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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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401/507

サーーードーーーーー‼

ドラゴンはサードの両肩を掴んで、


「なあ頼むよ、そんな恥ずかしがらねえでこっち見てくれよ。俺らはこれから夫婦になるんだぜ、そんなに恥ずかしがることねえだろ、なあ」


サードは軽くその手からスルッと踊るように逃れて軽くドラゴンへ視線を向けた。


「…でもまずはお尋ねしたいことがありますの。お答えいただけるかしら」


「なんだ?」


ドラゴンは機嫌も良さそうに軽く答える。


「今回、何故このようなことをして人間を嫁にと望んだのですか?ドラゴンが人間を嫁にだなんて聞いたこともないんですもの、何があって私のような人間を…?」


ドラゴンはそれを言われて、ふん、と腕を組んだ。


「俺らゲオルギオス種は一時期数を減らした。いや、減らされた。神によってだ」


「神に?」


いきなり始まった話にサードが聞き返すと、ドラゴンは頷いて続ける。


「そう、神に。俺らの爺さんのもっと昔の頃の話だ、暴れすぎて神に鉄槌を喰らったんだと。そんで数が減って、これ以上やられたら絶滅するって命乞いをした。

そうしたら助かったが、今度は別の問題が起き始めた。数が少なくなったせいで今度は血筋が固まっちまったんだ。そうなると段々と血が濃くなって一部で問題が起きてるんだとよ。だから全くドラゴンとは関係ない種族の女を嫁に迎えるよう言われたから、他種族の中でもそれなりに数の多い人間に目をつけたんだ俺は」


ドラゴンは言葉をそこで止めてニヤニヤと笑った。


「それに人間は弱わっちいから、ああやって軽く脅しときゃあいくらでも言うこと聞くだろ?それでここまでいい女が来たんだから一暴れした甲斐があるってもんだぜ」


うわ、最低…!


ドラゴンの言い分にイラッとしていると、サードもどこか顔をしかめて、フイと目を背けた。


「つまり私もそうやって脅して言うことを聞かせるおつもりなのですね、弱い人間だから…」


「何言ってんだ、お前は可愛がってやるよ」


サードの肩を捕まえようとするドラゴンの手からスルリとサードは逃げる。


「優しくない男は嫌い」


拗ねたようにフイと背を向けるサードにドラゴンはどこか困ったようにデレデレしながら、


「だからお前は可愛がってやるって言ってんだろ?何か俺いけないこと言ったか?」


バックハグしようとするドラゴンだけど、サードは一歩前に素早く進んでドラゴンの腕はスカッと宙を掴んだ。


「なあおい、機嫌直せって、何がいけなかったんだ?なあ」


ドラゴンはサードを掴もうと追いかける。でもその度にサードは踊る所作でクルクルと反転してうまく逃げていく。

私たちが攻撃しやすく、アレンとガウリスの隠れている木に近い所に…。


上手く逃げていくサードを中々捕まえられないドラゴンを見ていると、そろそろ怒り出したりしないかしらとヒヤヒヤしてきた。

でもドラゴンは怒るどころか、もうたまらなそう〜な顔でサードを追いかけている。


「何だお前逃げんの上手いな、だったらこれはどうだよ」


ドラゴンの背中からブワッと羽を生え、宙を一回転しながらサードの前にザッと着地した。


えっ!?ウソ、人の姿を保ったままドラゴンの羽を生やした!?

前にミレイダは人の姿でドラゴンの羽を生やすと人型が保てなくて元の姿になるかもって難しい顔で言っていたのに、なんの苦もなさそうに?


「それ、捕まえた」


ドラゴンはサードの肩をガッと掴み、飛ぶ勢いのままグンと木に押し付けた。


「どうせ夫婦になるんだからもういいだろ。人型のやり方も覚えて来たしな」


ドラゴンの手がサードの背中に伸びる、そのまま首筋に唇をつけてドラゴンの手がサードの服の中に突っ込まれて片方の足を持ち上げられ体が密着して…。


ああああああああ!サーーーーードーーーーーーー!今助ける……!


「mvwpfwpewaaaaaaaa!」


サードが謎の絶叫をあげて、ドラゴンの喉を引っつかんで足をドラゴンの足首に引っ掛けてそのまま頭を真下にぶん投げるように石畳に後頭部を叩きつけた。


ゴッという鈍い音が少し離れたここにも聞こえてくる。

人間相手だったら後頭部を強打して死んだんじゃないかと思えるぐらいの鈍い音だったけど、ドラゴンは即座に起き上がった。


ドラゴンは今何が起きたのか分からないポカンとした表情で放心している。


その隙だらけのドラゴンにサードが一瞬で片を付けるかと思った。でもサードはあまりの出来事に足から力が抜けたのか木にへばりつくように背中をくっつけているだけで攻撃するそぶりが無い。

…ううん、聖剣を引き抜こうと背中に手を伸ばしているけどその手が、指先が大きくブルブルと震えていて聖剣が握れる状態じゃない…!


それどころかサードは「うぶっ」と口を抑え、その場に膝をついて吐き戻している…!


そりゃそうよ、サードは今、トラウマになった原因と同じことをされそうになったんだから…!


やっぱり私が囮をやればよかったという後悔とサードを助けなければという気持ちでごちゃごちゃになっているけど、とにかくドラゴンの視線がサードに向いて私に背を向けている今がチャンスだわ、一瞬で片をつけるなら今…!


杖を向けようとすると空から音が聞こえてきた。さっきドラゴンが飛んできた時と同じような轟音が。


一体何の音、と思っていると音が止んで、これまたさっきと同じように人の形をしたシルエットがドンッと降ってきて石畳にクレーターを作る。


「…え?」


今降ってきた何者かは呆然としていたドラゴンの首根っこを片手で掴んで後ろへ力任せに放り投げた。


放り投げられたドラゴンはアレンたちの隠れている茂みの反対側に一瞬で消え、これまた人間だったら死んでいるというほどの音を出して木にぶつかり、同時に木はメキメキとへし折れてズズズと倒れていく。


一体あの人は何者と見ると、ドラゴンと同じくらいの若い見た目の年齢、頭の色もドラゴンと同じ赤に近い短い茶髪の男の…っていうかあの人も裸じゃないの!


慌てて目を逸らすと短髪の男の人はドラゴンに向かって唸り声を上げて怒鳴った。


「この馬鹿者が!」


木に打ちつけられたドラゴンは立ち上がって自分を放り投げた者を確認すると忌々し気に睨みつけた。


「んだてめえか、それより誰が馬鹿だこの野郎!」


短髪の男の人はドラゴンに指を向け、


「貴様のようなやり方で認められる訳がない、このようなやり方をする者が我らゲオルギオスの(おさ)になれるはずが」


と怒りをこめ静かに言う。

でも待って?今あの短髪の男の人は「我らゲオルギオス」って言ったわよね?それならあの人もゲオルギオスドラゴンってこと…!?


先にいてサードを襲おうとしたセミロングのドラゴンは、立ち上がると後から来た短髪のドラゴンをせせら笑った。


「何言ってんだ、先に女を連れて行ったほうの勝ちだって言われただけで女を連れてくまでの方法なんて何も言われてねえじゃねーか、そいつは俺の嫁ってことでここまで来たんだ、このまま俺がそいつを連れて行ったら俺がゲオルギオスの長だ!はは、ざまーみろ!」


何のことで言い合いをしているのかはさておき、腹が立った。

あんたに襲われそうになって地面にへたり込むサードを前にそんなことしか言えないわけ?最初から分かっていたけどあのセミロングのドラゴンは最低だわ。


だったら本当に容赦も要らない。


手をセミロングのドラゴンに向けた。手の平が熱くなってきて何かに触れている感覚が手の平にする。

セミロングのドラゴンは何か嫌な予感を感じたのか辺りを見回しているけど、もう遅い。オルケーノプネブマをそのまま放つ。


ボォンッと空気が震えるような爆発音が響いて、セミロングのドラゴンは私の魔法で弾き飛ばされ地面をゴロゴロと転がる。


「あっづぁあ!」


体をバシバシと叩いて焦っている様子を見る限り、ドラゴン相手であれオルケーノプネブマはちゃんと効果があるみたい。でも熱いって言っていても見る限り体に深い火傷を負っている様子はない。ってことはもっと強く攻撃しないといけないってわけね。


「何だ今の…」


セミロングのドラゴンは辺りを見渡す。でも何だかその動きがどこかぎこちない。

するとカーミが私の後ろでぼやいた。


「あっちゃー。やっぱドラゴンに黒魔術完全に効かないなぁ、今エリーさんにもかけたあの暗闇の中に居る人を動けなくするやつかけたんだけど、動きがぎこちなくなる程度だわ、俺もうこの戦いじゃ役に立たねえなこりゃ」


「動きが鈍くなる程度でも助かるわ、そのままかけてて」


「オッケー」


私が攻撃してカーミの黒魔術で動きが鈍くなったセミロングのドラゴンに向かって、ガウリスが茂みから五㏍に飛び出して距離を詰め、


「ッルァア!」


と叫びながら槍を振り回して下段から思いっきり振り上げる。

槍先は折れそうなぐらい大きくしなりながらセミロングのドラゴンの顔を切り裂き強打し、ドラゴンは血と唾液をまき散らかし空高く吹っ飛んだ。


それでも即座に空中で羽を広げて態勢を立て直そうとするセミロングのドラゴンだけど、ガウリスの槍の攻撃があごに当たってクラクラしているのかその飛行はおぼつかないわ。

だって空高く舞い上がったと思ったらクルクルと頭を中心に下半身が大きく旋回しながら落下してきているもの。


ガウリスは落下してくるドラゴンに向かって槍を上に振りかぶり全力で背中に突き刺した。

それでも聞こえてくるのは人の肌に当たったとは思えないキィンという…まるで金属に金属が当たった時みたいなかん高い音。しかも弾かれたのはガウリスの槍。


「なん…だてめえら!」


まだ目を白黒させながらドラゴンは声を出す。見るとその体の一部が人の肌じゃなくてドラゴンの鱗に覆われている。どうやら瞬間的に体を鱗で覆ってガウリスの槍を防いだみたい。


セミロングのドラゴンの目はガウリスを睨み、私たちのほうもチラと見て神殿の中にも誰かいると気づいたのか目を見開いた。


ヤバい、一瞬で片をつけないとってことだったのにてこずってしまっているわ。それも私の精霊魔法、カーミの黒魔術、ガウリスの槍もろくに効かない状態で、聖剣を持つサードは動けない…!


だったら少しでも防御しながら攻撃しないと!とにかく危険なのは口から吹き出される炎だから少しでも効果が半減するように水で覆う!


リーヴァプネブマを使って水の塊を出現させ、セミロングのドラゴンの頭を水で覆った。

この水の塊でドラゴンの炎が防げるかなんてわからない。でもミレイダが火を吹いた時のことを思い出す限り、まず空気を思いっきり吸わないといけないはず、そうしたら水を吸い込むことになる、だったら少しは弱るかパニックになって攻撃力が下がるかも…。


セミロングのドラゴンもいきなり顔を水で覆われて驚いたのか、ボコボコと息を吐きだしている。そのままめちゃくちゃに頭を振り回し体を動かして水を取り払おうと手で取ろうとしているけど無駄よ、それは私が解除しない限りずっとそのままだもの。

ゴボゴボと水の中でセミロングのドラゴンが何か怒鳴りつけているけれど、そうやって騒けば騒ぐほど水が体の中に入って弱るだけ。


するとセミロングのドラゴンの動きが止まり、次第にその目に手が怒りに燃えてブルブルと震え、口を大きく開けると水ごと息を吸い込む。


え、まさか水を飲むつもり…!?


そう思ったけど、ドラゴンの目は爛々と輝いていて全身がわずかに大きくなって体中が赤銅色の鱗に覆われていっている。


「もしかしてドラゴンに戻ろうとしてるんじゃ…!?」


神殿の外に出ながら言うとアレンが慌てる。


「え!?それやべえじゃん!」


その通りよ、ヤバいのよ。…っていうかアレン、もしかしてあなたずっと木陰に隠れていたの?

まあいいわ、とにかく今は人間と同じ大きさだからある程度対応できているけれど、元々のドラゴンの姿に戻られたら今より厄介…!


それにサードはどうにか聖剣を引き抜きはしたけど、それでもまだ立てない状態でへたりこんだまま。


するとアレンがダッシュでセミロングのドラゴンへと駆けていく。


アレン!?


「うおおおおお!ドラゴンにはさせねぇぞおおお!」


アレンは叫び、(じょう)を槍投げするかのように構えて巨大な人間と化しているドラゴンに突っ込んでいく。

今まで木陰にいたアレンの存在に気づけなかったのか、急に雄たけび上げ駆けてくる姿にセミロングのドラゴンは軽く驚いたような目つきをしたけど、それでもすぐさま怒りの形相に変わる。


「ふざけんなよ!この弱っちい人間がぁあああ!」


ぎらつく目でアレンを捉え、大きく開けた口を向ける。同時にその喉の奥がかすかに赤くチラチラと輝きだして…。


…!炎…!


あんな至近距離で炎を吐かれたら一瞬でアレンは…!


「アレーーン!」

「っりゃーーー!」


私の絶叫とアレンの大声が重なる。


アレンは身体能力向上魔法を使ったのか、ドラゴンまでの二十メートルほどの距離をたった一蹴りで間を詰め、その勢いのままドラゴンの口の中に杖をズンッと深く突っ込んだ。


「オ"エ"ッ」


先にいたドラゴンの膨らみかけていた体は一気に元々の人型に戻っていって、それも膝をついて喉を抑えて「オ"エ"エ"」とえづいている。


「ふう、杖があって助かったぜ」


やり切った感じで額をぬぐい振り向くアレンの仕草とセリフで私の体から力が抜けていく。でもおかげでドラゴンの姿に戻るのは阻止できたわ。


すると短髪のドラゴンが、えづいてむせているセミロングのドラゴンの喉を掴んで持ち上げた。


「このような脅し紛いのことをしてでも頂点に立ちたいのか貴様は、そこにゲオルギオスドラゴンとしての誇りはないのか」


怒りを孕んだような声だけれどセミロングのドラゴンは咳き込みながらもニヤと笑う。


「誇りぃ?そんなもん知らねえよ、どんな手を使おうが勝ちゃあいいんだ、これはそういうルールだろ」


「そんな考えで長になれるとでも思っているのか貴様は」


「っるせえ!あの老いぼれは先に嫁を見つけて自分の元に連れてきた者に自分の地位を譲るつっただろうが!俺はその通りにやってんだぜ!」


「老いぼれ?まさかそれは長のことか?我らが一族の長を老いぼれ呼ばわりとは貴様…!」


短髪のドラゴンの怒りはどんどんと増しているけれど、それでもセミロングのドラゴンは悪びれもしない顔で首を掴む短髪のドラゴンの手を振り払う。


「いいかあの老いぼれの地位は俺のもんだ、いくら頂点の奴だからってその地位からいなくなればただの老いぼれだろ、何か間違ったことでも言ってるかよ!」


そう言うなりセミロングのドラゴンはビュッと動く。その向かう先はサード…!


でも真っすぐ向かうドラゴンに向かってガウリスが槍でその顔を殴り弾き飛ばし、私が下から風を起こして空に巻き上げ、アレンはあっち行けとばかりに石を投げ続ける。


セミロングのドラゴンは上空から見下ろしてこちらの人数を確認するように目を動かした後、私たち全員が敵で数的に形勢が悪いとでも踏んだのかもしれない。


それでもあきらめきれないのか一瞬サードに視線を移して連れて行こうか悩む顔をみせたけど、短髪のドラゴンがサードの前に立って睨みあげるのを見て面倒くさそうな顔になる。


セミロングのドラゴンは、短髪のドラゴンに向かって指をさした。


「どうであれ先に嫁を連れてったほうが勝ちなんだからな、見ていやがれ!」


ドラゴンは空中を旋回するとこの山に来た時と同じ轟音を出して、一直線に暗闇の彼方へと飛んであっという間に見えなくなった。

ゲオルギオスドラゴンが上空を飛んでいる時の音は戦闘機が上空を飛んでいるのとほぼ同じ音です。マッハで進みます。小学生男子が好きなマッハ。

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