうしよう。サードは男だって伝えたほうがいいのかしら、でも今更言うのも…。


* * *


ドラゴンにはアレンの服を着せて宿に戻った。


そして今。


ドラゴンは風呂場から化粧と落として男の姿になって戻ってきたサードを見て、酷く呆然と椅子に座っている。

アレンはそんなドラゴンを見て同情する顔つきでうんうん頷きながらドラゴンの肩をポンポン叩いた。


「分かる、分かるよ。相手が男で失恋したそのやりきれない気持ち、俺はすごーく分かる」


「え?男…?いや、あいつは女だ、間違いなく女だったはずだ…。ただ髪の毛が短くなっただけ…」


「ヅラだ」


サードはそう言いながら手に持っているカツラをテーブルの上にボッス、と置く。


女装もやめて化粧も落としたサードは完全に男。ドラゴンもじわじわと男を女装させて囮にしたんだと理解したみたい。

冥界でアレンが心を奪われた相手が男のサードだと知って失恋したような顔のあの時みたいな、酷く悲しそうな顔でテーブルに肘をついて両手を握り、額を当てて沈み込んでしまっている。


そんな落ち込むドラゴンの気持ちはなんとなく分かる。

だって女装したサードは女の私から見ても可愛くて綺麗で色っぽくて、それも上品な喋り方と動作も加わると本当に非の打ちどころもない女性だったんだもの。


仮に「これがあなたのお嫁さん」と女装したサードを紹介されたら男の人の誰もが飛び上がって喜ぶに違いないわ。

それなのに性別が女じゃなくて男だと分かったら…喜んだその倍は落ち込むはず。


「本当に…本当にあれはお前だったのか?嘘だろう…?まだ風呂場にあの女がいるのではないか…?」


信じたくないのか最後のあがきなのか…サードにそう聞くドラゴンだけど、サードは面倒くさそうな顔で椅子に座って風呂場に親指を向ける。


「そう思いたいならそう思えばいいだろ、だが風呂場見てこいよ、誰も居ねえぜ」


「…」


ドラゴンはまた悲しそうな顔でしんみりと落ち込んでしまった。

前にテレビでみたんですが、女形の役の後で三枚目のひょうきん役をやった人がいて、舞台終わりにお客さんに、

「あの女形の人が綺麗だったから会って握手がしたい」

と三枚目の格好してる本人に伝え、言われた本人も三枚目の姿であれは自分ですと言えなくて呼んできますと楽屋に戻って女形姿になって戻り、ありがとうございますと握手したという話が好きです。素敵じゃん。

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