表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

376/507

仕方なく引き受ける

ガウリスが言うにはヤツザリたちは大喜びで、


「そうですか!依頼を受けてくださいますか、ありがとうございます、ありがとうございます…!」


って何度も何度も頭を下げていたって。


…昨日の夜、ヤツザリたちの依頼は受けないことにして帰った。でも朝になったら受けざるを得ない状況になっちゃったから受けることにした。


「…しょうがないわよね」


「ええ…まさかここまで若返るとは予想外ですし…」


チラと私たちは子供になってしまったサードとミレル、若返ったケッリルを見ながらため息をついた。


そう、サードとミレルとケッリルが若くなってしまった。


サードがヤツザリたちからの依頼を無下に断って一晩明けた朝。

ふっと目を覚ますと隣で寝ていたミレルが十歳程度の子供になっていて、驚いて叫んだらミレルもハッと目を覚まして私を見上げ驚いた顔をして、


「誰!?何なの!?」


とベッドからすぐさま逃げ出したけど、


「何ここ、どこなの分かんねーし、マジ怖えー!」


って言いながら私に助けを求めにすぐカムバックしてきた。


…意味不明な行動がちょっと可愛くてキュンとした。


でも可愛いと思っている場合じゃないわ、二つか三つ若返るならどうってことないって思っていたけれどこんな未成年まで若返るなら大問題。ともかくサードに事情を伝えなくちゃと軽く身支度を整えてからミレルを部屋に残しサードの部屋をノックしたけど反応が何もなくて。


「サード、ちょっとサード開けて!緊急事態よ!」


と朝早いから周りの迷惑にならない程度の声でノックをし続けていたらカチン、と鍵を開ける音がして扉が小さくキイィと開いた。

でも返事も無ければ外にも出てこないしで不思議に思いながらもツン、と扉を指で強めに押すと扉はゆっくり開いて、その向こうには聖剣を持ち表向きの顔ながらも警戒した雰囲気で、部屋の中に一歩入ってきたら殺すとばかりに構えたサードがいたのよね。


…子供になったサードが…。


しかも子供になっただけならまだしも、もっと別の弊害も起きていた。

どうやら今現在の見た目以上の記憶がすっぽりなくなっているみたい。ミレルは私のことを知らなかったし、もちろんサードも私が誰かわからず怪訝(けげん)な顔をして言ったわ。


「誰ですか、あなた」


その声も子供そのもの。


サードも子供になってる、しかも私のこと知らない…って絶望しながらも、とにかく聖剣を降ろさせようと必死に部屋の外で説明したわ。


「私はエリーよ、同じ勇者御一行で仲間のエリー。お願いだから剣を下げて、私は敵じゃないわ。味方、仲間なのよ」


そう伝えてもサードは妙な顔をして黙り込んでいるだけ。

警戒が解けていない、でも隙を見せたらサードがどこかに逃げ隠れてしまうのではと思うと焦ってしまって、ひたすら早口で、


「仲間、私は仲間!勇者御一行!私はエリー!覚えてない?そうね、覚えてないのね?私たちは今まで一緒に旅してた仲間なのよ、それであなたは山羊男の災いの力で…あ、マジックショーの人たちのことも山羊男のことも分からないわよね?待って今詳しく説明するから、とにかく逃げないでそこに居て…」


とにかく話続けるとサードはどこか混乱の顔で、聖剣をわずかに下ろした。

それを見て分かってくれたとホッとしたのも一瞬のこと。

サードにはもっと別の弊害があると知った。


「ゆっくり」


とサードが言うから「ん?」と聞き返すと、サードは口と耳に手を当てジェスチャーを交えながら、


「もっとゆっくり話すお願いします、早い、私はそれ聞きとるとても難しい」


…その単語を切って張ったみたいな喋り方を聞いて、サードはこの世界にやって来たばかりの言葉がまだあやふやな年齢まで若返ってしまったんだと余計に絶望したわ。


それでも完璧に何を言っているのか分からない状態ではないんだし、と気を取り直して、


「えっと…まず自己紹介しましょ、私はエリー・マイよ。あなたは?サードよね?」


「…はい」


少しだんまりした一瞬からは「何でお前が俺の名前を知っている」とばかりの雰囲気が感じ取れたけど、それでも私がいつまでも部屋の外に居て攻撃する素振りを見せないからか聖剣を構える手は完全に下がった。でもまあ聖剣は手に持ったままだったけど、


「ここはどこですか。シュッツランド国フェニー町フェニー教会孤児院はどこですか」


と聞いてくるから、


「ここは違う国よ。シュッツランド国じゃない。あなたは今子供に戻ってるの、本当は私たちと同じくらいの年齢で勇者として私たちと一緒に冒険者をしているんだけど、その途中で魔界に住むモンスターがね…」


って返すと怪訝(けげん)な顔になって、


「…単語、大人普通話す単語、まだ分かりません。もっと簡単な言葉お願いします」


「…」


それからあれこれと伝えてみたけど私じゃ無理そうだったから、


「ちょっと待ってて、話が分かる人を連れてくるから。ここにいて、お願い、動かないでここにてね」


と言い含めてガウリスとアレンを起こしに行った。けどもし二人も子供になっていたら、むしろ何で私は大人のままなのかしらと思いながらもドアを叩きに行ったけど…寝起きの悪いアレンは朝早くで周りに配慮した私の小さいノック音程度じゃ起きなかった。

それでもガウリスは部屋のドアを叩くとすぐに出てきてくれた。その姿は大人のままだから急いで事情を話してすぐさまサードの部屋に向かったわ。


でもいきなり部屋に現れた大男のガウリスにサードはものすごく警戒して、かすかに罠にはめられたみたいな顔で聖剣を握って攻撃態勢になったけど、ガウリスは部屋の外でしゃがんでサードと視線の高さを合わせて、ゆっくり語りかけた。


「私の名前はガウリス・ロウデイアヌスです。私はこちらのエリーさんの友人です。私はあなたと仲良くしたいです。私とも友人になってくれませんか?」


サードは私が普通に話す言葉があまり理解できていない、幼い子供が話す程度の単語しかまだ分からないのかも…。ガウリスにそう伝えていたからか、ガウリスはとても分かりやすい言葉をチョイスして、そのおかげかサードにガウリスの言いたいことは全て伝わったみたい。


それでも言葉が通じてもサードの警戒は解けない。優雅な微笑みを浮かべながらもその顔はこれから先何が起こるか分からないとばかりに聖剣をずっと握って私たちの動きから目を離さない。


それでもここでサードの説得を失敗したら目を離した隙に一人どこかに消えてしまうかもとガウリスも思ったんだと思う。とにかく根気強く、分かりやすい言葉で今までのことを説明した。


サードは元々ニ十歳程度の年齢で、モンスターの力で子供になってしまったこと。自分たちは仲間で今まで一緒に冒険していたこと、記憶がないから信用できないかもしれないけど全て本当だということ…。


大体事情が分かったらしいサードは半信半疑といったところだけど、私たちは特に悪い人ではないことだけは分かってくれたみたい。

まあ多分、起きたら突然見知らぬ場所にいる、つまり自分の身に何か理解できないことが起きた、そして目の前の人物たちに悪意はない、だったら何か分かるまでこいつらを利用してもいいかぐらいの考えでしょうけど。


そうしてサードを説得し終えてからガウリスと手分けしてガウリスはアレン、私はケッリルを起こしに行った。


まだ早い時間だからすぐに起きないかもと思いつつノックすると…ケッリルは案外と早くに外に出てきたわ。ケッリルも少し若返っていて、私の姿を見ると眉をひそめながら、


「…君は誰だ?」


って言ってきて…。あの寝起きの崩れた服装と気だるい表情、かすれた声…。ああダメ、今思い出しただけでも何か…ドキドキする…。


「エリーさん、どうしました?」


朝の出来事を思い返していたらガウリスに声をかけられて、私はハッとしてケッリルの寝起き姿を必死で頭から追い出す。


「ううん。何でもない」


とりあえず私が誰か分からず混乱するケッリルを部屋から引きずり出し、ガウリスはアレンを叩き起こしたあと…。

これは依頼を受けざるを得なくなったとガウリスはヤツザリたちの元に出発、私は皆を自分の部屋に集めた。


起きてきたアレンは大人の姿のままでホッとしたわ。

私の部屋にずっといたミレルは部屋に入ってきたケッリルを見つけると猛ダッシュでタックルしに行って、ケッリルは何故ここにミレルがいると混乱しながらも受け止めて…。


その後ずっとミレルはケッリルの膝の上に座って「お父さん!お父さん!」ってものすごく懐いてしがみついたけれど、ケッリルは事情が分からずずっと混乱していたからどうしてこうなってしまったのかを説明していおいた。

ついでに黒魔術士の集まる村の問題はとっくに解決していて、今はケッリルたちの故郷に向かっている所だったってことも。


二人は大喜びだったわ。…サードは今までのあれこれがさっぱり分かってないから表向きの表情ながらも我関せずといった感じで聖剣を抱え部屋の隅にいて、そうしてるうちにガウリスも依頼を受けて戻ってきて…現在に至るって感じね。


「けどサード、ちっこくて可愛いなぁ。初めて会った時よりちっちゃいじゃん」


アレンがフフ、と笑いながらサードに声をかける。

でもサードは微笑みながらもわずかにピリッとした雰囲気になって何も言わない。


「サードー、おーい、サードー」


アレンはサードに声をかけるけどサードは何も返事をしない。多分小さいって言葉を聞き取って馬鹿にされていると感じて腹を立てているわね、これ。


「サードがつれない…」


アレンはションボリするけれどサードなんていつもつれないじゃないの。


…とりあえず皆で私の部屋に集合しているけれど…。


「でも何でサードとミレルとケッリルの三人は若返って、私たちは無事だったのかしら…」


呟くとアレンは、


「ガウリスは神に近い存在だからじゃね?俺らは何でか知らねぇけど」


って言ってくる。するとガウリスは私たちを見て、


「フェニー教会孤児院で渡された神のお守りの効果ではありませんか?あれは魔族かそれに近い存在の災いから身を守る効果があります、それを持っていたからでは?」


なるほど!と私とアレンは神のお守りのあのハンカチを取り出して見てみると、お互いに三つあったうちの赤い点が一つずつ消えている。


「すごい…これってやっぱり効果あるんだ…」


アレンは感動したように消えた一つの赤い点を見て呟くとガウリスは苦笑しながら、


「効果がないと思っていたんですか?」


ってからかうように聞いている。アレンは布を広げながらガウリスに見せて、


「いやだってさぁ、これただの布に赤い点の模様ついてるだけだしさぁ、これが守ってくれるとか本当かなぁ~って感じするじゃん?」


「それでも私はこのお守りのおかげで何回も守ってもらっているのよ。効果はちゃんとあるわ」


そう言っててふと思い出す。


思えばサードだってこの神のお守りをトマス神父から受け取っていたじゃない。なのに何でサードは子供になってしまったの?


「…ねえサード。あなたのバッグにこれ入ってない?」


布を見せるとサードは守るように持っている自身のバッグをゴソゴソ漁る。でも見当たらないのか「いいえ」と首を横に振った。


「あれ、おかしいわね。絶対サードも持ってるはずなのに…」


そう思いつつ、ふとサードのぶかぶかの冬服を見る。思えばフェニー教会孤児院に行ったのは夏の辺り。でも今は冬。サードの夏物の服は私の大きいバッグに入っている。


あれ?ってことはもしかして?


私は大きいバッグに手を入れると、すぐに手に当たった。そして手に当たったものを掴んで引きずりだす。


「あった…サードの神のお守り…」


どうやらサードの神のお守りはサードの夏服と共に大きいバッグにしまわれていて、身につけていなかったみたい。そうと分かると脱力してしまう。


だってサードの信仰心の低さのせいでこんな事態になってしまったんだもの。サード、あなたって警戒心強いはずなのにそういう所は本当に馬鹿よね…!

神のお守りの元ネタ…グリム童話「ガチョウ番のむすめ」に出てきたやつ。娘である姫が他国に嫁ぐ際、母の御妃が白いハンカチに血で三つの点をつけて「これがお前を守ってくれるよ」と渡したもの。

嫁ぐ途中で姫はその布を無くしてしまい、侍女は「これで姫を守る力はなくなった」と自分が姫に成り代わって他国の王子に嫁ぎ、姫はガチョウ番になってしまって…という話。


あと『「グリム童話」の魔女たち/西村祐子』を読んでいて驚いたのですが、グリム童話には魔法を使う魔女らしい魔女はほとんど出てこないそうです。

魔女が出てくるのはグリム童話全二百十話中の二十話、その中で実際に魔女が姿を見せるのは十五人で魔法を使う魔女らしい魔女はたった一人だけだそうです。


そのたった一人の魔女が「トゥルーデおばさん」


そのトゥルーデおばさんの考察で「この話は『本当に魔法が使える魔女ならこうやって魔女狩りを回避できただろうよ』という皮肉が込められているのではないか」っていうのをネットで見つけて震えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ