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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ヤリャナとビルファ

ケッリルとミレルの出身国、ロースライス国に入国した。


少しずつ少しずつ家に近づくにつれミレルは無言になることが増えて、無言のミレルと無言のケッリルが並んでいるとミレルの口元はケッリル似だと分かった。


和やかに会話をする場面ももちろんあったけど…それでもミレルは緊張している。


「先にお母さんに会いに行きたいんだけど…いい?お見舞いってことで皆でさ。こっからなら家よりお母さん入院してる病院の方が近いから…」


「私たちが一緒でも大丈夫?」


聞くとミレルは頷く。


「…勇者御一行が一緒だったら、ちょっとテンション上がっかもしんないから…」


ミレルの顔を見る限りそんなことにはならないだろうって表情だけど…それでも不安だから私たちについてきてほしいのかもしれない。

ケッリルのこともチラと見ると、かすかに頷いた。一緒に行っても大丈夫ってことね。


だから足をミレルのお母さんがいるという病院に向けて、少し大きめの町の病院の前にたどり着く。


「ここでまっててね、ノス」


ノスはお座りって意味よね。ミレルの指示でプリンとパフェは病院前の門の脇でビシッとお座りする。


ミレルとケッリルはどこか緊張の面持ちで病院を見つめてから意を決したように歩き出した。その後ろをついていって受付にたどり着く…。


すると受付の人たちは私たち…主にアレンを見てからサード、私、ガウリスと視線を素早く動かしてざわっと総立ちになった。


「勇者御一行!?え?誰かサプライズで慰問でも頼んだ!?聞いてない?え?誰!?院長ー!!」


混乱して偉い人を呼び出そうとする受付の人たちを押し留め、サードがミレルを手で指し示して、この家族のお見舞いの付き添いで訪れただけと伝えた。

そうしてサードの説明を聞いて冷静になった受付の一人が、どなたのお見舞いですかと聞いてミレルがお母さんの名前を答えると、


「でしたらこちらです、どうぞ」


と出てきて案内してくれる。


「この部屋です」


案内してくれた受付の人は扉を開けてから、少し心配そうにミレルにそっと声をかけた。


「お母さん、声をかけても反応がそこまでないんです…それでも声は聞こえていますから、優しくお声がけくださいね」


「…うん」


ミレルに続いてケッリル、そして私たちも中に入っていく。

中は薄いカーテンがかかっていて…どうやら一人部屋みたい。ベッドは一つだけ。そのベッドの上にはほっそりとした体の女の人…ミレルのお母さん、ヤリャナが半身を起こしてカーテンのかかっている窓を見ている。


窓を見ているから顔は見えない。それでも長くくねった茶色の髪の毛だけはミレルに似ているわ。


「何かあったら声をかけてくださいね」


受付の人は私たちにそう声をかけてからそっとドアを閉めて立ち去っていった。


こっちを全然見ないヤリャナにケッリルは一瞬躊躇したけれど、


「ヤリャナ?」


と静かに声をかけながら近寄っていく。


ケッリルの声だと気づいたのかそこで人が入ってきたと気づいたのか。


ヤリャナはぐるりと振り向いた。全体的にミレルと似ている。それでもその顔はどこか沈み込んでいてこちらを見ているような、見ていないような…そんな視線。


「ヤリャナ」


ケッリルは早足で近づいてヤリャナの隣に座る。ヤリャナ表情を動かさずジッと見ていて、ケッリルはフードを取り払って目を合わせた。


「ヤリャナ、帰って来たよ。…大変な時に一人にしてすまない、でももう終わった。もう何も心配することは無いよ」


ケッリルは恐る恐るヤリャナの頬に手を伸ばしてそっと撫でる。ヤリャナは黙って頬を撫でられるままにケッリルを真っすぐに見ている。


…私だったあんな至近距離でケッリルに見つめられながら頬を撫でられたら腰から崩れ落ちそうになると思うけど、それでもヤリャナはじっと黙ってケッリルを見ている。


と思ったらスッ…と視線を逸らして窓に顔を向けた。


拒否されたと思ったのかケッリルの顔が見捨てられた子供みたいに落ち込んでいく。それを見たアレンはグルグルと腕を動かし、無言で「頑張れ!ケッリル頑張れ!」と応援している。


「お母さん」


ミレルもそっと近寄って、ヤリャナの顔が向いている方向にしゃがんで見上げる。


「お父さんも帰って来たよ、私は…お金を稼がないといけないからまたもう少ししたら外に出ていくけど、それでもまたすぐ会いに来るよ。だから…だからさ…」


ミレルはそこで一旦口をつぐんで、


「だからまたお父さんとお母さんと私とビルファで一緒に暮らそうよ。もう魔族とか黒魔術とかそんなのは終わったんだよ、全部終わったの、勇者御一行が解決してくれたの。勇者御一行も今ここにいるんだよ、もう大丈夫だから…」


ミレルはそこで口をつぐんで黙ってヤリャナの顔を見上げ続けている。


ヤリャナはミレルを見ているのか見ていないのか…わずかに頭を下げて視線を向けているように見えるけれど、私が立っている場所からはどんな表情をしているのか分からない。

それでもミレルが口をつぐんで黙り込むその様子を見る限り、あまり喜ばしい顔はしていないのかも。


「魔族は嫌い」


かすれたようなか細い声が聞こえて、ケッリルとミレルがハッとした顔でヤリャナを見る。どうやらヤリャナが喋ったみたい。

関係のない私たちもハッとして、ヤリャナが喋る邪魔にならないように気配を最大限に消して黙っておく。


もしかしたらそれ以上何も言わないかと思ったけどヤリャナはボソボソと喋り続けた。


「魔族は嫌い…魔族が居るからこうなって…なんでうちがこんなことに…子供が出来るって幸せなことなのに、なんで子供が生まれたのに幸せになれないで、あいつは家から出る羽目になって、私はこんなに悩んで、苦しまないといけなくて…」


ケッリルは辛そうな顔でヤリャナを抱きしめるように肩にそっと手を回す。


「ヤリャナ、私は帰ってきた。もう遠くには行かないよ、だからもうそんな風に苦しまなくてもいい」


途端、ヤリャナはケッリルの腕を振り払うと、ギッと目をつり上げた形相でケッリルの顔に拳を入れた。


ああっ!ケッリルの整った顔になんてことを…!いや違う今はそんな事を考えてる場合じゃない!


ケッリルは殴られた頬を抑えながらヤリャナを見ている。


ヤリャナは目をつり上げたままベッドに立ち上がってケッリルに指を向けた。


「二人目はもっと自分から率先して子育てするって言っただろうがてめえこの嘘つきが!ミレルの時には私の指示待ちでその辺でぼんやり見てるだけで遊ぶときは率先して動くくせにご飯とかおむつ替えとかお風呂とか全部私がいちいち指示出さないと動かないしあんたにいちいち指示だすのが面倒だから放っておいたら今度は近所の女どもが目ざとく困ってるあんたに手を貸すみたいに群がって色目使いやがって…!」


ヤリャナはブルブルと震える手をケッリルに向け続け、そしてベッドに膝をついてベッドをドムドムと殴り続ける。


「それなのに二人目は魔族がどうのこうので結局子育てはあたしだけじゃねえか!てめえだって自分の仕事と二人の子育て一人でやってみろよ、そりゃてめえだってビルファ助けるためだっての分かるよ、分かるけど普通首も据わってねえ赤ん坊と産後間もないあたしを置いていくかよ!?いずれ魔族に忠誠誓うつったって歩けもしねえ話しもしねえガキが魔族に忠誠誓えるわけわけねえだろ、せめてビルファが五歳になるまで家にいろよ!馬鹿が!この馬鹿が!」


ヤリャナはケッリルの襟元を掴んでガクガクと揺らしてケッリルを殴りつけている。


「あ、いや、でも、私は…」


「分かってるつってんだろ!それでもビルファ見る度に魔族が家に居るような感覚で怖かったんだよこっちは…。…それもなんか違う、ビルファは何か…何か違う…」


怒り狂っていたヤリャナは今度は顔を青ざめさせてケッリルにしがみつく。そして顔を歪めてボロボロと涙を流しながらおいおいと泣き出した。


「ごめん、ケッリル本当にごめん、ごめんなさい、ごめんなさい、私何度もビルファとミレルを殴ってた…」


「…」


ケッリルは黙ってヤリャナを抱きしめる。


「でもビルファは絶対何か違う、子供らしくない、笑ってる、いつでも笑ってる…怖い、暴力を振るっても怒鳴りつけても笑ってて…そんなビルファが怖くて…怖くて…!あれも魔族のせいなの?分からない、何も分からなくて、怖くて…ごめんケッリル、私あの子を生かしておいたらダメだと思って何度も殺そうと…!」


「ヤリャナ」


ケッリルはヤリャナの名前を呼んで言葉を止めた。


「それ以上は言わなくていい」


ケッリルはもっとヤリャナを抱きしめる。


「魔族のことはもう考えなくてもいい。君が今までしてしまったことも何も考えなくてもいい。今はただこのまま黙って隣にいて欲しい」


「…」

ヤリャナは無言でボロボロと涙を流して黙りこんだ。ケッリルはヤリャナの頭を撫で、そしてこちらに目を向ける。


「ヤリャナが落ち着くまで傍にいたい。悪いがミレルたちはビルファの所に先に行っててくれるかい?私は後で追いかけるよ」


「…うん。またね、お母さん」


ミレルはヤリャナの手を握ってから私たちを引き連れて外に出た。


「…お母さん、昔とあんまり変わってなかった」


病院から少し離れてからミレルがポツリ呟くと、サードはふっ、と笑う。


「大丈夫ですよ。ケッリルが戻ってきましたから」


振り向くミレルにサードはかすかに笑いながら、


「ケッリルの女性の転がし方はとても上手ですからね。あのように怒っても泣いても献身的に心の穴を埋める言葉を投げかけるケッリルが隣にいるのなら、ヤリャナさんも少しずつ落ち着くでしょう」


娘の前で父親の女の転がし方が上手いなんて話するんじゃないわよ。


かすかに睨みつけるけど、それでもミレルは泣き笑いの入り混じった顔で笑った。


「だったらいいな。それなら昔みたいに皆で暮らせるからさ」


するとサードは妙な顔をしてミレルをじっと見る。


「…自分に暴力を振るった親とそこまで一緒に暮らしたいものですか?」


ミレルはサードを見て笑う。


「だってお母さん好きだもん」


サードは一瞬信じられねぇという表情を見せ…もちろん表向きの顔でわずかに眉をひそめた程度の変化しかなったけど、それでもミレルに聞こえない程度の小声で毒つくのが聞こえた。


「変わった奴だな」


* * *


「そこが家」


ミレルはそう言いながら実家だというちんまりした木製の家を指さす。


…誰も住んでないって分かっているせいかしら、どこか物寂しい風情が漂っているわ。

私も四年空けていたディーナ家を見た時…荒らされていていたのもあるけれど、それ以上に人の住んでない家ってこんなにどんよりする?ってくらい沈んでいる雰囲気だった。人が住んでいない家って外観がそうなっちゃうのかしら。


それでもミレルは家にたどり着く前に隣の家へと進んで扉を叩いた。するとすぐに人…年配の恰幅の良いおばさんが顔を出して、驚いたように歓声を上げる。


「ミレル!?ミレルじゃないの!」


「おばさんマジ久しぶり!帰って来たよ。あ、あとこっち勇者御一行」


ミレルはそう言いながら後ろにいる私たちを指さすと、隣の家のおばさんは顔を向けて「何変な冗談言って…」と笑いながら視線を逸らしかけたけど、すぐさま「あれ?」と二度見してきて目を見張る。


「え、え、本当に…!?何よ、モデルって勇者御一行とも会うことあるの…!?」


おばさんは立ち話も何だからと慌てて家に招き入れ、でも家の中のゴチャゴチャしている所を慌てて片付けながら奥の扉に向かって声を立てる。


「ビルファー!ミレルが帰って来たよ!私はお茶の用意するから相手しな!」


その声で家の奥から足音がして、扉を開けてビルファがやって来た。


愛と美の神のひ孫、ケッリル似のミレルの弟。皆も興味津々だったのか奥から出てきたビルファに視線を一斉に向ける。


見た目は確かにケッリルに似ているかも。どこかアンニュイな雰囲気を漂わせた、十歳程度の少年。それにその目…ケッリルほどじゃないけど吸引力がすごいわ。

まだ少年だからこの程度なのかもしれないけれど、もっと成長して大人になるころにはケッリルと同じように五秒ぐらいで女の子を落とすようになるのかも…。


ビルファはふっと視線を上げて私たちと目が合うと、すぐにニコ、と笑った。笑うとアンニュイな雰囲気は払拭(ふっしょく)されてミレルみたいに一気に人を惹きつける微笑みになる。


「皆は姉さんのお友達?」


「ええ」


ビルファの言葉にサードが軽く返すと、ビルファは髪の毛をスッと後ろに流して手首を裏返しにして人さし指を私たちに向け、バチコン☆とウィンクをしてきた。


「ゆっくりしていってね!姉さんの友達なら僕は大歓迎さ☆」

そのころレーシカ


冬の神

「おたくの子孫の踊りは本当に素晴らしかった、また見たいものだなぁ」


レーシカ

「なら僕が本気を出して踊ろうか、君を骨の髄まで虜にしてみせるよ☆」(バチコン☆)


冬の神

「いやいい」


ゼルス(ゼウス)&リンデルス(アポロン)

「ヒューヒュー踊って踊ってー!」


冬の神

「そういやあんたら誰」


ゼルス&リンデルス

「私はサンシラ国の最太陽高神ゼリンルデルス、雷に信託に芸自然を操り能に…」


冬の神

「一人ずつ喋って」


バーリアス(ヘルメス)

「俺飽きたから帰るねー」


冬の神

「来たばっか」


レーシカ

「ツッコミご苦労さま☆素敵だよ!」(髪の毛をかき上げる)


冬の神

「(…異国の神って変なのが多いんだな…)」(←変な誤解の定着)

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