冬の山をどう登る
雪だるまにぶつかる前にどうにかしないと!
手を前に向けオルケーノプネブマを発動する。
すると「ギャッ」という短い叫びと共に雪だるまたちは爆発する間もなく蒸発して消えて、溶けた雪だるまの間を縫いながらソリは振り回されるがまま木の幹に勢いよくぶつかって止まった。
木にぶつかった衝撃で枝から雪が落ちてくるけどそれを魔法で吹き飛ばし、辺りを見渡す。何体かは消したけれどまだこの周囲に居るはずだもの、あの雪だるまが。でも周りを見渡しても周囲は吹雪で真っ白で、どこにいるのかろくに見えない…!
するとフッと渦を描くように一瞬風が弱まって周囲が見えた。ガウリスはベルトを外し立ち上がって周囲を確認していて、サードもとっくにベルトを外して、
「右!」
とガウリスに怒鳴りつけながら飛びかかってきた雪だるまを一刀両断する。
でもその雪だるまに触れると凍る…って御者は言っていたけれど、聖剣は雪だるまに触れたはずなのに凍らない。やっぱり世界のあらゆるものが斬れる聖剣は、凍る、溶けるってことがないのね。
ともかく私もベルトを外そうとすると、
「ノタイ!」
って御者の声が聞こえて、ん?と顔を上げるとシビルハンスキーが私に飛びかかってくる…。
「ヒィッ」
思わず頭を抱えてその場に身をかがめると、シビルハンスキーは私を飛び越え後ろから私に向かって飛び跳ねてきていた雪だるまを牙でガッとくわえた。
「テラナータ!」
御者がそう言うと同時に鼻にしわを寄せたシビルハンスキーがバキンッと氷を砕くような音と共に雪だるまを噛み砕く。
「シビルハンスキー凍るー!死ぬー!ギャー!」
今の光景を見ていたミレルが叫ぶけど御者が、
「シビルハンスキーはこの辺の生態系の頂点に立つモンスターだから平気だ!いいから黙ってろうるさくすればする程雪だるまの数が増えるぞ!」
その御者の言葉でケッリルは即座にミレルの口を手でふさいで黙らせる。サード、ガウリス、それと御者もシビルハンスキーに「ハ、ミード!ミード!ノタイ!」って謎の言葉を発し動かしながら雪だるまを追い払っているわ。
私もあせあせとベルトを外してようやくソリの外に出て戦いに参加しようとすると、アレンが困ったように隣にのっそり現れる。
「俺の杖って頑張れば炎でるってリヴェル言ってたけど、これどうやったら出るのエリー」
…こんな時にそんなこと聞いてんじゃないわよ、それよりアレンは炎を出す練習なんて全然してなかったじゃない今までの一度も、そんな状態でどうやって炎が出せるって?分からないわよ!
のん気なアレンの言葉にイラッとして無視しながら一時風が弱まって見渡しやすくなった辺りをグルリと見渡す…。
「ウッ」
見渡さなかったほうが良かったかもしれない。だって見渡す限り、三百六十度全ての方向からピョンピョン跳ねながら近づいてくる雪だるまの姿が見えたから。
「…魔法でこの辺一帯の雪、全部溶かして良い…?」
やろうと思えばあの雪だるまごと一瞬で雪を溶かせる。でもサードは首を横に振りながら、
「ここを中心に雪崩が起きる可能性があります、そうなればこの山の下で生活を送る人が巻き込まれるかもしれません」
そっか、変に雪を溶かしたら今度は雪崩の危険が…。
それなら風を吹かせてバラバラに…。
そういえばグランはリンカの洞窟でゾンビをバキバキに凍らせて砕いていたからそうすれば手っ取り早いわね…でもこの雪だるまって冬限定のモンスターなんでしょ?ってことは細かく砕いても風でバラバラにしても雪に戻ってまた復活したりしない?見た目も雪と氷でできているようなものだもの。
じゃあ一体ずつオルケーノプネプマで溶かしていくしか…!面倒くさいけどそれしかなさそう!
そうやって覚悟を決めると、ふと一体の雪だるまがソリの中で座っているケッリルとミレルを見る。
二人に攻撃するつもりかと手を向けると、その雪だるまは二人の姿に驚いたようにのけぞり、氷を水に入れた時のようなピキパキとはぜるような音を出しながら周りの雪だるまたちに何か話しかけているような素振りをしている。
すると雪だるまたちの動きが鈍くなった。
一体何なの、何を言っているのかちっとも聞き取れないけれど会話しているの?
警戒しながら見ていると、雪だるまたちから一斉にピキパキと音が響いて…シン、と静かになる。
そのまま一体が「フゥン」とつまらなそうに鼻を鳴らすような音を出すと、他の雪だるまたちも次々に「フゥン、フゥン」と音をだして、面白く無さそうな顔で私たちに背を向けモソモソと引き返していく。
「…え?」
あまりにもあっさりと引き下がっていく雪だるまに間の抜けた声が出て、皆を見渡す。
皆も何が起きたのかさっぱり理解できないみたいで混乱の顔で私たちを見て、一応雪だるまを警戒しているけれど…雪だるまたちはもう蜘蛛の子を散らすように居なくなった。
そして雪だるまたちが見えなくなると、周りが何も見えないぐらいの吹雪も少しずつ収まってきて遠くまで見渡せるようになっていく。
雪だるまが去っていった数え切れないぐらいの跡をしばらく呆然と見ていたけれど、
「…とりあえず、出発しようぜ」
って御者が声をかけて来たから、皆で木にぶつかったソリを道に引っ張り戻して、ベルトを締めて出発した。
* * *
雪だるまに襲わてからしばらく日にちもたった。でもあれ以降は何事も起きていない。
結局何で雪だるまが急に立ち去ったのかはさっぱり分からない。あの時の御者が言うには、あの雪だるまのモンスターは一度狙った獲物に対して執着がすごいからあんな風に立ち去ることはまず無いんだって。
まあ不思議ではあるけれど、何事も無かったからよかった…。
「はい、ここで乗り合いソリは最後です」
町にたどり着いたら御者にそう言われた。ってことはこの町の向こうが隣の国で、こんな短い日数で国一つを横断してしまったのね。
「え?隣の国はシビルハンスキーのソリないの?」
「そうなんだよ、この国は山道が多いから物と人の移動でシビルハンスキーが絶対に必要だけど隣の国はここほど山が多くないから」
「やだぁ、別れたくないよ…」
今目の前にいるのが最後に関わるシビルハンスキーだと分かって、ミレルは寂しそうに体に顔を埋めている。シビルハンスキーもどこか寂しげにピスピス鼻を鳴らしながらミレルに寄り添ってぺろぺろと顔をなめているわ。
ミレルは本当にシビルハンスキーたちを可愛がっていたから離れがたいわよね。少し休憩するときは必ずちょっかいをかけに行っていたし、どのシビルハンスキーも尻尾を振りながらミレルと楽しそうに遊んでいたし…。
「ミレル」
ケッリルに引き離され、べそべそと鼻水まで垂らしながらミレルは去っていくシビルハンスキーを見送る。するとチラとシビルハンスキーが振り返ってきて、その姿を見たらミレルの目から余計にブワッと涙があふれてきた。
「お父ざーん…シビルハンズキー欲じぃい…」
涙声でしゃくりあげながらケッリルの服に顔を埋めるミレルにケッリルはおずおずと声をかける。
「普通の犬じゃ…ダメか?」
「シビルハンズキーがいいのおおお…う"わ"ああああ…」
ミレルは泣きわめいているわ…。
むしろ大人に戻ったらミレルは冒険者モデルとしてあちこちに行くからシビルハンスキーどころか犬も飼えないんじゃ…。まあこんな泣いているミレルにそんなこと言わないけど…。
「けどソリで来たらすげー早く横断できたなぁ。隣のデベル国のハルチネ山が山羊男の出た目的地なんだけど」
アレンは泣くミレルを撫でて慰めつつ話題を変えるようなことを言うから、私もその話題に乗った。
「けど今は冬だから登るの大変じゃない?」
するとサードも話に参加してきて、
「それに花が咲いたことで来年の春まで立入禁止になっているのでしょう?だとすれば登山道の雪もそのままでしょうね」
「じゃあ手入れもされていない雪山に登るのかい?」
ケッリルはまだ泣いているミレルを心配そうに見下ろして、それからサードに視線を移す。
「…すまないがミレルには無理だと思う、私とミレルは宿で待機していてもいいだろうか」
サードは構わない、と言いかけたけど、泣いているミレルは怒りの混じった声になって、
「何で置いで行ぐのおおお…!私も行ぐし〜〜!」
って地団駄踏んでいる。
どうやらミレルは私たちと一緒に冬山を登る気みたいだけど…散々色んな山を登ってきた私には分かる。山を登るのってここで考えている以上に疲れるし段々と嫌になってくる。山登りが趣味のミレイダみたいな人を除けばの話でしょうけど。
今は怒り気味でついていくって泣くミレルの顔が「もうやだぁ、帰るぅ」って泣き顔になる未来が簡単に想像できるわ…。
だってこれまではソリで楽々と通り抜けてきたし、歩くとしても引っ切り無しに乗り合いソリが通過して踏み固められていた道を通ってきたもの。
でもこれから向かうのは雪が好きに積もり積もって歩けるかどうかもよく分からない山。しかもあんな雪だるまみたいな敵にも襲われる状況で野宿をする可能性もあるわけで…。
「しかし手入れされていない山なら下手したら腰まで埋まってしまうかも…」
「え?マジでウケる、ズボーッていくの?ズボーッて」
ケッリルの言葉にアレンが笑って返すけどケッリルは難しそうな顔をして、
「腰まで雪に埋まったら自力で脱出するのは難しいんだよ。仮に一人の時にそうなってしまって助けがこないままでいたら凍死してしまう。…国でもそんな風に脱出できないまま死んでしまう旅人が年に何人かいてね…」
「…」
笑っていたアレンも流石に黙った。ガウリスも神妙な表情をして聞いていて、
「それなら春になるまで待ってもよろしいのかもしれませんね」
って言うとサードは首を横に振る。
「雪山の春は遅いですからそれだと随分待つことになります、それに冬より春のほうが雪崩の危険が高く雪は溶けかけていて足は埋もれやすい。それならまだ寒さで雪が固まっている今行ったほうがいいでしょう。手入れされていなくてもそんなに高く険しい山でもないのですから」
「でもさぁ、そんな足場悪そうな中で山羊男のモンスターと戦えるかなぁ。あ、サタラナゴートだっけ」
山羊男のモンスターについてはモンスター辞典で調べた。それによると種族名はサタラナゴートで、その特性はこんな感じ。
『サタラナゴート
頭と下半身は山羊、上半身は人間の姿で二本足で歩くモンスター。有翼の種も存在し、上半身が女であったり男であったりするので性別もあるものだと推定される。あらゆる言語を理解し扱う事が出来る知能の高さを持っている。
元々は魔族であったという説があるほど魔族に近い性質をもっており人を騙して襲うことが多く、言葉巧みに自身を崇めさせ大量の信者を募り怪しい宗教団体を複数作っていた事例もある。しかし少しでも自身が危険に陥っていると判断すると即座に逃げ出すので、魔族と同等に魔力は強いとされているがどれほどなのか未だにハッキリと分かっていない。
出会ってしまったら声をかけられても知らないふりをしてさっさと逃げるか、全力で攻撃してサタラナゴートが逃げるのを待つのがいいだろう。
攻撃…あらゆる魔法を使う。が、言葉による駆け引きで人心を惑わすのが最も得意なようである
防御…魔法を駆使して攻撃を防ぐ。通常攻撃、魔法攻撃ともに有効
弱点…少しでも危険を感じるとすぐに逃げるので不明。そこが弱点なのかもしれない』
モンスター辞典を見る限り強いのか弱いのかよく分らなかったけど、とりあえず私の魔法があれば十分対等に戦えるんじゃないかってアレンとガウリスは話していたわ。
そんなことを思い出していたらサードは足場の話をしたアレンに、
「足場の問題が気になるのなら朝日が出る前に登りましょう、日が昇れば雪はゆるみますがその前なら歩きやすい。そうですね、特に冷え込みが厳しい日に行きたいものです」
「…へっ!?」
泣いていたミレルが正気かと言いたげにサードを見る。サードはそんなミレルの様子を見て、
「少しでも無理と思ったら宿に残っても構いませんよ」
「ふざけんなし、行くし」
イラつく声でミレルは即座に返すけど、山にはサタラナゴートっていう魔族と同等に強いかもしれないモンスターがいるんだし…ミレルは素直にケッリルと宿に残っていたほうがいいような気もする。
でもミレルは一緒に行く気満々だからきっとどうなだめてもついてきそうよね。
「ところで」
ガウリスが皆に声をかけてくる。
「話を聞いてる限りだとそのサタラナゴートは人を食べるために花畑を張ってたのでしょう?秋までならまだしも今は人など登りもしないでしょうし、もしかしたらもう山に居ないことも考えられませんか?」
アレンも私もガウリスの言葉にハッとして、思わず同時にサードに視線を向けた。
いつもこんな時サードは不敵な顔をして私たちが思いつきもしない方法で強行突破していくんだもの、もしかしたらそういう考え込みでサタラナゴートのいるハルチネ山まで真っすぐ来たのよ…ね…?
…でもサードの表情を見てそれは違ったとすぐ分かった。
だってサードは私たちと同じ、何だって、って驚愕の顔をしてガウリスを見ていたんだもの。
サードは嘘だろと言いたげにガウリスに一歩踏み出して、
「モンスターとは同じ場所に出現するものではないのですか…?」
って聞く。
「え、あ…あの、モンスター辞典を見ても頭の回るモンスターのように思えますし、そうなれば実入りが少なければ他の場所に移動するのではと…今…思いまして…」
ガウリスはしどろもどろに言うとサードはどこか腹立だしそうにどこかを睨みながら、
「なるほど、私の世界の化け物と違ってモンスターは同じ場所に現れるわけではないのですか…」
と呟いた。
Q,私は雪の降らない地域出身ですが、雪国出身の人で仲良くなりたい人がいます、どんな会話をしたら盛り上がりますか?
A,分かりました。ではNG発言とGOOD発言を紹介しましょう
超NG「雪っていいよね、冬は一面が雪で綺麗なんだろうな」
雪国出身「(だったら一冬こっち来て過ごしてみろよ)」(ガチギレ)
NG「うちの地域で雪が数センチ降ったらもう学校とか会社とか行きたくないんだよね(笑)」
雪国出身「(ざけんな)」
超GOOD「どれくらい雪積もるの?」
雪国出身「!すごいよ!自分の背丈超えるんだよ!」(後は放っておいてもしばらく勝手に積雪自慢する)
GOOD「冬にお祭りとか雪を見に雪国行きたいんだけど…寒いの苦手で行けない…」(ショボン)
雪国出身「…(なんて素直な人…(*´ω`)トゥンク…)」
GOOD「朝カーテンを明けたら一面雪で真っ白で…見たらいけんもんを見てしまったと思った…」(高知での記録的な積雪に対する男子小学生のコメント)
雪国出身という名の我が家の反応「アーッハッハッハッハッwww分かるぅー」




