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裏表のある勇者と旅してます  作者: 玉川露二


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そんなマジックショーなんてあり?

サードの何を考えているのかよく分らない表情を見ているとミレルは、


「とにかくうちに向かうんだよね?」


とサードに聞くと、完全な表向きの表情に切り替わったサードは頷く。


「そうですね、しかしケッリルさんの体も色々とあって昔の傷の痛みが再発してしまったので無理には進みませんよ。まあこの通り普通に歩けるようになりましたしお世話になった部族から余分に薬は貰っていますが…冷えは膝にくると聞きますからね」


サードの言葉にケッリルも少し申し訳なさそうな顔をしてうつむく。


「以前も冷えると膝が辛かったからね…」


「ジジくさ」


ミレルのボソッとした言葉でケッリルはわずかに傷ついたのか、悲し気にうつむいた。


「ちょっとミレル」


ミレルの服の袖をつんつん引っ張るとミレルは「ん?」と私を見て、


「だってこの中で一番ジジイじゃん、お父さん」


と言う。久しぶりに会えて少し前まで見てるこっちが恥ずかしくなるほど抱きしめ合っていたというのに…そんなこと言うんじゃないわよ。


「そう言えば俺こんなビラ貰ってきちゃってー」


アレンがふと話題を変えてポケットからグシャグシャに丸まった紙を出して広げていく。


「この町で夜に興行やるみたいだぜ。町の中心に大きいテントが張ってて、ビラ配りしてたんだ」


「…今夜開演、三夜続けての魅惑のマジックショー、あなたはこのトリックが見破れるか。夜八時から…」


ガウリスが文字を読みあげて、ミレルはガウリスの読み上げる言葉を聞いてふと思ったように続けた。


「マジックショーって何やるの?」


「魔法のショーなんじゃないの?魔法の名前にも○○マジックって名前ついてるのもあるし…」


世の中、魔法が使える全員が冒険をしているわけでもないし、そうやって魔法を見せ物にしてお金をもらうショービジネスもある。


でもこの世の中魔法が使える人は多いし子供のころから魔法を見慣れてる人も多いから、よっぽど内容と魔法が目新しくない限り自分・家族・友人がよく使っている魔法をお金を払って見るはめになったってこともよくあるみたい。

だから魔法のエンターテイナーとして成功できるのは本当に一握りの人に限られるって私は聞いている。


…思い出すわ。旅をし始めたころにそんなマジックショーの興行があって、見に行きたいとアレンと一緒にサードに訴えたら、


「何言ってやがる、あんなもんに金払うくれえならエリーの暴走した魔法を見たほうがよっぽどあてがあるぜ」


と却下され続けて結局見に行けなかったのよね。

しかもあの口ぶりから察するにサードは私とアレンを置いて一人で見に行っていたのよね。口には出さないけどこの野郎と思ってた。


でもまあね、自分が使う魔法をわざわざ見に行くのもちょっと馬鹿臭いわよね。だとしたらこれはどんなマジックショーをやるのかしら。


ビラを見てみるけれど、公演場所、時間、席の金額、それと煽り文句とトランプを持っているシルクハットをかぶった男の人とスタイルのいい女性の絵だけで何をやるかって内容は全然書かれていないわ。

見てのお楽しみってことなのかもしれないけど…何をやるのかここからは全然伝わってこない。


「これどんなことやるの?ビラを配ってる人は何をやるとか言ってなかったの?」


聞くとアレンは首を横に振る。


「いやなーんも。たださ…」


アレンが言うにはこんな寒い夕暮れ時に生肩と生足を出した寒そうな服装でビラ配りしている女の子がいて、それもマジックショーというのを見た人々に要らないとビラを突っぱねられ捨てられている姿を見たらあまりにも可哀想になってしまって、


「俺仲間連れて見に行くから、頑張って」


と声をかけながら一枚貰って来たんだって。それよりアレン…。


「どんなのか分からないのに最初から私たちを連れていく気満々だったのね?」


「だってぇ、あんな光景見たらそう言うしかねぇじゃ~ん」


まあ確かにこんな寒いときに素肌を出して凍えてるのに周りに無下にされてる女の子がいたらそんな気持ちにもなるわよね…。


「それが向こうの常とう手段だろ」


サードはミレルに聞こえない程度の小声でボソリと毒ついているし…。


「でも一回くらい見てみたいじゃん?ほら今は懐にも余裕があるしさ」


そう、数ヶ月前に赤字になるかもと言われていた私たちの懐は今かなり潤っていて余裕がある。


ラーダリア湖からもらった宝石に加えて、サムラからの依頼の報酬金として山脈の物を持てるだけ持って行ってもいいという話だったから、ありがたく冒険に必要なあれこれをもらった。

ケッリル専用の薬もその中の一つ。


…とはいっても、私の持つ大きいバッグは際限無く物が入るバッグだからどこまでも物が入って、


「まだ入るのか?じゃあこれもこれも」


と皆はどんどん持ってきてくれたけれど、もう十分と丁寧に断った。サードはもっと持てると頑張っていたけれど、私は断った。


そんなこんなで赤字の危機からは完璧に脱したのよね。


お金に余裕もある、それに貴族時代も冒険の途中でも興行なんて見たことがないし…。


「マジックショーがどんなものなのか一回くらい見てみたいわ。一回も見たことないもの」


私がそう言うとミレルも、


「エリリンがいくなら私も行く。お父さんも行くでしょ?」


と言いながらケッリルを見て、ケッリルは頷く。するとガウリスもビラを見ながら、


「私もこのような興行には立ち寄ったことが無いので一度見てみたいですね」


と言って…皆の視線が自然とサードに集まった。


そんなものに金なんか使えるか、エリーの魔法を見た方があてがあるぜ…。ミレルがいるからそんな言葉を表向きの言葉に言い変えてすぐさま断ってくるかと思いきや、サードはビラをじっと見て何か考え込む顔をしている。


「魔法なのに、()()()()()()()()()()…?」


サードは少し黙り込んだ後に顔を上げた。


「これは普通のマジックショーではないのかもしれません。どうせ他にすることもありませんし見に行ってみましょうか」


* * *


「レディース、エーンド、ジェントルメン!」


進行役らしい男の人が大声で言うとテントの中に声が反響していく。黒いシルクハットを胸に当て、黒いチョッキを着てダボッと広がったズボンを履いた支配人と言ってもいい服装の男の人。


「今宵はお集りいただきありがとうございます!私はこのマジックショーの団長、ヤツザリと申します。それにしてもこんなにお客様が隅から隅へと…」


団長だというヤツザリがそこでピタリと口を閉じて客席を右から左にゆっくり視線を巡らせてから、指を動かし軽快に続ける。


「見事にガラガラですが、その分前に座る人の頭で我々のショーが遮られることなく見られます!いやラッキーですよお客さん方!」


そのポジティブに自虐的な言葉でクスクスと笑う声も漏れて、思わず私もクスッと笑ってしまう。

まあ言うほどガラガラってわけでもないけど…それでも空席が目立っているのは否定できないかも。


ヤツザリは持っていた杖をクルクル回しながら、ゆっくり歩き始める。


「さてさてマジックショーと聞いて皆さまは何を最初に思いましたか?やはり魔法を使ってあれこれと目まぐるしく綺麗な幻影を見せたり、攻撃魔法を駆使して驚かせたりなどというのを思い描いたことでしょう。

それも家族や友人が使うような魔法を金を払って見に行くだけになるんじゃないかと思った方も大勢おられるはずです」


まあね、と心の中で頷いていると、離れた客席から、


「そうだったら金返してもらうぞー!」


と野次る声が響き渡って、客席からは苦笑が広がっていく。

ヤツザリにもしっかり野次は届いたと思うけれど、一旦聞かなかったことにしたのか話を続けた。


「しかし、これから私はあなた方を驚かせる一言を申し上げます!」


その言葉に皆が静かになり、皆の視線が自分に集中しているのを確認したヤツザリはゆっくりと手を上に広げ、天井を仰いだ。


「私を含め今から舞台に出てくる者全員、魔法が使えません!」


「…へ?」


思わず私の口から間の抜けた声が漏れて、周りからもざわ…ざわ…とざわめく声が聞こえる。


魔法が使えないのにマジックショー…?


「ふざけんな、金返せ!」


遠くの席からそんな声が聞こえてきたけれど、ヤツザリは腰に手を当てて余裕の態度でそちらに目を向ける。


静粛(せいしゅく)に!確かに我々全員魔法を使えません、それでも決して皆さまを退屈になんてさせやしません!」


ヤツザリが杖を持つ腕を上げてその杖に大きい赤いハンカチをのせる。


「はい、ワン・ツー・スリー!」


ヤツザリが赤いハンカチをパッと取ると、手に持っていたはずの杖が消えている。


思わず全員が息をのんでいるとヤツザリはニヤと笑い、


「私の杖がどこかに消えてしまいました、さて手の中に戻しましょう、さあどこから出てくるのか…」


ドララララララ…とどこからともなくドラムロールの音が流れてきて、皆の緊張感でテントの中が一体化しているような雰囲気で進行役の男の人を見る。


するとテェン!とドラムロールがやんで、ヤツザリは大きく腕を振り上げ、パチンッとテントの隅々まで響き渡るほどいい音で指を鳴らす。するとどこからともなく杖が現れて進行役の人は楽々とその杖をキャッチした。


おお、とどよめく声と拍手が起きかけたけど、


「嘘つけ、それ転移の魔法だろ!」


とすぐさま野次る声が続いて、どよめきも拍手も止まってしまった。


「おっと疑り深いお客様がご来場なさっているようで…」


そう言うと進行役の人は赤いハンカチを懐にしまって、魔法陣が描かれている白いハンカチをピラリと出した。そのままヤツザリはこっちに視線を向けて手をチョイチョイと動かす。


「そちらの客席の、白いローブを着た金髪のロングヘア―のお嬢さん」


その言葉に黙ってヤツザリを見続けるけど…何か、ヤツザリと目がガッツリ合っているような…?

もしかして私の後ろにいる誰かに声をかけているの?


後ろを振り向くけれど、白いローブを着た金髪のロングヘア―の女の人は居ない。


「あなたですよ、どうぞこちらに」


そう言いながらヤツザリは私を招き続けている。


「ええ…」


あんな人の目が集中する舞台に来いって…!?そんな変に目立つことしたくないんだけど…。


しり込みしていると、アレンがポンポンと肩を叩いてきて私を立たせる。


「行ってこいよ!エリー!」


そのまま背中を押されたから渋々と脇にある階段を降りて、舞台の上に登っていく。

舞台に立って客席を見ると、照明魔法の道具で舞台が照らされて眩しい。…それにしても客席に座っているとお客さんはそれなりに居るって思ったけど…舞台から見ると少なく見えるわね…。


ヤツザリは私の背中に手を回すと私を皆に紹介するよう見渡し、声を張り上げる。


「なんと今宵は勇者御一行も来てくださっているようです!皆様ご覧ください、こちら勇者御一行の女魔導士、エリー・マイ様ですよ!」


ギョッとしてヤツザリに視線を動かすと、客席の人たちも私たち勇者一行が居るのに気づいたのかざわめきが起きて、それもそのうちの一人が舞台に立っているからか野次もやんだ。


でも私こういう目立つの苦手なのにぃ…まさか野次を止めるために舞台に呼び寄せたわけじゃないでしょうね…。


そう思っているとヤツザリが魔法陣が描かれたハンカチを広げて、私に持たせてくる。


「これは皆さんご存知、子供向けのおもちゃの魔法陣です。まず勇者御一行の女魔導士、エリー様がこれで魔法を使うとどうなるか…どうぞ!」


えっえっ、と思っているうちにドラララララ…とドラムロールがどっかから聞こえてくる…。


な、何これ、急になんなの、でもとりあえず魔法陣なんだから魔法を発動すればいいのよね…!?


混乱しているうちにテェン!とドラムロールがやむから、そのタイミングでえいやっと力を込めると、魔法陣が光って…。


「ニャ~」


「…」


間の抜けた猫の鳴き声が魔法陣から出てきた。


…あ…思えばこれ私も子供の時遊んだ記憶あるかも…これに触って魔法を発動すると動物の鳴き声がランダムで出てくる魔法陣…。


ドラムロールの音からの間の抜けた猫の声で客席からは笑い声が漏れる。


「では私が発動してみましょう」


ヤツザリは私からハンカチを受け取りムンッと力を込めるけど、それでも魔法陣は光りもしないし動物の鳴き声も出てこない。

しばらくウンウン言いながら力を込めていたけれど急に「アアッ」って疲れたような声を出して首を手を横にフルフルと動かす。


「いや本当に魔法使えないんですよ、魔法使う感覚ってのが全然分かんなくて…」


それでもまた客席から野次が飛んできた。


「あんたわざと発動させてねえだけじゃねえのかよ」


思わずヤツザリを見ると、ヤツザリもうーん今日の客は本当に疑り深い…と言いたげな苦笑を浮かべて私に手を差し出してきた。


「魔導士であれば魔力があるか無いか分かるのでしょう?確認してもらえますか?エリー様」


まあそれはすぐできるけど…。


言われるがままに握手をして魔力の核があるかどうか探ってみる。それでも頭から足のつま先まで探ってみても本人の言う通り魔力の核は全然見つからない。


「どうですか?」


「どこにも無いわ、魔力の核は」


普通に話しているつもりでも私の声は遠くまでく響き渡った。


そんなに大きい声がでたのかとギョッとしたけれど…そういう、声が届きやすい魔法で作り込まれた布のテントなのかも。

どうりで人が少なくて席も離れているはずなのにざわめく声も野次も随分しっかりと聞こえてくるわけだわ。


ヤツザリは大きく手を動かして、


「この通り、勇者御一行の魔導士様からも魔法が使えないとのお墨付きを頂きました、本当に私たちは魔法が使えないのでございます!…あ、エリー様、どうもありがとうございました、どうぞお席に。足元お気をつけて」


と席に戻るよう促される。


…何だか勇者御一行の立場をうまく使われたような気がする…国の関係者に利用されたとかそんなんじゃないからまだいいけど…良いように使われた挙句すぐさようなら、って感じでなんか釈然としない…。


ともかく席に戻って座ると、同時にヤツザリは続けた。


「こんな魔法が使えない我々でございますので、魔法は一切使いません!使いませんどころか使えません!しかし様々な知恵と技術を駆使し、魔法かと錯覚するようなショーをご覧にしてみせましょう!」


魔法を使わないマジックショー…。


そうなるとどんなことをするのかと皆気になったのか、野次る声もなくなって客席にいる全員の視線が舞台に集中する。


ヤツザリは皆の期待する雰囲気を見て取ったのか、ニンマリと笑ってグルグルと腕を回しながらお腹に軽く手を当てて大げさなほど頭を下げた。


「では、ごゆるりと堪能あれ!」

作者

「忍者も手品が使えたんだよ。手っ取り早い手品はアホウ薬を使って相手に幻覚を…」


アレン

「はい、アウトー!」


作者

「でもNHKのあさイチでも忍者特集の時に甲賀の文献でアホウ薬のページがでかでかと映って…」


アレン

「はい、その話は終わりー!帰ろ帰ろー!」



アホウ薬…大麻からできた幻覚作用のあるブツ☆今のご時世では完全アウトで使えないよ☆

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