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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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ミレルの喜びと不安

予想外にも急激に現れた愛と美の神でケッリルのお爺さんだったレーシカが動いたおかげで今回の事はあっさり終わった。


冬将軍が通ったあとはしばらく冷たい風が吹いて雪が降り続けて、そんな中を下山して…一晩明けたらサード、ミレル、ケッリルは無事に元の年齢に戻った。


元に戻ったサードにアレンが、


「サード、子供の時の記憶ある?すっげー小っこくて可愛かったんだぜ」


って周りをチョロチョロしながら聞いていたけらど、サードは眉間にしわを寄せて吐き捨てた。


「ねえよ、気持ち悪いこと言うな」


…。

でも私は知っている、子供に戻った時の記憶はしっかり残っているって。


だって元に戻ったミレルは朝の起きぬけに私に言ってきたもの。


「なんか山で色々と勝手に動いてごめん。あんなサタラナゴートの訳分かんない言葉そのまま信じて助けようとか言って皆に迷惑かけたしさ。今となってはありゃ嘘だって思うよ、マジごめん。子供の私が」


それを聞いて、子供に戻った時の記憶は残っているんだなぁと思っていたけど、サードは子供に戻った時の記憶は一切ないと言い張っているのよね。


どうやらサードは子供に戻った時の記憶は無いことにしておきたいみたい。


まあ、そうかも。子供の姿を見られたのでもプライドの高いサードにとっては屈辱的でしょうし、今まで散々ブスだのなんだのとなじってきた私を口説いた記憶があると気まずいのよね…。


そう理解した私は記憶がないというサードの言葉に何も言わないでおくことにしたけれど、ミレルは何でサードは記憶がないふりをしているんだろうと不思議そうにしていたから、その場から遠くに連れて行ってこっそり釘を刺しておいた。


「サードは気まずいだけだから、記憶がないって言っててもあんまり突っ込まないであげてね」


それでもミレルは不思議そうな顔で腕を組んで、


「何が気まずいのさ、エリリンの顔が好きって言ったこと?隠しておきたいのかな?それよりやっぱエリリンって勇者様とできてんの?おふざけのスキンシップしたらエリリン怒ったとか言ってたけど、私に内緒でどんなスキンシップを…」


「だからそういうの言わなくてもいいんだってば。ほら、誇り高い勇者なんてやってるんだもの、子供の時の姿を見られたのが気まずいのよ」


「ふーん、分かった」


あっさり頷くミレルにほんの少しの心配があったけど、実際子供に戻った時の話は一切しなかった。

それというのもシビルハンスキーのパフェとプリンと関わることに熱中していて、そんな子供に戻った時のことはもはや過ぎ去った出来事として頭から追いやられたみたいだから。


よだれが垂れそうなほど幸せそうな顔で二匹にしがみつくミレル。

でも、お別れの時間は刻々と近づいてきている。


だって皆が無事に元の年齢に戻った今、二匹を飼い主に戻すため首輪にかかれている住所に向かっている所なんだから。


場所は今いるデベル国の国境に近い所で、その場所にはすぐたどり着いた。

アレンも地図を確認してここに間違いないと雪の積もった簡素な家のドアをノックして出てきたのは、随分と小柄でこんな大きなシビルハンスキーを扱えもしないのではと思うほどのお婆さん。


「…はい?…あっ」


いきなり現れた見ず知らずの冒険者に困惑し警戒しつつ、その背後にいるシビルハンスキー二匹を見たお婆さんは顔色を変えた。


「もしかしてセイドレとハジオ?連れて来てくれたの?」


そう言いながら出てきたお婆さんにシビルハンスキー二匹は鼻をピスピス鳴らし尻尾を振りながら近づいていく。

ちょっとミレルが心配になってチラと振り向くと、自分から離れていく二匹を見てあからさまに肩を落として落ち込んでいるわ。

でもしょうがない、元々の主人の家に帰ったほうが二匹にとっても嬉しいことでしょうから…。


そう思ってお婆さんに視線を戻すけど…お婆さんはさっきの嬉しそうな表情から一変して、困ったような渋い表情をして二匹の鼻の頭を撫でている。


「…あまり嬉しそうではないですね、何か二匹のことで困り事でもあるのですか?」


サードが声をかけるとお婆さんは本当に困ったような曖昧(あいまい)な笑みを浮かべて、


「実は…旦那がセイドレとハジオを子供のころから育てて物の輸送に乗り合いソリにって腕を振るっていたんだけど…最近痴呆気味で仕事が出来ないのよ…。たまに正気に戻ることもあるんだけど、すぐ物忘れしちゃって。

この子たちが逃げたのもそのせい、旦那が急に正気に戻って仕事しないとって首輪を外して、後は何をするのか忘れて家の中に戻って来ちゃったみたいなの。あれまさかと思って外に出た時にはもう二匹の姿がなくなってて…」


お婆さんはため息をついて、


「二人暮らしなら今まで貯めたお金で生活できそうだけど旦那も度々外に出るから目が離せないし…この年齢だもの、この子たちの遊び相手も散歩も私にはできっこないわ。…無事に見つかって戻って来てくれたのは本当に嬉しいんだけど…でもね…」


今のお婆さんの表情は二匹が戻ってきて嬉しいっていうより、痴呆気味のお爺さんと二匹のシビルハンスキーを抱えてこれからどう生活していこうってものすごく悩んでいる顔つきだわ。


すると颯爽とミレルが長い腕をスラッと上げた。


「じゃあ私飼う」


その言葉に全員がミレルを見た。でもお婆さんは即座にお勧めしないとばかりに首を横に大きく振る。


「この子たちは飼いづらいのよ?元々危険なモンスターだしペットにするには上級者向けなの。お金も体力もすごく必要よ?」


でもミレルはあっけらかんとした顔で続ける。


「私読モでかなり金稼いでっから二匹ぐらい飼えるよ。これからもモデルで金稼ぐつもりだし若いし体力あるし、私めっちゃ遊ぶし散歩もさせるし可愛がるししつけもちゃんとするし最後まで面倒も見るよ。だから私飼う、困ってんならパフェとプリン私に譲って」


「…パフェとプリン?」


「こっちがパフェでー、こっちがプリン」


ウキウキした顔で二匹を指さして、近づいてギューと幸せそうな顔で抱きしめる。二匹は嬉しそうにミレルにまとわりついて、ミレルは余計嬉しそうに笑う。


それをみてお婆さんの表情も少し変わった。でも真面目な顔で質問する。


「…後悔しない?本当に扱いづらいわよ?お金もかかるしお世話も大変。遊ぶのも命がけよ?力が強いから遊んでるだけで人を殺すことだってあるの」


「でも決めたから」


真っすぐなミレルの目を見て、お婆さんの表情が柔らかくなった。


「…そうね、どうせなら可愛がってくれる人に譲ったほうがいいわね。少し待ってて」


と家の中に戻って、小さい冊子を持って戻るとミレルに渡す。


「あれこれ言ったけど、この子たちはうちの旦那が(しつけ)をしっかりとしてるから言われたことはちゃんと聞くわ。これはここら辺でシビルハンスキーをしつける時に使う命令の言葉なの、これは覚えておいてね。

あとこの子たちは首輪を外してそのままにしたらその辺を駆け回ってもいいと記憶してるからそれに気をつけて」


ミレルはパッと嬉しそうになって、


「ありがと、ほんと可愛がるから」


そんなシビルハンスキーを譲り渡される様子を黙って見ているケッリルに、私は近寄ってそっと聞いてみた。


「止めないの?」


ケッリルはミレルが子供になっていた時、いくら飼いたいとねだられても知らないふりをしたりダメダメと言っていたのに、今は一切止める気配がない。

ケッリルは軽く頷いた。


「あの時と違ってミレルも大人だから…本人が最後まで飼うと決めたのなら止める理由もない」


そっか、と思っているとお婆さんは寂しそうに二匹を撫でて…これでお婆さんとシビルハンスキーたちはお別れなのねと見ている私も寂しく思っていたら、お婆さんはミレルに視線を移す。


「それじゃあ、今から公安局に行きましょう」


「え?」


「この子たちはモンスターだからこのまま譲って終わりじゃないの。飼い主が変わりますってことを公安局に届け出ないといけないのよ。それからシビルハンスキーを飼うための講習を受けてもらって、それから本当に飼い主に向いているかのテストもされるから…」


「…うわー何それマジめんどくせーんですけど、聞いてねー」


ミレルは額を押さえて天を仰いだ。


「じゃあやめる?」


お婆さんがそう聞くとミレルは慌てて、


「やめない!飼うし!」


と返した。


その後は…本当に面倒くさそうだった。

細々とした面倒な書類の手続きはその日の夕方に終わったけど、その後に控えていた講習が大変そうで。

シビルハンスキーの生態とか飼い方とか命令の仕方とかをひたすら習って、その日に習ったことを一日の最後にテストされるのが数日続く。(その間パフェとプリンの二匹は専門の調教師の元で一時預かっているって)


ついでに最後のテストでダメだと判断されたらまた次の日に繰り越しされてまたテスト。どうやらオーケーが出るまで同じ講習とテストが続くみたい。

そしてミレルはシビルハンスキーへの命令語録が覚えきれないようで苦戦していて、今日で三日目。


「もー、私こういう頭使う系苦手なのにー!マジごめん、皆マジごめん、私のせいで時間くってマジごめん。えーと、ノスはお座りと待て、ノースは唸らない…。あーもー何でこんな似た言葉にすんの?これ考えた奴許せねー」


ミレルは泣きそうな顔で必死にお婆さんからもらった命令語録の冊子を暗記しようと頑張っている。


「思えばサードも子供に戻った時、シビルハンスキーにあんな命令して動かしてたぜ」


アレンがそう言うとサードはミレルの前だから表向きの顔で、


「御者が命令する様を聞いて覚えていたのでしょうね。私は昔から覚えが早いほうですから」


ってやっぱり子供に戻った時のことは覚えていません的な態度で返した。


…でもそれって、御者の命令でシビルハンスキーがどう動くのかを見て、あの意味不明な言葉は命令の言葉だって気づいて、あとは一回聞いただけで覚えたってことでしょ?

だってシビルハンスキーを使っての戦いなんて雪だるまを追い払ったあの一回しか見てないのに、サードは戦闘用の命令もしっかり覚えてサタラナゴート相手に実践で使っていたもの。…相変わらず頭の中が怖い奴…。


そう思っているとミレルはそんなサードを恨みがましそうに軽く睨みつつ、


「いけすかねー」


って悪態をつきながらひたすらブツブツと呪文のように命令を唱えていた。


* * *


「やったー!これでシビルハンスキーの飼い主認定されたー!」


ミレルが嬉し涙を流しながら皆に見せびらかすように認定カードを頭上に掲げる。


「おめでとうミレルー!」


私もアレンもガウリスもケッリルもミレルを取り囲んでおめでとうを繰り返したけれど、サードはどこかしら「やっとかよ…」と言いたげな雰囲気で黙っていた。


まぁ確かに思ったより時間はかかったけれどミレルは苦手な勉強を毎日頑張っていたんだもの、本当に良かった。


そうして次の日にはミレルが飼い主として胸を張りながらパフェとプリンを迎えに行き、本来の目的だったミレルとケッリルの故郷へと足を進める。


「いやー、なんか二人を故郷に送るだけなのにすげー時間かかったなぁ」


「え?何それ、私が全部のテスト受かるのに二週間近くかかったせいとか言いたいわけ、どーせ頭悪いよ、ふん」


道中のアレンの言葉でミレルがツンとそっぽ向くとアレン慌てて首を横に振って、


「違う違う、サタラナゴートの件でだよぉ」


って情けない顔をする。するとミレルはコロッと笑って、


「あ、そっちね?けどモデルやってるより冒険者っぽいことできてマジ楽しかったよ。勇者御一行と一緒だから安心感半端ねえし」


…そう言ってもらえると救われるわ。「むしろエリリンたちと一緒に居ねえほうが危険もなくさっさと家に帰れたんじゃね?」とか言われたらものすごくいたたまれないから。


そうやって二人の故郷にずんずん進んで行く。


それに天候はずっと安定した晴れと曇続きで、荒れた雪で前に進めないってことがない。それも各地を悩ませる冬限定のモンスターも一切現れない。


私たちが通りがかった町や村では、


「この前まで雪のモンスターが現れて困ってたから冒険者が来たら討伐を頼もうと思ってたのに、急にいなくなった」


「こんな時に限って出やがらねえ」


って会話が繰り返されている。

どうやらミレルとケッリルの通りそうな所では冬限定のモンスターがどこかに姿を消しているみたい。これも冬の神の恩恵なのよね、きっと。


私はラッキーと思っていたけど…それって私たちが去ったらモンスターがまた現れるってことじゃないのって考えにすぐ至った。…それでも居ないモンスター相手に戦うこともできないから大丈夫かしらと心配しながらも私たちは人々に見送られ出発するけど…。


そうしているとパフェとプリンと幸せそうにたわむれているミレルのが度々ふっと真顔で黙り込むことが日に日に多くなっているのを私は感じた。


夜、ホテルで相変わらず私と一緒に寝るミレルにそっと聞いてみた。


「どうかしたの?最近何かあった?」


ミレルは少し黙ってから、


「何か私変だった?」


って聞いてくるから、私は思っていたことをそのまま返す。


「たまに黙り込むなぁって。プリンとパフェと一緒なのに」


ここ最近よく見せる真顔でミレルは少し黙ってから、ポツ、と話し始めた。


「…不安なんだよね。お父さんは声を荒げて暴力を振るうお母さんなんて見たことないだろうし…。だからもし…もしさ、そんなお母さんを見て嫌になって離婚するとか言ったらどうしようかなって…」


そんな心配をしていたの?でもそんなことはあり得ない。


「ケッリルはどこまでも優しい人よ。自分を捕まえているような敵側の子たちにも愛情を注げる人なの。そんな敵にも深い情けをかける人が家族を簡単に捨てると思う?」


自分がレイスになる原因を作ったリギュラ、そのリギュラの配下たちのこともケッリルは倒してくれ、じゃなくて、できるなら戦わないで追い払って欲しいってまず頼んできた。私がミラを倒した話をしたら明るいいい子だったって落ち込んで悲しんだ。

そんな人があっさり家族を見捨てていくものですか。


「…。だといいな。本当にお母さん昔と変わっちゃったから。お父さんの知ってるお母さんじゃないもん」


きっと大丈夫。でも…大変な目に遭ったミレルに対して私がどこまでも大丈夫大丈夫って励まし続けるのも何か無責任っていうか適当な気がして…黙ってミレルを抱きしめた。


それ以降ミレルは、ケッリルに先回りして言い含めていた。


「あのね、お母さん今ちょっと病気で色々とキツイこと言って暴力振るうかもしれないけど…許してあげて」


「お母さん、今病院に入院してんだけど、まだ良くなってないみたいなんだ、でもそれ以上にも悪くなってもないみたいだから…」


「あのね、お母さんに会ってもいきなり出ていかないでね」


不安そうにあれこれ言い続けるミレルにケッリルはどこか痛ましそうな顔をしながらも、ハッキリと返し続ける。


「ミレル、私は言っているじゃないか?三人を置いて出ていかない、ずっと三人のそばにいるって。私は家に帰る、どこにもいかないよ」


その言葉にミレルは微笑むけど、それでも不安な気持ちがあるのかどこか泣き笑いみたいな顔をして、そんなミレルを慰めるようにプリンとパフェがミレルの両側に並んだ。

誰も興味ないであろうシビルハンスキーへの命令語録↓


「ヤー」…全力で走れ

「ハ」…相手の後ろに回り込め

「ミード」…自分の対面

「ニスタ」…伏せ

「ノタイ」…飛びかかれ

「テラナータ」…全力で噛みつけ

「ノース」…唸らない

「ダー」…静かに

「ヴォーイ」…攻撃やめ

「ノス」…お座り・待て


ついでに今のメンバーでの学力順↓


1位サード

「当然だろ」


2位ガウリス

「神殿で子供や大人にも文字や勉強を教えていましたから」


3位エリー

「勉強覚えるのは得意なんだからね!フフン」


4位アレン

「計算と暗算と簿記と測量と地理なら任せろ!」


5位ケッリル

「学校に行ったことがない。読み書きと簡単な計算はお爺さんから習った」


6位ミレル

「勉強マジ嫌い~(泣)」


7、8位パフェ・プリン

「ワフ」(自分たちは頭がいい。お前たちは頭が良い、偉いとお爺さんお婆さんによく褒められていた。と本人たちは言っている)

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