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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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道端での正式な依頼

ケッリルたちと別れを告げた私たちは、大きい街道を歩き続けて隣の国に抜けようとしている。


サムラともそうだったけど、長く一緒に行動していたケッリルがいなくなるのは寂しいものね。しばらくボーっとしながら歩いていて、フッとした瞬間に「あれケッリルは?」とつい辺りを探してしまうもの。


それでもケッリルは家族の元に無事に帰って新たに生活を始めるんだから、これからは家族で笑顔で過ごしてほしい。ミレルにビルファ、それにヤリャナも…きっとそれを望んでいるはずだから。


「もう少しで隣の国の国境だぜ」


あ、そうなの、思ったより早く隣の国に入れそうね。


アレンの言葉に頷きながら歩いていく。そうしていると向こうからトボトボと歩いて来る人が目につくようになってきた。

何でか分からないけれど行商人、荷馬車に乗った人、旅行者、冒険者…その全員が沈み込んだ困った顔でトボトボと向こうから歩いてきて「どうしよう…」「どうしようか…」と呟き、会話しながら通り過ぎていく。


何か妙なものを感じながら進んでいくうちに、その原因がよく分った。


「…ウソ…」


呆然と立ち尽くす。アレンもガウリスも立ち尽くしている。


少し向こうに、土砂まみれの雪が街道を埋め尽くしている光景が広がっている。それも大きく太い木々に大きい岩もまじって完全に行く手が阻まれた状態の…。


それを見て納得した。

さっき向こうからやってきた人は隣の国からやってきた人たちじゃない。隣の国に抜けようとしたけどこれは無理だと引き返してきた人たちだったんだわ。


だったらこの道は通れないって一声かけてくれれば良かったのに、何で引き返してきたあの人たちは何も教えてくれなかったの?…ああ、これからどうするかで頭がいっぱいだったのかも…。


無理に雪崩跡を通ろうとする人もいるけど、足がぬかるんで最初の一、二歩ですぐに無理だと引き返した。

見るとこの道を通ろうとしていた人たち全員が困ったとばかりの顔で、


「他に道はあるか?」

「ここを通れなければどうすればいいんだ…」


って話し合っている。同じくアレンも、


「うわー、まいったなこれ。迂回路つったってどこ通ればいいんだこれ、あっちの道は冬は閉鎖されてるしあの道は冬は危険そうだし…やっべ、ここ潰れたらあっちの国に抜ける道が他にねぇわ」


アレンは私たちの顔を見渡して、


「とりあえずこの国から出ようってことでこっち来たけど別の国に行く?そうなったら結局引き返さないといけないけど。…むしろもうちょっとで隣の国だったんだけどなぁ〜…ここまで来て引き返すのかぁ~…」


アレンがトボトボ引き戻していった人たちと同じ沈み込んだ困った顔をしている。


でもこれじゃあ進めないし…戻った方がいいわよね。


そう思いながらガウリスを見上げると、ガウリスも私の視線を受け止めて、そうですね…と頷いている。


「じゃあ戻りましょう?」


一人何も言わず土砂混じりの雪崩跡を見ているサードに声をかけると、サードはクルリと振り向いた。


「エリー」


「ん?」


サードは雪崩跡に指を向ける。


「どうにかしてください」


「…」


は?何言ってんのこいつ、私一人でこの雪崩を片付けろとでも?何考えてんのこいつ馬鹿じゃない?


よほど私は変な顔をしていたのかサードはかすかに鼻で笑い、


「魔導士連盟のミズリナさんがおっしゃっていたではありませんか?エリーの魔法であるサブマジェネシスは山をも動かせると」


サードはそう言いながら土砂崩れに視線を移し、


「それならあれを動かすくらい容易いことですよね?」


「でも…」


口をつぐんでからサードに訴えた。


「私はランディキングに地面をあまり割らないでくれって言われているのよ?ウチサザイ国でのランディキングの怒ってる姿見たでしょ?土を好き勝手に動かしたらあんな感じで私に怒ってくるかもしれないわ。そうなったら私じゃ太刀打ちできない、殺される」


サードは何言ってんだこいつ、という顔をして、あくまでも表向きの声で続けた。


「別にこの土を使って人を生き返らせろとは言っていませんし、地面を割れと言ってもいません。ただこの雪崩を両側に寄せてほしいだけです。それに今までだってエリーは土を使って盛り上げモンスターを閉じ込めたりしましたが、そのことについては何も言われていないでしょう?」


「それはそうだけど…」


…。でもまぁ確かにサードの言う通りだわ。ランディキングが私に注意してゾルゲに対して怒ったのは、人の生活に害が出そうなことと人の命を好き勝手にしたようなものだったし。

じゃあ目の前の土砂混じりの雪崩をを脇に除けるくらいなら大丈夫かしら、私たちも困ってるし他の人たちも困ってるし…。


それなら、と私は地面に杖をついてサブマジェネシスを発動させる。

同時に街道を塞いでいた雪と土砂がゴンッと音を立てて動きだした。


とにかく人が通れるよう雪崩に土砂を脇に寄せて高く積み上げる、でも力を抜いた瞬間崩れてこないよう山側に(なら)しながら…。


「ファッ!?」


あっという間に雪崩跡が動いて道が出来ていくのを見た人たちから驚きに満ちた声が出ている。

皆が何が起きていると混乱の顔を浮かべて辺りをキョロキョロして、一人が振り向いて私の姿を見つけると「あ!」と指差した。


「勇者御一行…!」


その声に皆も振り向いてきて歓声を上げだした。


「勇者御一行だ!勇者御一行のエリーさんが魔法を使ってる!」


ワァッ…!と皆が盛り上がりながら私に視線を集中してくるけど…やめて…!魔法使っている時にそうやって集中して見られるとすごく目立ってる感じで恥ずかしい…!いや多分実際ものすごく目立ってるけど…!


とにかく皆からのキラキラした目を気にしないように奥の方まで意識を集中させて雪崩を両方の山側に全て寄せておいて、街道を元通り歩ける状態に戻しておいた。

まぁ地面はちょっとぬかるんでいるけれど、少し濡れているくらいだし別にいいでしょ。


すると全て終わったらしいと察した人たちが一斉にわっと駆け寄ってくる。


「ありがとうございます、これで今日中に隣の国に行くことが出来ます!」


「さすが勇者御一行の女魔導士エリー!」


「こんな数秒で道を開通できるなんてすごい!」


皆にわいわい囲まれ声をかけられ、曖昧(あいまい)に微笑んで対応する。

感謝されるのは嬉しいけど、こうやって過剰に注目されて囲まれるのは得意じゃないのよ…。


するとぞくぞくと集まってくる人を横目で見たサードが一声私にかけてくる。


「さすがエリー、素晴らしい魔法ですね。いつ見ても惚れ惚れします」


そんなサードの言葉に集まってくる人たちは私に対して、


「さすが!」「噂通りの強さ!」「いよっ」「ありがとう!」「かっこいー!」「素敵ー!」


ってあれこれと褒めたたえてくる…。


…サード、あなたもしかして自分が注目を受けたくないからって、私をおだてて皆の視線が自分より私に向くように仕向けてない…?


それでも人はどんどん集まってきて、このまま放っておいてこの大量の人々に囲まれ続けたら時間を食ってしまうとサードは思ったのかもしれない。


「さて、そろそろ行かなければ日が暮れてしまいそうです。道も通れるようになりましたし、そろそろ行きましょう」


サードのよく通るその声で皆も我に返り、少しずつ、それでも名残惜しそうに隣の国へ向かって行く人たちもで始めた。

それでもまだ興奮して私や他の皆に声をかけて話し続ける人たちもいる中、後ろから「あの…あの…」と遠慮がちに声をかけられているのに気づいて、振り向く。


そこには眼鏡をかけた、ふっくらした体型の中年の男の人が寒い季節だというのに汗をかきながらそこに立っている。


サードも後ろを向いてその人を見ると、


「どうしました?」


と聞いた。男の人はハンカチで汗を拭きながら、


「勇者御一行なんですよね?」


と聞くから「ええ」とサードは頷く。

すると男の人はホッとした顔になると「実は…」ともう一歩寄ってきて、肩かけカバンから紙を取り出してサードに差し出した。


「少し前にハロワに出された依頼があるんですけど…あ、私ハロワの職員をやっていまして、隣の国のハロワに回覧を回しに行く所だったんです。よろしければこの依頼を受けてはいただけませんか?」


「…」


サードは微笑んだまま男の人を見ている。表向きの表情は全く崩れないけれど、面倒くせえ、と言いたげなのはすごくよく分かる。


それでも周りからは自分たちの目の前で勇者御一行にハロワ職員の男の人が正式に依頼を出しているぞ、と、ものすごく興味津々な顔で注目されている。


さすがにこんな中で無下に断るのは得策ではないとサードも判断したのか、


「見させていただきましょう」


と差し出された紙を受け取って目を動かし文字を読み…、かすかに表情を変えて目を見開いた。


「何、どんな内容だった?」


アレンもサードの横に張り付いて覗き込んで、ウエッと声を出す。


「ゲオルギオスドラゴンの…討伐…!?」


* * *


『ゲオルギオスドラゴンの討伐

あちこちの町や村からのまとまった依頼。ゲオルギオスドラゴンによる害が増えている。これ以上被害拡大を防ぐため討伐を願うとのこと』


依頼内容の文章はその程度のあっさりしたもの。…それでも私たちは今、宿泊しているホテルの中で絶望的な顔で沈み込んでいる。


「ゲオルギオスドラゴンって…ミレイダじゃん?あんなでかいの相手に戦うのかよ…」


アレンが暗い表情でぼやく。


ゲオルギオスドラゴンは本来非常に荒い性格で、人を襲うドラゴンの大半はこのゲオルギオスドラゴンだってされている。

それでもソードリア国で出会ったゲオルギオスドラゴンのミレイダはすごく気さくな性格で全然怖くもなかったし、むしろ楽しい人だったけど…。


それでも一緒にマダイの塔を攻略している時にミレイダが吐いた炎の威力はすさまじかったわ。

一瞬で石が溶けて、直接炎を当てられたわけでもないのに近くにいるだけで顔が火傷してしまうと思うほどの熱気が押し寄せて…。

それも質も良くてドラゴンの牙で炎の耐性もバッチリついていた私のローブですら茶色く焦げてしまった。


あの後焦げたローブを直してもらおうと専門の所に持って行ったけれど、その専門の人たちは「どうしてこんなに強化されたこの装備が焦げてるん…?」ってすごく混乱していたっけ。


ミレイダは味方だったから良かった。でもあんな炎を吐くミレイダと同じ種類のドラゴンと敵対して戦うだなんて…。無理に決まってるわよ、ドラゴン姿だと空に頭が届くくらいの大きさなのよ?そんなの相手にどう戦えって?


はぁ、とため息をついて、ハロワ職員の男の人に依頼を出された時のことを思い出す。


「ゲオルギオスドラゴンの…討伐…!?」


アレンが大声(本人的には普通のボリューム)でそう言った瞬間、周りに集まっていた人、通り過ぎていく人、通り過ぎていった人たちも一斉に立ち止まってザワッとどよめいた。


「ゲオルギオスドラゴン…!?」


ドラゴンは滅多に会えないけれど、他のドラゴンと比べたらゲオルギオスドラゴンは割とよく人前に現れる。

そう、いきなり現れたと思ったら辺りを壊滅状態にして去っていく。それがいつ来るかも分からないし、来たのが分かってもどうにもできないから一部ではゲオルギオスドラゴンのことを「あんなの動く大災害だ」と言う人もいる。


そんな大災害級の被害を出すドラゴンがどこかで暴れているとの依頼内容に、その場にいた皆が恐怖で一瞬凍りついた。…でもその全員が私たちを見て「ああでも勇者様たちがいるなら」と期待と安心の目で見つめられて…。

そこまでくるとサードも完全に断るのは不可能と察したみたいで、別次元に意識が飛んでいるような顔つきで返したのよね。


「お任せください、私たちでどこまでできるか分かりませんが、やってみましょう」


…そうやって半ば意識の飛んだ状態で依頼を受けたサードだけど…。


チラと今現在のサードを見るとものすごくイライラした顔で、


「つーかアレンてめえ、てめえがでけえ声であんなこと言わなけりゃ他に依頼があるって断ることもできたんだぞこのクソが」


って言いながらガスガスとアレンの足を蹴とばしている。アレンは「ああん」と痛そうな顔をしながら蹴られるがまま。


「ごめんってぇ、俺独り言の感覚で呟いただけなんだよぉ」


アレンはそう言っているけれど、確実にあの声の大きさは独り言レベルの呟きじゃないのよ、遠くにいる人に気づいてもらおうと声を出すレベルの大きさだったのよ。驚いて声が大きくなっちゃったんだろうなってのは分かるけど…。


そこでハッと思い出した。

そういえば世界中にミレイダのお友達のドラゴンが居るって話だったじゃない、もしかしたらその暴れたゲオルギオスドラゴンはミレイダのお友達かもしれないし、それだったら話し合いでどうにかなるんじゃないかしら!


「ねえ皆…」


今考えたことを嬉々としながら伝えてみた。サードはそれを聞いて私の大きいバッグからミレイダに渡されたどこにドラゴンがいるかの紙を見たけど…渋い顔で首を振る。


「どうやらこの周辺にミレイダの知り合いはいねえ。暴れたのはミレイダと知り合いのドラゴンじゃねえだろうよ」


「そう…」


「でもさ」


とアレンは身を乗り出した。


「今までもドラゴンに何回か会って来たけど色々と解決してきてるし、大丈夫じゃね?サードにエリーもいるし、龍のガウリスもいるし」


そんなのん気なアレンの言葉にサードはイラッとした表情で睨みつける。


「簡単に言いやがって…てめえ一人でどうにもできねえくせに…」


「俺一人じゃ無理だけど皆となら大丈夫!」


なんの根拠もない明るい前向きな言葉にサードはブチッとキレた顔をして、アレンはそんなサードの顔を見てこりゃやべーわと察した顔になってシュパァンッと部屋から外に逃げ出した。


「待てゴルァア!てめえも武道家なら向かってきやがれ!」


サードは部屋から怒鳴ったけどアレンを追いかけることもなく、イライラとした顔のまま依頼の紙を手に持ってギチギチと握りつぶしてしわだらけにしていく。


「…でも依頼は受けちゃったからどうにかしないといけないのよね…」


正直ドラゴンなんかと戦いたくない。それでも公衆の面前で引き受けてしまったんだからやらないといけない。


「とりあえずは情報収集でしょうが…戦うとなったらどう戦えばいいのでしょう…。ミレイダさんがドラゴンになった時の天を突くほどの巨体にあの炎の威力を考えると私は役に立てない気が…。槍もそうですが魔族関係ではないので聖魔術も効かないでしょうし…」


「エリーの魔法と俺の聖剣でボッコボコにした後に目とか鱗の隙間狙って槍をつき刺せばいいだろ。とにかく急所だ、急所を狙って突け。目に眉間、首の太い血管が通ってそうな所を集中して狙え」


サードはイライラしながらもドラゴンとの戦いのことは考えていたのか即座に答えるけど、その言い方だと卑怯技の伝授みたいに聞こえて仕方ないのよ。

道を埋める土砂混じりの雪崩を寄せたエリーの元に集まってきた皆

「エリーさんすごいすごい!かっこいいー!ヒュー!」


エリー

「(ここまで目立ちたくない…注目されるの得意じゃない…)」


エリー

「…」(曖昧な微笑み)


「(女魔導士エリーは物静かな女性だって聞いてたけど、本当だ…!)」

「(ちょっと照れくさそうな感じで控えめに笑ってる姿可愛い)」


サード

「(…大人しい見た目に騙されてらあ)」

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